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菅総理が語る「コロナ禍の成長戦略」〜ワクチン、デジタル化、脱炭素化、不妊治療の保険適用、携帯料金引き下げ

投稿日:2021/01/06更新日:2023/07/19

本記事は、2020年11月23日(月・祝)に開催された「G1経営者会議2020」の基調講演「菅政権が作り出す力強い日本 ~政府が行うこと、民間に期待すること~」の内容を書き起こしたものです。(全2回 前編) 菅義偉氏(以下、敬称略):たしか、皆さんの前で講演をしてから約1年になると思います。安倍総理が退任されたあと、総裁選挙の結果をうけて第99代内閣総理大臣に就任して、再びこのような機会を得られるとは想像もしておりませんでした。

2021年前半までに、すべての国民にワクチンが行き渡る体制を

総裁選挙ではさまざまな政策を掲げて戦ったわけですが、私にとって最大の責務は何か。コロナ禍にあって4-6月期GDPは戦後最大の下落、そして、なかなか感染拡大が止まらない現在の状況にあって、国民の皆さんの命と暮らしを守ることが私の最大の使命であると思っております。今日はそうした観点でお話をさせてください。 新型コロナウイルスの感染状況は、1日あたり感染者数が過去最大になるなど、最大限の警戒状況が続いており、世界的にも再拡大の傾向にあります。予断は許されない状況のなか、医療への過度の負荷をかけないため、まずは短期間に集中して、感染リスクが高い状況に焦点を絞った対策が必要になると考えています。また、医療体制や検査体制については、全国で約24,000を上回る医療機関で発熱患者の診療や検査を実施していただく体制を整備しています。季節性インフルエンザの流行期に備え、インフルエンザと同程度、1日平均20万件の検査需要に応じることができるような体制を現在はつくっているところであります。 さらに、重症者の発生を可能なかぎり食い止めるため、まずは医療施設や介護施設で陽性者が確認された場合、国費で集中的に全員検査を行う体制を整えています。また、ワクチンについては報道でもご承知の通り、安全性・有効性の確認を最優先しつつ、日本としては、来年前半までに国民の皆さんにすべて行き渡るような数量を確保しております。高齢者や基礎疾患のある方、あるいは医療従事者を優先するなかで、こうしたワクチンを提供していきたいと思っています。現在はそのための法案を国会でご審議いただいているところであり、早期成立に向けて全力で取り組んでいきます。 一方、旅行代金を支援させていただくGoToトラベルは、7月にスタートし、今日までに延べ4,000万人の方にご利用いただいています。そのなかで、(11月23日)現時点でコロナの感染者数は約180名という状況ですが、今回の感染拡大に伴う政府専門家会議の提案を受け、感染が相当に拡大している地域に向けての新規予約は一時停止する措置を決定致しました。GoToイートでも同じような措置を取りたいと思っております。こうした対策を徹底することで、国民の皆さんの命と暮らしを守ることに全力で取り組んでいきたいと考えています。

