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LIXILグループCEO藤森義明氏 −グローバル企業への変革とリーダーシップ(Part1/3 動画+要約テキスト)

投稿日:2013/01/18更新日:2021/10/19

住まいの総合企業として、トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ、東洋エクステリアが統合し2011年4月に誕生したLIXIL。国内においては収益性の改善が求められ、また国外においては、成長著しい新興国を含めた世界的なシェア拡大が喫緊の課題となっている。日商岩井、GEを経て、改革のリーダーとして同社トップに抜擢された藤森氏は何を課題と捉え、日々に挑んでいるのか。Part1は講演部分の内容を要約テキストとともにお届けする(肩書は2012年11月9日登壇当時のもの。視聴時間36分32秒)。

Part2/3、3/3(対談・質疑応答部分、動画)はこちらからご覧いただけます。

※以下、動画画面に続けて要約テキストを掲載しています。セッションの概観を掴むものとしてお役立てください。

スピーカー:

藤森義明株式会社LIXILグループ取締役代表執行役社長兼CEO

・私個人の“変革”について先に簡単に触れたい。1975年に入社した日商岩井(現在の双日)から1981年に米国カーネギーメロン大学にMBA留学をした。自他ともにMBAに懐疑的な気持ちがないわけではなく、その2年の間にも業務に邁進し、社長への道を歩みたい気持ちもあったが、留学により結果としては世界観が広がり有益だった。卒業後、当然のようにして日商岩井に戻ったが、5年ほどを経て、とりまく世界に変化があった。自分は一貫してエネルギー関連を担当していたが、原油価格が下がり、商社無用論なども噴出した。その頃、ヘッドハンターを介してGEジャパンへの転職を持ちかけられた。米本社で勝負する機会もあるとのことで、「変わってみよう」「自分を変えてみよう」と思うに至った。1986年に入社、2001年の米GE上級副社長就任、2005年の日本GE会長を経て、25年間をGEで過ごしたことになる。

2つ目の転機は2011年の住生活グループ(現在のLIXILグループ)への着任。こちらは、より能動的に選んだ。自分のキャリアに最も影響を与えたのはジャック・ウェルチで、35歳から45歳までの10年間、非常に近いところで働き、彼の経営手法や経営観などを学んだ。その後、50歳を過ぎ、彼から学んだことやGEの方式を日本で試したいと思うようになった。会社単位、個人単位からでもいいので何か変革に取り組み、日本全体の停滞感を打ち破る一助となりたい。その際、上からうるさいことを言われるのではない立場からやりたいと思い、CEOの立場で行けるところを探していた。そして最終的に、住生活グループの潮田(洋一郎・代表取締役会長)さんが、「自分とビジョンを同じくしながら、実行力を備える」と、全権委任をしてくれることとなった。(00:30)

・ここで“米国的経営”についても少し触れておきたい。自分はGEに25年間いたが、米国企業は世に言われるほど「株主資本主義」「短期的収益重視(または四半期主義)」に傾注してはない。実際には「持続的成長」「企業価値の最大化」に目をやり、長尺で考える人が多いと感じていた。それはウェルチしかり、イメルトしかりだ。長期的視点で、組織の自己変革力を育み、またそれを率いる人材育成を非常に重要視している。お見せしている年表はGEの歴代のトップの変遷だが、130年の歴史でトップに立ったのはわずか9名しかいない。またどのCEOも人材育成に時間をかけており、ごく初期から「会社にサステナビリティを与えるのは商品でもサービスでもなく人である」と明言していた。発明、イノベーションに強いイメージと重なるトーマス・エジソンを創業者とする会社でありながら、だ。そして1956年には外部環境に即応する人材育成は自社内で牽引するということでクロトンビル(GEの企業内ビジネススクール、正式名称はジョン・F・ウェルチ・リーダーシップ開発研究所)を設立した。130年の歴史を有するGEにおいて、いずれの経営者も「自己変革」と「人材育成」に重きを置いていた。つまり、これらは経営者が普遍に必要とすべきことと理解できるし、自分自身もLIXILあるいは経済同友会での活動など通じ、注力していきたいと考えている。(05:10)

