コロナ禍終焉のため、プライバシーよりAIを優先すべきか?

我々はグローバル経済のなかで、膨大な量のトラッキング可能な情報をやりとりしています。これはCOVID-19の出現前からそうでした。そのうえ今では、我々が生み出しシェアしている情報が感染源の追跡に利用できることも既に明らかになっています。フレッド・ハッチソン・癌研究センターは、シアトル在住の10代から採取したウイルスと、6週間前に中国から帰国した女性のウイルスが同系統であることを突き止めました。

こういったことは可能なのです。

しかし、プライバシーを守ろうとする国々でこういったことができるでしょうか?

コロナ禍の影では、プライバシーの問題は、もはや利便性と匿名性のどちらをとるかということではなくなりました。購買意欲を掻き立てるターゲット広告を見なくていいか、誰のコンサートに来ているかSNSで友達に見えてもいいかといったことが問題ではもはやありません。今、グローバル社会が直面しているのは、個人としてのプライバシーを守るために、どれだけの代償を払う気があるのかという問題です。

コロナ禍によって引き起こされる経済面と人口動態面での変化を、テクノロジーによって補うには、文化の根本的な変化が必要となるでしょう。

共有するか、しないか。それが問題だ。

この問題を考察するために、プライバシーの領域において対極にある2つの国を考えてみましょう。中国とドイツです。

中国では、誰もがみなトラッキングされています。健康食品を買うとポイントがもらえ、政府認定のメディアをフォローしないとポイントを失います。

一方のドイツでは、Googleマップに掲載される自宅の画像をぼかしたいという大量のリクエストが送られています。その結果、Googleストリートビューは他国よりもはるかに限定的なものになっています。プライバシー保護が切望されているのです。

中国では、コロナ禍の前では、プライバシー対策を踏みにじっていると多くの批判を浴びました。けれども批判した人たちは今、どこにいるのでしょう?

ビョンチョル・ハンは、スペインの「El País」紙に次のように書いています。北京の地下鉄を降りる人は、中国のAI大手であるMEGVIIの製造したデバイスで検温され、コロナウイルス感染の疑いがあるとわかれば、地下鉄の同じ車両に乗り合わせていた人々全員に知らされます。一度の読み取りで、潜在的なクラスターを特定し、そして無力化することさえできるのです。

これはプライバシーとのトレードオフです。

中国以外では、プライバシー保護のために、莫大なデータが利用不可の状態に置かれています。スマートフォンのGPSとAIを組み合わせれば、こうした現状に対抗する強力な手段になるかもしれません。3月21日、バルセロナの「La Vanguardia」紙は、このコロナ禍の緊急事態に薬物がらみの、いうなれば「大人のパーティ」をしていたとして8人を逮捕したと報じました。

GPSを簡単に利用できるようになれば、大勢が集まること(犯罪とは関係のない集まりも含めて)を回避するための解決策となるでしょう。

AIはデータを必要としていますが、ケースバイケースであってもプライバシーを放棄することをためらい拒絶すれば、データの流れは限られたものになってしまいます。その結果、WHOとWhatappが考えたチャットポットのようなシンプルなテクノロジーに頼るしかなくなります――「Hi」と+41798931891に送るとWHOから最新のCOVID-19関連のテキスト情報を受け取ることができるというように。

機械を信じることができるのか?

AIを選ぶということは、プライバシーか、信用かの選択でもあります。信用する対象は、機械と機械の背後にいる人間なのですが、どちらも100%信用できる対象とは言えません。

YouTubeは、3月16日の同社ブログで「通常ならレビュアーが行う作業の一部を一時的にテクノロジーが行います。人間によるレビューを経ずに、AIが自動的にコンテンツを削除します。そうなれば、(新型コロナ対策による)職場の保護を実施しながら、暴力的なコンテンツをスピーディに削除し、YouTube内の健全なエコシステムを守ることができます」と書いています。

この決定は、精度よりも結果を優先させ、機械学習を支持する大胆なものです。ですが、うまくいくでしょうか。

Jaron LanierとGlen Weylは、WIREDに「AIはイデオロギーであり、テクノロジーではない」という記事を寄稿しました。AIがテクノロジーからイデオロギーに変貌を遂げるなかでAIに関する混乱が高まっているという、非常に的確な指摘をしています。長期的に見て、中国のようなトップダウンのテクノクラシー(技術家主義社会)に対して、他国の企業が勝てるのでしょうか。プライバシーはいつまで、議論の俎上にあがるのでしょうか。

さらにいえば、COVID-19を予測できたアルゴリズムはありませんでした。2019年末までは、プライバシー問題は、今ほど深刻ではありませんでした。けれども人命がかかっている今、パンデミックに対してAIにできることをすべてやらせるべきではないでしょうか。

そして、AIが学習曲線を描くことを許すべきです。コロナ禍における予期せぬそしてポジティブな副産物の1つは、AIの不正確さに寛容になることかもしれません。

けれども、今回のコロナ禍というブラックスワン(予期せぬことが起き、衝撃を与えること)の真の影響は、共通の敵であるCOVID-19に対抗するために人類がプライバシーよりもテクノロジーを優先するように協力するかもしれないことです。ビッグ・データとAIの利用が新たな常識になることは、文化的に非常に大きな変化の入り口となるのは確実でしょう。

この変化は、さらなる社会的成果をもたらす可能性すらあります。数週間、数カ月の隔離生活の後、人々が対面での接触や、仕事に行き、屋外で過ごすことに以前よりも価値を感じるようになるかもしれないということです。

私たちの未来に立ちふさがる問題は唯一、このパンデミックを完全に終わりにするために、データを進んで共有する意欲があるかどうかだけです。

*本記事は、GLOBIS Insightsに掲載したものを、GLOBIS知見録編集部にて翻訳転載したものです。

*英語版の「学び放題」である「GLOBIS Unlimited」はコロナ禍でも学びを止めたいめに無償提供を行っています。詳細はこちらをご覧ください。

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