(2014年6月19日付け日経産業新聞の記事「VB経営AtoZ」を再掲載したものです)
日本のベンチャーキャピタル(VC)業界では、今、大きな構造変化が起きている。長らく主役の座にあった銀行や証券会社の系列の金融系VCに代わって、独立系、新興系と呼ばれる新手のVCの存在感が急速に高まっているのだ。
あるVCによる最新の集計によれば、2013年以降に新設されたVCファンドの総額は約2100億円。そのうち新興・独立系ファンドは約1200億円を占めており、ついに過半を占めるようになった。
グロービスがVC事業に取り組み始めた1996年当時は金融系VC全盛の時代だった。ベンチャー企業1社に対して、資金量が豊富で知名度や信頼も抜群の金融系VCが5社、10社と群がる光景がよく見られた。そんな状況の中で、いろいろと苦労して、鍛えていただいた者としては、新興・独立系VCの躍進を目の当たりにして、感慨もひとしおである。
新興・独立系VCの資金源となっているのは、大企業や年金、官製ファンドのほか、成功した起業家、プレイングエンジェルなどで、こちらも新興の投資マネーだと私はみている。市場に流入し始めたそうしたニューマネーの受け皿として、フットワークが良い新興・独立系VCが選ばれているという構図だ。
ひとつひとつのファンドは金融系VCよりも小粒だが、新興・独立系VCは横の連携を密にして、共同で起業家の養成やビジネスプランの開発、協調投資などに取り組んでいる。私たちが創業以来取り組んできた「集めて、つないで、産み出す」というハンズオン型のベンチャー投資と起業家育成が、いよいよクラスター(群)として機能し始めた。
例えば、独立系VCの走りであるインキュベイトファンド(東京・港)が主催するイベントでは、筋の良いビジネスプランを持っている起業家を選抜して、1泊2日で徹底的に議論をする。VC横断のベンチャーキャピタリストがメンターとなって、起業を目指す各チームに入って、順位を競う。
そのプロセスでは、起業家とベンチャーキャピタリストが互いを深く知り合い、「いざ起業」「いざ事業拡大」という時のファイナンスや提携につながる素地を作っている。
こうした動きは、本来は競合関係にある複数のVCが集まって、協調しながら起業家やベンチャー企業を育てるという点が新しい。新興・独立系VC群が新しいベンチャー・エコシステムを形成するための触媒になっている。
リーマン・ショックが起きた08年秋から12年までは2億~3億円の協調出資をするのにも大変な苦労を乗り越えなければならなかったのだが、今では新興系VCが互いに声をかけ合えば、10億円超の増資案件であっても、あっという間にまとまってしまう。
新興・独立系のベンチャーキャピタリスト同士は頻繁に会い、交流を深めている。競合関係にありながらも、一段高い視点から大きな投資戦略を描き、必要とみれば躊躇(ちゅうちょ)せずに手を組む――。
金融系VCに囲まれながら孤軍奮闘していた十数年前に比べると、まさに隔世の感だ。私にとっても、この20年で最もエキサイティングな時を迎えている。