テーマと出演者
テーマ:「仮想通貨で今何が起こっているのか?」。
発言のポイント
1) 2018年以降、仮想通貨の世界で起きていること
・580億円相当の仮想通貨が流出した2018年のコインチェック事件を受け、金融庁から業界全体に業務改善命令が出され、そこから1年かけて各社はガバナンス等を強化していった。本人確認、マネーロンダリング対策、CFT(Counter Financing Terrorism)といった施策も盛り込んでいった結果、1年後には多くの会社で改善命令が解除され、業界が生まれ変わっていったという流れになる。
・2020年5月施行の改正資金決済法によって顧客保護も充実した。今は顧客資産と自社資産を必ず分別管理したうえで、顧客資産と同じだけの現金や仮想通貨を持ち、万一ハッキングに遭っても補償できる体制にしなければいけない。また、ユーザーが市場を荒らしたり風説の流布をしてはいけないといった、株と同じような行為規制も適用されるようになった。以降、1年少々のあいだ日本でハッキングは起きていない。業務改善や法改正がそれなりに功を奏していると思う。
・コインベースは去年の売上高が1300億ぐらいで純利益は350億ほど。日本は少し落ち着いているが、アメリカでは機関投資家や法人が先行して買っている。
・今、日本のブロックチェーン領域は規制が強すぎてなかなか自由にできない。お金を出してくれるVCも少ないと感じる。コインチェック事件以降、なんとなく、「ブロックチェーンって胡散臭いよね。特にC向けは危ないのでは?」といった空気になっている。グローバルで見ればブロックチェーンのイノベーションはほとんどC向けで生まれているし、その典型がビットコインでありイーサリウム。そのC向けにお金が集まらないのは日本における閉塞感の一因だと思う。
・交換業者は今でこそだいぶ息を吹き替えしたが、去年夏までは相当厳しい収益状況のところが多かった。合併や再編は今後もあり得ると思う。一方、今はステーブルコイン、DeFi、NFT(ノンファンジブルトークン)等、新規商品が数多く出てきた。そうした新商品については法整備がなされていないので、今後はその検討が必要かもしれない。
・ICOに関しては、かつては不特定多数の人からお金を集める点が問題視されていた。しかし、今は適格投資家からお金を集め、将来トークンを発行したときトークンにコンバートするという契約でプロダクトをつくり、取引所に上場する流れになってきた。それで、ICOブームの頃と比べても件数は減ったが金額は増えた状態だ。
・かつては投機目的の個人投資家が多かったが、2020年になると資産保護の観点で機関投資家が急にお金を使うようになってきた。コロナ禍もあり各国中央銀行がお金を刷りまくっているなか、「ドルで持っていると目減りするからビットコインに移ろう」という流れができている。イーロン・マスクが1500億円ぶんのビットコインを買ったりして、その流れは一層加速してきた。キャッシュで持っているよりゴールドを買うような感覚で、ビットコインを「デジタルゴールド」と呼ぶ人も多い。
2) 現在の仮想通貨をどのように位置づけるべきか
・仮想通貨は発展を続けており、今はビットコインのように通貨として使えるものと、プログラムを走らせるものに分類できると思う。後者にはスマートコントラクトというものがある。これは単純なプログラムだが、ブロックチェーン上でアプリケーションが動くというもので、ブロックチェーンと同様、サービス自体も管理者がいない状態で進む。
・通貨としては、ステーブルなものとそうでないものに分けられる。前者はドルや円といった何らかの法定通貨にリンクしていて、レートも法定通貨に限りなく近い。一方、そうでない普通の仮想通貨は独自に動くため、決済にも使えるがボラティリティは高い。
・自分は3つに分けられると考えている。1つ目はドルペッグ型のようなステーブルコイン。たとえばUSDTやUSDCだ。2つ目はビットコイン。これは唯一のデジタルゴールド。3つ目はそれ以外で、たとえばイーサリウム。これはスマートコントラクトのコンピューティングプラットフォームになる。
・仮想通貨は通貨なのか資産なのか。ペイメントで使うためにつくられたという意味で、カレンシーであることはたしかだ。今はボラティリティが高過ぎて、通貨としてはまだまだ使われていないが、まだ誕生して10年だが、ボラティリティは徐々に落ちており、今後、ボラティリティが更に減少すれば通貨として使われる可能性は高まるのではと思う。
