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460億上場企業の創業者・福留氏が語る「志の力」/10歳の誓いが運と仲間を引き寄せる

投稿日:2025/12/10

企業現場でDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)が、教育現場で個性を生かす教育が叫ばれ、「個」が際立ち、磨かれる社会となりました。
一方、個人主義が分断を生み、チーム力を発揮しにくい環境に悩むリーダーも少なくありません。

なぜ今、「志」について語る必要があるのでしょうか。

27歳でIT系コンサルティング会社・株式会社チェンジを職場の仲間、先輩と創業、13年後にマザーズ上場を果たした福留氏をお招きし、過去にアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)で氏と仕事をともにしたグロービス・野田が聴き手となり、日本の思想「志」とビジネスについて語り合いました。(文=渡辺清乃)

すべては10歳の誓いから 福留大士氏の「志」の変遷と「目的ドリブン」の思考法

野田:福留さんの「志」はいつ、どんな形でスタートしたんでしょうか。
福留:子供の時に、親友が何も告げずに夜逃げしてしまったことがあって。彼の親が犯罪をしたのがその理由でした。
「人生に追い込まれた奴とか、困っている奴を助けたい」。
僕が、10歳で人生最初に立てた志です。

あれこれ考えて弁護士を目指したけれど、いざ法学部に入って弁護士事務所でインターンをしてみると、イメージと違ったんです。で、世界中を放浪することにした。ビジネスをやろうと思ったのは、放浪中ですね。様々な課題解決には、ビジネスが一番いいだろう、と。就職して5年働いて起業しました。社名の「チェンジ」は“Change People, Change Business, Change JAPAN.”という意味。27歳でそれを心に誓い、今に至ります。

野田:グロービス経営大学院の「志」研究や授業では、基本となる「志の醸成サイクル」を提示しつつ、「数カ月から数年の一定期間、人生をフルコミットする目標=小志」と、それが積み重なって醸成される「大志」にわけて語っています。
福留さんの小志は10歳からビジネスに切り替わるまで、その後Change Japanを胸にやり続けているのが大志、という筋の通ったストーリーとして聴こえてきました。実際は紆余曲折があったんでしょうか。

「志の醸成サイクル」(グロービス経営大学院のウェブページより)

福留:志って、常に変形していくんだと思うんですよ。その時の年齢、置かれた環境、志を貫徹できる能力を備えているか……あとは、運や縁に影響を受けながら。
同じ志で20数年やっていますけれど、刻々と変化すると実感しています

野田:ちなみに、10歳で志を打ち立てられた、その背景に福留さんのご家庭環境の影響はありますか?

福留:親は公務員で、共働きの一般家庭で育ちました。特別に親の影響を受けたわけではないけれど、本をたくさん買い与えてもらいました。中でも、いわゆる志を立てて成し遂げた人たちの伝記はすごく面白くて、「これだな!」と。

野田:ありましたね、伝記シリーズ!誰もが一度は手にしますけれど、全員が影響を受けるとは思いません。福留さんのパーソナリティでしょうか。

福留:分からないですけれど、明確な目的や目標に向かって突き進むのは、極めて人間らしい行動だと思います。「目的ドリブン」って、概念をこねくりまわす動物のやること、という感じでしょ。ホモサピエンスとして生まれたからには、概念をこねくりまわし、自分の目標や目的を定めて、それに沿って生きていくのがいいんじゃないかな。

野田:そういえば、ビジネスをやりながら選挙にも出馬されましたよね。

福留:2012年ですね。その頃、「ビジネスをやってる場合じゃない、政治家になってお金とルールの意思決定をする人間にならないと国がおかしくなる」と思って。当時、ビジネスで大阪に縁が深かったので、立ち上がって勢いあるタイミングだった維新の会で、鹿児島3区から出させてもらいました。

野田:ご出身が鹿児島県ということですが、鹿児島といえば明治維新で重要な原動力となった地ですよね。出身地から受けた影響も感じますか?

福留:ありますね。
たとえば、今の時代には合わないかもしれないけれど、有名な薩摩武士の教えに「男の順序」というのがありまして。生き方や価値観を順位付けした郷中教育のひとつで、とにかく「何かに挑戦して成功した者」が上位。失敗しても、挑戦した者が序列としては上。一番卑怯なのは「何もせずに批判している者」だと。子供の頃から触れているので、沁みていますよね。結局は、教育なのだと思います。

グロービス野田(右)のインタビューに応じる福留氏(左)

内発的【情熱×ビジネス】の実現:儲けと「人間の欲」の壁を越える日本的リーダーシップ

チームを率いるリーダーにとって、個人の内側から湧き出る「情熱」をどう事業に結びつけるかが課題となっています。情熱は外から与えられるものではなく、一人ひとりの内発的な活動だからです。この内側から湧き出る情熱と、ビジネスの持続性や社会貢献とはどのような関係にあるのでしょうか。近年話題となっているキーワードから紐解いていきます。

野田:日本発信の「生きがい(IKIGAI)」は、個人の動機付けモデルとして近年注目されているコンセプトですよね。普段福留さんが語られていることとの繋がりはありますか?

