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管理職を「罰ゲーム」にしたのは、誰か。――ティール組織に学ぶ、マネジメントを全員で分かち合う方法

投稿日:2026/02/06タイマーのアイコン 読了時間 6分

管理職の役割は、年々重くなっている。
業績責任に、部下の育成、人事評価、勤怠管理—―。
そのうえ、働き方や価値観は多様化し、従来のマネジメントの型は通用しにくくなった。

「管理職なんて罰ゲームだ」

そう感じる人が増えているのも、無理からぬ話だろう。
では、この行き詰まりに、出口はあるのか。
その一つの答えとして提示されるのが、本書のテーマである「ティール組織」である。

ティール組織とは?マネジメント「放棄」との決定的違い

ティール組織とは、上司による統制を前提とせず、個々人が役割と目的に基づいて意思決定し、主体的に働く組織運営の考え方である。ティール組織を提唱したのは、マッキンゼー出身の組織変革コンサルタント、フレデリック・ラルーだ。
ラルーは、いわゆるヒエラルキー型組織とは異なる運営原理を示し、その中核として、次の三つの柱を挙げた。

① セルフマネジメント(自己管理)
② ホールネス(全体性)
③ エボリューショナリー・パーパス(進化する目的)

意思決定を特定の役職に集中させないこと。
人を単なる「役割の担い手」ではなく、一人の人間として扱うこと。
そして、組織を固定的な目標に縛らず、環境とともに進化する存在として捉えること。

ティール組織とは、特定の制度や組織形態を指す言葉ではない。
従来とは異なる前提に立って、「組織をどう動かすか」を問い直す思想だと理解したほうがよい。

ヒエラルキー型組織は「考えない現場」を生産する

「では、実際にティール組織で働くとは、どんな感覚なのか」。
本書には、その姿がありのまま描かれている。

舞台となるのは、後払い決済サービスで知られるネットプロテクションズだ。
ティール組織を掲げる企業は他にもあるが、上場企業として管理職を全廃し、その運営に挑んでいる事例は、世界的にも稀だろう。

管理職の完全廃止、360度評価、徹底した情報開示、Will起点の役割設計。
いずれも目を引く取り組みだが、読み進めるうちに見えてくるのは、それらが「制度ありき」で導入されたものではない、という事実である。
むしろ背景にあるのは、ヒエラルキー型組織が抱える構造的な限界だ。

意思決定を上位に集約すれば、短期的な効率や統制は高まる。
しかし同時に、現場は判断を上位に「預ける側」となり、当事者意識や学習は起こりにくくなる

この本を書いたネットプロテクションズの柴田紳社長自身も、こうした問題意識からティール組織への転換を後押ししていったのだと読める。
もっとも、ティール組織への転換は容易ではない。
本書は、その過程で直面する難しさや葛藤も描いている。
だからこそ、単なる成功談ではなく、実践書としての重みを持つ。

「管理職を全廃する」ことは、「管理をなくす」ことではない

かくいう私自身も、ティール型の組織運営に取り組んできた一人である。
その経験から言えるのは、ティール組織は「ある日突然」実現できるものではない、ということだ。

私が経営として関わっていた企業(ゆめみ社)も、創業当初はごく一般的なヒエラルキー型組織だった。
教科書に忠実な組織運営を試みた時期もある。
しかし、チームは次第に疲弊し、業績は伸び悩み、経営危機を何度も経験した。

その過程で、「管理職」という役割そのものを見直し、プロジェクトを動かす役割と、人を支える役割を分けて設計したこともある。

役割を分ければ現場の負担は軽くなる。
当初はそんな期待もあったが、現実には管理を“軽く”しても、管理業務そのものが消えるわけではなかった。
むしろ判断や調整が特定の人に集中し、別の形で負荷が偏る結果になった。

ただ、振り返ってみると、そうした失敗や試行錯誤の積み重ねこそが、結果として統制を弱め、信頼を前提としたティールの方向へと、少しずつ舵を切る土台になっていたのだと思う。

これは、ラルーの議論に照らしてみても符合する。
すなわち、ティール組織は理想形でも最終到達点でもなく、あくまで組織の発達段階の一つに過ぎない、ということだ。
そして、その成否を分けるのは、制度や構造ではなく、人と組織の成熟度である

制度やプロセスは設計で変えられる。
だが、人の意識や行動は、そう簡単には変わらない。
組織の最小単位は、常に一人ひとりの人間だからだ。

実際、ティール組織への転換を目指して制度を変えると、最初に表に出てくるのは現場の不安である。
「本当に大丈夫なのか」「誰が責任を取るのか」
ごく自然な反応だろう。
さらに厄介なのは、不安や妬みといった感情が、制度の意図を容易に歪めてしまう点だ。
評価制度を刷新しても、それが再び序列化の装置に戻ってしまうことは珍しくない。
だからこそ、評価を「意味づけ」のための道具として機能させるには、時間と対話が欠かせない。

この前提に立つと、一つの事実がはっきりする。
「管理職を全廃」することは、「管理をなくす」ことではない、ということだ。

あなたの組織は、誰に、判断と責任を引き受けさせているか

ヒエラルキー型組織であれ、ティール組織であれ、管理そのものが消えることはない。
違いがあるとすれば、これまで管理職が肩代わりしてきた判断と責任を、誰が、どのように引き受け直すのかという点にある。
そして、その重さを引き受けられる土壌が育っているかどうかである。

読み終えて、私はマネジメントの立場として、次の問いを突きつけられたように感じた。

――自分の信じる信念と目的に照らして、いま、何を背負い、何を誰に委ねようとしているのか。

「管理職は罰ゲームだ」と、そう感じてきた読者の皆さんは、どうだろうか。
管理を、誰かに押し付けるのでも、一人で抱え込むのでもなく、どう分かち合い、どう引き受け直すのか。
いま一度、自らに問い返してみたい。


管理職を全廃しました 社員全員が自走する「ティール型組織」
著:柴田紳  発行日:2025/11/12 価格:1980円 発行元:ダイヤモンド社

  • 太田 昂志

    グロービス経営大学院 教員

    株式会社ゆめみにてCHRO、取締役、上席執行役員を歴任。既存事業推進、新規事業開発、人事領域全般を管掌し、DX・内製化支援の分野でリーディングカンパニーとしての成長に貢献。「働きがいのある会社」アワード各賞の受賞にも導いた。グロービス経営大学院教員としては、人事組織系科目の教鞭を執るほか、教育プログラムの開発も担う。大阪大学人間科学部卒業、グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)

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