・Facebookの仮想通貨はLibraからDiemという名前に変わったうえで、3月頃に新しい情報が発表されるようだ。プライバシーに関する議論もあって当初の予定より遅れたものの、Libraの話が出てきたことでデジタル人民元やCBDC(中央銀行デジタル通貨)の話に火が付いた部分はあり、やはり影響は大きい。彼らも諦めてはいないので、近々何か出してくると思う。
・電力消費量が多過ぎるという批判に関して言うと、まず、ビットコインのマイニングにおける電力消費量は全電力需要の0.5%前後と言われている。ただ、どの産業も電力は消費するし、金融セクターは人間の活動を含めて全世界の数%の電力を消費している。これに対してビットコインは人間を介さずシステムを維持できて0.5%だ。また、今は電力消費量を改善したアルゴリズムも出てきている。
3) 今後の仮想通貨はどういう方向に進んでいくのか
・産業全体でトライ&エラーを繰り返しつつ、技術の発展と社会的認知の広がりによってさらに進化するという意味で、長期的にはポジティブ。ビットコインやイーサリウムに加え、すでに形が見えかけているもの、あるいは今見えていない新しい仮想通貨の形も今後出てくると思う。
・ビットコインは、ブロックチェーンというテクノロジーを使った有用なユースケースだったと思うが、これが最初で最後ではない。インターネットでも最初のユースケースとしてNetscapeやYahoo!があり、今はGAFAになった。ブロックチェーンも同様で、今はイーサリウム、さらには、そのうえにDeFiやDappsも出てきた。これからがブロックチェーンイノベーションのはじまりだと思う。
・取引所については、おそらくアメリカで規制が厳しくなり違法取引所も撲滅されていくというのが直近の動きだと思う。一方で国内は小さなところが財務的に相当厳しいため、M&Aで大手に統合される動きが進むと思っている。その結果、グローバルでは3強や4強が地域を分けて支配するような形になるのではないか。
・ブロックチェーンは大きな進化を3~5年に1回ほど起こしながら、3つのフェーズを経ていくと考えている。第1フェーズは既存金融と仮想通貨の世界の橋渡し。ユーザーアクセプタンスが拡がって既存の機関投資家と仮想通貨がつながり、巨大な流入が起きるというフェーズだ。これはもう終わりつつある。で、第2フェーズでは、DeFiのように非中央集権的な新しいテクノロジーや概念がアダプションを広げ、金融機関のモジュール化が起きる、と。そして第3フェーズがDAO(自律分散型組織)。非中央集権的な新システムだけで完結するサービス提供が行われ、それが新しいブロックチェーンの未来になる。そんな動きが今後10年ほどで進むと思う。
・ステーブルコインを含めれば通貨として使われるようになると考えている。事実、今はVisaやマスターが使えないような怪しいサービスでビットコインがアダプトされているし、今後はCBDCを含め通貨としてのアダプションも進むのではないか。ただ、日本円ベースで考えると、ビットコインを通貨的に使った場合は儲かったぶんが課税されてしまうし、やはりボラティリティが高い。この2点が解決されれば通貨として使われるようになると思う。
・今、取引所間の流通で最も使われているのはビットコインでなくUSDTやUSDCといったステーブルコイン。その意味では、中央銀行が発行するデジタル人民元やデジタルUSDのようなものが出てきたら、「それで良いのでは?」という感じもする。
・日本ではFamieeというプロジェクトもある。パブリックブロックチェーンを使ったパートナーシップ証明書だ。マネックスさんやみずほフィナンシャルさんでは、その証明書を持っているとパートナーとして認められ福利厚生が使えたりする。あるいは、病院で輸血のサインをする際の証明に使われたり。そういう事例も出てきたことは共有したい。
・ブロックチェーンに対する批判はいろいろあるが、我々がはじめた頃はもっと激しい批判に晒されていたし、今はだいぶ認められてきたと感じる。アセットクラスとして、今はゴールドや原油に次ぐぐらいのところには来ているのかな、と。今後さらに拡大すればゴールドに匹敵するものになる可能性は十分あると思う。
・ブロックチェーンは技術的にややこしいこともあって、一部の方々に胡散臭いと思われてしまっているのだと思う。その意味では、今後はブロックチェーンを使ったゲームやエンターテインメントを出して、「ブロックチェーンってこんなに面白いんだ」と、一般消費者に分かりやすく感じてもらえるようなサービスをつくっていきたい気持ちがある。
・今年は政府にも働きかけて、なんとかブロックチェーンを国家戦略にしていただけるよう頑張っていきたい。
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