・LIXILの事業ドメインは「住生活(社名はLiving×Lifeからの造語)」全般となる。具体的にはビルや家などの建材を扱う。INAXのトイレやサンウエーブのキッチン、トステムの冊子など何かしらのブランドが皆さんのご自宅にも入っていると思う。1年前までは、これらブランドを保有する企業群をホールディング会社の形でマネージしていた。それぞれの事業会社の結果責任を負う形態だ。日本では比較的、多く見られるやり方ではあるが、例えば全体として大規模のコスト削減を行い、収益性を高めるには別なやり方をする必要があると考えた。そこで各事業会社の社長をすべて部長にし、一つの会社にした。

これはグローバル化を推進する布石でもある。LIXILには強いブランド、強い商品があり、様々な分野で業界のNo.1、No.2のシェアを握っている。しかし残念ながら、いずれもあくまで日本国内の話だ。ジャック(・ウェルチ)は常々「世界でNo.1、No.2でなければ、クローズするか売るかだ」と言っていた。そうしたマインドを企業カルチャーとして埋め込む必要があった。ちなみにこれはいきなり断行したわけではなく、3年ぐらいをかけ、まずは執行役員の半数程度を“外様”にするところからやった。野村證券やファナック、三洋電機など異分野の人材を入れ、そのトドメとして組織形態を変え、一気に会社のカルチャーを変え、コスト構造もきれいにし、世界に討って出よう、ということで船出した。

・「変革の3本柱」として、「国内事業革新(キーワードは“リフォーム”“環境・エネルギー”)」「グローバル化(中国、東南アジアほか世界進出)」「構造改革(国内事業の統合ほか)」を掲げ、全体で1兆2000億円程度の売上高を3兆円、わずか400億円の海外事業を1兆円にまでする計画だ。また営業利益率、ROEをグローバルスタンダードの8〜10%と設定した。なぜこのような大きな計画を立てるのか——。99%が「そんなのは無理」と言うことは鼻からわかっているが、8割が「イケる」というプランで改革はできない。「“今”を変えなければ達成できない」というぐらいの目標を立て社員の意識を揺すぶり、変えていく。「絶対、無理」で動くのが改革というものだ。(07:50)

・昨今「グローバリゼーション」ということが簡単に言われるが、私が思うに、これを動かすには何か大きな思想のようなものが要る。例えば私の考えでは、日本企業が日本人をあちらこちらの国に派遣して営業させるのはグローバリゼーションではない。現地の人が、その企業のコアバリューを基に一つの方向を向き、現地の人のためになることをする。それを100カ国でやれば、本当の意味でのグローバリゼーションが起きる。これを束ね、方向づけるのはコアバリュー、いわゆる経営理念だ。GEバリュー、リクシルバリューなどが浸透して初めて、バラバラの考え、人々がまとまり、一つの方向を向いて走れる。

・ここで大事なのはイノベーションだ。それも、日本でイノベーションが起きて日本から出ていくのではなく、中国、インドネシア、トルコ、アフリカ・・・それぞれの地にいるエンジニアが経営理念を共にし、そこから生まれるイノベーションが、現地発で世界に駆けていく。そういう構造を目指さなければいけない。いわゆるリバースイノベーションというものが自然と起きるような会社でなければ、真にイノベーティブとは言えない。これを実現するには、社内のカルチャーから変えていくような営みが必要と認識している。

・海外売上の構成比拡大にあたっては、当然、現地法人の買収により、これを加速するようなことも進めている。お見せしている表はここ1〜2年に行った買収の一例だが、中国では中国最大の電機メーカー・ハイアールと合弁会社を作った。先にリクシルのドメインは「住生活」と言ったが、電材と建材を押さえれば家、ビルは完全に制覇できる。合弁で事業を作ることで、彼らのチャネルなども最大限に活用しながら、中国にある家の中を全て占めてしまおう、というような考えでやっている。(12:30)

