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強い組織文化をつくる

投稿日:2007/12/04更新日:2019/04/09

経営理念に共感し、自律的にビジョン達成に向けて動く組織。そんな強い組織はどのようにして育まれるのだろうか。SILC 2007 autumn2日目の分科会「強い組織文化をつくる」では、ユニークな取り組みも交えながら、決して簡単には真似されぬ独自文化を形成してきた3社の代表が、その舞台裏を語った(文中敬称略・肩書きは講演時のもの)。

「踏まれてもしなやかに立ち上がる福寿草のような組織を目指して」(田口氏)

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山中:「強い組織文化をつくる」をテーマにお話をお聞きしていきます。まず、会社概要を含めて自己紹介から、お願いします。

田口:西濃運輸という運送会社を経営しています。私で三世代目になるのですが、一般には、経営が最も危なくなると言われる時期ですね(会場笑)。

実際に危機はあり、私が社長に就任する直前に、創業来、黒字経営だったものが赤字に転落しました。しかし、これを逆に好機と捉え、本日のテーマでもある、いかにして強い組織を作るかということを、会社を上げて真剣に考えました。創業の理念に立ち返り、それを言語化して社員に共有しなおしたのです。

今後の課題は二つ。組織文化をいかにして500を超える拠点に水平展開し、定着させるかということ、そして、私の退任後、次の世代にいかに継承するかという垂直展開です。

山中:西濃運輸の経営理念について簡単にご紹介ください。

田口:起業は61年前。創業者である祖父は、「会社を発展させたい」「社員を幸福にしたい」という強い想いを抱いていました。この想い、「会社を発展させ、社員を幸福にする」ことが、西濃運輸の経営理念です。

私が創業者から経営者として学んだことは二つあります。私はそれを「イン・カのちから」と呼んでいるのですが、「因数分解」と「仮説検証」を掛け合わせた造語です。

直接に教わったわけではないのですが、創業者のしてきたことを振り返ると、よく分かるのが説明能力の高さです。例えば、「社員を幸福にする」と抽象的に言い放って終わりにするのではなく、「幸福」を、「経済的に満たされること」「自分の仕事に誇りを持てること」「将来性に明るい展望を持てること」というように因数分解し、「この三つが満たされると人間は幸福になる」と、説明してみせました。この因数分解による説明力が、強いリーダーの一つの要諦と私は捉えています。なお、「経済問題・誇り・将来性」を西濃運輸では「幸福の三本柱」と呼んでいます。

経営理念に加え、「基本理念」として掲げているのが、全社員が相互に信頼・理解し合う「労使協調体制」、きちんと挨拶をし、約束を違えないというような「礼節中心主義」、そして「福寿草精神」の三つです。

皆さん、福寿草という花はご存じでしょうか。田のあぜ道などに、まだ冬なのにと思う頃に咲き出して春の息吹を感じさせてくれる黄色い花です。この花は蜜を持っておらず、けれど受粉のためには虫を寄せなければならないので、花弁に独特の光沢があって、それがパラボラアンテナのように常に太陽を追いかけているのですね。すると、太陽の光を受けて花が暖かな黄色にきらめくので虫が引き寄せられると、そんな花なのです。

丈が低くて小さい地味な花ですからよく踏みつけられるのですが、踏みつけられてもかえって茎を太くして立ち直るというように生命力の強い花です。折れてしまうような困難な状況に置かれても茎を太く強くするというところから「不撓不屈の精神」を象徴しています。さらに(これは社員から教わったのですが)福寿草は「挑戦の精神」も表わしているのだそうです。

福寿草が体現する「挑戦」を因数分解すると、冬のさなかに春の気配をいち早く感じて花を咲かせる「先見性」、太陽をおって常に動く「行動力」、そして蜜すら持たないのに虫を迎え入れる強い「情熱」が包含されるように思います。

「行動力」、つまり、「動く」ということについては、当社には格別の想いがあります。創業者は長距離輸送という概念を日本で最初に打ち立てた人ですが、東京・名古屋間を21日間にわたり運輸省に通い、営業免許の発行を求めました。戦後まもなく、ガソリンなど潤沢にはない時代ですから、荷の半分以上は代替燃料の薪。あぜ道のような未舗装道路をボロ車で毎日往復するというビジネスモデルの理解を求めたのです。最初は狂人扱いされたと聞いていますが、そうやって「先見性」を持ってビジネスの機会を見出し、熱い「情熱」で実現してみせた。その創業者の精神を継承するため、「先見性」「行動力」「情熱」を「福寿草」に象徴させ、社員に伝えています。

「素直な向上心を携え、世界一のリユース企業を目指す」(天野氏)

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山中:続いて、オフィスバスターズの天野社長に自己紹介をお願いします。

天野:オフィスバスターズは、オフィス家具、OA機器の中古品を取り扱う会社です。私は名古屋の生まれなのですが、中部圏の出身者は、よく、「セコい」と言われます。そのセコさ(堅実さ)、「もったいない」と考える気持ちを基軸に起き、「モノを大切にしよう」「なるべくカネをかけず、できるだけ中古の商品を使っていこう」ということを進めています。

