「自分メディア」のつくり方(前編)〜気迫や想いが人を動かす

本記事は、あすか会議2017「自分メディアのつくり方~好きな場所で発信して生きていくための方法論~」の内容を書き起こしたものです(全2回 前編) 

白木夏子氏(以下、敬称略):本日は「自分メディアのつくり方」というテーマでお集まりいただきました。まず、久志さんはTABI LABOを立ち上げているわけですが、どんな経緯でTABI LABOを立ち上げたのですか?

アメリカの高校を1年で卒業後、DELLの最年少マネージャーに

久志尚太郎氏(以下、敬称略):僕は超よく分からないキャリアで、17才ぐらいからずっと働いています。中学受験をして進学校に入ったんですが、中1で中退しています。で、金髪にして遊んでいて、高校を受けたらぜんぶ落ちました。それで、行くところがないから困ってアメリカに行ったという感じです。

白木:でも、入った高校で飛び級して、1年で卒業したという。

久志:たまたまそうなりました。そのあとテロを目の当たりにして、そこからずっと彷徨っています。「これからの時代を、どう生き抜くべきなのか」と。9.11のときはLAにいましたが、「これから時代が変わる」と思いました。それで、なにかこう、模範的なことでなく、自分で新しいスタイルとか会社とか、そういうものをつくらなければいけないと思って、そこからずっとぷらぷらしていました。

白木:ぷらぷらしつつも、そのあとはDELLで働いていたんですよね。

久志:大学を中退して自分で仕事をはじめて、19歳のときにたまたまDELLに拾ってもらいました。そこで最年少マネージャーになったあと、20歳ぐらいのときに病気を患ってしまって、それがきっかけでDELLを1度辞めています。そして21歳から23歳まで、世界を周っていました。当時はBRICsが話題になっていたので、まず中国を半年ほど見て、そのあとは世界各国のヒッピーコミュニティを回ったりしていました。

そのとき、ただ与えられたものを消費するのではなく、欲しいものは自分でつくるということを学びました。それがこれからの時代は一番大事になる、と。それで23のときに東京へ戻り、(再度DELLに入って)マネジメントを経験して、再びDELLを辞めたあとに宮崎へ行きました。そこで、「すべて自分でつくってみよう」という生活をはじめたのが26ぐらいのときです。それが2回目のチャレンジというか、起業になります。

白木:そのあとTABI LABOをつくるために東京へ戻ってきて…。

久志: 29のときです。そうして「世の中にきちんとインパクトを残すようなことをしなければいけないな」と思いTABI LABOをつくりました。

白木:ありがとうございます。一方、美冬さんはフリーランスになって今年で…。

安藤美冬氏(以下、敬称略):7年目です(2017年時点)。会社務めも7年だったので、「結構経ったな」と感じます。

白木:「自分メディアのつくり方」というと、もう美冬さんのためのセッションという感じもします。久志さんは意外にも「自分メディア」をやっていないんですよね。TABI LABOをはじめたときも、私は当時ラジオの番組を持っていたので出演してもらいたいと思って声を掛けたんですが、「今はちょっとメディア露出していないので」と言われて。一方、美冬さんは「自分メディア」というのを会社員時代からやっていましたよね。

安藤:はい。前職では出版社にいましたが、2010年1月に『週刊ダイヤモンド』という雑誌がTwitterの特集をしたんです。それで当時、メンターの方をはじめ周りの方々に、「これからはSNSや個人メディアの時代が絶対に来るから、やるなら早いうちからアカウントを登録して波に乗ったほうがいい」というアドバイスをいただいていました。それで、今でも日付を覚えていますが、2010年1月17日に『週刊ダイヤモンド』を買ってTwitterに登録しました。その日が私のSNSデビューです。で、会社はその半年後に退職していますが、登録した1月時点で、辞めたあとを見越した戦略も立てて発信していました。

ただ、それから7年以上経った今は、もう私のなかでは「自分メディア」というのは“越えて”しまっていて、興味のない分野になってしまったというか(会場笑)。だから今日は熱意を取り戻してお話をしたいと思います(笑)。

