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エコシステム: 良き「場」こそが最強のイノベーションマシーン

投稿日:2015/08/08更新日:2019/04/09

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このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、重要パートを厳選して、抜粋掲載していく、ワンポイント学びコーナーです。

『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』からのピックアップ第12回目となるとなる今回は、「テクノロジー・マネジメント」章から「エコシステム」を選びました。イノベーションはある日突然生まれるものではなく、過去の蓄積や、知、ネットワーク、資金などが集まる「場」の力から生まれるものです。一度そうした「場」が生まれると、状況にもよりますが好循環が回り始め、シリコンバレーのような強大なエコシステムが誕生することもあります。このプロセスを完全に人為的に回すことは難しいですが、ある程度の介入を行うことは可能です。技術立国を標榜する日本としては、そうした場作りをいかに加速するか、いままさに知恵が問われていると言えるでしょう。

【POINT】
技術の有効活用や効果的な製品化は、一企業の枠内だけで考えるべきものではない。近年では、企業や人、ノウハウや資金が集積し、そこから新しいイノベーションが生み出されるような、生態系(エコシステム)の発想に注目が集まっている。

◆エコシステムの類型

エコシステム(生態系)はもともと生物学の専門用語であるが、最近ではビジネスの文脈でも用いられるようになった。その場合は、企業や人が「群」として集まり、分散している場合よりも高い生産性を生むような「状態」や「場」を指すことが多い。

たとえば、シリコンバレーのような地理的空間を指すこともあれば、ある企業を中心とした強い関係性の構造を指すことも多い。これらは独立した条件ではなく、むしろ両方の条件を兼ね備えている場合が多い。

■地理的なエコシステム

地理的空間として最も成功しているエコシステムは、IT企業が集う米国西海岸のシリコンバレーであろう。近隣のスタンフォード大学出身者がこの地でエレクトロニクス企業、後に半導体・コンピュータ企業を創業し、関連する企業や人が集まってきたのがシリコンバレー誕生のきっかけと言われている。

多数のIT企業や、彼らから見た補完財提供者、売り手や買い手が集うだけではなく、元経営者やベンチャーキャピタリストなど、資金と知恵や人脈を持った人々も多数いることから、ますますIT起業家を引きつけてエコシステムを強化・拡大するグッドサイクルに入っている。

日本には、シリコンバレーに匹敵するほどの強いエコシステムはないが、クラスター(集積地)と呼べる程度の地域は存在する。たとえば製薬・バイオ業界では、大阪を中心にした関西地域がそうだ。大阪・道修町の薬問屋の伝統と、京都大学、大阪大学といった医学、生物学分野に強い教育機関があり、さらに近隣の神戸医療産業都市には、100社以上が集積する国内最大規模の医療関連企業クラスターができている。

■関係性のエコシステム

たとえば、自動車(完成車)メーカーの周りに部品メーカーや素材メーカーが集まり、ビジネスチャンスが生まれているような状況である。こうした集合体をバリューネットワークとも言う。

部品メーカーは地理的にも隣接していることが多いが、素材メーカーなどは必ずしも完成車メーカーと立地を同じくしているわけではない。ただし、自動車はすり合わせ型の製品なので、担当者レベルでは非常に密に協働が行われている。

ソニーの〈PS〉や任天堂の〈DS〉といったゲーム機メーカーも、ゲームソフトの開発会社とエコシステムを築いている。

一般の製造業以上にエコシステム化か進んでいるのが、通常の製造業よりもネットワーク外部性が効きやすいICT業界である。たとえば、グーグルやアップルは多数のソフト・サービス開発業者を引きつけ、さまざまなビジネスチャンスを生み出している。

このタイプのエコシステムでは、まさにグーグルがそうであるように、エコシステムの中心に位置し、「それを使わないことにはビジネスにならない」という状況をつくることが、企業にとっての理想像である。

◆第一歩としてのコンソーシアム

エコシステムは、シリコンバレーのように自然発生的にできあがっていくことが望ましいが、現実にはなかなか難しい。ナンバーワン企業なり業界団体なりが音頭をとって「つくり上げていく」発想も必要だ。

その第一歩として有効と考えられるのが、コンソーシアムの結成である。コンソーシアムにはさまざまな定義があるが、ここでは、ある目的に向かって企業などが集まり、資源の有効活用を図る集合体と考える。

コンソーシアムの成功には以下の要件が必要となる。

・リーダー企業が構想力を持つこと。現時点での環境や技術レベルにとらわれるのではなく、数年先を見越して、参加者すべてがウィン‐ウィンの関係を築けるようなグランドデザインを描く必要がある

・ビジョンや目的を共有し、「同床異夢」とならないこと。現実にはすべての企業が同じ目的意識を持つことは難しいが、利害や目的実現に向けてのモチベーションがある程度までは同じでなければ、コンソーシアムの維持は難しい

・特定のレイヤ一の企業に閉じない。サプライヤーや補完財提供企業など、さまざまな視点を持つ関係者をうまく参加させることが必要である

(本項担当執筆者:嶋田毅)

エコシステムのきっかけとしての仕掛け

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次回は、『グロービスMBAクリティカル・シンキング改定3版』から「クリティカル・シンキングとは何か」を紹介します。

ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載しています)

 

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