あなたがマネジメントするチームは、静かに壊れてはいないだろうか──。
プロジェクトの成功を追い求めるあまり、知らず知らずのうちに、メンバーに過剰な負荷をかけてしまう。そんな「悪意のない不適切なマネジメント」が、いま、どれほど多くの現場で起きているか。
成功への道筋は無数にあっても、失敗には驚くほど共通するパターンがある。本書は、そんなマネジメントの「避けるべき落とし穴」を教えてくれる一冊だ。
現場のリアルな教訓をよくある失敗のパターンで掴む
本書の特徴のひとつは、マネジメントにおける落とし穴を「50のアンチパターン」として整理し、それぞれの問題に対する解決策まで提供している点である。
たとえば「目標の不明確さで壊れる」というアンチパターンでは、目標が曖昧なためにチームが方向性を見失い、プロジェクトが失敗に陥るリスクを解説している。よくあるのは「売上を伸ばす」という大目標だけが掲げられ、具体的に何に取り組むべきかは現場に委ねられるような状況だ。
こうした状況で重要なのは、目標を明確にし、優先順位をつけることだ。先の例で言えば、「売上を伸ばす」という大目標を、「新規顧客を増やす」「顧客単価を上げる」「購入頻度を高める」といった明確な目標まで落とし込み、さらに各目標に対する取り組み内容や対応時期などを明示することが大切だ。
これ以外にも、「マイクロマネジメントで壊れる」「非現実的な工数とスケジュールで壊れる」「無駄な会議で壊れる」「無意味な組織変更で壊れる」など、実際に職場で目にする失敗パターンが次々に紹介され、まるで自分の職場を覗き見られているかのような共感を覚える場面が多い。
ページをめくるたびに、「これは自分にも思い当たる!」「あの時のあの場面だ!」と、膝を打つ場面が何度も訪れるだろう。
活用ポイントは?:マネジメントのトラブルシューティングマニュアルとして
本書は、50のアンチパターンを、「タスク」「計画」「コミュニケーション」「キャリア」「組織・環境」の5つのカテゴリーに分け、ビジネスパーソンが直面しやすい課題を余さずカバーしている。まるで現場のあらゆるトラブルを網羅した「マネジメントのトラブルシューティングマニュアル」とも言えるだろう。
とはいえ、その網羅性ゆえに「どこから手をつければよいか分からない」と感じる方もいるかもしれない。また、広範なテーマを網羅しているため、「ひとつのテーマを深堀りしたい」という読者にとっては、少し物足りなくも感じるかもしれない。次々と紹介される失敗パターンのテンポと情報量の多さには、圧倒されることもある。
そこで、本書を最大限に活用するポイントを提案したい。
もしあなたが一定の経験を積んだマネジャーであれば、まずアンチパターン一覧を辞書のように引き、自チームの状況に合わせて該当箇所を参照するのがおすすめだ。
一方で、新任マネジャーであれば、各アンチパターンに付された「危険度」と「頻出度」の2軸を手がかりに、教科書のように優先度の高い目から順に読み進めるとよいだろう。
このように、経験値に応じて使い分けることで、本書は辞書的にも教科書的にも活用できる1冊となるはずだ。
アンチパターンから学び、リーダーとして一段成長する
自動車会社フォード・モーターの創設者であるヘンリー・フォードは、次のような言葉を残している。
“The only real mistake is the one from which we learn nothing.”
(本当の失敗とは、失敗から何も学ばないことである)
失敗を単なる過去の出来事として片付けるのではなく、その原因を見極め、次にどう活かすかを考えること──それこそが、リーダーとして求められる姿勢だ。
とはいえ、現代のビジネス環境は失敗が許容されにくく、失敗から学ぶこと自体が難しくなっている。だからこそ、本書のように、他者の経験から学べる機会は貴重な財産となる。
本書が示すアンチパターンに向き合い、そこから学び、自らの現場に活かす。その積み重ねが、きっとあなたを、ひと回り大きく成長させてくれるだろう。
『人が壊れるマネジメント プロジェクトを始める前に知っておきたいアンチパターン 50』
著:橋本 将功 発行日:2025/3/31 価格:2200円 発行元:ソシム