「心理的安全性」でメンバーの行動を最大化する

グロービス経営大学院とflierが共催した「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」で、『心理的安全性のつくりかた』が総合4位、マネジメント部門1位にランクイン。心理的安全性と心理的柔軟性に着目して、創造的なチームのつくり方を説く著者の石井遼介さんに、グロービス経営大学院教員の新村正樹が話を聞きました。(全2回、前編)

「環境」こそ重要であるという気づき

新村:タイトルからスラスラと読める本を想像していましたが、読んでみると理論を含めて丁寧に書かれた骨太の本でした。どうしてこのような本を書こうと思われたのですか。

石井:実は本書の前に、精神科医の友人と共著で、個人が不安や鬱傾向を感じずに自分らしく生きるための本(『悩みにふりまわされてしんどいあなたへ』)を書いています。ただ、カウンセリングの手法を活用してその場でメンタルの状態が良くなっても、職場に戻って上司からパワハラを受けたり雰囲気が悪いと、結局はまた元に戻ってしまう。ならば、人が働く環境であるチーム――個人事業主やフリーランスの方も、お客様を含めてチームです――を良くすることが大事だと気づいて、心理的安全性というテーマに目を向けるようになりました。

そうした経緯で心理的安全性 認定マネジメント講座という、様々な企業の管理職やリーダーの方にお集まり頂き、実際に2~3ヶ月並走しながら心理的安全性を構築していく研修講座を開くようになったんです。やっていくうちに「うちのチームはこうだけど、あっちのチームはこう」と、チームによって違いがあることが見えてきました。

1つ1つのチームが違うとすると、魚をあげるのではなく、釣り方を教えることが大切になると考えました。そこで「心理的安全性の20のTips」のように、具体的なHowだけをお届けするスタイルではなく、きちんと理論と体系、そして事例を示そうと思って本書を書きました。

新村:「心理的安全性」とは、石井さんの本によれば「組織やチーム全体の成果に向けた、率直な意見、素朴な質問、違和感の指摘が、いつでも、だれもが気兼ねなく言えること」ということでした。石井さんご自身も、これまでの職歴の中で様々なチームと仕事をしてきたと思います。実際にチームで仕事をする中で、心理的安全性や心理的柔軟性の重要性に気づいたきっかけはなんだったのでしょうか。

石井:過去に3社ほど会社をつくりましたが、うまくいかないチームもたくさんありました。例えば学生時代に起業し、科目や勉強そのものではなく、勉強の効率的な「やり方」をお伝えしていました。まずは効率的な勉強法のノウハウづくりのフェーズがあるわけですが、そのなかのメンバーの1人が約束した期日になってもノウハウをあげてこないんです。彼は東大生で優秀なハズなのに、「いったい何なんだ」と思ったことがありました。

ところが、いざノウハウが完成してそれをお客様に売りに行く段階になると、彼はものすごく輝いたんですね。起業直後で、会社の看板もブランドも無い学生が、どんどん顧客を獲得してきたんです。当時の私は、失礼ながら彼に対して「約束も守れず、“使えない”メンバー」と考えてしまっていたのですが、単に彼が輝く場所をわかっていなかった僕のミスであって、「配置も上手にできず、“使えない”マネジャー」は自分自身だったと気づかされました。当時は心理的安全性という言葉を知りませんでしたが、人は置かれた環境によって輝き方が違うとわかった体験の一つでした。

「人が見えていない」からこそ心理的柔軟性を獲得できた

新村:メンバーに対して「いったい何なんだ」と思うことは誰にでもあると思うのですが、そんなとき石井さんはどのように反応したのですか。

石井:心理的柔軟性の1つ目の要素として、「思考=現実」(思考と現実は違うが、思考というバイアスが入っているものを、現実そのものだと認識すること)になるのはよくないと本書でも記載していますが、実は昔の僕はまさに「思考=現実」に囚われるタイプそのものでした。

自分の頭で正しいと思ったらそのまま突き進み、失敗するまで、時には失敗していても、現実のフィードバックを受け入れない。その後、僕が心理的柔軟性を獲得して、ようやく自分自身を含めチームメンバー全員が輝けるようアプローチすることができるようになり、仕事の成果も出るようになりました。

新村:「個々のチーム、個々のメンバーに合わせて、しなやかにチームを変えていくこと」を石井さんは「心理的柔軟なリーダーシップ」と書かれています。石井さんがその心理的柔軟性を獲得できたきっかけは何だったのですか。

石井:「自分は人が見えていない」と気づいたことです。10年ほど前ですが、アパレルの販売員出身で、今では経営者のパーソナル・スタイリストをしてるメンバーと一緒に歩いていたら、彼が「さっきの2人組見ました? 右側の人のコーディネートが格好いいですよね」と言ってきたんです。ですが、僕は数秒前にすれ違った人がどんな服装をしているか全く覚えていなかった。

そこで「彼は人間の服装を見ているけれど、自分は人間を何も見ていないんだな」と気づいたんです。自分は人を見ていないという前提に立てたことで、「人をもっと見るようにしよう」と意識するようになり、実際に以前より見える部分が増えてきた。そこが、自分ができているつもりで、けれど至らない自分自身を認めた出来事という観点で、心理的柔軟性を獲得できた転機だった気がします。

新村:「自分は人を見えている」と思っている人は見えていない、ということですね。心理的柔軟性を獲得するのは簡単ではないと思いますが、石井さんがそうできたのは、やはり理論を学んだからでしょうか。

石井:心理的柔軟性について詳しいメンターの方がいるなら、理論をあまり気にせずに、対話を重ねながら気づいていくこともできるでしょう。ただ、周りにメンターがおらず、自分自身がメンターにならなくてはいけないケースも多いですよね。その場合は概念を理解して、実際にそれに取り組むことで心理的柔軟性を獲得していくしかない。本書も、そういう人を想定して書いています。

新村:石井さんのバックグラウンドは、精密機械工学のエンジニアリングなんですね。本書でも「きっかけ→行動→みかえり」という観点から行動を解き明かしているのが特徴的だと思いました。こうしたメカニズムから丁寧に書かれているなぁと思っていましたが、バックグラウンドを伺ってなるほどと思いました。

石井:工学は、メカニズムを解き明かして、どうすれば再現可能なのかを追究する学問です。もちろん人間はひとり一人違って、金属を流し込んで型にはめればつくれるわけではありません。ただ、どこをパラメーター調整すれば輝ける可能性が高いかといった、変数をチューニングしながら成果が上がるように工夫するという観点は、エンジニアの思考特性として持っています。本書はエンジニアの方々にも読んでいただいているらしく、相性はいいのかもしれません。

(後編「リモートワークでの心理的安全性のつくり方」につづく)

『心理的安全性のつくりかた』
著者:石井 遼介 発売日 : 2020/9/1 価格:1,980円 発行元:日本能率協会マネジメントセンター

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