海外でも注目されている「IKIGAI」の概念図

福留:ビジネスをやる時には「好き・得意・儲かる」が交差するところにフォーカスしろ、と常々話しています。今まで僕はビジネスでいっぱい失敗しましたが、うまくいかない時って、この3つのうちどれかが欠けている。好きだし得意だけど儲かりません、ではサスティナブルじゃない。得意だし儲かるんだけど、好きじゃなければ続かない。

志を考える視点(グロービス経営大学院の講義資料を基に編集部作成)

将来のキャリアを考える上で重要な「Will Can Need」というフレームワークについて知りたい方はこちら

そこに世界が求めていること、つまり「社会課題」が交差すれば、中央は単なる仕事ではなく「生きがい」になるんでしょうね。

野田:ちなみに、「儲かる」の前提として、世の中のニーズがあるという認識ですか?

福留:もちろんそうです。

野田:我々が大切にしている「志」の概念も、海外で注目を集めるようになってきていて、翻訳せずに“KOKOROZASHI”で通じることもあるくらいなんです。
「生きがい」は「朝起きる理由」と説明されるように、人生の喜びを呼び起こすものすべて。儲かるかどうかも活動の影響範囲も、問いません。
一方「志」は、自分の周辺に留まらず、社会にプラスの影響を与える大きな目的、として定義しています。ふたつは似ているけれど、スケールとインパクトが違う。

福留:なるほど、さらには比重が違うんでしょうね。儲けが前面に出るというか、ポーションの6割を儲けが占めます、という状態になったら商売・ビジネスに近い。やりたい、とか世の中が求めている、の比重が増えればミッションドリブン=志になっていく。

野田:ここは重要な話だと思いますが、社会的に意義がなくとも儲かる方へ行ってしまう、というケースはありますよね。ESGにまったくそぐわないような。

福留:いっぱいあります。社会的正しさより、人間の欲なんですよね、ベースは。となると、世界にとって役に立つことや地球を持続させることとは全く別の方向にビジネスが進むケースは多い。だからこそ、資本主義が前提としている「儲かる=善」に対しては、日本的価値観で世界にキチンと発信した方がいい。

僕らは会社を上場させて、資本主義の最前線で戦いまくっていますけど、ニュートラルに見れば、決してこれが正解とは思っていません。
これは、「社会システムに対してどう思うか?」という思想の話です。資本主義とか民主主義についてどう思う?変えられない?アップデートさせたい?いろいろ不都合があるからチューニングしたい?それぞれが自分のスタンスをどう持っているかですよね。

“Change Japan”の次へ:「志」が運を運び、能力を確実に成長させるメカニズム

“Change Japan”を掲げてビジネスを続けている福留氏。近年はデジタル人材育成の強化を目的にKDDIとの子会社を設立したほか、自治体DXの強化を目的にコニカミノルタなどと共同で子会社を取得。カーボンクレジット領域の事業開発を手掛ける企業の子会社化など、他社と連携しながら社会問題に取り組む様子がうかがえます。その志は、どのようなものなのでしょうか。

福留:国の力がどんどん弱くなっていて、ネーションステート崩壊前夜だと思っています。そういう時、僕ら国民は公助ではなく、自助や共助が大事になる。要するに、国の補完勢力にならないといけない。“Change Japan”の大本命です。
たとえば、何か国の施策がある場合、国の方向性と違うことをやる必要はなくて、その方向性を大事にしつつ、国ではやりきれない部分を僕ら企業がやる。シンプルにいえば、国策のアウトソーサー。それが今ちょうど、僕らのやろうとしている志です。

野田:自助は個人の努力。たとえばリスキリングして時代に合わせた貢献ができるようになる。共助は、何かしらの経済活動を通じて成立しうる国益性のあるもの、と思うのですが。

福留:国の意思決定って重いので、時間がかかるんですよね。たとえば、能登半島地震の際、自衛隊より早く駆け付けて瓦礫の下の人の救助に入っていたのは、僕らのパートナーのNPOでした。国がカバーしきれないスピード感や機能を我々民間が埋めていけると確信しています。

ほかにも、病院の機能を備えた船を活用すべく「(通称)病院船推進法」が2021年に施行されたんですが、実際は、国の予算で稼働させている病院船は未だほぼないんです。僕らはもうそれを動かしていて、能登半島で人命救助や医療物資搬送、人の送迎に活用しました。
フットワークの軽い民間だからできるけれど、リソースに限りがあるので、何百億、何千億投資できるかといえば今はできない。先々は防災にしても医療にしても教育にしても、あらゆる領域で国がやらないといけないことの補完をやりたいと思っています。

野田:“Change Japan”がパーソナルミッションであり、会社のミッションである。さらに遠くの、ご自分が死ぬまでの間にこれを成し遂げたいというレベルのビジョンはありますか?