久志:すごいですよね。個人メディアのセッションで壇上の2人がSNSを「やっていない」「興味がない」という(会場笑)。

白木:私は「どうしよう」という感じですが(笑)、それは正直な意見ですごくいいと思うんです。美冬さんは、そのフェーズを1回越えてしまった、と。

頑張って「自分」をブランディングして、息苦しくなっている

久志:すごく分かります。今、「自分メディア」という言葉が出てきて何が起きているかというと、皆、すごく頑張って自分のブランディングをして、無理をしたり息苦しくなったりしている。「いいね」をもらうために“置き”にいったりして。いろいろ逆転してしまっていると感じます。本来は「自分らしく」ということが自分メディアを通して広がったりする筈なのに、今はどんどん“つくり”にいってしまっていて。Instagramでもそうですよね。それで、どんどん実生活と離れてきている。そうでない人もたくさんいらっしゃるから、それはそれでいいんですが、“つくり”にいってしまっている部分もあるというのは結構イヤだなと思っていました。

人間、いいことばかりではなくて、鼻クソをほじるときもあれば、泣いているときもあれば、オナラをするときだってあるじゃないですか。そういうのは絶対に出さない。自分をメディアやコンテンツだと考えるのなら、それだって自分の一部だと思うんですが、そういう部分は出しづらくなっています。でも、「そういうことじゃないよな」と。だから、僕は自分メディアということもあまり言わないようにしています。その代わり、実際に誰かと対峙したときですとか、リアルなところではもっとコミットしたり、深く入っていくということを強く心がけています。

白木:美冬さんは当時、ソーシャルメディアをすごく分析・研究して、自分をタグづけしたりしていたじゃないですか。その時期に何か意識していたことはありますか?

安藤:まず「なぜ自分メディアをやるのか」という目的が大事なんですよね。先ほど久志さんが言っていたように、今はSNSの嘘っぽさというのが相当蔓延していると思います。とはいえテレビであれば視聴率、雑誌であれば発行部数と同じで、自分メディアにも最初はある程度、数を追求する時期が必要だと思っています。ですから、そこは綺麗事を抜きにして数を追い求めていた時期が私にはありました。とにかく1人でも多くの方にフォローしてもらって、自分の発信を見てもらうことを至上命題にしていましたね。最初の3年ぐらいはそういうフェーズでした。

で、そのときに大事にしていたのは、「3点セット」と呼んでいる、名前、プロフィール、自分の写真(アイコン)。それと投稿の内容です。それが、ある程度は自分が想定している自身のキャラクターやイメージに沿っていること。「これは自分のキャラにそぐわないな」とか、「こういうイメージを持って欲しいな」とか、そんなことを考えながら、ある程度は限定して投稿していったという面があります。

あとは、投稿回数や投稿時間、あるいは、どんな言葉づかいをするか。誰をフォローして、誰をフォローしないかというのも大切です。私はフォロー数とフォロワー数の比率も見ていました。いやらしい話ですけれども、たとえば300人をフォローして200人にフォローされるというのは、100人に振られている状態と同じようなものです。ですから、200人にフォローされているなら20人しかフォローしないとか。そういった細かいto doを含めて、もう最初は徹底的にやっていました。

白木:久志さんならTABI LABO、私ならHASUNA、美冬さんなら安藤美冬という価値を、いかにしてブランディング、またはマーケティングしていくかという。

久志:個人でも企業のメディアでも一緒だと思います。やることは、徹底的にディストリビューションをハックして面白いコンテンツをつくるという、すごくシンプルなことなので。今のお話を聞いていて、安藤さんはそこを俯瞰してやっているなと思いました。自分という商品・コンテンツを俯瞰しながら、どのように発信していくのか考えるというのは企業メディアも一緒ですよね。

一方で、僕は最近少し思っていることがあります。メディアとしての話をすると、配信側のディストリビューションというのはすごくハックしやすいんです。たとえばシェアしてもらう方法ですとか。ただ、やはり最後は面白いかどうかなんですよね。Facebookであれば、「自分がいかにすごいか」という話は届けやすいし、ブランディングしやすい。なんでもできてしまいます。でも、そんなことより、会ったときに面白いか面白くないかのほうが重要になると思っています。

もう少し言うと、1回や2回会って「いい人だな」「◯◯な人だな」という印象をつくるのも、たぶん簡単です。皆さんもそうですよね。そういうテクニックを「身に付けている」という表現もおかしいですけれども、やってきているから。でも、本当に重要なのは、突っ込んで話をしたときに面白いのかどうか、あるいは信用してもらえるのかどうかといったことのほう。メディアのコンテンツとしても、サービスのつくり方としても、僕自身は最近、そちらのほうですごく気をつけています。

