「三密」はどのように割り出した?――ロジカルシンキングの基礎となる「演繹・帰納」

ロジカルシンキングの土台となる演繹的思考・帰納的思考

withコロナの時代、ビジネスパーソン個人に必要となる能力として「情報処理能力」などが、またリーダーに問われる力として「俯瞰的・客観的な状況認知力」が挙げられています。

こうした力の基盤にあるのがロジカルシンキングやクリティカルシンキングです。コロナショックの前から既に、ビジネスパーソンに欠かせない能力として広く認識されていましたが、世界的な危機にあって既存の常識や前提が成り立たなくなる場面が多発するなか、基本に立ち返るという意味でも重要性がより一層増しているということでしょう。

そんなロジカルシンキングの中でも、さらに土台と言えるのが「演繹的思考・帰納的思考」です。演繹的思考は、目の前の事象に一般論やルールを当てはめて、結論を導き出す思考法。これに対して帰納的思考は、複数の事象を観察して共通項を見出し、結論を導き出します。どちらも基本となる思考法ではありますが、上述の「危機にあって既存の常識や前提が通用しない時代」を考えると、目の前の事象を観察して新たなルールや一般論を導き出す「帰納的思考」こそ、これからのビジネスリーダーにとって重要であると言えます。

コロナ対策「三密」に見られた帰納的思考

さて、昨今の新型コロナ対策の中にも、帰納的思考の例を見ることができます。クラスターが発生する条件であり、「避けるべき」と喧伝されてきたいわゆる「三密」。これも、観察された複数の事象から、その共通点を見出すことで割り出されたのです*

*感染症に関する諸知見も前提として用いられており、帰納的思考「だけ」で導かれたとは言えませんが、大筋のところは帰納的なのでここでは捨象して考えます

3月初旬に発表された専門家会議の見解では、以下のような記述があります。

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一定条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が報告されています。 具体的には、ライブハウス、スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テント等です。このことから、屋内の閉鎖的な空間で、人と人とが至近距離で、一定時間以上交わることによって、患者集団(クラスター)が発生する可能性が示唆されます。

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新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解(クラスター対策)(3月2日)

ここに登場する、

・ライブハウスでは、一人が複数人に感染させるクラスターの事例があった
・スポーツジムでは、一人が複数人に感染させるクラスターの事例があった
・屋形船では、一人が複数人に感染させるクラスターの事例があった
・ビュッフェスタイルの会食では、一人が複数人に感染させるクラスターの事例があった
……

という複数の事例から、その共通項は何かと考え、

  • 換気の悪い密閉空間
  • 多数が集まる密集場所
  • 間近で会話や発生をする密接場面

という「三密」が導かれました。

帰納的思考をビジネスシーンで活かしていく際のポイントは、単なる「共通項」に留まらず、できるだけ具体的で「解像度の高い」結論を導くことです。その方が、現実に打てる対策の効果/効率が高まるからです。三密の場合は、ライブハウスや屋形船などの共通項を単に「人が集まる場所」としただけでは、漠然としすぎで対策も発散してしまったでしょう。これに留まらず、「換気の悪い密閉」「間近で会話や発声」まで細かく具体的に絞り込んだ点に価値がありました。

解像度の高い結論を出すコツ

解像度の高い結論を出すためのコツとしては、いったん大ぐくりの共通項を考えた次に「これに反する事例はないか」をチェックし、観察例と反証例との差に着目することです。今回の例では、いったん「人が集まる場所」という共通項を見出したとして、次に「では人が集まる場所なのに、クラスターの発生例になっていない場所は何か」を考えます。ある感染者の行動履歴を追跡したところ、たとえば通勤の交通機関や職場のオフィス等では複数感染が観測されなかったのでしょう。すると、「ライブハウスや屋形船と、オフィス等との差は何か」という問いが生まれ、「空調の有無ではないか」「会話の有無ではないか」というように、新たな条件に関する仮説が導かれてきます。

このように「観測された事象の共通項は何か」「その共通項を少しでも具体的に絞り込めないか」「反証例は無いか。観測事象と反証例の差異は何か」と検討の積み重ねを経ることで、解像度の高い結論が生まれてきます。身の周りのビジネス事象を見る際にも是非活用してみましょう。
 

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