設立は2003年。起業のきっかけになったのは、前職の商社で発展途上国のお客様から言われた言葉です。私は事務機器の輸出に営業担当として10年、従事しました。ODA(政府開発援助)などを介して、現地の人には必ずしも必要のないOA機器を販売することもありました。そんなおり、日本ではゴミとして捨てられた電子機器が溢れているという映像がテレビで流れ、お客様から、「ミスター天野、新品の高い機器ではなく、ああいう中古品を売ってください」と言われたのです。

早速、社内稟議に上げたものの、「メーカーさんの新品流通を阻害するような商行為を出来るわけがないだろう」ということで却下されました。それで会社を辞めて独立し、自分で商売をはじめたというわけです。

私の目標は、「世界一のリユース企業を作る」こと。リユースの大手商社を作りたいと考えています。従来の商社はメーカーとの関係性に配慮して、中古品の流通は積極的にはできない。けれど、新興の企業であれば、リユースの世界的流通ネットワークを作ることも夢ではないと考えます。なぜオフィス用品から始めたのかといえば、もちろん、商社時代の原体験もありますが、実はオフィス用品というのは日本製品が世界シェアの75%を占めているのです。従って、流通を押さえやすい。そんなことも理由の一つです。

将来的には、オフィス用品以外にも、ありとあらゆる中古品を扱いたい。例えば中国で古民家が壊されると聞けば、そこから家に掲げてある龍の紋章かなにかをいただいてきて、日本でラーメン屋のデザインに使うとか、スペインの皮革職人の作業場で出る革の断ち落としでライターケースのような小物を作って渋谷の若者に持ってもらうとか、いろいろな意味で世界的に中古の流通を確立したいと思っています。副次的に環境問題にも貢献できればと、商売としてはかなり高邁な理想を掲げてやっています。

店舗数は現在、国内に14店舗、国外ではロシアとフィリピンに1店舗ずつ出店しています。これを国内30店舗、国外の環太平洋地域に日本をグルリと囲む形で10店舗程度まで拡大するのが当面の目標です。

山中:オフィスバスターズの経営理念もご紹介ください。

天野:一つは、対外的にも社内的にも「チャレンジャーを徹底的にサポートする」ことです。対外的というのは、オフィスバスターズのお客様は起業家が多いのですが、少ない資金から始められたそんな方々が、なるべく低コストで必要な機器や家具を揃えられるよう応援したい気持ちを込めています。社内的には、社員一人ひとりが日々、使命感と喜びを持って働いてもらえるよう応援していくことが私の責務と考えています。中古ビジネスというのは社会的認知が低く、新卒採用をすると、まず親御さんに安心していただくため、私が直接、挨拶に行くことが不可欠というほどの業界です。それを、「中古ビジネスの会社にしか入社できなかった」というような後ろ向きの気持ちを抱かせず、一緒に夢を持ってもらうことが私自身の挑戦でもあります。

もう一つは、「もったいないをサポートする」こと。事業目標として幾つか具体的な数値を掲げていますが、とりわけ重要と位置づけているのが、「オフィス商品の循環率10%達成」です。現在、オフィス商品の95〜97%がリサイクルされることなく捨てられていますが、このうち10%でも再生できれば、それだけでも数千億円の市場を創出できます。

しかも、競合といっても代々、家族で経営している小規模な店舗がある程度ですから、市場を席巻するのは、さほど難しくないと考えています。カギはむしろ社内にあって、ヒトの採用と育成を進めることが成長を加速させるために不可欠です。

では、どのようなヒトがほしいかというと、社員には「大塚商会の営業マン(のような提案力)と、佐川急便のセールスドライバー(のような現場力)をもってほしい」と説明しています。また行動規範として、「オフィスバスターズが大切にする十の心得」というものも設けています。「素直な向上心を持つ」「観客じゃなく選手になれ!」「楽して儲けてはいけない(浮利を追わず)」「一人の百歩より百人の一歩」など、平易な言葉で伝えるものです。

「大きく声を張る“朝礼”で心のエネルギーを引き出す」(大嶋氏)

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山中:ありがとうございました。では最後に、てっぺんの大嶋さん、自己紹介をお願いします。

大嶋:「てっぺん」は、起業家の“独立道場”と位置づけて、居酒屋を展開しています。直営店舗は持たず、研さんを積んだ社員に店を任せる(独立させる)スタイルです。フランチャイズではないので、ロイヤルティなどは、もらいません。ただ、互いに刺激し合い、成長していかれるよう、定期的にミーティングなどは持ちます。

てっぺんの理念は、日本中を夢だらけにすること、そして「ありがとう」だらけにすることです。居酒屋は、その方法論の一つとして展開しています。

創業から3年になりますが、現在までで5人が独立しました。今後は韓国や米国ニューヨークにも出店するなど、世界に夢を拡げる計画です。独立までにかかる期間は1年から3年。例えば100店舗まで拡大するとして、それは、100人の店長を作ろう、というのではなく、100人の経営者を作ろうという気概でやっています。

独立道場は私がいなくてもまわるようになったので、最近は講演活動や自己研さんに注力しているほか、出版社を立ち上げる準備もしています。メディアを通じて日本中の「ありがとう」の物語を集めたいのです。