今、デジタル化は“最大の当たり前”、徹底的に進める

先日発表された7-9月期のGDPは、ご承知の通り、これまでのさまざまな政策の効果もあり年率21.4%のプラスとなりました。感染拡大前となる年末の水準からの落ち込みを、半分強取り戻した形になります。この経済持ち直しの動きを確かなものにしたうえで、再び成長軌道に戻していくため、新たな経済対策の策定を各大臣に指示致しました。この経済政策のなかで、感染対策、雇用や企業への対策、国土強靭化、ポストコロナに向けたデジタル化、さらには脱炭素化など、各課題への具体策をこれから盛り込んでいきたいと考えています。 そして、来年夏には人類がコロナウイルスに打ち勝った証として、東京オリンピック・パラリンピック大会を開催する決意であります。先週は来日したIOCのバッハ会長とも会談を行い、大会開催への強い意欲を直接伺いました。安全・安心な大会にするため、全力で取り組んでいきたいと考えています。 一方で、今回のコロナとの戦いを通じて、さまざまな課題が浮き彫りになってきました。その最たるものは行政サービスや民間におけるデジタル化の遅れだと考えています。「給付金の支給が遅い」「テレワークができない」「ハンコをもらうために出勤しなければならない」。そうした声を数多く聞きました。これに対し、まずは徹底した行政改革を行っていこう、と。本日は河野大臣にも出席いただいていますが、今はその障害となっているものを掘り集めて対応して欲しいと、大臣にはお話ししております。 私はゼロから政治の世界に入り、38歳のとき、横浜市会議員に当選致しました。当時から国民の皆さんの声にできる限り耳を傾け、皆さんにとって何が当たり前であるかということを見極めながら、そうでないことを一つひとつ政策課題にして今日まで実行に移してきました。総理大臣になっても、そうした姿勢は変わらずに進んでいきたいと思っています。そういう意味で、デジタル化というのは、今やるべき「最大の当たり前」だと思っております。私の内閣ではデジタル化を一気に、徹底的に進め、ウィズコロナ、ポストコロナに向けて社会全体を大きく変える。そういう思いで取り組んでいきたいと考えています。 国民がオンラインでさまざまなサービスを利用するためには、マイナンバーカードが必要となります。これから2年半のうち、ほぼすべての国民の皆さんにマイナンバーカードが行き渡るようにします。マイナンバーカードの利便性を高めるため、来年3月からは健康保険証との一体化を順次進めていきます。さらに、運転免許証とも一体化して、免許更新における書類提出や講習の受講もオンラインで行えるようにしたいと考えています。また、スマートフォンへのマイナンバーカード機能搭載に関しても、来年の通常国会における法改正を目指しております。さらに、行政への申請における押印はテレワークの妨げとなりますので、原則、すべて廃止します。河野大臣のもと、今はこうしたことを徹底して精査していただき、平井卓也デジタル改革担当大臣のもとで実行に移していくという体制で取り組んでおります。

女性や外国人の登用を促進、多様性に根ざすガバナンス改革で成長を

また、これまで各自治体のシステムはばらばらでしたが、どこへ引っ越しても同じサービスが受けられるよう、今から5年後、令和7年度末を目標に、各自治体の業務システムを統一・標準化したいと考えています。こうしたデジタル化を強力に実行していく司令塔として、デジタル庁を創設します。そのうえで必要な権限と予算を持たせ、官民問わず高い能力を持つ人材を集め、来年には始動させたいと思っています。「役所に行かずとも、あらゆる手続きができる」「地方に暮らしていてもテレワークで都会と同じ仕事ができ、都会と同様に医療や教育を受けることもできる」。そうした世の中にしたいと思っています。 高齢者や障害者、あるいはデジタルツールに不慣れな方へのサポートにも取り組みながら、デジタルの利便性を実感できる社会をつくっていきます。また、そうしたデジタル化の基盤となるインフラ整備にも、この夏、500億円の予算を投入し、来年中には、まず光ファイバーを、離島を含めて日本全国に敷設できるよう、今体制を整えているところであります。こうした取り組みによって、テレワーク、遠隔教育、そして遠隔診療の基盤ができあがっていくと考えています。 新型コロナウイルスとの戦いのなか、地方の良さが見直される一方で、現在は産業や企業をめぐる環境が激変しています。こうした状況を踏まえ、都会から地方へ、または会社と会社のあいだ、さらには中小企業・大企業・ベンチャーとのあいだで、人の流れというものをつくり、次の成長の突破口にしたいと考えています。大企業にも中小企業にも、それぞれ素晴らしい人材がいます。ですから、たとえば大企業で経験を積んだ方々を、政府のファンドを通じて地域の中堅・中小企業の経営人材として紹介していく。そうした取り組みを、まずは銀行を対象にして年内にスタートすべく、今は人材を集めております。 また、コーポレートガバナンス改革は我が国の企業の価値を高める鍵となるものであります。さらなる成長のため、女性、外国人、あるいは中途採用者の登用を促進し、多様性ある職場で、しがらみに囚われない経営の実現に向けて、ガバナンス改革もしっかり進めていきます。さらに、海外の金融人材も積極的に受け入れ、アジアひいては世界の国際金融センターを我が国として目指したいと考えています。そのための税制および行政サービスの英語対応、在留資格の緩和についても、年内に結論を出したいと思っております。

