(2014年10月28日付け日経産業新聞の記事「VB経営AtoZ」を再掲載したものです)
日本発世界で戦うスマートフォン(スマホ)アプリのスタートアップに成功例が出始めた。スマートニュース(東京・渋谷)のニュースリーダーアプリ「スマートニュース」、トランスリミット(東京・渋谷)の脳トレ対戦アプリ「ブレインウオーズ」が、それぞれ米アップルの「アップルストア」のニュース、ゲーム分野で1位を獲得した。
スマートニュースは8月にグローバルベンチャーキャピタル(VC)のアトミコ、グリーなどから36億円を調達。トランスリミットも10月にLINE(東京・渋谷)、ユナイテッドの2社から3億円を調達し、強力な戦略的資本提携を実現してさらなる世界展開を進めようとしている。
日本のスマホアプリベンチャーには2つの強みがあると言われてきた。
1つ目はモバイル先進国の日本マーケットをホームに持っていることだ。日本は世界で最もモバイルインターネットのインフラやサービスが進み、ユーザーはモバイルでコミュニケーションして、コンテンツや電子商取引(EC)をアクティブに利用し、多くのお金も使う。新サービスの開発や運用・改善には最適のテストマーケットだ。
2つ目はモバイルソーシャルゲームの発展で培われたオペレーションエクセレンスとエンジニアリング力だ。リアルタイムでの顧客行動分析、迅速なユーザーインターフェースやユーザーエクスペリエンスの改善や施策運用など日本のベンチャーの開発・運用能力は世界最高峰レベルだ。
一方、課題も明確になってきた。グローバル展開では、ローカライズ(各国・地域ニーズへの個別適応)が成功の鍵だ。だが、その推進にあたっては2つの壁がある。1つ目はローカルのプロ経営者の採用。2つ目はその人材を使いこなす日本側経営陣のグローバルマネジメント能力だ。
無名の日本ベンチャーが海外で大物を採用するには、カネとネットワークが不可欠だ。スマートニュースは米国でプロ経営陣の採用に成功しているが、新たな株主にシリコンバレーの大物エンジェルやグローバルVCを迎え、そのネットワークを活用できたことが功を奏したという。
だが、日本の経営陣およびVC連合で、グローバルのトップVCやエンジェルから資金とネットワークを獲るのは至難の業で甚だ事例は少ない。現地チームをマネジメントするために日本経営陣のタレントとセンスが重要となり、結局「日本人のグローバルマネジメント経験・能力の向上」という課題に戻る。これこそ日本ベンチャー、いや日本の企業全体がなかなか突破できなかった難題で、一朝一夕に解決できないかもしれない。
だが、私は楽観的だ。第2、第3のスマートニュースもどんどん現れるだろう。ベンチャーは最もホットで困難なところでリスクを取って挑戦する者たちの集合体であり、グローバルを目指す起業家が一気に増えていることに目を見張る。
結局は強い意志があるかどうかだ。失敗もあるだろうが、そこから多くを学ぶだろう。その繰り返しによって、日本のベンチャーエコシステムそのものがグローバルなエコシステムと連結され、課題の多くは自然と解消されていくはずだ。その日は、それほど遠くない未来にやってくると私は信じている。