今まで言えなかった「ありがとう」、言いそびれた「ありがとう」、今は亡き人への「ありがとう」というふうに、様々な「ありがとう」があるそれらを映像や本にしたいと考えています。そして、本を開いた人が自分も「ありがとう」を言ってみたくなる、そんなきっかけ作りができたらと思います。

山中:ここで、てっぺんの特徴として広く知られるようになった「朝礼」の風景をご覧ください。この朝礼には私も以前、参加したのですが、とてもテンションの高いもので、最初は正直、ついていかれませんでした。

−ビデオ上映−

大嶋:確かに昔は、「宗教団体ではないか」などと言われることもありましたが(笑)、テレビや雑誌などいろいろなメディアから組織をモチベートする優れた手法などと取り上げていただき、誤解されることはなくなりました。

この朝礼は、一般公開しており、誰でも参加いただけるのですが、小中学校の校長先生なども、よくいらっしゃいます。そして、「うちの学校でも導入した」と、小学生が一所懸命に朝礼で発言している様子などをビデオに収めてくださるのですが、これがとても嬉しい。「朝礼をやることで、いじめがなくなった」とか、「(朝礼以外でも)元気な挨拶が聞かれるようになった」というような感動的なお話もいただきます。小中学校での「出張朝礼」を頼まれることもあるのですが、子供たちが夢を持てる社会、夢を育てられる社会になればいいという願いから、ご協力しています。

山中:朝礼の極意というか流れについて、簡単にお話しください。

大嶋:朝礼は、まず「黙想」から始まります。目をつぶり、これから10年後、20年後に自分がどんな状態になりたいかを、イメージします。このとき、達成感も含めて想像し、ワクワクとする状態を作ることがポイントです。

その後、映像にあったような「スピーチ訓練」で、全力で思いを伝えていきます。これは、スピーチの上手・下手を問うものではなく、全力で自分の想いを伝える訓練です。「スピーチ訓練!」という司会者の掛け声と同時に、スタッフ全員が大声で「ハイ!」と声を上げ、競ってスピーチのチャンスを求めます。内容は、将来自分の店を持ちたい、実家を継ぎたい、親を安心させたいなど、夢や目標について語られることが多いですね。聞いていて涙の出るような内容も少なくありません。

これに続けて、「ナンバーワン宣言」で、どんな自分になりたいかを宣言します。人生最後の日に周囲の人々から自分をどう評されたいか、というイメージを皆さんもそれぞれに持っていらっしゃるのではないかと思うのですが、そのイメージを周囲に共有します。「元気な男、日本一になります」、「夢を与える男、日本一になります」など、日本一という高い目標を言葉にすることで、誰よりも、まず自分自身を鼓舞するのです。

そして、「挨拶訓練」、「はい訓練」に続きます。これは文字通り、「いらっしゃいませ」、「ありがとうございます」などの接客用語を唱和する訓練ですが、私たちは挨拶一つで店が変わり、引いては世の中が変わるということを固く信じてやっていますので、とにかく元気よく最高の笑顔で行います。これらが終わると最後に全員で一本締めをし、互いに「お願いします」と挨拶をして朝礼は終了です。

この朝礼には、毎月800人ほどの社外の方が参加されますが、やはり「百聞は一見にしかず」もとい「百見は一試に如かず」。体験されると、元気が出て、「この後、一緒にビールでも飲んでいこう」というような連帯感も生まれます。

田口:この朝礼が嫌だという人や、大きな声を出せない人、しらけている人などはいないのですか。

大嶋:確かに、入って最初のうちは、半数以上が「朝礼が嫌でたまらない」と言います。手を挙げて人前で話をしたり、大きな声を出したりといった、今までやったことのないことをするのは、抵抗感があるし、難しい。

朝礼の価値について話すなど、頭で理解させる努力もしますが、「型」から入ることも大切だと考えています。人間というのは不思議なもので、同じことを繰り返すうちにそれに慣れてくる。そして、納得感というのは自らの体験を通じて得られるものが、とても強いのです。

大きな声を出すと、これは脳のメカニズムとも関係がありますが、心のスイッチが入り、元気な状態になって、「よし、やるぞ」という力が湧いてくる。たった15分の朝礼で、こんなに気持ちが良くなって、人生が変わるきっかけにすらなる。1カ月もして、その状態を知ると、変わります。

私は、心の状態をプラスに転じるキーワードは「言葉」と「動作」と「表情」だと思っています。世界一の研修トレーナーと言われるアンソニー・ロビンス氏は、その著書に「前向きな言葉は前向きな心を作り、前向きな動作は前向きな心を作る。言葉も動作も表情も、脳と連動しており、それらが心の状態を作り出す。心をプラスの状態にすることが人生成功のカギとなる」ということを書いておられます。朝礼では、このプラスの状態を15分という短い時間に作り出すことを目指しています。

