グロービスMBAプログラムの受講生が集う「あすか会議」。2006年7月8日から9日にかけて開かれた第2回あすか会議の初日(7月8日)に行われたセッションのうち、「キャリア」をテーマに行われたディスカッションの内容をお届けする。
パネリストは、GDBA(グロービス・オリジナルMBAプログラム)の修了生であり、多様なキャリアを経た方々。あすか会議を主催するグロービスMBAプログラム受講生にとって、身近なロールモデルといえる人たちだ。
セッションでは、パネリストの方々に、これまでのキャリアや現在の活躍の様子を、忌憚無く語ってもらった。そして、会場からの質疑応答も交え、「どのようにしたら『個を実現するキャリアデザイン』ができるか」に至る闊達な議論が展開された。
キャリアをドリフト(漂流)しながら 「やりたいこと」に近づく
岡島 まずは、ここにいらっしゃるパネリストの皆さんのキャリア、経緯をお聞きしたい。
吉冨 私の場合、キャリアデザインというよりも、「キャリアの漂流」と言えるかもしれない。学生時代から、ベンチャーで仕事をしたいとは漠然と考えていたが、最初に勤務したのは銀行だった。その後ベンチャーに移り、何社かを同時にかけもちしながら仕事をしていた。それこそ、朝、昼、夜で別の会社で……。つぶれそうな会社のファイナンスまで診ていた。
銀行員時代は、ベンチャーキャピタルがかっこいいと思ったが、その世界に行くノウハウはなく、「ならば、ベンチャーキャピタルよりも、ベンチャー企業そのものに行った方がいいかな」と、新聞広告を見ていたら、面白そうな求人広告があって、そこの社長に会いにいった。しかし、そのベンチャーはうまくいかずにバイアウトされて……。
ゴンゾに入る前は、別のベンチャーで役員に就いており、仕事や待遇への不満はなかった。そんなとき、グロービスでベンチャーマネジメントのクラスを受け、ゴンゾのケースを読んでいるところに、グロービス・マネジメント・バンクから声がかかった。
中村 私は、日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)、J-フォン(現ソフトバンクモバイル)という大企業から、アッカというベンチャー企業を経て、今は再び大企業であるKDDIにいる。
やや不自然なキャリアに見えると思うので、背景を説明したい。
ベンチャー企業に移ったのは、自分の力を試し、鍛えたいと考えてのこと。ベンチャーにいた1年間は本当に、いい経験をさせていただいた。
一方で、当時の私のキャリアビジョンは「マーケティングのプロフェッショナルを目指すこと」であったため、資源の制約が大きいベンチャー企業では、経験したくても出来ないことがあった。また、多忙な環境下でのGDBA取得との両立が厳しかったという側面もあった。
これらの背景から、再度、大企業に移ったという経緯がある。その経験から、特定分野の専門性を高めるためには、大企業の資源・環境が大切な場合もあると思っている。
桂 最初に勤めていた三菱電機は良い会社で今も仲良く付き合いがあるが、辞めるきっかけとなったのは自分自身の成長を考えたことだ。大企業にいれば何も考えなくても仕事をこなせるため、10年もすれば成長カーブが鈍化するだろう――と考え、入社したときに既に「30歳で辞めよう」と決めていた。
「30歳で辞める」と決めた当初は、辞めた後に何をするかは決めていなかった。実際に三菱電機を辞めたときは、自分で会社を興そうとしていた。リアルフリートとの出会いは、三菱電機にいたときに、たまたまテレビでリアルフリートの商品を見たため。興味を引かれ、すぐに同社の社長にメールをし、「協業して面白いことをやりませんか」と伝え、出張ついでに会いにいった。同社オフィスに足を踏み入れたとき、直感で「この会社は面白そうだ」と思った。また、自分のやりたかったことと方向性が似ていたため、辞めた後、遊びに行ったら「一緒に仕事しよう」という話になり、条件も定めないまま入社を決めた。