2050年カーボンニュートラル実現へ、脱炭素化は成長の制約ではない

新型コロナウイルスのために世界経済が低迷し、内向き志向も見られるなか、我が国は率先して自由で開かれた経済圏を広げていかなければならないと思っています。そのために、今は国会で日英経済連携協定についてもご審議をいただいているところであります。先週は首脳会合での交渉を経て、RCEPへの署名も致しました。我が国最大の貿易相手国である中国、そして3番目の韓国と、初めて提携する経済連携です。まさに、今会場にお集まりである経営者の皆さんに、存分にご活躍いただける舞台が整備されてきたと考えています。RCEP署名に加え、ここ2週間は、バイデン次期米国大統領との電話会談を皮切りに、ASEAN関連首脳会議やAPEC首脳会議にオンラインで参加するとともに、私の内閣で初となる外国首脳訪日として、オーストラリアのモリソン首相をお迎えしました。そして、昨日のG20 サミットで、秋の一連の外交行事は一段落したところであります。 これらの行事で注目され、高い評価を得たのが、臨時国会の冒頭演説における「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という宣言です。2050年にカーボンニュートラル、脱炭素化の実現を目指すという目標は、各国首脳との会談でも評価をいただきました。 これまで、脱炭素化については、まさに行政の縦割りとなっており、環境省と経済産業省のあいだで膠着状態が続いていました。しかし、政財界また国民の皆さんとの対話を通し、「世界の潮流として脱炭素社会は避けることができない」と、私自身が感触を得るなかで今回の判断を致しました。温暖化に対して、受け身ではなく攻めの姿勢で取り組むことが、今の日本には必要であるとの考えに至ったわけであります。そこで、総理就任後のタイミングを狙って、いち早く、政権の意思としてカーボンニュートラルを宣言を致しました。 そのうえで、初の組閣でも梶山経済産業大臣と小泉環境大臣には留任していただき、その対応を指示致しました。梶山大臣は産業界、小泉大臣には地方と国際社会のなかで、日本の立場を伝え、日本がやるべきこと進めていこう、と。2人とも、そのことを十分踏まえたうえで取り組んでいただいています。温暖化対応は経済成長の制約ではありません。積極的に対策を行うことが産業構造や社会・経済の変革をもたらし、次なる大きな成長につながっていく。環境と経済の好循環をつくっていくという発想の転換が必要だと考えて、今回の判断を致しました。 もちろん、「変革」や「発想の転換」といった言葉を並べることは簡単ですが、並大抵の努力では実行できません。産業界には、これまでのビジネスモデルや戦略を根本的に変えていく必要がある企業も数多くあると思います。しかし、これは新しい時代をリードするチャンスでもあり、政府としては大胆な投資をしてイノベーションを起こして欲しいとの考えで、前向きな挑戦を全面的に支援してきたいと考えています。私自身、今回の宣言によって産業界の方からさまざまなご不満やご指摘を受けると思っていたのですが、予想とはまったく違っておりました。おそらく皆さんも、そうした世界の潮流に、いつかは応えていかなければならないと、ずっと考えていたのではないかと思います。

