[質疑応答]公正・正直・不屈を信条とするタケダイズム
会場:社内でのさまざまな葛藤、さまざまな新しい試みがあったかと思いますが、それについてくる人材は果たしてどれだけいたのか。もしくはどのように育成したのでしょうか。
長谷川:日本において変革を柔軟かつ迅速に行うのが難しいのは確かです。私は社内では半分米国人だと思われています。ただ、私が突っ走って社員がついてこられないと、どこかで破綻をきたします。米国であれば、そういうことができるチームを、外部から持ってきてしまえばいい。でも、日本ではそれができないので、おっとり刀で付いてきているかどうか距離感を見ながら、ステップワイズでやるしかないのが現状です。社長になってからグローバル化、市場の開拓、人材育成の必要性を言い続けてきました。6年経って、ようやく一部が実現しました。また積み残した課題も、実現する目処が立ちつつあります。しかし申し上げたように、日本の会社で急激な変革はなかなかできません。そこを見据えて準備をしていく大切さを、しみじみと感じています。
会場:グローバルな人材を育成するうえで、特にマネジメント層の方々に言い聞かせていることを教えてください。
長谷川:まずはタケダイズムと呼ぶ、誠実さを貫くことです。私どもがいう誠実とは、公正で、正直で、不屈であること。これはどんなときにも守るよう、言っています。次に日本人の目から見たグローバル化で必要なのは、ロジカルシンキングとクリティカルシンキングの2つです。日本人の間なら以心伝心で済むことが、海外の人には伝わりません。誤解や摩擦を生むことになります。だから物事をロジカルに考え、サポートするエビデンスを取り、系統立てて説明する癖をつけなければ、欧米やアジアの一部の人たちとは、うまくコミュニケーションが取れません。「理解しあえたつもり」で物事を進めては、後で齟齬を生じます。
会場:自前主義で事業を進めていらっしゃいますが、同じ方針を続けていくのか、変わっていくのか教えてください。
長谷川:端的にお答えしますと、武田は武田であり続けます。基本的な経営の考えを変えるつもりはありません。
会場:M&Aの条件の一つとして、人材面のシナジー効果を出せることを挙げられていましたが、どういう観点でシナジー効果を出そうとしているのでしょうか。また相手企業のどういうところを見て、シナジー効果を生むと考えるのでしょうか。
長谷川:シナジーを生みだそうとすれば、基本的には自分のところにない専門性を持った人材がいるかどうかということが第一条件になります。では、次にシナジーが生まれるかどうかですが、これには紋切り型の答えはないと思います。私どもが具体的に何をやったかということでお答えしますが、サンディエゴやケンブリッジの企業を買収したときもそうですが、完成された企業、急成長している企業、誇り高い企業を買収しようと思ったら、自分が出て行って相手のCEOに対して心を込めて口説くことから始まります。買収が終わったあとも、交渉した際の約束を忠実に実行しています。そうすることで本当のウィンウィンの関係で、シナジー効果が作れると思います。それが武田のやり方です。それぞれの企業にはそれぞれのやり方があるでしょう。