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日本における起業活動の今後 —Red Herring Japan 2007レポート

投稿日:2007/08/31更新日:2019/04/09

先日京都にて、革新や変化、世界経済における今後の日本の役割などをテーマに、「レッドヘリングジャパン2007エグゼクティブテクノロジーサミット」が開催された。しかし、サミットの真のテーマはむしろ、「今後、起業活動やイノベーションが益々、重要視されていく世界で、日本は生き残っていかれるのか?」という点にあった。

多少の障害が残されているとはいえ、日本もこの活発な起業活動の波に合わせて変革可能、という楽観的な意見がサミットでは大半であった。出席した日本国内外で活躍する起業家たちの発表を聞くと、今後、日本は変革可能であると同時に、既に一部の勇気ある起業家によってその変革は始まっていることが分かる。

日本の起業活動は活発となりうるのか

サミットでは、今後の世界経済において日本の立場は今までになく厳しいものになるのでは、との懸念もあった。「日本文化に“リスクを取る”ということは浸透するのか」「バブル神話から完全に抜け出して前進するために日本に何が必要なのか?」といった疑問も投げかけられた。

日本に起業家精神が根付かない理由は、これまでにも指摘されてきた。その一つは国内市場のみで充分に高い収益が得られ、海外市場に進出する必要がないという点だが、これは他の起業活動の盛んな先進国も同じであり、理由としては不十分だ。

また、苦労を美徳とする洗脳的な学校教育や、「内気さ」という日本人が産まれ持った性格なども要因とされている。しかし、これは西欧人が過去に日本とビジネスをする際に思い通りにいかなかった時の言い訳であり、常に日本人が内気だったわけではない。日本は世界への扉を適宜、開けたり閉めたりしながら多くの起業活動を進めてきたからこそ、世界市場のリーダーになることができたのだ(例えばトヨタ自動車などがその好例だ)。

他によく言われる興味深い要因として、日本の団塊世代が若い世代に比べてリスクを取ることを嫌う点が挙げられる。現在、日本における45歳以上の会社員の割合は50%近くにものぼり、社内で意思決定を担う地位にある。彼らのリスクを嫌う傾向は、変化に迅速に対応し、決断しようとする社員を苛立たせ、日本が遅れをとる原因の一つとなり得るのだ。

また、日本社会が失敗に不寛容な社会である点も見過ごせない。ビジネスにおける失敗は日常的なものであり、むしろ経験として歓迎される欧米とは逆に、日本では失敗はなかなか受け入れられない。例えばシリコンバレーでは、あるポートフォリオの成功率はせいぜい5件のうち、1件か2件で、残りの3、4件の失敗は問題にならない。だが日本ではこのようなリスクをとることは稀である。

しかし、日本における起業活動文化を阻害する最も説得力のある社会要因は、日本の資本主義が他の資本主義とは異なる、という事実である。ジェームス・C・アベグレン博士の名著『カイシャ』にもあるように、日本には西欧とは異なる株主価値の概念があるのだ。日本企業は、企業資産を自由に投資して最大限活用する欧米の考えとは異なり、将来のための備えや投資、既存の社会価値を守ることに重点を置いている。レッドヘリングジャパン2007に登壇したパネリストからは、日本における資本家は尊敬されるロールモデルどころか奇人変人扱いされている、という意見もあった。

ベンチャーキャピタルを生み出しにくい金融システムも要因の一つである。あるパネリストによると、海外で日本の中小企業に投資したがる投資家など誰もいないという。ニューヨークのヘッジファンドなどは特定の外国企業よりはグローバルインデックス、カントリーインデックスに投資するのが主流であるし、日本企業の可能性について真剣に検討するヒマなどないというのが主な理由だ。日本の投資家も海外へは投資しても、国内への関心は低い。とはいえ、全く関心がないわけではなく、投資範囲を国内の小規模な企業にまで広げたいと考えている投資家は少なからずいるものの、いま一歩踏み出せないでいる、という現状もあるようだ。

日本社会に立ちはだかる課題

では、どうしたら、さらなる起業文化を日本にもたらすことができるのだろうか。前述の通り、緩やかな兆候は見て取れるが、まだできることはありそうだ。政府主導による「イノベーション25戦略会議」の座長であり、安部内閣の科学・技術・イノベーション担当特別顧問の黒川清氏は、日本がイノベーションを進めるために幾つかの提案を掲げている。投資を増やすこと、国際相互交流のための機会を増やすこと、大学改革と大学の国際化、科学技術への投資を増やすことなどだ。そうすることによって、日本は国際経済における地位を保持できるとしている。

