ソフトバンクG孫社長の目利き力は?ベンチャーキャピタル投資の収益率から考える

ソフトバンク・ビジョン・ファンド1の運用成績は?

ソフトバンクグループ(以下、ソフトバンクG)の孫社長は、5月18日の2020年3月期決算説明の席上で、2017年に始めたビジョン・ファンドの投資先88社に関し、「15社くらいは倒産する」「15社ほどは翼が生えてコロナの谷を飛び越えていく」と語った。スタートアップ企業への投資はそれほど不確実性の高い事業なのだろうか。

日本ベンチャーキャピタル協会(以下、JVCA)が、国内のベンチャーキャピタル(以下、VC)全体の運用成績の開示を始めた。投資回収が本格化している2010年から2014年までに設立されたファンドのIRR(投資金額に期間を加味して算出する年換算の投資利回り)は14.9%~31.1%、そして投資金額に対するリターンを示すネットマルチプル(リターン倍率)は1.55~3.07倍だった。

ソフトバンク・ビジョン・ファンド1(以下、SVF1)の運用成績について検証してみよう。ソフトバンクGの決算説明会資料によると、既に上場した投資銘柄8社について、累計で約1兆円を投資し、そのリターン倍率は5月15日時点で、9.6倍から0.5倍、平均で1.35倍となっている。全体のリターン倍率が低い原因はUberで、新型コロナの影響もあり、今現在の評価額が投資額を割り込んでいるためだ。

10兆円を88社に均等に投資し、7 年後(SVF1の存続期間は12年間であるが、7年間で大勢は決着すると想定)に投資を全て回収すると仮定する。15社は倒産なのでリターンはゼロ、15社は大化けするとしてリターンは平均で15倍、その他の54社は平均で2倍と仮定する。これがVC業界での過去の大まかな平均的なリターン倍率である。この想定に基づくと、回収金額は、投資額の3.78倍の37.8兆円、7 年間のIRRは20.9%となる。これは、JVCA発表のファンドのIRRの範囲の真ん中あたりとなる。

一方、東京証券取引所に上場している株式銘柄の2019年9月までの5年間の平均の年間収益率は、東証発表の資料を見ると、TOPIX全銘柄で3.66%(標準偏差は4.48%)、小型株で4.73%(同4.35%)となっている。小型株の年間収益率の上限は13.43%(2標準偏差、つまり全体の95%が含まれる上限の収益率)と計算できる。この意味は、小型株に投資すると平均的に4.73%の年間収益率が得られるが、うまくいった場合は13.43%以上の年間収益率が得られることもある。但し、その実現可能性は5%以下ということになる。

この東証上場の小型株の年間平均収益率と比べるとSVF1やその他のVCファンドの収益率はかなり良いように見える。東証上場の小型株とVCファンドをその収益率の平均値で比べてみよう。VCファンドの平均収益率23.0%は、東証上場小型株の平均収益率4.73%の4.86倍となっている。

ベンチャーキャピタル投資の目利き力とは?

ところで、株式の期待収益率はCAPM(資本資産評価モデル)によれば、「国債の利回り+事業リスクに対する追加利回り(これをリスクプレミアムと呼ぶ)」によって決定される。株式の事業リスクが高いほど、その期待収益率も高くなる。この「事業リスク」は、事業構造に端を発するリスクの大きさで、理論的には①売上高の変動幅の大きさ、②固定費比率の大きさ、によって決まる。東証に上場する小型株の場合、事業リスクの大きさに見合った収益率は4.73%である。

VC投資が、通常の株式投資に比べより大きな収益率が得られる理由は、この「事業リスク」の他に、将来どうなるかわからないという「不確実性リスク」をとるからである。スタートアップ企業に投資した場合、事業形態が変化しない限りはその「事業リスク」は変わらず、これに対する収益率は変化しない。しかし、スタートアップ企業は極めて脆弱であり、ちょっとした内的そして外的要因によって、いつ倒産するかわからないという「不確実性」を内包している。この「不確実性リスク」をとることへの追加リターンが「不確実性プレミアム」である。上記の例であれば、事業リスクに基づく収益率部分が4.73%、そして不確実性プレミアムが18.27%(23.0%-4.73%)となる。

有望と思われるスタートアップ企業を発掘するとともに、不確実性を如何にうまく管理し、投資先企業が倒産せずに、更には大化けするようにマネージしていく、これが個々のVCの手腕であり、目利き力といわれるものである。目利き力が高く、上手にスタートアップ企業を育てていければ、より大きな「不確実性プレミアム」を享受できることになる。

ソフトバンクGの投資先で最も成功したのが、ヤフー、ソフトバンク(旧ボーダフォン・ジャパン)そしてアリババであるが、上場していたボーダフォン・ジャパンを除き、ヤフーやアリババはその設立間もない時期に、孫社長が創業者に会いほぼ一瞬で投資を決めたと言われている。まさに孫社長の目利き力の賜物と言えよう。

しかしながら、Uberやウィーワークを始めとしてSVF1の投資先はスタートアップといっても、すでに事業規模が大きくなっている企業であり、1件当たりの投資金額も莫大である(ちなみに、Uberへの累積投資額は8000億円以上)。SVF1が上場小型株を大きく上回る収益率を生み出すのかどうか、これからの孫社長のかじ取りが注目される。

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