(2014年11月27日付け日経産業新聞の記事「VB経営AtoZ」を再掲載したものです)
先日開かれた日本ベンチャーキャピタル協会のイベントで感極まる瞬間があった。日本経済新聞社の編集幹部が来て「日本のベンチャーキャピタル(VC)も、ずいぶん頼もしくなりましたね」と言葉をかけてくれたのだ。記者も30人近く集まってくれた。こんなことは過去18年のVC歴で初めてのことだった。
「ハゲタカファンド」と一緒にされ、起業家を発掘して世に送り出すという地道な仕事が正当に評価されることは、この日本では少なかった。カネばかりを追う亡者と見られることもあり、悔しい思いをしてきた。それだけに「自分たちの存在意義がようやく認められるようになったんだな」と思ったら、目尻がちょっぴり潤んだ。
1995年、私は前職の経営コンサルティング会社で提言止まりの仕事に限界を感じ、米国に留学していた。米国のVCに興味があったので、自分なりのリサーチにも取り組んでいた。「日本でVCを始めないか」と声がかかったのは、そんな時だった。現在のグロービス・キャピタル・パートナーズの代表パートナー、堀義人だった。
「銀行が企業を牛耳る日本で簡単に資金が集まるだろうか。日本で事業として受け入れられるだろうか」と悩んだが、その年の夏、ネットスケープ・コミュニケーションズの新規株式公開があり、インターネットブームの始まりを目の当たりにして火が付いた。その瞬間、「日本初のハンズオン(経営支援)型VCを目指す」という自分の目標が定まった。
日本に帰国し、堀と一緒に立ち上げに奔走したが、現実は甘くなかった。当時の日本はベンチャーや起業家が低く見られる空気があり、ベンチャーが上場しやすい株式市場もなかった。金融系VCが主流で、独立系は皆無。ほとんどの投資家が「無理だ」と言った。
その時の我々は「VCというベンチャー」を立ち上げた起業家であった。そんな中、ベンチャーで大成した起業家の方々から1億円ずつ計5億円が集まった。我々を信じて投資した方々へのご恩は今も忘れない。預かった資金を一円たりとも損はさせまいと、我々と同じような思いで大いなる夢と責任を背負って立ち上がる起業家を支援し、エグジット(出口)に向けてまい進した。
ただ、「ベンチャーエコシステム」などと呼べるようなものは、どこにもなかった。銀行は貸しはがし、大企業は門前払い、エンジェルは存在せず、政府はベンチャーに見向きもしなかった。八方塞がりの中、我々が投資したベンチャーの起業家や社員の頑張りを見て、私自身が救われた。
今、そうした全てがつながり、正の循環が起きている。本欄でベンチャーエコシステムについて書き連ねてきたのは、それがいかに素晴らしいことかを読者の皆さんに伝えたかったからだ。
最後に、弊社が掲げている十二訓から一節を紹介したい。
「究極のリアリストであり、ロマンチストであれ」。これは前職三和総合研究所を設立された松本和男社長(当時)による設立理念の一節だ。「ヒューマニズムに立脚し」との前段が付く。VCとは、起業家(人)のビジョン(ロマン)を利益(リアル)でつなぎ、未来を創っていく志ある仕事であると考えている。原点を忘れず、これからもまい進していきたい。
仮屋薗氏の寄稿は今回で終わります。