もう一つ大切なのは、「イメージ」。自身の求める成功状態を常にイメージし続けることが、「よし、やるぞ」というコミットメントを引き出します。

山中:てっぺんでは、ハイテンションなのはスタッフだけではないですよね。そのテンションがお客様にも伝播するような仕掛けが多く用意されています。店の壁には、いろいろな人の夢が書かれていて、それが例えば、「ボクは将来、野球選手になりたいと思います」というイチロー選手(米国シアトル・マリナーズの鈴木一朗選手)の幼少期の作文だったりする。「夢を持とうよ」、「人生もっと頑張ろうよ」と、そういうモチベーションをお客様にも与えるような工夫が、ありとあらゆるところに施されています。最初は、単なる居酒屋と思って足を運んだのですが、実際に行ってみて、「なんだか日本を明るくする戦略拠点みたいだなぁ」という感想を抱きました。

大嶋:「居酒屋」を辞書で引くと、「安く飲めるところ」と書いてあるのですが、私としては、居酒屋とは夢を語る場所、または、元気になる場所。そんなふうに書いてもらえるようにしたいなぁと思って活動しています。

「価値創造の精神を“百万遍教育”で届ける」(田口氏)

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山中:大嶋さんのお話から、てっぺんの組織文化とそれを生み出す仕掛けの一端が見えてきました。西濃運輸やオフィスバスターズには、どのような文化があり、それを浸透・継承させるために、どのような工夫をしていらっしゃるのでしょうか。西濃運輸は運送以外にも、様々なビジネスを展開しており、社員数も(グループ全体で)3万人を超えている。単一のカルチャーでまとめるのは難しいのではないでしょうか。

田口:運送以外にも、情報通信や車両販売など多角化していますが、グループ全体を横串に貫く価値観として、「価値創造」を掲げています。お客様が喜んでくださる価値を創造するという考え方は、特に業種・業態を選ぶものではありません。

これと別に例えば運送部門では「輸送立国」というビジョンを掲げています。「物流を通じて、お客様に喜んでいただける最高のサービスを常に提供し、国家・社会に貢献しましょう」というものです。

ちなみに、お客様に喜んでいただくパターンについては、ちょっとつかんだところがあるのです。それは、「期待値」と「実践値」の差異の大きさが感動を生じるということ。例えば、「10時までには届ける」と約束した荷が10時に到着すればお客様は満足し、11時になればクレームになります。ところが9時に到着すると感動していただけます。これは極端な例ですが、期待値と実践値をどのように設計するかが一つの肝になると考え、例えばインターネットで荷物の着時間の予測を提示し、お客様の期待値に背かないようにするといった仕組み化を進めています。

山中:価値観やビジョンはどのように浸透させているのでしょうか。

田口:大嶋さんの話の後では、ぬるく聞こえるかもしれませんが(会場笑)、西濃運輸でも朝礼は実施しています。運送会社ですので、従業員は昼夜を問わず大きなトラックを走らせるわけですが、朝起きて私がまず考えるのはそのこと(夜のうちに従業員の安全や周囲を巻き込む事故が起きなかったかということ)です。参考にしていただけるような仕掛けはありませんが、どうしたら事故を起こさずに済むかという安全意識や、お客様に喜んでいただき社会貢献につなげていくという価値観について、マネージャーを通じて繰り返し伝えるようにしています。

創業者は「百万遍教育」という言い方をしていたのですが、「今日、話したから明日は言わなくてもいい」などということはなく、会社の経営にとって重要なことは何回でも繰り返し言い続ける必要があります。

「伝える」というのは、言って終わりではなく、相手に伝わって初めて伝えたことになります。例えば以前、総務部から経費削減に関する情報を流した際、私が「徹底できたか」と聞いたら、担当者からは「徹底できました」という返事が返ってきた。ところが実際に調べると、10人のうち3人にしか情報は伝わっていない。担当者は、従業員を信頼して、通達を出せば、それで伝わるものと信じている。けれど自分が伝えたつもりでも、相手に伝わっているかどうか、そして行動に移されているかというのは、全く別の話なのですね。

「徹底」を因数分解すると、そこに至るまでに5段階のプロセスが必要と私は考えます。「認知」、「確認」、「行動」、「検証」、「習慣づけ」です。

幼稚園児を預かる二人の保母さんのたとえ話があります。一人の保母さんは、園外保育をする前に園児に対して、外を歩くときは道の右側を歩くのだと熱心に「右側通行」を認知させます。子供達は外に出る前から、「みぎがわ」「みぎがわ」「みぎがわ」「みぎがわ」と大騒ぎです。もう一人の保母さんは、「道路は右側通行ですよ、分かった人は右手を挙げなさい」と言い、左手を挙げる子供がいると、「右側はこちらだよ」と確認してやります。それから園外へ連れ出します。そして園児の行動を追うと、子供達は確かに「右側」ではあるけれども車道を歩いてしまったりする。それを修正して歩道を歩かせると、今度は道の反対側にイヌを見つけ、「あっ、ワンワンだ」と走って行ってしまったりするのですね。それではダメなのです。習慣づけられて初めて「徹底」したと言える。労働集約が進めば進むほど、この「認知」「確認」「徹底」「検証」「習慣づけ」のプロセスを、いかに構築するかが課題となります。

「“きつ楽しい”がハイパー社員を育てる」(天野氏)

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山中:オフィスバスターズではいかがでしょうか。非常にタフな仕事と思うのですが、やり抜く気概や必要な技能はどうやって培われていくのですか。