投稿ひとつひとつに気迫や想いを込めることが大事

安藤:たとえば、自分や自分の周りで「自分メディア」というものを使って何かを掴み取った人たちに共通するのは、あるときに気迫があること。気迫や勢いって、すごく大事だと思っています。実際に会えば、その人の人となりやエネルギーを感じるのと同じです。ネット上ではすべて取り繕えるかというと、まったくそうではないんですよね。その人が、「たかがブログ」「たかがFacebook」だと考えず、そのひとつひとつの投稿に何か気持ちを込めていたりすることが大事だと思っています。

そういう気迫や勢いと、「自分が個人メディアで何かしら影響力を勝ち取って、それで何をしていきたいか」とか、「自分がこの社会でどのように生きていきたいのか」といった想いが私のなかでカチッと定まったとき、面白いことに外側が変わりました。著名なジャーナリストの方とか、いろいろな人に応援してもらえるようになったりして。「安藤さんが言っていることって、なんか面白いぞ」と、少しずつ反響が生まれるようになりました。それまでは、分析はするし、知識もたくさんありましたけれども、今ひとつ結果が伴っていなかった気がします。

白木:分析とか、そういうものよりも、腹の底からの想いや自分らしさといったもののほうが大事になるという。

安藤:そうですね。私は20代でずっと迷っていました。私は10代の頃からずっと、広い世界に出て勝負がしたいと思っていたんですね。本が大好きで本を書きたいという気持ちもありましたし。それで、とにかく自分の名前で勝負して生きていきたいという気持ちを、20代のときはずっと持っていました。

だから、会社を辞めたときに目指していた姿は「個人のIPO」。会社であれば上場ですよね。もちろん私は会社を上場させるようなタマじゃないし、そんなビジョンも才能も持っていません。ただ、1人の個人として社会のなかで生きていくなかで、水の波紋のようにじわじわと、周りを巻き込みながら大きな影響を発揮して、社会を変えていく力にはなれるのではないかという気持ちがありました。だから目指していたのは個人のIPO。出版というのは最終的な夢ですが、そのために個人メディアを使っていました。そういう思いが自分メディアにハマるというのはすごく大事だったという気がします。

白木:一方でお二人は、ここ数年で価値観が大きく変化していらっしゃるなと、傍からみていて感じます。美冬さんは最近、SNSはアプリも削除して止めていたんでしたっけ。

安藤:「ソーシャル断捨離」と呼んでいます。1日最低3時間はネットから離れたうえで、アプリはすべて削除して、必要なときにしか投稿しないようにしていますね。

白木:今、自分メディアのこととか、考えたりしていますか?

安藤:2年ほど前から考えていないです。それまで、5年ほど続けていたんですかね。そのあいだは、もう毎日SNSと向き合う状態で、「SNS=自分」というような、自分人格ぐらいのつもりで自分メディアと向き合ってきました。それで5年ほど経った時点で、正直、もう飽きてしまったという。

久志:めちゃくちゃ分かります。自分メディアをやる人が増えたというのもあると思います。少しいやらしい話ですけれども、皆がFacebookやTwitterをやるようになったら「皆と同じことをする必要もないな」と。皆がスマホを持ったことで自分メディアの時代が来て、それで皆が頑張っている状態のなか、自分はソーシャルから離れて、「じゃあ、“その次”はなんだっけ」という状態になっているのかなと思います。

本当に面白い情報はネットでは得られない

白木:久志さんは“その次”はなんだと思いますか?

久志:僕としては、感覚を開く体験のようなものが重要になると思っています。大抵の場合、面白い情報というのはネットで得られないと思っているんですね。スナックとか、リアルな場で得られることのほうが多い。

白木:今、スナックは全国的に、地方創生につながる勢いで盛り上がっていますよね。

久志:そう。そういうところで得られる情報や肌感覚のほうが、面白いものをつくるうえではよほど重要だったりすると思っています。たとえば、うちはディスカバリーチャンネルと業務資本提携を組みました。アジア初です。では、なぜ彼らは我々のところに来たのかというと、これが超面白いんです。アドテック東京という広告の祭典がありますよね。僕らはそこで毎回ブースを手づくりしています。普通は業者がつくるのですが、うちはクリエイターが多くて、皆、ふざけるのが好きだから、そこでイケてるお店みたいなものをアドテック会場につくっています。あと、これはあまりアピールしていませんが、実は僕らは動画も結構やっていて、ブースではそれも流していたんですね。

