今年6月発売の『入社1年目から差がつく ロジカル・シンキング練習帳』から「LESSON3 都合の悪い情報を探してみる STEP UP」を紹介します。
因果関係は問題解決のシーンや、何か新しい施策の効果を検討するうえで非常に重要な要素となります。例えば学習の効果を高めるためにどのような方法を用いればいいかを考える際に、「この学習方法を採用したからこそこのくらい効果が上がった」という因果関係をしっかりデータにも基づいて言えれば、説得力が増すということです。その際によくある落とし穴は、「因果関係があるはず」と考え、都合のいい情報ばかりを集めることです。「成績のいい人間は予習をよくしているようだ」といった類の情報です。実はこれでは説得力につながりません。「その方法を使わなかった人はどうなのか」など、「逆の情報」もしっかり集め、対比させることで物事を深く洞察することが必要なのです。一見当たり前のことのようですが、目立つ2つの要素を安易に組み合わせて因果関係と錯覚することは非常に多いのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
STEP UP
ここまでは、何が起こっているかという事実を明確にするために、積極的に不都合な情報を探すということに取り組んできました。この思考の使い方は、原因と結果の関係性を明らかにしていく場合にも活用できます。
たとえば、ある薬が有効だということを言うためには、どうすればよいかを考えます。これは、効果があるという結果に対して、ある薬が効いているということ、つまり、原因と結果の関係性を特定していこうというプロセスになります。
よくやってしまうのは、その薬を服用して、効果があった人を探して、「私の周りで何人かに聞いてみたけど5人も効果があったと言っています」というやり方です。これでは、自分の言いたいことを支えるための情報を直接取りにいっただけになります。
その薬に効果があったということを言うためには、薬を服用したけど効果がなかった人がどれだけいたのかがわからないとその薬の有用性がわかりません。
服用して効果があったという人が5人、服用したけれども効果がなかったという人が1人の場合と、服用して効果があったという人が5人、服用したけれども効果がなかったという人が5人の場合では、薬の有用性に対する判断が変わるということです。
前者であれば、薬は効果がありそうと解釈できそうですが、後者は、それほど効く訳ではなさそうという印象になります。逆説的ですが、薬を服用したけれども効かなかった人を積極的に探すことが薬が効いたかどうかの判断の精度を高めてくれます。
そして、もうひとつ重要なことが、薬を服用しなかった人がどうだったかということです。前述のところで満足して、考えを止めてしまう人が多いのですが、薬が有用だったということを言うためには、薬を服用しなかった人たちがどうだったかを比較しておかなければなりません。
上図の結果をみたときに、薬には効果がありそうだと考えられるのは、左右どちらでしょうか。
服用しなかった人で回復した人が1名しかいない左図と、服用しなくても回復した人が4名いる右図。左の状態であれば、服用する意味はありそう、と考えることができそうです。右の場合は、薬によらずとも回復している人がそれなりにいるということです。そうなると、薬ではない要因で回復しているのではと考えることができます。
したがって、薬が効いたかどうかを判断するためには、薬を服用しなかった人がどのような結果になったかという情報が実は重要ということになります。
不都合な情報を避けるのではなく、積極的に自分にとって不都合な情報を取りにいくことが、結果的に自分の言いたいことの根拠を強めることにつながります。
(執筆者:岡重文 グロービス経営大学院教員)