国会での演説直後、グテーレス国連事務総長から会談の申し入れが

また、政府は先月、全閣僚出席のもと地球温暖化対策推進本部を設置致しました。そこで私からは、脱炭素社会に向けて内閣で一致して取り組むよう指示を行っております。目的を達成するためのグリーン成長戦略など、今後の具体的な方向については集中的に検討を行い、結論を出していきたいと考えています。 たとえば、電力はすべてカーボンニュートラルにしていきます。特に再生可能エネルギーについては、コストを削減し、電力ネットワークを整備のうえ、限界まで導入致します。電力分野以外でも、燃料を燃やすのでなく、徹底的に変化すると同時に、デジタル化を進めます。たとえば、再生可能エネルギーを最大限活かすため、電力ネットワークのデジタル制御を極限まで進めます。デジタル制御によって、車、ドローン、航空機、鉄道などの自動走行が広がっていきます。製造・サービスでも現場をロボットがサポートするようになります。グリーン成長戦略を支えるのは強靭なデジタルのインフラであるという観点から、グリーンとデジタルを、いわば車の両輪として加速度的に導入していきたいと考えています。 世界では3,000兆円とも言われる環境関連の投資資金が、その投資先を探しています。技術立国である日本には、水素や次世代太陽電池、あるいはカーボンリサイクルをはじめとした世界最先端の革新的イノベーションを起こす技術力があります。カーボンニュートラル実現に向けた政策を取ることで、日本企業の価値は大きく増加すると期待しています。 これに加えて、予算措置、税制・規制改革、標準化、国際連携など、あらゆる政策を総動員して、日本国内に膨大なグリーン需要を創出したいと考えています。日本企業には240兆円の現預金があると言われ、これを活用した大規模な投資を促したいと思います。また、世界の環境関連に向けた投資資金を、意欲と能力のある日本企業に呼び込みます。そうしてグリーン産業を牽引し、次の時代の成長につなげていこう、と。グリーン社会の実現に向けて、内閣として全力で取り組んで参りますこと、皆さんに表明致します。 今回宣言した目標は、世界で最もレベルの高い、野心的な削減目標です。昨年末のEUに続いて主要国では日本が2番目の宣言となりました。国会での演説直後には、国連のグテーレス事務総長から電話会談の申し入れがあり、私が表明した目標と決意に対して最大限の賛辞を送ってくださいました。「日本のリーダーシップを心強く思う」ということを繰り返し述べられ、日本経済のリーダーである皆さんに対しても、「お力を貸していただければ、心強い限りです」といった発言がありました。日本のグリーン化について皆さんのご理解をいただき、ご協力をいただければ、私としても大変力強く思います。

不妊治療への保険適用、携帯料金引き下げを実現したい

こうしたお話と同時に、総裁選挙または所信表明演説のなかで私がお約束をしたのが、本日は時間の関係で長くお話しできませんが、不妊治療の取組みや待機児童解消を含む少子化対策です。不妊治療については保険を適用できるようにしたいとのお約束を致しました。当然、これを進めさせていただきますが、若干時間が必要となります。それまでのあいだ、支援策として保険適用と同じような形の支援を、予算の方向性として来年すぐにでも実施できるようにしたいと考えています。所得制限も撤廃し、不妊治療について違和感のない形でご使用いただける環境をつくっていきたいと思っています。 また、携帯料金の引き下げも実現したいと考えています。私は2年前から、「携帯料金は4割ほど引き下げられる」と主張しておりました。よく「政治が民間会社に介入するのはおかしい」という批判をなさる方もいらっしゃいます。しかし、携帯電話事業というのは、国民の皆さんの大事な電波の提供を受けて行っているわけであります。ですから、少なくとも3社で競争せず9割を占めるという寡占状況が何年も何年も続き、そのなかで営業利益20%前後を出し続けているという状況は、やはりおかしいのではないかと考えています。昨年は法律を改正して、キャリア間を自由に移動できるような体制を整えていますが、そうすると、またいろいろな対策が考えられます。ですから、そうした穴を1つひとつ塞ぎながら、今は法律整備を進めております。国民の皆さんに、実感として「あ、なるほど。変わったな」と思えるような状況になるまで、しっかり対応していきたいと思います。 それと、私自身は秋田県の農家の長男として生まれ育ちました。そして東京に出て紆余曲折を経ながらも、ゼロから政治の世界に入っております。そういう私としては、やはり地方創生への思いがあります。地方から東京へ出ている方は皆さんそうだと思いますが、「地方に何らかの形で関係を持ちたい」「地方に貢献をしたい」と考えている方はたくさんいらっしゃるだろうと思っていました。それで、総務大臣のとき、ふるさと納税の制度をつくりました。当時はなかなか普及しませんでしたが、現在は受け入れ金額にして5,000億円前後にまで普及してきています。 今日お話し致しました政策とともに、私自身が考える社会像として「自助」「共助」「公助」という目標のなか、大きな絆とともに、これからの国づくりを行っていきたい。そのことを申し上げまして、私からのお話を終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。(後編へ続く) 執筆:山本 兼司

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