そうしたら「お前たちはイケてるな」という話になって。「僕ら、動画もやっています」とか、そういう話は何もしていないんです。ただただ自分たちが好きなものを一生懸命つくって、いい意味で周囲のことを考えずにやっていたら、向こうから声を掛けられた。それで本国の偉い人が来て、「どんなことをしているんですか?」「こういうことをやっています」といったやりとりになって、それで提携の話が決まりました。

もちろん、自分たちが何をやっているか、多くの人に知ってもらうことは重要です。ただ、世の中にはこれほど多くの、競合と言ったらおかしいけれど、いろいろな人がいるわけですよね。では、そのなかで自分のポジションをどのようにつくっていくのか。僕はそこで、多くの人と違う、「発見性」の高いコンテンツをつくっていくことが大事になると思っています。「発見性が高い」というのは、多くの人に気づいてもらうという意味ではなくて、見る人が見たとき、気付きや発見があるという意味です。僕らはそういうことをずっと考えてきました。

旅だってそうです。日本にいたとき見えなかったものが、世界に行って見えた瞬間って、あるじゃないですか。捉え方が変わったりして。本や映画もそうですよね。僕はそういうことをウェブの世界でもやりたいと思っています。

白木:美冬さんはいかがでしょうか。今はどんなことに興味や関心がありますか?

安藤:内的覚醒というか、自分の内側に入っていくことに今は夢中です。だから、私が今TABI LABOに社員として入ったら、少しキツいかもしれない。「リアルに人と会いたいですか?」と聞かれると、正直、そうでもないので。

私は2年ほど前から、自分のなかに深く入って、いつも考えごとをして、いつも大量の本を読むようになりました。海外にもかなり行っていますね。海外は取材で行っているのでほとんど仕事ですが、いずれにしても、そういうものはすべて自分のなかへの、「覚醒の旅」というんですかね。とにかく今はそういう時期なのかなと思います。

白木:心理学も勉強していますよね。

安藤:心理学も英語もすごく勉強しています。これは聞いた話ですが、秋元康さんが以前、「自分メディアを使って世に出ていった人たちが、何年かするとそういうことを止めていく」という話をしていたことがあったそうです。まさに私ですよね。で、「そういう人は、自分に飽きちゃっている」と。私も、自分に飽きたのかと言われるとよく分からないけれど、それに近いものはあります。当時の私は自分を外側に出し尽くしていたけれども、たぶん今は再び内側にこもって、新しい自分として再び生まれていく準備をしているんだな、と。変に聞こえるかもしれませんが。ですから、今は別に人と会いたいというわけでもないし、SNSで自分を知って欲しいわけでもない、と。何者かというのを人に説明したいわけでもなく、ただ放浪して生きている感じがします。ときどきお仕事はしていますけれども(笑)。

一方、グロービスさんに来ている方々や経営者の方々というのは、常にアッパーな感じがして。「どうして、そんなにずっと勢い良くいられるんだろう」と、いろいろな意味で不思議に感じています。

白木:世の中にはポジティブな人とネガティブな人がいますけれども、経営者というのはポジティブに振り切れている人が多いですよね。で、実はネガティブなところもあるけれど、心のなかに抑圧しているので、会社に行ったり人に会っていたりすると、ポジティブな面ばかり見ることになる。それで、ネガティブなところを見ていないから心のなかに空洞を抱えているような人がすごく多いなと、私も見ていて感じることはあります。グロービスにいらしている方にそういう人が多いというわけではなく、ネガティブなところがあるというのは、一般的に忘れられがちなことなのかな、と。

その点、美冬さんは、ソーシャルメディアを使って世に出て、『情熱大陸』にも出て、いろいろな人と会いました。著書には「会社を辞める前に3000人に会った」とあります。でも、それを一通り終えたのち、ポジティブサイドにばかりに振り切れるのでなく、人との交流や、いろいろなメディアに出ることを一旦シャットアウトしたわけですね。それで、ネガティブなサイドを含めて、自分のいろいろな姿を探求しているところは本当にすごいなと思います。(後編に続く)

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