・こうしたダイナミックなビジネスをやっていかれる人材がいるか——。「グローバル人材が足りない」「グローバル人材を活用できない(本社からのコントロールができない)」といった話もよく聞かれるが、ここでも私は、「GlobalizationbyLocalization」を基本に考えている。例えば中国でどうしているか、というと、(世界的なバス・キッチンブランドである)アメリカン・スタンダード社のアジア・パシフィック部門を買収した。ここにはハイキャリアの人材が多数いて、しかも性別、国籍といったダイバーシティにも富んでいる。例えばチームAは全員40歳代・東大卒・男性で、チームBは年齢もバックグラウンドも性別も国籍もバラバラとしたら、チームBのほうがはるかに爆発的なエネルギーと創造力を持ち得るというのが私の考えだ。従い、これまでは日本人を海外にも多数送り込んでいたが、基本的には全員日本に返し、中国もインドも現地採用の彼らが大きくしていく、という方向を採っている。

・無論、これが上手く回るには幾つか前提条件がある。一つは先にも述べたバリューや経営理念の浸透だ。言語も文化もまるで異なる人材を束ねるのは、リーダーシップの問題も大きい。また、買収により、評価・報酬制度などの人事システムの統一も発生する。とりわけ日本には年功序列などの昔ながらのシステムが残っている。これをどう世界水準に統一していくかという問題がある。GEは、国ごとに細かな基準は違えど、どこの国でも、オフィサーはオフィサーとして職務につける評価、給与システムを持っている。インフラ、或いはカルチャーに手をつけることになるが、そういうふうにしていかなければならないと思っている。

・人材を測る基準は、学歴だとか、経験だとか、親戚が偉い人だとか、国ごとにも様々あるが、唯一絶対の基準として「リーダーシップバリュー」と「パフォーマンス」の2軸において捉えるのが適切であると考えている。繰り返しになるが、多様な人たちを束ね、ベクトルを合わせるのが企業ごとのバリューであり、文化、考え方、言語などは異なっても基本的なバリューを共にできれば、そこにエネルギー、創造力が生まれる。だから、(力を分散させずチームを方向づけるために)リーダーが、いかにバリューを体現しているかは極めて重要なポイントである。GEにおいても、どれほど優秀であってもGEバリューのない人はヒエラルキーの上には上がっていかれない。ジャック・ウェルチが自ら30万人に共有し、時にテストもし、同じバリューを持ちえない人を即座に排除し、そうやって徹底してきた。我々もそうしたいと思っている。そのうえで、結果を出せる力を評価する。機会を与え、結果を踏まえ、さらにできる土俵を与えてやる。この「リーダーシップバリュー」と「パフォーマンス」という無二の基準において評価し、報いていくことが、真の実践主義であると信じているし、そういうシステム、ビジネスアーキテクチュアを実現できない限りはグローバル企業として一丸となる強さは発揮しえないと思っている。でなければ、海外で企業を買収したり、人を雇ったところで、ただ「(日本の会社のシステムに載せられ)使われた」という気持ちにさせて終わってしまうだろう。

・そうした意味で、グローバルに通用する文化とはどういうものかと考えると、「多様性を尊重する文化(Diversity)」「誰もが平等に評価されチャンスを掴むことができる文化(EqualOpportunity)」「ストレッチという考え方に根ざした実践主義の追求(Meritocracy)」というキーワードで整理できると思う。LIXILは統合してから2年を経て、グローバルで1兆円のビジネスを目指すという大きな目標もできた。しかし、目標ができたからと言ってグローバリゼーションが起きるわけではなく、重要なのは企業カルチャーそのものの変化だ。このマインドが定着しなければ世界の土俵で本当の意味では戦っていかれない。私自身も、ブログや取材など通じ、変わる必要を強く訴えているが、さらに訴求しなければいけないと思っている。(15:40)

・その一つとして、教育も始動している。ご覧いただいているのは私がLIXILに来た当初に感じた社員の強みと課題だ。強みとしては「実行力、ハードワーク、結果へのこだわり、問題解決力、規律と統制、責任感、ロイヤルティ、まじめ:組織の良心」、課題としては「グローバル展開力:英語力/ものの見方、オープンな議論、ラインによる人事、リーダーの戦略的育成、発信力/提案力、多様性:女性、ローカルスタッフの活用、エンゲージメント」というキーワードを上げている。これはGEジャパンという“特殊な日本人”の集合体の中にいた私が捉えたからこその内容ではあるが、LIXILのみならず多くの日本の会社に通用するところがあるように思っている。とりわけリードする力、リーダーシップというものを学び、実践する機会が、日本の今までの教育や職場では与えられてきていない。

