グロービス経営大学院の教員がオススメする2020-2021年の年末年始に読みたい書籍5選をご紹介します。
資本主義が生み出した「世の中に意味がない仕事」
推薦者:金子浩明 グロービス経営大学院 教員
「あなたの仕事は世の中に意味のある貢献をしていますか?」
イギリスの世論調査では37%、オランダでは40%もの人が「自分の仕事は世の中に意味がない」と答えたそうです。著者のデヴィッド・グレーバー(人類学者、2020年逝去)は「まるで何者かが、私たちすべてを働かせ続けるためだけに、無意味な仕事を世の中にでっちあげているかのようだ」と言います。
著者が指摘するのは、資本主義における民間企業は効率的なはずなのに、無意味な仕事を大量に生み出してしまっているという事実です。「ある職種の人間がすっかり消えてしまったら一体どうなるだろうか」と問うたとき、世の中に大した影響がなければ、それはブルシット・ジョブかもしれません。例えば、福祉や医療従事者、コンビニの店員、宅配便の配達員などの「エッセンシャルワーカー」は、その対極にあります。
私は学生時代、障害児療育施設と社会福祉施設で、2年間インターンをした経験があります。皮肉にも私たちの社会では、はっきりと他者に寄与する仕事であればあるほど、対価はより少なくなるという原則があるようです。
冒頭の問いは、ビジネスの世界でキャリアを歩むことを決めて以来、喉の奥に刺さった小骨のように、チクチクしていました。この本はビジネス本ではないですが、ビジネスの世界で活躍されている方にこそ、ぜひ読んでいただきたいです。
『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』
著者:デヴィッド・グレーバー 翻訳:酒井隆史、芳賀達彦、森田和樹 発行日:2020/7/30 価格:4070円 発行元:岩波書店
日本におけるSDGs研究の第一人者による真っ当なSDGs本
推薦者:垣岡 淳 グロービス経営大学院 教員
日本におけるSDGs研究の第一人者が、新書として書き下ろした真っ当なSDGs本。帯には「ポスト・コロナの道しるべ」という文言。2020年の年の瀬に実に相応しい。
声高に煽ることなく、と言いつつ平坦な解説でもない、適度に距離感を取りつつ読み手に「問い」を投げ掛ける基調が読んでいてとても心地好い。
ビジネスに関わる、或いは学ぶ者として、第4章「企業はSDGsにどう取り組むべきか」は必読だろう。「三方よし」に「未来よし」を加えた「四方よし」という表現に、思わず膝を打つ。CSRやCSV、或いはESG投資という、露出度の割にイマイチ掴み切れない“横文字”達との関係も含め、理解が進むこと間違いなし。
“持続可能な開発目標”という和訳しか知らない貴方は、今すぐ手に取りたい一冊。
ご自身が関わっている「目標」はよく知ってるけど、という貴方には17目標が全体として1つの目標体系になっていることを知るためにおススメしたい一冊。
とりあえず流行りに乗っかってバッジつけてるけど「何ソレ??」、、、という輩には、強制的に読め!! な一冊。
『SDGs(持続可能な開発目標)』
著者:蟹江憲史 発行日:2020/8/20 価格:1012円 発行元:中央公論新社
地球や人命を犠牲にしない「命の経済」へのシフト
推薦者:林恭子 グロービス経営大学院 教員
コロナ禍という非常時の中で迎える今年の年末年始。恐らく多くの方は人波を避け、静かに過ごしているのではないでしょうか。そんな特別な年だからこそ、じっくりと、私達が選択すべき未来とは何かをこの本と共に考えてみませんか?
著者はジャック・アタリ。西欧を代表する「知性」としてフランス歴代政権のアドバイザーを務める彼は、2006年出版の「21世紀の歴史」で既に、世界金融危機、米国一強の終焉、反グローバリゼーションの勃興、急性伝染病等の世界的危機の出現を予見していました。まさに今、21世紀のパンデミックを経験している我々は、生活や価値観を大きく変え始めています。欲望のままに消費を重ね、経済格差を広げ、地球環境を軽んじ、国際協調も反故にしてきた我々は、今岐路に立たされているのです。疫病はそのことを我々に教えているのかも知れません。
今後も気温の上昇や衛生の放置はヒトの免疫反応の低下を引き起こし、新たなウィルスが猛威を振るう可能性を助長します。人類の未来のためにも、今後どのような経済分野に人材や資金、教育機会を投じていくべきなのか―。地球や人命を犠牲にしない「命の経済」へのシフトを考えてみましょう。
『命の経済―パンデミック後、新しい世界が始まる』
著者:ジャック・アタリ 翻訳:林昌宏、坪子理美 発行日:2020/10/15 価格:2970円 発行元:プレジデント社
チームの力を最大限に引き出すNetflixの“NO RULES”
推薦者:溜田信 グロービス経営大学院 教員
『異文化理解力』の著者である経営学者のエリン・メイヤーとNetflix CEOリード・ヘイスティングスの共著となる本書は、 “NO RULES=「休暇規定」「経費規定」「承認プロセス」「重要業績評価指標(KPI)」 等々、普通の企業なら常識的に定めているルールがない”だけの話ではない。
【スピード感がありイノベーションを生み続けることのできる「最高の職場」】を実現するためにCEOのリード・ヘイスティングが、自分が直面した数々の問題に真摯に向かい合い、かつ人間の心の機微をきちんと踏まえた上での組織づくりをしてきた過程が丁寧に描かれている。
その結果、コントロールや管理から解放され、裁量を与えられるからこそ、個人やチーム人材が最大限にその能力を発揮できるという、未来の組織がそこにある。
自らのチームの力を最大限に引き出したいと願う読者にとっては、良き師となる1冊である。
『NO RULES-世界一「自由」な会社、NETFLIX』
著者:リード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー 翻訳:土方奈美 発行日:2020/10/22 価格:2420円 発行元:日本経済新聞出版
実は大人こそ読むべき、父が娘に語るわかりやすい経済の本
推薦者:嶋田毅 グロービス経営大学院 教員
本書は、経済学者の父が娘(おそらく10代)に対して、市場経済とはどのようなものか、そして世界史の流れを経済学の観点からわかりやすく解説しようとした本です。筆者のポリシーは明快で、「若い人たちにわかる言葉で経済を説明できなければ教師として失格」「経済モデルが科学的になればなるほど、目の前にあるリアルな経済から離れていく。そうした専門家にすべてを委ねてはいけない」「経済はしばしば暴走するので、それに対処するためにも知識を持っておかなくてはならない」というものです。それゆえ、本書では難しい数式やモデルは一切登場しません。
歴史の中で実際にあった出来事(古くは文字の発明など)や今起きていること(暗号通貨など)がなぜ起きたのか、それはどのようなインパクトを人類に与えたのかなどを例えなども用いて丁寧に説明しようとしています。そしてその端々に、著者の哲学が入ってくるという体裁です。入門書でありながらなかなか奥の深い1冊であり、実は大人こそが読むべき1冊と言えるでしょう。
『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』
著者:ヤニス・バルファキス 翻訳:関美和 発行日:2019/3/7 価格:1650円 発行元:ダイヤモンド社