「アイデア・ブック」の著者フレドリック・ヘレーンのスピーチでは、別の課題も提示された。ヘレーンによると、中国の大学卒業生数は昨年だけで60万人もいるという。通信費が下がるにつれ、市場のグローバル化は進んでいく。すぐにとは言わないまでも、数年以内には途上国が先進国と肩を並べて世界中で競い合うことになるだろう。彼らに埋蔵された無尽蔵なアイデアは、利益に直結するかはともかく、日本にとって大きな脅威となるに違いない。

出井信之・元ソニーCEOは、日本がこれらの課題を乗り越えるには、変革が必要、特に資本市場を変えていくことが何より重要であると主張している。また、日本はABCDシンドローム、つまり、Aging(高齢化)、Bureaucracy(官僚制)、Closed(閉鎖性)、そしてDomestic(国内志向)に苦しんでいるとした。

続いて出井氏は、日本は文化的な理由や言葉の壁を言い訳に、独自路線を主張すべきではないとした。むしろ日本はこの世界的な変化の中で、潤滑油的役割を担うべきであり、自己批判的な考えを捨てるべきだ、そしてリスクを恐れることなく新しいビジョンを展開させていくべきであり、そのビジョンなくして世界の投資家の注意を引くことはできないだろう、とも述べている。

サミット最後のパネルディスカッションでは、直接ベンチャーキャピタリストたちからの提言がなされた。彼らの提案は以下の通りである。

ベンチャーキャピタリストの国際化
日本のベンチャーキャピタリスト達はもっと世界を旅してベンチャーキャピタル成功のカギを学ぶべきである。世界のベンチャーキャピタル界の裏表を知ることで彼らは非常に有益なヒントを吸収できるはずだ。

金融システム改革
日本は文字通り、何兆円もの貯蓄の山の上にあぐらをかいてきた。しかし、これらの多くのお金はより高い収益を求めて海外へ向けられはじめている。また、日本市場にはこれらの新しい投資家の投資先となりうる未開拓だが将来性のあるイノベーターが大勢いる。ただし、このような投資活動の発展を妨げる規制は旧態依然としており、改善が求められる。

起業家のイメージアップ
パネリスト達によると、「起業家」という言葉は、いまだに日本社会において微妙なニュアンスを持つという。何年もお金を貯め込んでいる強欲な経営者や、六本木ヒルズでスポーツカーを乗り回す派手な野心家を思い浮かべる人も多いだろう。しかしどちらのタイプも日本人が見習うべきロールモデルにはなり得ない。日本人の起業家に対するイメージを、社会貢献者としてのイメージ、彼らの力が、創造性やビジョンをもって国を引っ張っていくというイメージに変えていかなくてはならない。

企業内の意識改革
最も重要な点は、企業や個人が、自ら意識改革を行うということだ。日本の経営者の中には、英語力を雇用の条件にあげる、またはリスクを恐れないという理由で外国人や日本型企業システムに毒されていない留学経験者を雇いたいと考えるようになっている。起業家精神を育むためのこのような意識改革が益々広がることを期待する。

起業文化の興隆を率いる大小さまざまな起業家たち

日本では起業活動努力が国内のみに留まり、世界市場に打って出る例は少ない。例えばNTTグループは?モードなどのドコモの携帯サービスで大成功を収めたが、この成功を海外市場に同様に浸透させるまでは至っていない。しかし、そんな中にも見習うべき起業家や企業の成功例はある。

DDI(現KDDI)を起業し、現在はイー・アクセスおよびイー・モバイルCEOを務める千本倖生氏のスピーチも特記すべきものであった。千本氏は日本の通信業界において数々のイノベーションに成功しており、安定市場に新規参入の可能性を見出し、2度も成功した経験がある。彼のその姿勢は今日も変わらず、ほとんど独占とも思える携帯電話市場の音声通話サービスに参入するため、(現在ではデータ通信にのみ対応の)イー・モバイルのサービスに音声通話を追加することを計画している。日本テレビメディア戦略局モバイル事業部の佐野徹氏は、携帯電話上に提供されるテレビ放送(ワンセグ)に、(放送と関連性の高い)付加情報を配信するサービスなど、日本テレビの今後のモバイル事業の取り組みについて、面白いプレゼンを発表してくれた。

もちろん、大手企業だけが目立っていたわけではない。今回のサミットにおける真のスターは国内外で活躍はじめたばかりの駆け出しの起業家たちであった。彼らは自社のプレゼンを行い、日本発の起業活動への思いを熱く語ってくれた。

