今年5月発売の『MBA 言語化トレーニング』の「Part5 Lesson21 別の表現に言い換える」の一部を紹介します。
専門用語を知らない人のために言い換えるという場面はよくあるでしょう。たとえば量子コンピュータを「現在のコンピュータの原理とは全く違う原理で動く超高速コンピュータ」と表すなどです。こうした言い換えは、コミュニケーションを円滑にする効用があります。
もう1つの言い換えの効用は創造的思考の活性化です。物事の核心を突くことにもつながります。たとえば「子はかすがい」ということわざは、子どもが夫婦や家族を結びつける大切な存在であるということを示します。子どもがいるからこそ、夫婦は辛い局面も乗り越えることができるという真理を鋭く突いた言い換えでもあるのです。
当たり前に普段使っている言葉を言い換えてみることで、自らの思考の癖を知ったり、創造性を高めたりすることが可能となるのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、PHP研究所のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
言い換えで、その言葉の持つ世界観を変えよう
モノや概念には一般的に名前がついています。そして人間はその名前(表現)を用いて物事を考えます。ただ、決まりきった表現の中で考えていると、創造的な思考が阻害されてしまうことがあります。
そこで役に立つのが、その表現を別の言葉にしてみることです。それにより、それまで見逃していた視点に気づいたり、逆に複雑な概念を単純化して考えられたりなどのメリットが得られます。
たとえば、地球環境の保護を次のように言い換えてみましょう。
「自分の子どもや孫たちへの投資」
この表現は、環境保護が将来世代に対する責任であることを強調するものです。目先の短期的な利益に囚われるのではなく、将来世代に健全な環境を残すことが私たちの大きな責任であるという意識につながります。
もう1つ考えてみましょう。次のように言い換えるとどうでしょうか。
「地球の健康管理」
このように言い換えることで、地球を単に私たちの住む場所としてではなく、生命体(生き物、死にゆくもの)や生態系として捉えることができます。さらに、環境を守ることが単に資源を節約することではなく、他者への思いやりにつながるなどの意味を持つことを意識できます。
同じ事柄を考えるにしても、別の表現にすることによって見える世界が少し変わることがおわかりいただけるでしょう。その他にも以下のような言い換えによって見える世界観が変わってきます。
「平和」→「戦争がない貴重な時期」
「子ども」→「小さな冒険家」、「笑顔で世界を明るくする魔法使い」
「親友」→「嬉しさを2倍に、悲しみを2分の1にしてくれる存在」
「大学」→「将来の伴侶を見つける可能性の最も高い場所」
「想像もつかない新しいテクノロジー」→「15年後には当たり前のテクノロジー」
「歴史」→「勝者の伝記をつなぎ合わせたもの」「現代の問題解決のヒントが埋もれている山」
コツとしては、図に示したような点が挙げられます。このうち、他事例を参考にするというやり方は、ビジネスモデルを考えたりする際にも役に立ちます。 たとえば「○○業界のエアビーアンドビー(Airbnb)といえるようなビジネスは考えられないか?」と課題を与えてみると、いくつものアイデアが出てくるでしょう。
単純なことですが、たくさんアイデアを出すという姿勢も創造性を高めます。他人が通常5個で妥協するところを、10個、15個と考えてみることが、半強制的に思考の枠を取り払うことにもつながるのです。
演習問題1
設定
あなたは玩具メーカーの課長。部下の女性社員Aさんから「妊娠しました。5カ月後から産休に入りたいのですが」との連絡を受けました。どのような声掛けをしますか。
相手の状況:「おめでとう」と言ってほしいものの、産休を取ることについて職場に迷惑をかけてしまわないかと心配しているかもしれない。
回答例・解説
以下は極めて普通の対応例です。悪いというわけではないですが、あまり工夫はありません。
「NG例」
それはおめでとう。大変だけど頑張ってね。どこかで引き継ぎの話などしようか。
回答例や他の演習問題をごらんになりたい方は本書をご覧ください。
『思考力を高める 人を動かす MBA 言語化トレーニング』
著:グロービス 執筆:嶋田 毅 発行日:2024/5/22 価格:1,870円 発行元:PHP研究所