業界トップ企業はしばしば下位企業の戦略を模倣し、「もぐら叩き」的にそれをつぶそうとしたり、一気にシェアを逆転しようとしたりすることがある。
たとえば自動車では、下位メーカーが軽自動車や低燃費技術の一部で先行しても、トヨタがそれを模倣し優位に立つことがある。ブラウザではかつて後発ながらOSの支配力を持っていたマイクロソフトが「Internet Explorer」でネットスケープのブラウザ機能をほぼ完全に模倣し、あっという間にシェアを奪い取ったことがあった。
こうした戦略をとれるのは、豊富な経営資源を有しているトップ企業ならではと言える。
一方で、トップ企業が毎回下位企業の模倣をできるかといえばそんなことはない。たとえばアメリカの地域の大手タクシー会社は、規制遵守や雇用維持などの事情からUberの戦略を模倣することができず、シェアを失っていった。
大手であっても諸事情から「できない(can’t)」あるいは「やりたくない(won’t)」の状況が生まれることがあるのだ。
それを意識的に狙うのが逆転の競争戦略である。これを適切に遂行すれば、大きなニッチ市場を生み出したり、時には大手企業の市場を破壊することも可能となるのである。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
チャレンジャーがリーダー企業に勝つために「弱点」を突く
チャレンジャーがリーダーに挑戦する方法には、前項に示したような正攻法と、リーダーの弱みを突くという方法があります。
正攻法は、シェアや企業体力に差がないケースでは一定の効果を持ちます。ただし、この戦い方は時に消耗戦となることもあります。たとえば、2010年代半ばの牛丼業界や家電量販業界ではこうした競争が生じましたが(リーダー側が仕掛けた側面もあります)、価格競争に陥り、業界全体が疲弊しました。
そこで出てくる発想が、リーダーの弱みを突いたり、社内的な事情で反撃しづらい部分を活用するというものです。もともと「戦略」という言葉には「戦を略す」という意味合いがあります。必要のない消耗戦は避け、リーダーの反撃をかわすというやり方が効果的なことも多いのです。
なお、この考え方はニッチャーにとっても有益ですし、時にはフォロワーにとっても有効なケースがあります。
この方法論について体系化したのが、山田英夫教授による「逆転の競争戦略のマトリクス」です。図表に示した縱軸と横軸をとることで、4つの方向性を提示します。

リーダー企業との真っ向勝負を避ける4つの方向性
4つの方向性について簡単に見ていきましょう。
(1)企業資産の負債化
これは、ヒト、モノ、カネ、あるいは関係性の深いチャネルなどが、競争上の価値を持たなくなるような戦略です。リーダー企業は簡単には経営資源を組み替えることができないので、追随することは容易ではありません。
事例として、オンライン生命保険のライフネット生命保険があります。大手生命保険会社は販売要員を強みの源泉とします。それゆえ、彼らは安易に低価格のネット保険事業を行うことはできません。
(2)市場資産の負債化
これは、顧客に蓄積された組み替えの難しい資産(販売済みの製品やその補完財など)が競争上の価値を持たなくなるような戦略です。山田教授は事例として、生花を保冷装置を持たずに早期に売り切る青山フラワーマーケットの例を挙げています。既存の花卉販売店は、地元の冠婚葬祭業のために仏花やお祝い用の花などの多くの在庫を持つ必要があるので、容易に模倣できません。
(3)事業の共喰い化
これは、リーダー企業にカニバリゼーション(共喰い)が起きると思わせ、追随を防ぐ戦略です。
事例としてはイオンホールディングスの都市型ミニスーパー「まいばすけっと」があります。コンビニエンスストアと競合する業態です。セブン&アイ・ホールディングスもその気になれば同様のビジネスモデルを構築することはできますが、セブン-イレブンのフランチャイジー店とカニバリゼーションが起きるので、容易には追随できません。
(4)論理の自縛化
これは、リーダー企業が今まで顧客に発信してきた論理と矛盾するようなことをさせない戦略です。
これには、かつてアサヒビールの「スーパードライ」に有効な対応策を打てなかったキリンビールの例があります。同社はそれまで「ラガービールこそ本物のビール」というメッセージを訴求していました。それを急に変えることはできなかったのです。
『グロービスMBAキーワード フレームワークBEST100』
著:グロービス経営大学院 発行日:2026/3/25 価格:2,420円 発行元:ダイヤモンド社






















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