問題です
以下のキャンペーン案内の問題点は何でしょうか。
あるクレジットカード会社が会員宛に以下のDMを送った。
「我々○○カードでは、このたび『ご友人ご紹介』キャンペーンを行うことにいたしました。皆さまのご友人をご紹介いただき、その方が弊社カードの会員になられた場合には、新規会員お1人につき、皆さまに□□ポイントのポイント加算をさせていただくと同時に、アフリカの貧困撲滅支援団体△△に300円の寄付を行います。300円は、アフリカの貧困層の人々にとっては、十分に大きな金額です(以下略)」
解答です
今回の落とし穴は、返報性の逆順です。そもそも返報性とは、何かをしてくれた相手にはお返しをしなくてはならないという心理が働くメカニズムを言います。たとえば、仕事が忙しい時に手伝ってくれた同僚には、別の機会に借りを返さなくてはならないと思うのが、人間の自然な心理と言えるでしょう。交渉術の教科書などでもよく紹介される「ドア・イン・ザ・フェイス」のテクニックなどは、この返報性の心理を利用したものです。返報性の心理は、非常に強い心理メカニズムであり、交渉術のみならず、ビジネスの様々なシーンで応用されています。
ここでのポイントは、「まず相手に何かをしてあげる」という点です。「何かをしてくれたらお返しをしますよ」ということではなく、まず何か相手に便益を与え、相手に貸しを作ることが、返報性の心理の活用では重要なポイントとなります。
この観点からみると、今回のカード会社の紹介キャンペーンは、「○○をしてくれたら、こういう便益を供与しますよ」というインセンティブ型になっています。もちろんこれはこれで有効な手法です。しかも、単にポイントを加算するだけではなく、貧困撲滅支援団体への寄付を同時に行うなどの、社会貢献意欲に訴えかける工夫も凝らしています。実際、こうしたキャンペーンを行う企業も多いでしょうし、それなりの効果は期待できそうです。
しかし、これが必ずしもベストの方策かと言えば、そうとは言い切れません。強い心理メカニズムである、返報性の心理を用いることで、より高い効果が期待できるかもしれないのです。
たとえば、以下のような方法論が代替案として考えられます。「本メールをお送りした皆さまには、特別キャンペーンとしてすでに□□ポイントを加算すると同時に、300円をアフリカの貧困撲滅支援団体△△に寄付しました。300円は、アフリカの貧困層の人々にとっては、十分に大きな金額です。また、現在、同等のポイントが加算されるご友人ご紹介キャンペーンを実施しております。ぜひご友人を弊社にご紹介ください。ご紹介2人目以降につきましては、さらに1人当たりにつき…」
つまり、まず相手に便益を与え、そのお返しを期待するという方法です。もちろん、この方法がインセンティブ型より効果的になるかどうかは、金額や手間等、さまざまな条件によって変わってくるので一概には言えませんが、ある実験では、返報性活用型の方が、インセンティブ型より50%近く高い効果を得たということです。
返報性の心理は決して絶対的なものではありませんので、必ずそれを使えと勧めているわけではありません。しかし、人間が自然に持つ心理メカニズムを知り、さまざまな場面で活用できることには非常に大きな価値があります。逆に言えば、それらを知らないことは、大きな損失であり、選択肢の幅を狭めてしまうことになります。そうならないためにも、「人間」というものについて強い関心を持ち続けたいものです。