『カルトブランディング―顧客を熱狂させる技法』ー現代におけるブランドを考える

信者獲得手法の応用

長年、ブランドビジネスに携わってきた私にとっては、現代におけるブランドの在り方は興味深い。ライフスタイルや消費に対する価値観の変化がブランドに多大な影響を及ぼしているのは、周知のことだろう。ブランドが発信する広告は、販売促進目的とわかればノイズと受け取られ、消費者に無視される。値引きなどの施策は、短期的な収益を期待できるが、ブランド毀損に繋がり、長期的な顧客との関係を構築するのが難しい。消費者を魅了し、支持され続けるために、現在のブランドには何が必要か?

『カルトブランディング』のカルトという言葉は、日本ではあまり良いイメージは無いかもしれない。この本によると、カルトブランドという概念は北米発祥で、カルト宗教からヒントを得たそうだ。ダグラス・アトキン氏による『The Culting of Brands: Turn Your Customers into True Believers』では、「顧客のグループが大きな献身を示すブランドのこと」と定義している。カルト宗教の信者獲得手法を応用し、体系化したものが、カルトブランディングと書かれている。

この著者は、カルトブランドと思われる事例収集などを行い、独自でカルトブランディングの研究を行っている。研究を通じて見出した、カルトブランドに共通する条件を「カルトブランディング実践のためのキーワード」として、幾つか紹介していた。その中で私が、特に印象に残ったものを2つ紹介したい。

カルトブランディング実践のための2つのキーワード

1つ目、「尖った独自性のあるイデオロギーを持つ」。尖った独自性のあるイデオロギーを主張するのは、幅広いターゲットにリーチすることを考えた従来のブランディングでは敬遠されていたことだが、現代のブランディングでは変化してきている。

70年代から、環境問題に取組んでいるパタゴニアをはじめ、最近では、ジレット「We Believe」やアウディ「The Doll that Chose to Drive」キャンペーンで、ジェンダーに対する固定観念に問題提起している。Black Lives Matterでは、世界中で多くのブランドが、人種問題に対する姿勢を明らかにした。

尖ったイデオロギーを主張するブランドは、人々から嫌悪感を抱かれたり、SNSで炎上したり、不買運動が起きたりといったリスクもある。一方、市場において大きなトレンドが発生し難く、万人に売るのが難しい現代においては、商品やサービス以外の領域でブランドに関心を持ってもらい、その主張に共感する顧客を獲得していくことは、重要なことだ。

2つ目、「ブランドに関わる全ての人がブランドを愛すことが大切」。本書では「ブランドの発起人や従業員が情熱を持って普及に取り組み、かつ顧客に対して思いやりを持つことが愛」と記されている。

私がかつて勤務していたブランドは、明確なビジョンを持ち、社会課題に具体的なアクションを起こすこともあり、賛同しない人達から批判されることやメディアで叩かれることもあった。一方でその思想に共感し、ブランドを愛する熱狂的な顧客や社員が集まっていたのも事実だ。熱狂的な顧客は、たくさん購入し、SNSで発信することでブランドへの愛を示し、熱狂的な社員は、ブランドに対する想いを社内外に熱く語り、理想のブランドを維持するための営業活動にも熱心だった。ブランドを愛するあまり、彼らが考えるブランドイメージに適さない商品は売らない、という徹底した姿勢を持っていた。

今思えば、彼らは、給料のための業務というよりも、彼らがブランドのために正しいと思う行動を、時に業務の枠組みを超えて、自らが進んで行っていたのだ。これからのブランドには、ブランドを心から愛し、献身的に支える彼らのような存在は、欠かせないだろう。

カルトブランディング関連の書籍は数少ないなか、この著者自身が、ブランドとその顧客にも直接取材を行い、ブランドの施策や想い、顧客インサイトに迫っているので、カルトブランディングについて具体的にイメージしやすいのもこの本の特徴だ。

従来のブランディングでは通用しなくなっている今、顧客を惹きつけるブランドの在り方の参考に読んで頂きたい一冊だ。

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