リアルフリートでは、全員に欲しいと思ってもらえる商品ではなく、想定している顧客から「絶対に欲しい」と思ってもらえるプロダクトを開発している。わくわくするのは、形あるものができあがった時だ。試作品や企画が新しい形になったのを見るのが好きなので、そこに一生携わりたい。
浅野 私は以前、東京ガスの研究所に勤めていて、新しいものをつくる仕事を楽しんでいた。だが、新しいものをつくっても、営業は自分の言う通りには売ってくれないという課題に突き当たり、自分が商品を売りたいと思った。当初は社内で新規事業を立ち上げれば済むと思ったが、自分自身にその力が足りないことに気づき、グロービスに通った。
その後、東京ガスの経営企画部門に異動になり、事業の立ち上げを担当できた。がしかし、「何かが違う」と感じた。自分の好きなものを売ることができないのだ。あくまでも東京ガスの枠組みのなかで仕事をするしかなく、しっくりこなかった。
そこで「自分の好きなものをつくり、せっかく学んだ経営に近い部門にいたいと思ったら、ベンチャー企業に行くのが良いのではないか」と考えたわけだ。いわば、「自分の好きなことを仕事でやれない」と気づいたことがきっかけとなり、ベンチャー企業に移ったことになる。
過去の経験が生かされている現在 「踏み切ってよかった」と実感
岡島 転職に踏み切ってよかった、と思える点をお聞かせ願いたい。
桂 自分については、企業のオペレーションに対する視野が広がった。大企業では、企画業務、設計業務に携わっている人はやらないような店頭接客や製品のカスタマーサポートのような業務もこなしながら、「こういうことまでやるんだ」と楽しんでいる。
吉冨 銀行にいたとき、多くの会社のファイナンスを担当した。苦労して事務作業をした経験や、身に付けた財務会計の知識は、今のキャリアに生きている。
ただ、最初に移った先のベンチャーでは、事業計画を立てろと言われ「はいわかりました」と答えたはいいが、初めてのことでやり方がわからず、うまくいかなかったことがある。
今は、A君がある行動をすると業績がどうなるか、A君の代わりにB君が動くと損益計算書はどう変化するか、といったことも考えて動けるようになった。
マネジメントレベルの話については、自分自身は下積みをこなした上でポジションアップしつつあると考えているが、落下傘で上の立場から入るのも、あえて下のポジションから入って昇進するのも、両方ありうると思う。
浅野 社長の仕事は泥臭いことが多い。何をやっているかを話して、「やってみたい?」と尋ねたら、きっと皆やりたくないと答えるだろう。
ベンチャーに入ったときは、一人で経営企画を担当し、事業計画を描いてベンチャーキャピタルへの説明もしていた。30名くらいのベンチャーだと、何でも自分でやらなければならない。当初は、そういう環境は自分には向いていない、経営企画部など特定の部門に在籍してビジネスプランを書いているのが合っている――と思っていた。
しかし、一から事業を立ち上げ、チームで仕事をして、組んだ相手が自己実現していく過程を共有ができることが、楽しくあり新鮮に感じられた。
“やりたいこと”に向けて踏み出せ 行動する中で自分を成長させられる
岡島 キャリア論的に申しあげると、今のトレンドは、きっちりとキャリア設計をする「キャリアデザイン」から、日頃自分のやりたいことを明確にしておいてチャンスが来たらしっかりとつかむ「キャリアドリフト(漂流)」に、シフトしてきている。これは、時代の変化の流れが速いため、目標としていた仕事そのものが陳腐化してしまうことも出てきているためである。私自身も、行動してみた中から見えてくるチャンスをものにするというのは良いアプローチだと思っているが、パネラーの方々から、会場にいる方に対し「こういうことをやってみたらいいのではないか」というアドバイスがあれば、いただきたい。
吉冨 自分が第一歩を踏み出した当時のキャリア設計は、ベンチャーファイナンスだった。振り返ってみると、わかっていなければ飛び込めない仕事かといったら、そんなことはなかった。社長が経営コンサルティングファーム出身だから、最初から経営をわかっているかというと、実際はそうでもなかったりする。現実は、そんなものではないだろうか。