福留:今後100~200年単位でみれば、あらゆる先進国が人口減少を迎えるはず。これまで、人口増加を前提にした経済・社会システムが採用されているので、人口減少に立ち向かう方法論をほとんどの社会が持ち合わせていないんです。
その中で、あまり社会が混乱せず、最低限の暮らしを守りながら乗り越えられる状態を創りたいですね。日本でそれができたら、他の国を助けに行く。日本以外のところへ出ていくフェーズを次世代にバトンタッチして死にたいと思っています。

僕のパーソナルミッションであり、会社のミッションは“Change Japan”ですけど、これがある程度目途が立ったら、たぶん“Change the World”になる。地球をサスティナブルにするために何をやればいいかを、僕の後継者たちが世界中で実現してくれるのが一番望ましいですね。

野田:最後にもう一度、福留さんご自身の「志」ストーリーに戻って聞かせてください。10歳で志を立てても、様々なストーリーを経て“Change the World”にまで辿りつかない道筋もありえたと思うんですね。今にたどり着くことができたのは、振り返ると何があったからだと思いますか?

福留:「運」ですね。何かを成し遂げるには努力が必要だから、たぶん普通の人と比較にならないぐらいの努力はしたと思うんです。でも、努力は必ずしも報われないじゃないですか。努力したからといって全員が大谷翔平になれるわけじゃない。

結局、努力のベクトルがたまたまいろいろな人たちの共感を生み、いろいろな人たちが僕を助けてくれて、同じような志を持って、同じような方向に進むエネルギーを授けてくれた。だから、それなりに自分の志を全うできるようなレールに乗っていると思っています。そしてたぶん、志が必要な能力を磨き、運を運んでくるんだと思うんですよね。

野田:「志」がもろもろを引き寄せる。

福留:そうなんですよ。正しい志を立てると、正しいフィードバックが返ってくる。運が良くなるんだと僕は勝手に思っています。
伝記の話に戻ると、全員に共通することがあるんですよ。とにかく意志が強い。それって志じゃないですか。ぶれずに強く、志がどんどん育っていく。まさに小志から大志へ、弱い志から強い志というように、志がどんどん育成されていくんだと思いますね。

野田:子どものころにインパクトのある経験をした人は、その解決に向かって周りより一歩進んで努力する人が多いように思います。福留さんのお話を聞いて腹落ちしました。本日はありがとうございました。

(出典:グロービス経営大学院著 田久保善彦執筆・監修『志を育てる 増補改訂版 リーダーとして自己を成長させ、道を切りひらくために』、東洋経済新報社、28頁)
  • 福留大士

    株式会社チェンジホールディングス代表取締役

    1976 年鹿児島県生まれ。1998 年中央大学法学部卒業後、同年 4 月アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。
    コンサルタントとして、政府官公庁や金融機関などの業務改革、 IT 導入プロジェクトに携わる。2003 年株式会社チェンジをメンバーのひとりとして設立、代表取締役に就任。
    2023 年同社は持株会社体制へ移行、社名を株式会社チェンジホールディングスへと変更、現在グループ傘下に20余社を擁する。「地域が抱える社会課題をデジタル技術で解決する」ことを事業の中核と捉え、『DX×地域創生』領域でのリーダーを目指している。
    2024年M&A仲介会社㈱fundbookをグループに迎えた現在、M&Aによる地域創生も新たな自らの役割として掲げる。ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクも子会社のひとつ。ふるさと納税では累計 1 兆円超の寄付を地域に届ける。また現在までに前橋市・太宰府市のまちづくりアドバイザー、日本政策投資銀行の地方創生アドバイザーなど歴任。

  • 野田 浩平

    東京工業大学大学院社会理工学研究科修了(博士(学術))。MIT経営大学院グローバルプログラムIDEAS Asia Pacific修了。
    外資系コンサルティング会社にて人事コンサルティングに従事。人事・人材系ベンチャーなどを経て独立。
    その後、上場企業を含む複数の事業会社人事役員、教育会社COOを経て現職。
    感情の認知科学をベースに人・組織・社会のトランスフォーメーションを探求。
    MIT経営大学院グローバルプログラムローカルファカルティ、株式会社ココロラボ代表取締役、市民気候ロビージャパン代表。

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