天野:入社時に「オフィスバスターズ道場」で一通りのことを教えるほか、研修は頻繁に行っています。特徴的なのは採用時、「今のあなたではなく、明日のあなたを採用します」と伝えていることでしょうか。先に申し上げたように、条件の厳しい職場ですから、最初から何もかもを兼ね備えた素晴らしい人材を採用することは難しいのです。むしろ、総合点では基準に満たないけれど、何か光るものがある。だから、そこを一緒に伸ばしていきましょう、という採用になることが多い。ですから、そのことをまず互いに確認します。

ただ、そのうえで同時に、「成長するときは必ず来ます」ということも伝えています。ヒトの学習過程ではプラトー(高原)現象といって成長が横ばいになる時期が来るのですが、現場仕事の多い業種では、そこで行き詰まりを感じて辞めていってしまう事例が見られるのですね。しかし、そこで踏ん張ると必ずいつか大きな角度で成長する瞬間が訪れる。簡単に折れてしまうことのないよう、ロールモデルとなる先輩社員の姿などを示しながら、「いつかブレークスルーするときが来る」と励ますのを忘れないようにしています。

組織文化の浸透という意味では、先にも申し上げた「オフィスバスターズが大切にする十の心得」を研修などでも繰り返し伝え、暗唱するところまで持っていきます。とりわけ大切にしているのは、冒頭に掲げている「変化成長が大好き」ということ。日々、変化しなければ環境の移り変わりに対応してはいかれないので、「変化成長を、好きになってください」と日々、言っています。「変化成長しろとは言わない。まず、好きになってください。好きになるだけで評価します。給料を上げます。それが全ての始まりです」、と。「十の心得」には目標管理シートを用意し、定期的に上長と確認するようにしていますが、実際、「変化成長が大好き」であるか、という項目に最も高い配点をしています。

それから二つめの「素直な向上心を持つ」こと。ベンチャー企業では年下の上司を持つことなど、ざらですが、年功序列の考え方に捉われて、なかなか言うことをきかない社員も出てきます。しかし、「その人の年齢や社会的地位、豊かさなどに関わらず、ヒトの意見は傾聴しなさい。誰からでも何かしら学び取ろうという素直な向上心を持ってください」と伝えています。

社員を見ていて強く感じるのは、成長の機会の多くをお客様からもいただいている、ということ。オフィスバスターズを利用される方は、これからオフィスを立ち上げるという起業家が多いのですが、こうした方々から困っていることを伺い、僅かな知識のなかから提案をするうちに、いろいろなことを(スキルだけではなく、仕事への誇りなども)身に着けていきます。起業されるお客様と夢を共有し、その一助となることを私は、「小売」にかけて「己売」(自己を売る)と呼んでいます。

山中:激しい肉体労働と高度な提案力を伴う非常に難しい仕事ですよね。メーカーの営業マンなどより、オフィスバスターズの店長さんのほうが、よほど多彩な商品知識を持っていますよね。実際にお店にも伺ったのですが、入社3年目ぐらいの店長さんが、「仕入れや買い取り、値付けなど、裁量範囲が大きく、また成果を認めてもらえるので、やりがいがある。仕事が楽しい」と言っていたのが印象的でした。どういうヒトを採用して、どう育てれば、あんなハイパー社員になるのですか。

天野:自社製品だけを見ているメーカーの営業マンと異なり、私たちのように中古販売に携わる者のほうが、触れる商品の数が圧倒的に多いという側面はあります。

中古品を数多く見ているということは、例えば耐用年数なども、よく分かっています。「このメーカーの商品は、何年ぐらい使うと、どこにガタが来る」なんてことまで把握しているのですね。オフィス家具などは持つだけで鉄の含有量が分かりますから、「これは鉄が○%、入っていますから長く使えますよ」なんて提案ができる。新品を売る営業マンと競争になって、「何を言っているのですか。あなたのところの商品は・・・」なんて、より深い知識で競り勝ってくることも少なくありません。

値付けを自由に行える面白味もあります。店舗ごとに、地域特性や自身のカラーに合ったプライシング理論を店長自身が作ります。お客様のニーズや、スタッフにどんな活躍をさせたいか、つまり、どんな店を作りたいかということを、プライシングに反映させるわけです。会社としての粗利目標などは共通項はもちろんありますが、店舗ごとの自由度を大きくしており、それが考える力を醸成しているところはあると思います。

重たいものを運んだり、汚れたものを磨いたり、体力を消耗する分、精神的な充実というか、面白味でカバーできればと、そこは敢えてマニュアルを入れずにやっています。

田口:メーカーの営業マンより、その会社の商品のことを知っていて、しかも店の経営も任されているとなれば、誇りも責任感も芽生えるでしょうね。

天野:はい。ですから例えば、「鈴木」という社員が店長に就任するとなると、「鈴木色の店舗を作れ」というのが最初の指令です。「鈴木色の店舗」が、どのようなものか、我々にも明確なイメージはありません。商品の価格も構成も陳列も自分で決めてもらう。開店から2〜3カ月も経つと、店舗の個性が目に見える形となってきますので、それを皆で評価して、良い部分は積極的に横展開もしていく。これもまた、成長につながっている部分かと思います。