・こうした問題意識から、自分がLIXILに来てから、まずELT(次世代経営人材育成)と呼ぶリーダーシップ教育のプログラムを組成した。具体的には、40歳代〜50歳代前半の部長層から67名を選抜し、約20名ずつ、8カ月をかけて2泊4日×4回。自社で作った研修所や海外での実習も交えながらの内容だ。リーダーシップ・ジャーニーに終わりはない。どんなに偉い人であっても、決して完成はない。その長い旅の始まりの部分を作ってやりたいという気持ちで実施した。40歳代後半の受講者でも最初は「自分のリーダーシップとは何か」も語れない。そもそもリーダーシップというものを考えたことがなかった、という者もいる。しかし、プログラムの中でグローバルの事業戦略を実際に作るというような課題にグループで取り組み、厳しいフィードバックを受けながら前に進む中で、自分自身のリーダーシップに気づきはじめる。さすがのもので、事業戦略は最後には半分は実際に投資したいというところまで行き、「(実現させるために)明日からブラジルに行ってきます」と言い出す者もでるなど活気づいた。そして最後の課題として、自身が社長就任するとしたらという過程で7分間程度の所信演説をするのだが、そこでは自分はどのようなビジョンで、どんな変革をするか、ということが熱く語られ、人の心を動かす感動があった。最初はリーダーシップが何かすら語れなかった者が、だ。ちなみに、この選抜研修は60名と言ったところ1人も女性がおらず、強く言って7名を後から追加させた。女性が入ったグループはダイナミックさも雰囲気も全く違うものになった。

・また、若い人も育てなければいけないということで、年間10名のMBA留学の制度も作った。コストに耐えられず制度廃止する会社が散見されるし、せっかく学んで帰ってきても半分は辞めてしまうというような話もあるが、もしそうなったとしても新たな世界観を持ち帰った人材が、自社ではなくとも、日本を変えてくれればそれでいいと思っている。ほかにも社内にMBAコースを設けたり、次世代経営層と若手の中間に位置する層、30歳〜40歳代に向けた教育も始めようと考えている。これからの会社、これからの日本を作るのはやはり教育だし、学ぶ意欲のある人をなるべく多く育てるのが私たちの役割と思う。(24:00)

・以上、組織/個人の自己変革や人材育成に焦点をあてて話してきたが、最後にマイケル・ポーターの以下の言葉を紹介したい。「変革は自然には起こらない、特に成功しているといわれる会社では、変革をなんとしてでも避けようとする勢力が働く」。では、いかにして変革を誘因していくのか。GEでは、変革は待っていても起こらない、ということを明確に自覚し、分厚い資料を用意し、クロトンビルに缶詰にして変革のプロセス(GEのCAPモデル)を叩き込む研修を相当数を対象に行っていた。変革とは、まず「危機感」があり、それで組織がどうすればいいかと惑った時、「進むべき道筋」を与えてやることだ。進むべき道筋について説明し、理解を求め、共感させ、実行にあたるコミットを得る。コミットを得るためには何百回となく話をする必要がある。そうやって、ようやく実行に移しても、揺り戻しは起きるので、起きない仕組みも作らなければいけない。また計画どおり進捗しているかを測る方法論もある。そうしたことをコースとして教えることにより、変革をイメージさせる。チェンジエージェントを地道な営みによって育成していく。自ら変革を起こせないまでも、少なくとも変革についていける人材を作るということを、組織だってやっている。改革を始動すれば、かならず組織がベルカーブ状に分化する。20%はフォロワーになり、10%は絶対に嫌だと言う。残りの60%~は様子見をする人々だ。どんな変革をするにせよ、どんな組織で変革をするにせよ、このベルカーブができたときに20人が60人を引っ張り上げるということをチェンジエージェントがやっていく。そういう人材をどう育てるかが非常に重要なポイントだと思う。(32:50)

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