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「カッコいい漁業を、東北から」 -若手イケメン漁師たちの挑戦

投稿日:2014/12/04更新日:2019/08/15

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「おまえなんか冷蔵庫行きだ」

岩手の高校で、進路の決まらない生徒に投げつけられた言葉。一般社団法人フィッシャーマンジャパンの代表理事を務める石巻の若手漁師・阿部勝太氏(以下:阿部)は、この話を聞いた時に受けた衝撃を忘れられない。

「冷蔵庫」というのは、水揚げされた魚や水産加工品を貯蔵する冷蔵設備のことである。つまり「成績の悪い学生は、漁師か水産業をやるしかない」--。そんな意味の揶揄だったのだ。

阿部の家は、石巻・十三浜で代々続くワカメ漁師である。漁師の仕事に誇りを持っている。しかしその言葉には、一蹴できない重みがあった。

仕事はきつい。長時間働いても儲からない。後継ぎとなる若者は、仙台やほかの都市に出て行ってしまう。世界3大漁場の1つである三陸だが、東日本大震災前、十三浜にいた150人の漁師のうち、20代の漁師はわずか6人だった。

「漁業をカッコよく」子供たちの憧れの仕事にしたい

一般社団法人フィッシャーマンジャパンは「漁業をカッコよく」をコンセプトに設立された団体である。阿部と、宮城県塩釜市のアカモク漁師・赤間俊介氏が中心となり、11名の三陸の若手漁師、水産業の担い手が立ち上げた。

「4つの事業と1つの夢」をこう掲げる。

 1. 最強チームによる直接販路開拓&共有、営業
 2. 漁師が「丘に出る」イベント・催事事業
 3. 漁師にしかできない商品開発
 4. 水産業のIT化を推進

夢 担い手育成。広い世界に出て自らも学び、
後輩に背中を見せ「かっこよくて稼げる後継者」をどんどん増やす。

震災前から、同年代の仲間が海を離れ、都市に働きに出ていった。理由を聞くと「稼げんし」「長時間働いて、安定した休みも取れない」という返事が返ってきた。だったら、きちんと稼げて、安定して休める漁業をつくればいい。

「自分たちの子どもが『漁師になりたい』って思えるようにする。がんばった分だけ、きちんと稼げるようにする。漁師である自分たちが、仕事に誇りを持てるようにしなきゃいけない」

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浜や漁場を越えて、このような形で漁師が手を組むことは、これまでなかったという。漁師はもともと一匹オオカミだ。「わが浜が1番」という思いが強かった。

一方で、漁協の従来のビジネスモデルでは、十三浜のワカメもよその浜のワカメも、キロいくらで買い取られ「三陸ワカメ」として売られていく。本来、海産物は地域によって風味が異なる。「カキひとつとっても、となりの浜では、驚くくらい味が違います」。しかし、浜ごとの個性を伝えようにも、手段がなかった。

水産業の6次産業化 ~頑張っただけ稼げるビジネスモデルをつくりたい

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阿部がマーケティングを考え始めたのは、震災後のことだった。販路が減り収入が減る中、企業や飲食店を回って、直販を始めた。漁協に卸すより、何倍も高い値段で売れることがわかった。

そのかわり、要求は厳しい。品質に細かなオーダーが入り、一定の供給量を求められる。期待を少しでも下回れば、次はない。「潮の都合で」という言い訳は許されない。「目の肥えた消費者に選ばれるためには、何が必要か」考え始めた。

キリンが支援し、一般社団法人東の食の会が主催する勉強会「三陸フィッシャーマンズ・キャンプ」に参加した。ベテランバイヤーが講師としてやってきて、顧客視点や売り方を講義する。これまでは漁協に持っていけば買い取ってもらえた。顧客視点など考えたこともなかった。違う浜の漁師とともにテーブルを囲み、事業計画を立て、商品開発に取り組んだ。子供の頃から、海を知り尽くしている自分たちだからこそ、最上の海産品を届けることができると思った。

「浜同士でいがみ合っている場合ではない。俺たち漁師が連携して、世界に通用する『三陸』ブランドをつくっていかなければいけない」

「ライバルは、となり浜ではない。世界の漁場だ」

つながる、垣根を取り払う ~ソーシャルイノベーションを実現する生態系

フィッシャーマンジャパンでは、飲食店や企業への直販だけではなく、消費者とのつながりを重視する。フィッシャーマンジャパンのWEBサイトや、Yahoo!のショッピングサイトでは、フィッシャーマンたちが自信を持って勧める海産品を購入できる。

消費者に漁業を体験してほしいと、ツアーを開催する。近所の古い「ジブリの映画に出てきそうな」温泉旅館に泊まってもらい、いっしょに漁船に乗る。採れたてのワカメを浜でしゃぶしゃぶにし、ホタテの貝殻を掃除する。小さな子どもたちが歓声を上げる。「こんなにちっちゃい貝殻をね、大事に持って帰ってくれるんです」

体験ツアーは正直、採算がとれるものではない。しかし1度買って終わりではなく、消費者と継続的な関係を築いていくことが大事だと、阿部は考えている。浜を第二の故郷にして、いつでも帰ってきてほしい。「漁師の家族になってほしい」と思う。

「東北食べる通信」と組み、CSA(Community Supported Agriculture:コミュニティに支えられた第一次産業)の取組みも始めた。会員になると、年に3回、ホタテやイクラ、生ワカメなどの海産品が届く。(詳細はこちら

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「食べる人に浜が見えるように」と阿部はいう。食卓の海産物がどこからきて、誰がつくっているのか、消費者は知らないままに食べている。ワカメがどんな風に生育しているか、メカブと呼ばれる部位がどこか、採りたてのワカメがどんなに美味しいか。

そんな彼らの周りに、人が集う。Yahoo!の長谷川琢也氏は、フィッシャーマンジャパンの事務局として奔走する。フィッシャーマンジャパンのWEBサイトやロゴデザインを、プロのデザイナーたちが買って出る。異なるバックグラウンドの人たちが集まり、その思いが合わさり、浜を動かす。

阿部が震災後に立ち上げた漁業生産組合法人浜人(はまんと)には来春、ふたりの若者が入ってくるという。ひとりは別の業界から漁師に転職。ひとりは高校を卒業する若者だ。これまでは人材が流出していくばかりだった。流れが、少しずつ変わり始めた。

阿部は言う。

「10年で若手漁師を1000人にしたい。若手が漁師という仕事を選ぶようになれば、高齢化が進む日本の水産業にとって、改革になると思うんです。そうすれば、国産の海産物をこれからも変わりなく提供できるし、僕らの子どもたちの世代に、豊かな海の恵みを残すことにつながると思う。」

底抜けに明るい、若手漁師たちの挑戦が始まっている。

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