田口:一方で、法令遵守など含め、ここだけは最低限、外さないようにとコントロールしていることもあるのですか。

天野:「オフィスバスターズが大切にする十の心得」だけです。ほかにはありません。

「変化成長が大好き」、「素直な向上心」に加え、「きつい仕事ほど自分の成長を促せる。結果、楽しい。きつ楽しい」、「観客じゃなく選手になれ!」(当事者意識を持て)などを大事にしています。

大嶋:「きつ楽しい」って言葉、いいですね。流行語になりそう。

天野:「きつ楽しい」という状態を知るまでは、真の「OBマン」(オフィスバスターズマン)とは言えません。うちの店長は、(てっぺんの朝礼に参加したら)「きつ楽しい」という題材でスピーチできると思いますよ(笑)。

勘違いさせないように留意しているのは、「きつ楽しい」が時間や体力の限界に挑戦することではないという点です。「ずっと店舗に泊まって寝ないで仕事をしていたら、なんか、テンション上がってきました!きつ楽しいです!!」というのは、「きつ楽しい」ではありません。

8時間で終わる仕事を残業して12時間かけるのが「きつ楽しい」のではなく、6時間でできるように自身の能力を高めていく。「きつ楽しい」は、自分の能力の限界に挑戦する厳しさと楽しさを表現した言葉です。

今の若いヒトは、仕事が好きなので、そこを見極めないと危ないんです。体力の限界に挑戦した結果として、カラダを壊しては元も子もないのですから。

「組織の規模化に合わせて、文化浸透の手法に工夫が必要となる」(山中氏)

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山中:これまでお聞きしてきたような組織文化の浸透というのは、組織が小さいうちはトップから直接に伝えられます。しかし、店舗数や社員数が増えてくると難しくなってくるのではないでしょうか。

大嶋:てっぺんは、東京中心に店舗展開をしていますが、私自身が東京にいるのは月に(週に?)3〜4日で、週末は三重県・桑名の自宅に帰ります。各店舗は、「店長が大将」という感じで完全に任せていますが、私から毎朝いちばんにスタッフ全員に宛て、メールで自分のスケジュール報告をしています。てっぺんでは、先輩から後輩に報告する、ということを、とても大切にしており、私自身も、それを実践しているわけです。スケジュールの目的や内容を熱く報告することで、スタッフは、会社や社長が今、取り組んでいることを理解してくれます。

これとは別に、毎日、「夢エール」というメールマガジンも発行しています。毎朝10時になると、携帯電話に1000字から2000字程度の暑苦しいメールが飛んでいきます(笑)。経営に対する考え方、生き方についての考え方など、自分が学んだことを復習し、伝えたいと思って書いています。当初は、スタッフから質問を受け、それに答えるかたちで書いていたのですが、3カ月半を経た今では、スタッフ以外にも口コミで伝わり1万人近くが閲読してくれています。嬉しいのは、店長の発案で「1行でも2行でも感想を送ろう」と、スタッフ全員が必ず返信をくれること。毎日200通〜300通の返信が届くのを新幹線の移動時間に読むのが大事な習慣になっています。

このほか、月1回の研修会、年4回の社員旅行など、寝食を共にして夢を語るのが私は好きですので、そういう機会を持つようにしています。また、月の半分は講演活動に費やしているので、そうした場に順繰りにスタッフが同行し、移動や食事の時間に色々な話をします。

山中:田口さんはいかがですか。

田口:社長になってから、定期的に店舗に足を運んでいます。3カ月に1回、1日に5店舗をまわれば1週間で20店舗〜30店舗は行けます。また、朝7時からの1時間程度を費やし、150店舗ぐらいに電話をして、繰り返し、考えを伝えています。

残念ながら社員との飲み会などには、ほとんど参加できていません。年に2回の全体の集まりの際には、数百人を相手に飲むのですが、それを毎日やると、多分、今、ここにはいないので・・・(会場笑)。社員と直接対話する機会は増やしたいので、自分の“分身”をどのように作るかということが、今の課題です。

山中:たとえ社長が決めたことであっても、500もの営業所があると隅々まで伝わっているか、確認するのは大変なのではないでしょうか。

天野:物流の絡むビジネスをしているので、運送会社とのお付き合いは多いのですが、運送会社って拠点ごとに考えていることがバラバラだったりしませんか。各部署が独立採算で動いていて、他部署の方針に従う必要はないというような組織形態にされることが多いのでしょうか。拠点ごとのやり方のなかに、横展開するといいのになぁ、というような優れたアイデアが埋もれていることも多いのではないですか。

田口:まず、「発信」では伝わりませんね。徹底したい内容については、しっかりと伝わったか確認させるようにしています。(そのほうが社員が聞く耳を持つから)「社長から言ってください」と言われることもありますが、そこは現場から伝わるまで発信するというプロセスを踏ませるようにしています。

拠点ごとのやり方については、一度、失敗をしたことがあって、ある拠点で見つけた事例を、「凄く良いですよ」とTop Downで発信したのに、皆、「いいですね」と言いながら、動かないんです。ところが、現場側から、「○○支店では、こんなことをやっていて、数字がとても上がっている」と発信されると、皆、こぞって真似るんです。トップが概念的に理屈を述べるだけではダメで、結果をもって現場が発信したほうが良いこともあります。