重要なのは、問題に気づけるか、気づけないとしても、突き進めるかだ。
GDBAで学んだことで役立っているのは、マネジメントスキルの中の2割くらいかもしれない。その2割にしても、経験する中でそれを応用できるようになった。
桂 ある年の元旦から、「毎週一個新しいことしていく」というのを自分に課した。行動というのは、習慣になると楽な方向に流れてしまうので、無理やりカルロス・ゴーンの記者会見に参加するなど、新しいことに自分をせき立てた。
その一環として、今の会社の社長に会ったわけである。それまでダメじゃないかと思ったことをやっていって、たまに良い反応があったら、それが縁で新しい事業につながることもあるのだ。
浅野 私は、転職するとき、8社くらいのエージェントにお世話になった。せっかくだからマネジメントに近いところに行きたいと思った。そんな中、グロービスで学んでいたら、合宿でアイリバーの遠藤さんと会い、来ないかと誘われた。
会場の皆さんには、やりたいと思うことを発信し続けていくことの大切さを伝えたい。やりたくないことも好きなことで出来ているのだから、こなすのも経験のひとつだ。
アイリバーに入社して、自分の身に起こることを受け止められるようになった。何が起こっても、自分のやった結果。受け止めることで、自らの糧となる。
「リスク」という言葉がよく使われるけれど、自分がやりたいことをできない方が、私にとってはリスクだと思う。
今の仕事に一生懸命取り組む傍ら 将来の自分を意識し、見出す
会場 キャリアデザインとまでいかなくても、5年後、10年後にどうなりたいかを意識しておかないと、キャリアをドリフトするにも出来ないし、節目もわからないと考える。それについてどう思うか?
中村 5年後に身につけていたい力については、かなり明確なイメージを持っている。反対に、その時点で在籍している会社やポジションに対するイメージは、あまりない。
桂 5年後、10年後のイメージは持っていた。世の中にない新しい価値を世の中に提供する――ということだ。
ただ、その内容は今のところ、漠としたイメージだ。いろんな物を見ながら、今やっていることを一生懸命やっていると、次が見えてくると思う。
吉冨 考えてはいたけれど漠然としていた――というのが答え。パーソナルミッションとして後から明確にしたのは、ベンチャーというフィールドで生き、そのノウハウを社会還元していく形で貢献し、その生き方の面白さを皆に伝えていく、ということ。
例えば、CFOを目指していたら、アニメの会社で制作をやっていたりすることもあるので、柔軟な軌道修正は必要だ。
岡島 何が大事かは、深掘りして考えていく。それを回りに伝えていくと、そういう話が入ってくる。“チャンスの神様”の前髪をちゃんと掴んでいくことが大切だ。
会場 マネジメントについて尋ねたい。プレイヤーで働いている人がマネジメントを行う場合や、経験・実績のない人が仕事を変えるとき、なかなか成果を出せない人もいるのではないか。心配している人のために、アドバイスをお願いしたい。
中村 私も失敗の連続である。失敗により学べる。コツみたいなものが分かってくる。
グロービスで学んだ理論でコツがわかるかというと、フレームワークはわかるが、過剰な期待はできない。やってみて失敗してうまくできるようになるということを繰り返すしかない。
特に難しいのは、人材マネジメント。また、大企業にいると、人材マネジメントを行うポジションになるまでに、運と時間が必要になる。
桂 会社によってマネジメントもコミュニケーションスタイルも違う。
うまくいかないのが基本であり、その場にいかに速く自分が順応し、価値を出していくかが大切だ。
吉冨 グロービスで学んだ内容の“役立ち”について擁護するならば、「組織行動」と「管理会計」は役に立っている。話に出ている“失敗”を“学び”にするには、その前提となる仮説が必要だが、その仮説構築に役立っている。
会場 シニアマネジメントと、好きなことをやるということとは、矛盾するのではないか?