シリコンバレーに本社をもち、手ブレを軽減した画像キャプチャーなど、最先端の画像処理技術を提供しているニューコアを起業した渡辺誠一郎氏も海外進出に挑む日本人起業家の一人だ。何十億もの写真を瞬時に世界中で共有する時代の中で、ニューコアは携帯端末やどんな機種でも鮮明な画像を見たいという成長市場の要望に応えている。

「ITを通じて新しいワークスタイルを実現する」というビジョンを掲げたリアルコムという会社もある。リアルコムは谷本肇氏によって設立された。谷本氏によるとリアルコムの主要製品「KnowledgeMarket(ナレッジマーケット)」は、知識の共有や習得を一元的に行うプラットフォームを提供することで、企業内におけるコミュニケーションの壁を崩すことに寄与している。

オレゴン州ポートランドに本拠地をおくルナー(LUNARR)は、(サイボウス創業者である)高須賀宣氏によって設立された。ルナーの主要製品の詳細は明らかにされていないが、高須賀氏は、日米のワークコミュニケーションフローの良い要素を組み合わせることで、オフィスでの働き方を改善することを約束している。

これらの起業家たちが国際的に成長するために共通して強調している点ある。それは、独自のアイデアと国際的なプレゼンスの必要性だ。国際的なプレゼンスを高めるには幾つか方法がある。海外にパートナーを持つ、オフィスを構える、或いは単に異なる国やバックグラウンドを持つ人達に会うことで国際的な露出を増やす、などだ。海外進出する計画もなく国内市場にばかり目を向けるやり方では、停滞を招いてしまう。

日本を拠点に活躍する起業家もいる。jig.jpの福野泰介氏もその一人だ。彼の開発した携帯端末用ブラウザjigbrowserは、携帯電話からパソコン用のウェブサイトを閲覧する新しい方法を提供している。福野氏は5月にGlobalMobileAwards2007のBestMobileTV&Video部門受賞、DreamGateAward2007も受賞し、7名の若手起業家の一人に選ばれている。

キューエンタテインメントの内海州人氏は、コンテンツと配信方法を融合するアイデアで注目されている。彼の考えでは、メディア界に起きたビックバンにより、既存のルールは適用されず、消費者(ユーザー)が主導権を握るようになるという。内海氏は、販売数50万を超え、数々の賞も受賞したゲームソフト「ルミネス」をはじめとする自社製品を会場で披露した。

GDHの石川真一郎氏も「もし既存のビジネスモデルに固執すれば、死んでしまう。キラーコンテンツが必要だ」と述べる通り、コンテンツビジネスにおける新しい成功ルールを唱えている。石川氏がプロデユースした「アフロサムライ」は全米ケーブルテレビでアニメシリーズ化され、DVDもリリースされた。アフロサムライは文化の枠を超え、ヒップホップとサムライ文化を新しい手法でブレンドした作品である。

彼ら3人の目は日本を拠点としながらも世界市場に向いており、自分たちの商品を世界の人々にアピールしようとしている。実際、エンターテインメントやテクノロジーの世界は益々国際化しており、国内市場のみを念頭に開発した商品は、魅力に乏しい。

福岡に本拠地を構え世界中にオフィスを持つ製薬会社、ジーエヌアイの佐保井久里須(ChrisSavoie)氏という起業家もいる。ジーエヌアイのミッションとして、「アジアに多く見られる疾病治療のための新薬の開発、商品化」を掲げている。佐保井氏は会社設立の際、相対的に露出過度であった欧米医薬品市場ではなく、アジアの医薬品市場に思い切って焦点を絞り、差異化を図って投資家に売り込んだ。また、国内外から注目を集めている、端末の位置情報を基にした携帯ナビゲーションサービスを開発したNAVIBLOGのマンダリ・カレシー氏もこの会議に出席していた。
これらの日本人以外によって運営されている会社も、日本が見習うべき刺激的なロールモデルとして日本の起業活動発展に貢献している。

新しい発想へ

日本企業が成功するには、既存の枠に捕われず、また、社員の力を最大限に引きだすための、新しい発想が不可欠である。失敗や挑戦を恐れず、世界へ打って出ることを恐れない意思が必要だ。ベンチャーキャピタルのパネリスト達の話から、今の日本はそれが可能である、そして新しい商品や市場を開拓し世界に名を馳せることが出来る、と確信した。

たとえ文化的、言語的な壁が存在しようとも、日本の潜在能力は様々な形で開花すると期待されている。このサミットに出席した起業家たちは真のスターであり、彼らは日本や世界に向けて何ができるのかを教えてくれた。彼らが多くの日本人が後に続きたくなるようなポジティブかつ人々の記憶に残る成功を収めてくれることを願う。

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