大嶋:てっぺんでは、各店舗の店長が、1カ月に1回、他店舗に行って働くんです。スタッフにも、「1週間、○○店に行って来て」ということを、よくやっていて、これが良い刺激になっています。店舗ごとのカラーの違いから、自店の良いところと悪いところが自然と見えてきますから、自発的な改善が促されます。

田口:横連携というのは、そうした何か、強制的にコミュニケーションする仕組みを作らない限り、なかなか始まらないですよね。当社でも、幹部社員が互いに相談し合ったりということが少なく、「なぜかな?」と思っていたのですが、徐々にそれは責任感や忠誠心の強さの表われということが分かってきました。悪意ではなく、「このぐらいのことは、自分で解決しなければ」という感覚なんですね。だから、「○○店に行って見て来なさい」というのは、とても良い仕組みだと思いました。

「居酒屋を、業界を、日本を元気にしたい。会社はそのために設立した」(大嶋氏)

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山中:ところでパネリストの皆さんから、互いに質問したいことがあると伺っているのですが。

天野:会場の皆さんも知りたいのではないかと思うのですが、私からは、てっぺんの大嶋さんに、離職率がどれくらいか、という質問をさせてください。先ほど、「時間が経つにつれ、朝礼にも慣れてくる」という話がありましたが、その前に辞めてしまうスタッフはいないのか、など、入社してからの変遷をお聞きできればと思います。

大嶋:統計をとっているわけではないので正確な数字は分かりませんが、スタッフが辞めていく時期というのはありました。その原因が、直属の上司となる店長との関係性にあるのか、私自身の経営スタイルにあるのか、など、いろいろ悩ました。その結果として、今年4月からメルマガを始めたり、先輩から後輩に報告する習慣を作ったりし、その後は1人も辞めていません。

てっぺんには、パートナー制と呼ぶ仕組みがあり、これが離職率低減に奏功しています。店舗ごとに1カ月交代の2人1組のペアを作り、徹底的に話をさせるのです。それまで他人には言えなかった劣等感とか、辛かったこと、感動したこと。様々なことを2人で分かち合うことで、人間関係が目に見えて変わってきます。ペアごとに達成目標も設けていますから、チームワークも生まれます。

てっぺんでは、店長の任期は1年と決めているのですが、新しい1年の始まるときが、やはり最も大変ですね。チームワークはバラバラ、複雑な問題が生じて全員が落ち込んだり、それを超えて全員で成長したり、いろいろなことがあります。

天野:落ち込んだときのフォローというのは、誰がするのですか。

大嶋:取締役など、全体統括に携わるスタッフもいますが、基本的には店長の役割です。「悩むことは最高だ、良かったな」と、私が声をかけることも多いです。私自身、24歳のときに落ち込んで会社にも行けなくなった経験を持つのですが、そのとき、とある研修会で、「悩んだら悩んだ分だけ、他者を理解し、援けられる人間になれる」と教えられて、「悩むのは最高!」と開眼したんです。これって、「きつ楽しい」ですよね。ご質問の答えになっていると良いのですが・・・。

天野:ここにいる皆さんの心のうちを代弁させていただくと、「大嶋さんのようなカリスマ性のある方が言うならともかく、私なんかが悩んでいる社員に向かって『悩むことは最高だ』なんて言ったら、『ボクがこんなに悩んでいるのに、なんで社長は、そんなにテンションが高いんですか』、『社長はボクが苦しんでいるのが嬉しいのですか』などと逆効果にもなりかねないと思うのですが・・・」。これはもう、カリスマ性の問題でしかないのでしょうか。

田口:伝え方は、いろいろあっていいのでしょうね。リーダーシップのスタイルというのはヒトそれぞれで、「よし、やるぞ!」と気合いで盛り上げていくタイプもいれば、地道なコミュニケーションを積み重ねるタイプもいます。一般に、それは生まれつきのものと考えられがちですが、実は必要に応じて様々なスタイルを使い分けることが可能なのですよね。実は私は、人見知りするほうで、人前で喋るのも好きではないのですが、社長に就任後、意識して大きな声を出したり、口をしっかりと開いて笑ったりするうちに、それが変わってきました。「これは、自分の特性」と思うことも、行動によって変えられる。まずカラダを動かすことで、ココロも動いていくのですよね。自分に「元気を出せよ」と言いたくなるような気分のときも、とにかく大きな声で「オハヨウ!!」と言いながら入っていく。そこで気持ちにスイッチが入ります。社長ってそういうものかな、と思います。

山中:ところで、てっぺんの店長任期は1年というお話ですが、その後のキャリアはどのように用意されているのですか。

大嶋:海外店舗、独立、研修事業、出版などの選択肢を設けていますが、基本的には独立を勧めています。

店長の1年間のプログラムは大変に過酷なものです。外部研修も含め、ほとんど寝る暇もないような時間を過ごします。私が7年間をかけて学んだことを、1年間で詰め込もうというのですから、それは大変ですよね(笑)。強いリーダーになって欲しいという願いから、相当に落ち込むような経験もさせます。そして1年後、独立の際には、「自分が育てたスタッフは全員連れて行け」、「一緒にやっていけ」と送り出します。