桂 最終ゴールが経営者ということはまったく考えていない。昇進することよりも、世の中にどうバリューを出せるかが重要だ。
中村 マネジメントレベルが上がると、社内での影響力や使える資源が大きくなり、世の中に与えることのできるインパクトが大きくなる。そういう意味では、「やりたいことを実現しやすくなる」ことと「マネジメントレベルを上げる」ことは、つながっている。
浅野 好きなものを作りたいと思ったときに、影響力がマネジメントレベルによって違う。やりたいことに近づけるという意味ではシニアマネジメント層にいったほうがいい。ただし、そう思うかどうかは人の価値観による。
吉冨 自分がやっていきたいことは、企業の創世記から拡大期の経営のプロ。利益をつくり出したり、戦略目標を達成することに、目標を置いている。自分はそうした職種の軸で、飛び込んでいきたい。
グロービスに通って得たのは 何物にも代えがたいネットワーク
会場 グロービスに通わなかったら、今の皆さんはどこにあるのか?受講したから、“学び”や“気づき”があって今のところにいるのか?
浅野 グロービスに行っていなかったら、間違いなく、今の自分はないと思う。グロービスという場は面白く、そこでできたネットワークは代えがたい財産だ。
キャリアについて考えるようになったのもGDBA(グロービス・オリジナルMBAプログラム)に通い始めてからだ。実際にグロービスで会った人に誘われてアイリバーにきたわけなので……。
桂 世の中に与えるバリューという意味では、グロービスにきていなくても同じ事をやっていたと思う。
中村 グロービスに来ていなかったら、転職せずに類似したポジションにはいたかもしれない。ただし、類似したポジションでも、そこにいる意味が違うと思う。社内人脈や年功的要素よりも、実績を見ていただいてポジションを得ていくようにしたい。
また、グロービスで知り合えた仲間はかけがえのない財産になっている。クラス後やその他個別にも仕事やキャリアの相談ができる強力なネットワークになっている。
吉冨 今のポジションにいるのは、間違いなくグロービスでベンチャーマネジメントを受講し、そこで今の会社に誘われたから。
ただし、GDBAは目標ではなくて手段だ。自分がコミットしなければ、知識は身につかない。大事なのはあくまでも実務だ。
好きな仕事を目指す、そのことは 苦労ではあっても“成功”と言える
会場 成功する人間と、そうでない人間の一番大きい違いは、何だと思うか?
桂 成功の基準がよくわからないところがあるが、自分なりにいうと、ベンチャーに入社する人で、その会社のブランドが出来上がる前に入ってくる人はリスクをとっていると考えられる。ベンチャーという観点では、上場後、あるいはブランドが出来上がった後ではポジションがないし、能力あっても活躍の機会が少ないケースが多いのではないだろうか。
株式公開前で、周囲から「何の会社?」と言われるくらいのところや、リソースもないところが、個人的にはお勧めだ。
中村 成果を上げている人の特徴は、二つあると思う。
ひとつは「実践してみる」という感覚を持っている人。学びを深めるという意味でも、ケースメソッドで学習してそのままでは、身につかない。何でも実際にやってみる、チャレンジしてみることが重要だ。
もうひとつは、明るく楽しい人。受講生仲間でも、仕事ができる人はたいてい、明るい人だ。
吉冨 せっかく学んだことをツールに落とし込めるか、使いこなせるかが大事。マーケティングや戦略論がわかる人はいっぱいいるが、使える人は限られる。理解していることをオペレーションとして動かせる人は、大企業でもベンチャーでもパフォーマンスを出せる。
桂 やるかやらないか迷ったとき、思い切って実行してみると、新しいものが見えることがある。そこで新しいものを見つけて掴んだ人が成功する。行動しないと、実行できることの選択肢がどんどん減ってしまう。
浅野 私は、「Define your Success」という言葉を大事にしている。自分の好きなことを目指して行動していれば、それがあなたの成功――という視点に立てるかどうかが、大切ではないだろうか。
私自身、苦労した点ばかりだが、その時々で物事を真摯に受け止めて一生懸命やることが大切だ。経営者として人事問題などで社員と対立する場面があっても、それをきちんと受け止めて対応していくしかない。
一生懸命に仕事をして、苦しいなりに楽しめる自分がいたことが、良かったと思う。