リーダーシップは「科学」である:才能不要で誰でも磨ける理由
「どこを目指しているのか、わかりませんでした」
以前、メンバーにそう言われたことがある。
その言葉は、いまでも強く記憶に残っている。
本書を読んだとき、私は何度も深く頷いた。
自分に足りなかったものが何だったのか。本書はそれを改めて言語化してくれたからだ。
リーダーシップはかねてより「科学」されてきた。
科学である以上、そこには再現性がある。
つまり、リーダーシップは一部のカリスマだけのものではなく、誰でも後天的に学び、磨くことができるスキルなのだ。
本書は豊富な研究知見をもとに、その可能性を丁寧に示してくれる一冊である。
理論は「状況の解像度」を高める:未経験でもより良い行動を選び取るために
評者である私は、グロービス経営大学院で「組織行動とリーダーシップ」という科目を担当している。
本書で紹介されている理論やフレームワークの多くは、その内容とも重なっている。
なかでも私が共感したのは、
「リーダーシップ論を学ぶこと自体が、リーダーシップを育む」
という本書の主張である。
理論を知ると、状況を見るための想像力が高まる。
そして想像力が高まると、より良いリーダーシップ行動を選び取れるようになる。
たとえば、あなたが売上が厳しいチームを任されたとしよう。
メンバーも目標未達が続き、気分は沈んでいる。
「メンバーにどう声をかければいいのか」
そう悩むリーダーは少なくないだろう。
過去に似た経験があるリーダーなら、経験則で対処できるかもしれない。
しかし経験のない状況では、判断に迷うことも多い。
そんなとき理論を知っていれば、
「この状況でリーダーはどう振る舞うべきか」
「この働きかけはメンバーにどんな反応を生むのか」
といった状況の解像度が一気に高まる。
特に経験のない局面では、この差は大きい。
リーダーは組織に与える影響が大きい存在だ。
だからこそ行き当たりばったりの経験則だけに頼るのではなく、理論を学び、それをもとに行動することが重要なのである。
【実践例】LMX理論に学ぶ:関係性の質がチームの成果を左右する
本書で紹介される多くの理論の中で、私が改めて重要だと感じたのがLMX理論(Leader–Member Exchange Theory)である。
LMX理論は、リーダーシップをリーダー個人の資質や行動だけで説明するのではなく、リーダーとメンバーの関係性の質に注目する理論だ。
関係性の良いリーダーのもとでは、メンバーは期待以上の貢献をしようとする。
逆に関係性が弱ければ、メンバーは言われた以上のことはしない。
この点は多くの人が感覚的にも理解できるだろう。
重要なのは、こうした関係性は自然に決まるものではなく、日々の相互作用の中で形成されていくという点である。
リーダーがどのように対話し、どのように信頼関係を築くか。
その積み重ねによって、メンバーの行動やチームの成果は大きく変わる。
そして人間である以上、その関わり方は無意識のうちに偏ることもある。
「自分は公平にメンバーに接しているつもりだ」と思うリーダーも多いだろう。
そうだと思う。しかし、もしチームの力を最大限発揮できていないと感じるなら、自分の無意識の関わり方がその状況を生み出している可能性を疑って欲しい。
LMX理論を理解していれば、リーダーは意識的にチーム全体との信頼関係を育てるという行動を取るようになる。
知識が行動を変える。
これこそが、理論を学ぶ価値の一つだろう。
失敗が私に教えてくれたこと:理論は実践の「思考の道具箱」になる
ここまで理論の重要性を語ってきたが、その重要性を誰より痛感しているのは、ほかでもない私自身だ。
冒頭の言葉に戻る。
「どこを目指しているのか、わかりませんでした」
これは、かつて私が経営統合プロジェクトを担当したときに、メンバーから言われた言葉だ。
当時私は人事領域を管掌していたが、経営統合プロジェクトでは財務やITなど未経験の領域にも関わらざるを得なかった。
しかも規模の大きいプロジェクトで、私自身にとっても初めての経験だった。
とにかく必死で、毎日「何をすべきか」に集中していた。
その結果、全体像を十分に示すことができていなかった。
私は方向性を示しているつもりだった。
しかしそれは、あくまで「つもり」に過ぎなかった。
振り返ると問題だったのは、メンバーが
・今の状況をどう捉えているのか
・何を動機として動いているのか
を理解しようとしていなかったことだった。
経営大学院でリーダーシップを教える立場でありながら、いざ自分が未知の状況に置かれると、それができなかった。
我ながら情けない話だが、だからこそ痛感している。
経験だけでは限界がある。
理論を血肉にして初めて、いざというときに機能するのだ。
本書は、リーダーシップを「型にはめる」ための本ではない。
理論を軸に状況を読み、メンバーへの働きかけを更新し続けるための「思考の道具箱」である。
「自分にはリーダーは向いていない」と感じている人にこそ、手に取ってほしい一冊だ。

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