テーマと出演者
テーマ:「コロナ禍の子供の教育と心の健康」。
発言のポイント
1)コロナ禍における高校生以下の教育の現状について
・オンライン授業で子どもたちに差が生まれている。成績の良い子がさらに伸びる一方、成績が悪い子は自学自習ができないなど、2極化している面がある。差は学校間にも存在するし、家庭によってオンライン環境が違うという問題もある。
・文科省が昨年行った調査では、ZOOMなどで双方向の授業ができていた小中学校は4月が5%で6月は15%。GIGAスクール構想で1人1端末の実現等を目指していたのに、この結果。端末以外にも問題があると考えるべきだ。
・どれほど良いコンテンツがあってもサポートする仕組みがないといけない。今回は配信できる教員とできない教員とのあいだでも差が出た。教員側ができないのは苦手意識や気持ちの問題。昔のやり方のほうが良いという信仰心もある。
・講師たちは画面に映る子どもたちと、雑談を含めオンラインできちんとコミュニケーションを取る必要がある。あとはコミュニティづくり。教員についても同じだ。今回はSlackで失敗事例を共有したりするようなことも加速度的に進んだ。
・不登校だった子がオンラインでは朝のホームルームから参加できたりして、今回の流れで救われた子も多い。今後は自宅でも単位が取れるようにして欲しい。発達障害と言われる、横でごちゃごちゃされると気になってしまうような子がオンラインでは別人のように頑張ってくれることもある。オンライン学習とリアルのハイブリッドは規制改革会議でも本丸の1つだ。
2)子どものメンタルヘルスについて、どう考えていくべきか
・心の問題を抱え、普段学校に来ていた子が朝来れなくなったり、友達との人間関係がうまくいかなくなったり、ケアが必要な事例が増えた。生活リズムが壊れ、自律神経系の問題で朝起きれないとか、やる気が出なくなるといった話がある。
・特に小さい子は、毎日くっついたり遊んだり、人間的な触れ合いが根本的に必要なのだと思う。それを我慢して会うこともできない状態が続くと、ある時点で心に不調をきたす。実際、休校明け初日は、「密はダメ」と言っているのに、皆、泣きながら抱き合ったりしていた。
・自粛明けの7月、4歳年中さんたちは見たこともない“不良状態”だった。「○○をやろうね」と言っても、「いや、うっせーから」とか、中学生の不良みたい。それでも可愛がって認めてあげていくことを繰り返していったら、今はもう、「あれ、夢みたいだったね」というほど回復した。
・今回の臨時休校で母親の不安感が顕著に増しているとの論文もある。アンケート等の結果を見ても親子のメンタルヘルス状態は連動していると感じられる。子どもが精神的に不安定となっても親がサポートできる部分はあるが、親が強い不安を抱えたりすると子供を十分支えられないのではないか。親をしっかり支える議論も必要だと思う。
・「特に母親が」と言うと問題かもしれないが、母親の安心・安定は大切。これはコロナ前からだ。子供だけでは悪くならない。今まで相談を受けた子どもには、必ず家庭や親に何かの背景があった。
・対面がなくなることで非認知能力が伸びなくなる懸念もある。社会スキルのようなものは集団環境下で身につく部分が大きく、今後はその獲得機会を失った子どもの支援も重要だと考えている。また、臨時休校を経て子供の体重が15%ほど増えたとの報告もある。中高生時代の運動経験が将来の賃金に影響することを示した研究もあり、運動できなくなったことも将来に与える影響は大きいと思う。
・特に母親の不安については親同士のつながりで安心をつくることが大事だと思う。家庭内の会話も増やして欲しい。お父さんとお母さんで話を聞きあってガスを抜いてもらわないと、どうしても親というのは正しいことを言って子供にストレスを与えてしまうので。
3)どうすればコロナ禍のなかでも良い教育を提供できるか
・海外ではオンラインで目標設定をさせる取り組みもある。学期開始前に目標を7~8個挙げ、どうすればそれを達成できるか文章にしたりする。それで成績も伸びたとの実験がある。オンラインで生じた問題をオンラインで解決するというのは面白い。
・オンラインで非認知能力を高める方法は、今は分かっていない。対面では表情の小さな変化で「この子は何か困難な状況にあるのでは?」と先回りできたりする。そこはテクノロジーの力も追いついていないが、今はテクノロジーと対面を組み合わせて非認知能力を伸ばす研究にも取り組んでいる。
・自ら学ぶ力を育てるため、今は課題解決型のチーム学習(PBL)に取り組んでいる。それで興味を持ったことのためにいきいきと勉強するも子もいる。あとは子供同士で教え合うこと。それで教える側の子も伸びる。
・4~6歳ぐらいの子は親が横にいないとオンライン学習も成立しないと感じる。そこで1番大切なのは、特に母親の安心・安定という部分にアンテナを張り続けること。生活習慣や運動については、家庭および地域でサポートし合うことも大切だ。とにかく、できないことが多いからこそ「できることは何か」を皆で考えたい。
・PBLはベースとなる知識や認知能力との両輪で考えたい。ここは政治マターになるが、基本的な計算や漢字というレベルで良いから、義務教育では結果責任制とすべきでないか。ともかくも責任から逃げ続けてきたのが今までの教育でもある。
・今回議論したいくつかの課題はコロナ前から存在していて、コロナで大きくあぶり出された面がある。そこで重要なのは教員の質。教育の中心には教員がいる。いかにして、子どもの能力を高めていける人に活躍してもらえるか。今、文科省の政策は数を増やすほうを向いているが、順番を間違えてはならない。まずは質を高め、次に数を増やすことが重要だ。
最後のディスカッションにご参加してくださった皆様
G1@CH⑯「社会の機会平等の確保と格差是正」今村久美 × 堀義人 (coming soon)
G1@CH⑰「コロナ禍だからこそ考える企業のwell-being」プロノバ 岡島悦子 × 予防医学研究者 石川善樹 × 楽天 北川拓也 × 堀義人