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異才セバスチャン・スランのMoonshots

投稿日:2015/03/06更新日:2019/04/09

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< 今回のポイント >
◆セバスチャン・スラン氏は、「オンライン教育の父」と呼ばれる異才である。
◆無人自動車コンテンストに優勝、ラリー・ペイジ氏と出会い、グーグルXを設立
◆サルマン・カーン氏に触発され、オンライン教育分野に針路を大転換

前回はMOOC前夜の動きとして、「カーンアカデミー」の台頭と、その動きがUdacityの創設者であるセバスチャン・スラン氏に与えた影響についてお伝えしました。

彼はMOOCムーブメントの火付け役であり、「Godfather of MOOC」や「Godfather of Online Education」と呼ばれるほどの中心人物になるのですが、MOOCを正しく理解するためには彼が何者なのかを知っておく必要があります。そのため、今回は彼のキャリアを紐解きながら、徐々にMOOCの本質に向かっていきたいと思います。

無人自動車コンテスト優勝で脚光

スラン氏は、コンピュータサイエンスの専門家として、そのキャリアをスタートさせます。2003年、彼がスタンフォードの研究員だった頃、アメリカの国防省傘下のDARPA(国防高等研究計画局)がスポンサーをしている無人自動車コンテンストがありました。彼はそのレースに参加し、リーダーとしてチームを優勝に導く、というキャリアにおける最初の偉業を達成します。

他のチームは自動車のハードウェアの頑強さやシャーシのデザインを熱心に開発するのですが、彼はこの戦いを「人工知能の勝負」だと考え、勝負に挑みます。

自動車を運転するには、無数の法則を理解する必要があります。たとえば、道路上に見える物体が「鳥」なのか「石」なのか。それによって運転時における対応の仕方は異なるわけです。そのように無限に存在する対応の法則は、予めプログラミングすることには限界があります。そこでスラン氏は、まるで人間のようにコンピュータ自身に学習させるという「機械学習(Machine Learning)」の手法によって、自動車自身を賢くさせていくアプローチを採ったわけです。

彼はこの時の考えを子育てに例えて、このように述べています。

「子供を育てる時、世の中にある全てのルールを教えるわけにはいかないだろう。まずは経験をさせて、その経験から何をすべきか、何をすべきじゃないかを学ばせていくのが親の役割だ。僕らが無人自動車でやったこともそれと同じなんだ。まずは走らせて、失敗を観察して、もうそれはやっちゃいけない、と教える。これによって、ロボットは同じ過ちを犯さなくなり、どんどん賢くなっていくわけだ」

このようなアプローチを取り入れることで、無人自動車レースにおいて、スラン氏は見事勝利を収めました。この勝利をきっかけに、彼のキャリアは大きく展開することになります。

ラリー・ペイジ氏との出会い、グーグルXの設立

スラン氏はそのレースにおいて、その後の人生に影響を与える2つのことを獲得します。1つは人工知能に対する絶対的な確信。そしてもう1つは、グーグルのCEOであるラリー・ペイジ氏との出会いです。スラン氏は無人自動車にカメラを搭載して世界中の道路を撮影するための企業を設立しようとしていたのです。それに目をつけたラリー・ペイジ氏から熱烈な誘いを受けます。

「あなたはそろそろ、もっと不可能と思えるようなこと(=Moonshot)にチャレンジするタイミングではないか?」

グーグルでは、「その時点では到達不可能に見える無謀な挑戦」を、アポロ計画の月面着陸の試みに例えて“Moonshot”と表現します。

「10%の改善では結局ジリ貧の戦いになる。あえて10倍の無謀なスコープで考えるからこそ、問題の根本を考え抜き、新たなテクノロジーが生まれ、何より仕事をするのが楽しくなるのだ」

これがペイジ氏の持論であり、その文脈で“Moonshot”という表現は至る所で活用されます。2007年、スラン氏はその“Moonshot”への誘いに共感し、配下のプロジェクトメンバーと共にグーグルに籍を移します。ちなみに、インターネット検索のグーグルと無人自動車はどういうつながりがあるのか、という疑問をお持ちの方もいると思います。これは、創業者のセルゲイ・ブリン氏とペイジ氏が、創業を当初からグーグルを「人工知能の会社」と定義していたことに起因します。

「膨大な量のデータを元に、自動学習のアルゴリズムによってそれらを処理し、人間の脳を補強する知性のようなコンピュータを作ること」がグーグルの目指すところであるならば、無人自動車はまさにその範疇であり、第一人者であるスラン氏は何としてでも採りたかった人材だったのです。

そして、スラン氏の無人自動車のプロジェクトは、グーグルという大きな後ろ盾を得て大成功を収めました。開始した当時は不可能のように思われた無人自動車も、以下のTEDの映像に見られる通り、今ではアメリカの公道を普通に走るようになっているのです。

動画はこちら

しかし、ここで終わらないところが彼のすごいところです。その無人自動車において、彼は世の中の最優秀と思われる人材を集めてチームを作ったのですが、このチームをこのプロジェクトだけで終わらせてしまってはもったいないと考えました。

ここで得た知見をベースに他の領域でも“Moonshot”をしていきたい・・・。そう考えたスラン氏は、今度は逆にペイジ氏に新しい研究組織の組成を働きかけます。そして、この動きが、最終的に2010年、「グーグル X」という最先端の基礎研究所の設立につながるわけです。私自身はそれほど詳しく知っているわけではないのですが、グーグルXとは「世界中の英知を結集した、何だか途方もないことやっている研究組織」です。

グーグル Xが手がけて既に明らかになっているものとしては、無人自動車以外に、昨年話題になったGoogle Glassや無人配達飛行機のプロジェクト・ウィング、空中風力発電、血糖値を管理するコンタクトレンズ、気球を成層圏まで飛ばしてネットワーク接続を提供するプロジェクト ルーン、人工神経を応用した音声認識や人工知能の開発、癌撲滅を目指したCalicoプロジェクト・・・などがあるようです。ちょっと想像を絶しますね。スラン氏はこういった組織の発起人であるわけです。

次のMoonshotは教育業界のイノベーション

グーグルX設立の約1年後、スラン氏にまた大きな転機が訪れます。それが、前回紹介した2011年のサルマン・カーン氏のスピーチです。彼が受けた衝撃は前回お伝えした通りですが、後にその時の感情をこのような表現で吐露しています。

「私は終身身分を保障されたスタンフォード大学の教授・・・。一方、ここには教育者でもない人が当たり前のように100万人を相手に教えている。気恥ずかしい気持ちだった。」

非常に直接的な表現で、「教育者」としての誇りに火がついた瞬間を表しています。その数週間後、彼はスタンフォード大学のテニュア(終身身分保障制度)から降り、グーグルのVice Presidentしてフルタイムで働くことになります。スタンフォード大学で教えることは継続しますが、新たな”Moonshots”を探ることを決意するのです。そして、次のMoonshotのターゲットをオンライン教育に定めました。彼は当時、こう表現しています。

オンライン教育は、私が人生の中で手がけた他のいかなる事業よりも世界にインパクトを与えることができる

無人自動車やGoogle Glassなど多くのイノベーションを見てきた人物が、その比較においてオンライン教育に最大の可能性を見出した瞬間です。

では、スラン氏の新たな“Moonshot”がどのように開花していくのでしょうか。次回はその様子について追いかけていきたいと思います。ようやくMOOCの歴史の1ページ目が始まります。

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