新型コロナの世界的流行による直接間接の影響に関心が集まりがちですが、改めて思い起こせば、
本書は、日本発ユニコーンの先駆者的存在であるPreferred Networks社(PFN)の創業者、西川徹氏、岡野原大輔氏両名が同社の創業から現在、そして将来の展望を初めて書籍の形にまとめたものです。発売は今年の3月中旬、コロナ禍の前に執筆が進められたと思われますが、コロナの痛手から立ち上がり新たな発展を目指す勇気が湧いてくる、そんな一冊になっています。
本書の前半は、検索エンジンの技術を元に創業した同社が、レコメンドエンジン、機械学習、IoTと機械学習の組み合わせ、そしてロボットへの応用と、事業のフォーカスを移しながら成長していく様子が語られています。学生時代にプログラミング・コンテストを通じて知り合った著者らが、「本当にノリだけ」でスタートしつつも、徐々に実績を残し成長していきます。そして、大量データ処理能力の向上や深層学習、IoTの登場といった近年の技術の飛躍的進歩によって、それまで困難と思われていた課題、あるいはそもそも課題という認識さえされていなかったことに突如として道筋が見えてくる。そうした最先端の変化を敏感に好機と捉え、ファナックやトヨタといった大企業との協業を実現させてスケールアップを果たしていく。スピード感あふれる展開に思わず興奮させられるでしょう。
中盤以降では、大胆な進化を可能とするPFNの価値観や組織開発のポリシーが語られていきます。中心となるのは、その一部が本書のタイトルにもなっている同社の行動規範4項目です。
・Motivation-Driven(熱意を元に)
・Learn or Die(死ぬ気で学べ)
・Proud, but Humble(誇りを持って、しかし謙虚に)
・Boldly do what no one has done before(誰もしたことがないことを大胆に為せ)
4つそれぞれの詳しい解説はぜひ本書をお読みいただければと思いますが、これからの時代にあって人を惹きつけ力を結集してイノベーションを起こしていく組織の行動規範として、どれも非常に説得力があり、
個人的に特に共感したのは、4つめの「誰もしたことがないことを大胆に為せ」。単に「誰もしたことがないこと」というだけでなく、やってインパクトの大きいこと、「少しの改善でなく、世の中をガラリと変えてしまうようなものをやる」という趣旨です。Googleなどにも通じる志の高さは、これぞベンチャー精神というべきものでしょう。
このほかにも、各分野のエキスパートを結集し、互いに尊重しながら能力を交換し、チームとして新たなチャレンジを促すための環境づくりが書かれた第6章、現在PFNが重点を置いているパーソナルロボットをはじめ著者らが描く未来予想図について語っている第8章など、読みどころは満載です。
このGLOBIS知見録を訪れている皆さんは、「創造と変革の志」をお持ちのビジネスパーソンがほとんどと思います。本書で描かれている技術の急激な進化という時代の風、PFNの行動規範、エキスパートを尊重する組織づくりをお読みになれば、大きな共感の渦が巻き起こるものと信じます。そこから化学反応によって日本に創造と変革の爆発が起こる、そんな近未来を期待してやみません。
『Learn or Die 死ぬ気で学べ プリファードネットワークスの挑戦』
著者:西川徹、岡野原大輔 発行日:2020/3/18 価格:1650円 発行元:KADOKAWA