『1兆ドルコーチ』――シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え

「人に愛を注ぎ込む」ビル・キャンベルの信頼関係の築き方

ビル・キャンベル――スティーブ・ジョブスはじめ、数々のシリコンバレーの経営者をコーチしてきた「1兆ドルコーチ」とは彼のこと。優れた経営者であり、史上最高のエグゼクティブコーチであるビルは、どのような人物であったのか、何を重視していたのか、知りたくない人はいないのではないだろうか。

本書は、ビルに深い影響を受けた80人以上のインタビューを元に編集されている。そのため、とても具体的にビルが「何をどうやってコーチしたのか」の描写がされている。

まず、私が受け取ったビルの人物像は、明るく、人情味に溢れ、感情の機微に敏感で、かつダイレクト、誠実に信頼関係を構築するプロ。

ビルは、必ず意味ある雑談から1on1を始め、人を深く知ろうとし、信頼を築くことから取り組んだという。「ビルが与えてくれたのはアドバイスや気づきだけではない。一緒にいると、目を閉じていても存在が感じられ、耳で聞くよりも強く肌で感じられた」とのコメントにも代表されるように、ビルは人に愛を注ぎ込んだ。そしてその対象は、個人に留まらなかった。ビルは職場に信頼を超える「愛」を持ち込んでいる。仕事であろうと全人格をかけて行うのだ。

元々アメリカンフットボールのコーチからビジネス界に転身したのは39歳。Appleに入社後は9ヶ月でセールスマーケティング担当副社長に昇格し、あのマッキントッシュ発売を任された。インテュイットをCEOとして成功に導いた。ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、エリック・シュミットがスタートアップだったGoogleを時価総額数千億ドル企業にするのを助けた。その他、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾスなど多くの名だたる起業家をほぼ無報酬で支え、75歳でがんに倒れるまで、彼がシリコンバレーに与えた影響ははかりしれない。

本記事では、ビルが組織やチームについて、どのような考え方を持っていたかがわかるエピソードを一部紹介したい。

「会社の存在意義はプロダクトのビジョンに命を吹き込むこと」

本書では「人がすべて」との表現が何度も出てくる。ビルは全人格をかけて仕事をするとき、最高の仕事ができると言っており、それを体現しているエピソードが多く見られた。しかし、さらに上位概念にプロダクト中心が語られている。会社の存在すら、プロダクトビジョン実現のための器であるとも読み取れる。

本書全体を通じて、ビルが、もしくはトップテック企業がここまでプロダクト中心を徹底するものなのか、と正直驚いた。これの意味するところは、技術力が高い企業が、しばしば「プロダクトばかりみて、顧客をみていない」と揶揄されるのとは、全く違う次元の話である。

ビルがどうやってコーチしたのか、何を重視してコーチしたのか、を追いかけていくと、会社も人もチームも組織文化も、すべてがプロダクトビジョンを中心に存在していて、その密結合とも言える世界観に圧倒された。

皆さんなら、どのような感覚をもたれるだろうか?ぜひ本書を読んでの意見を聞いてみたい。

「コンセンサスを目指すと意思決定の質が低下するので、最適解を得ることを重視」

次に刺激的だった言葉は、民主主義は好きではない、経営トップが全ての決定を下すのも望ましくないとのくだりである。日本における意思決定方法はコンセンサスベース、ないしは、オーナー企業などのトップダウンが大勢を占めている。ビルは、それでは最適解を得られないと言う。

最適解を得るには、個人よりもチーム最優先で、全ての意見やアイデアを俎上にのせ、グループ全体で話し合うことが一番とのこと。民主主義の形を取らず、トップダウンにもよりすぎず、チームを最優先させる、これは極めて絶妙なバランスを必要とする難しい組織状態が必要である。

そのような状態をどうやって創り上げたのか、エグゼクティブのエゴや野心をも乗り越えて、チームをまとめたビルの素晴らしさが本書を読み進めると感じ取れるだろう。

ビルが言う成功のカギは――オペレーショナル・エクセレンス、ピープル・ファースト、決断力、優れたコミュニケーション、最も厄介な人材から最大限の力を引き出す、優れたプロダクトへのこだわり、解雇する人を手厚く扱う原則、とまとめられている。

また、ビルが求めたコーチ可能な資質とは、正直さ、謙虚さ、諦めず努力を厭わない姿勢、常に学ぼうとする意欲の4つだという。

これらをどう読み解くか、コーチを目指さずとも、ビルという人を感じ、自分のマネジメントスタイルや生き方に何かヒントをつかみたいと思う方には、ぜひ本書をお勧めしたい。

1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え
著:
エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル 翻訳:櫻井 祐子 発売日:2019/11/14 価格:1,870円 発行元:ダイヤモンド社

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