会場:スタッフに辞められないようにと、様々な施策を考える企業が大半であるのに対し、1年間で店長の独立を支援し、そのうえスタッフまで連れていけ、という発想はどこから生まれるのでしょうか。何か人生で大きな転換点がなければ、そうした境地には行かれないように思います。

大嶋:小学校3年生のときに亡くした父の影響が大きいです。父は警察官だったのですが、私が20歳になったとき、父の旧友という人が父について色々な話を聞かせてくれました。仕事人間だったこと。柔道が三重県内でいちばん強かったこと。葬式を3回出してもらうほど人望が厚かったこと。毎日、夢に生き、夢を語り、その影響で仲間が元気でいられたこと。そんな父のいちばんの夢は息子の私と酒を飲みながら夢を語ることだったということ。

話を聞き、父に対する見方が変わり、また、父のように生きようと思いました。父は坂本龍馬など維新の志士を好いていたのですが、(当時の私と同年齢の)彼らが本気で世の中を変えようと命を賭していたことに想いを馳せたとき、自分も甘えてはいられない、すぐに行動しよう、と思ったのです。

独立道場の形態を選んだ理由は、会社設立の目的がそもそも、居酒屋という業態、この業界そのものを元気にすることで日本を元気にしていこう、そこで働く人たちが夢や誇りを持てるようにしよう、というところにあったためです。自社の繁栄を目的に置けば、それは優秀なスタッフには独立してほしくない、ということになるのでしょうが、目的は業界を元気にすることだから、どんどん巣立ってほしいわけです。

3年半前に、この目的を考えた際、六つの戦略を立てました。(1)日本でいちばん元気な居酒屋の模範店を作る (2)そのノウハウは全て公開する (3)独立道場として業界を帰られるリーダーを育成する (4)セミナー事業や研修事業を通じて、リーダーが変わるきっかけを用意する (5)海外展開により、業界に世界からの注目を集める (6)「居酒屋甲子園」のような、業界で働く人が評価されるステージを作る、というものです。この六つの戦略を、5年間で動かした後、私は次のステージに行こうと考えています。あと1年半です。

会場:私利私欲がなくて、どうしてそこまで出来るのでしょうか。

大嶋:私利私欲はありますよ。世の中に名を残したいという欲は、物凄く強いと思います。この欲が「会社を大きくしたい」というものだったら、てっぺんは、また違った方向に進んでいたかもしれません。評価いただける志があるとしたら、それは父から「求めるより与えろ」ということを学んだおかげだと思います。彼自身、常に与え続けた人でしたから。与えたものは、人の縁という財産になって返ってくる、返ってくる「ありがとう」の数だけ成長できると信じて、それを実践しています。

山中:質問をもう一つだけ、お受けします。

「組織文化とビジネス特性の連環は常なる課題」(天野氏)

会場:私も労働集約型のビジネスをやっており、モノカルチャー(単一の組織文化)で動く組織の強さというものは、日々、実感しています。モノカルチャーというのが、ビジネスの構造を継続する力となる一方、ただ、新しいビジネスを生み出す力にはなりづらいという点が悩みでもあります。新規事業を興す際、自身の組織文化からそれを発案する人材が出てき得るのか、或いは外部からリクルーティングして新しいカルチャーを創り出すのが適切であるのか、そのあたりについてご意見をお聞かせください。

田口:当社では、車輌のディーラーなど、専門知識や経験を要する業態については、その業界にいた人材と、社内で育った人材とで比較検討します。不可欠な要素と考えるのは、経営理念を共有できるかということと、人柄の確かさ。能力については、いくら「優秀ですよ」と過去の実績など見せられても、それが本人の力によるものか、環境要因か、組織のブランド力やチームワークによるものか、といったことまでは測りえませんから、そこだけで判断することはしません。従って、経営理念への共鳴の度合いをミニマムラインとし、そこが合えば、「まずは一緒にやってみよう」と、そんな感じです。

天野:ご質問と全く同じ悩みを私も今、抱えています。一つの商売を成功させようとすると、その内容に合わせ、文化を洗練させていかなければなりません。けれど、これは逆に言えば、別な商売は始めにくいということです。当社でも新規事業を幾つか始めていますが、ここでは「十の心得」を別な形に最適化する必要があると考えています。以前、何度か新しいビジネスを同じ組織文化の下で展開しようとして失敗していますので、今は外部から新しい人材を採用し、そこで新たな組織文化を作り上げる取り組みをしているところです。ただ、「世界一のリユース企業を作る」という夢は共通に掲げています。まだまだ、悩みながら、手探りの段階です。

山中:組織文化は会社の強みになる一方、ビジネスの方向性によっては、それをも変えなければならないということですね。大嶋さんは、いかがでしょうか。

大嶋: 私は、まず「勢い」なんです。「できるか、できないか」ではなく、「やりたいか、やりたくないか」ということを、枠に捉われずに考えてみる。それを勢いに乗って推し進める過程で、変えてはならないこと、変えていかなければならないところというのが出てくると思いますので、今のお話を忘れず、活かしていきます。

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