直感で発想 論理で検証 哲学で跳躍―経営の知的思考

決断することの本質

2020年、日本中が、世界中が、新型コロナウィルスにより大混乱した。否応なくビジネス環境が変化し、ビジネスを再構築しなければならなくなった。また、個人に引き寄せると「これからどんなキャリアを設計すべきか」も考えなければならない。そう感じている読者も多いのではないだろうか。

いま、過去の経験則から将来を予測することが難しく、データや論理だけでは詰め切れない不確実性の大きさに、誰しもが直面している。これから、組織は、個人は、将来に向けてどんな決断をしていくべきなのか。

本書では、経営において決断し実行していくための思考の道筋が書かれている。「はじめに発想し、次に発想の適切さを検証し、跳躍する」というステップである。まず、どんな行動をとるべきかの発想がなければ、行動のとりようがない。そして、その発想が適切かどうか検証し、結果を見て、いくつかの行動をとれば良さそうだ、と「判断」をする。だが、いざ実行すると「決断」するうえでは、迷う部分もある。そこに不確実な未来に向かって決心するという思い切るニュアンス、「跳躍」が加わることで、「決断」につながると表現している。

「決断」の3つのステップのそれぞれを中心的に支えるのは、直感と論理と哲学、まさに本書のタイトル--
「直感で発想し、論理で検証し、哲学で跳躍する」である。では、次に今後重要性が増すであろう、直感の磨き方と哲学の役割について掘り下げてみる。

直感で発想するー直感をはたらかせるために心・目・体を刺激する

発想するとは、仮説を思いつくことである。「こんなサービスがあれば、人々の暮らしが豊かになるのでは」といった仮説であり、中心的な役割を果たすのが直感である。優れた経営者は、直感的に川の深さの目分量ができることを本書では紹介している。では、直感を鍛え、いい発想を生み出すには何が必要か。経験や知識を積むことは大事だが、そうした蓄積の上に直感がはたらくための工夫、つまり、外からのインプットによる直感の刺激、直感の刺激のための内なる工夫、そして、直感を回転させるための工夫が必要であると主張している。

興味深いのは、外からのインプットをもとに、直感刺激の脳のはたらきが起きるための内なる工夫として、心・目・体からの刺激、脳内の刺激が不可欠ということである。目からの刺激を取り上げるならば、ビジネスで現場、現物、現実を重視する考え方、三現主義がある。筆者自身に引き寄せると、現場で現物を確認し、現実を認識することで、新たな問題解決を行う上での仮説が思いついた、そんな経験をしたことがある。

哲学で跳躍するー戦後の日本を復興させた川崎製鉄初代社長の想い

最後に、未来に向かい「跳躍」するためになぜ哲学が必要なのか。判断から行動に移すまでには、深い溝があるからだ。いくら論理的に正しくても、将来の不確定要素が広がり、誰しも迷うだろう。迷いに見切りをつけて、信念にもとづき覚悟を決める。そして目的達成に向け走り続けるために必要だ。

代表例として、「高度成長を引きずり出した男」川崎製鉄(JFEスチールのかつての商号)の初代社長西山彌太郎氏の哲学を紹介したい。戦後、鉄鋼生産と需要の意味について次のように語っている。「国が亡んでもう国境もなくなった。満州や朝鮮その他から幾百万と引き揚げてくる。これから何千万という日本国民が食っていくためには、まず工業を起こし、商業を盛んにする以外に道はない」。この発想の根底には西山の技術哲学、「技術の道理」がある。高炉がない鉄鋼工場は熱エネルギーのロスがあるため、鉄鋼一貫が技術的に望ましいという思いだ。

技術の道理だけでなく、跳躍するには「世の中の道理」に合致していることも重要だ。西山は、戦後復興のための基礎素材として鉄材の供給を日本が必要としていると思っていた。そして最後に、挑戦する精神、いわば「人間の道理」として「進まざるは退くに等し」といった思いがあったこそ跳躍できた。多くの業界人や金融関係者が「無謀」と非難したなかで、資本金の33倍という巨額の大投資に踏み切り、高度成長に繋がる礎を築いていった。

いま我々ひとりひとりが、過去の延長線上で考えることが難しい不確実ななかで生きている。新たな未来を切りひらくためにも、自分自身のぶれない哲学を育み、大なり小なり跳躍するぞという覚悟が必要ではないか。「決断」する力を磨いていきたい、このような問題意識をもった読者にぜひ、本書をお勧めしたい。

直感で発想 論理で検証 哲学で跳躍 経営の知的思考
著者:伊丹敬之 発行日:2020/6/26 価格:1760円 発行元:東洋経済新報社

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