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「挑戦」と言っている時点ですでにぬるい!リーダーは哲学を持って、思いついたらすぐに行動せよ〜メルカリ小泉氏×禅僧 松山氏×グロービス村尾

投稿日:2020/01/14更新日:2023/07/19

本記事は、あすか会議2019「リーダーに必要な哲学と大胆さ」の内容を書き起こしたものです(後編) 松山大耕氏(以下、敬称略):私は去年からスタンフォード大の講師もさせていただいているんですが、シリコンバレーでは皆めちゃくちゃ儲けていたりするわけですよね。ただ、スタンフォードで座禅や瞑想の授業をすると満員になるし、皆、めちゃくちゃ病んでいる。で、たとえば「創業は易し、守成は難し」という中国の故事がありますよね。ゼロからつくるのが難しいのか、つくりあげたものを維持するのが難しいのか。小泉さんはベンチャーでぐわっと進んでこられましたが、メルカリは今まさに転換期だと思うんです。では、ここからどう維持するか。今までのような勢いで発展するのはなかなか難しいでしょうし、シリコンバレーで皆が悩んでいるのも、まさにそこら辺なんですね。その辺について、「今後はこうしたい」ですとか、何か考えていらっしゃることはありますか?

自分ではない、法人としての「人格」を作っていきたい

小泉文明氏(以下、敬称略):ちょうど昨日、メルカリのアプリローンチ6周年記念パーティーをやったんですが、実はそこで、去年まではなかった感情が芽生えました。というのも、その集まりは、僕が直接話したことのない社員が半分以上いるという初めての集まりだったんです。それで、なんというか、自分の会社ではないような感覚にさえ襲われた感じで。社員は今東京だけで1000人ぐらい、グローバルで1800人ほどいますが、去年1年で1000人増えているんです。だから、去年までは「名前は分からなくても顔はほとんど知っている」といった感じでなんとなく分かっていたんですが、今年はそれも分からない。実際にそういう感じだったんです。 ただ、一方でそれは会社が成長する過程において正しいアプローチというか、正しいプロセスでもあると思うんですよね。だから、大耕さんが言う「維持することの難しさ」について考えるうえでも、自分と会社が絡みまくって一体化していた今までの状態を、意識して切り離していく必要があるのかな、と。会社、つまり法人には法人格という人格があると僕は思っているので、法人としての、自分ではない人格をしっかりつくっていかなきゃいけないということを、そのとき改めて思ったということはあります。 あと、シリコンバレーで皆が苦しんでいるのは、日本ほど他事業をあまりやっていないというのもあるんだと思います。なので、それを意識しているからというわけでもないんですが、僕らとしては「新しい事業も結構やっていこう」と。今回のモバイルペイメントもそうです。でも、アメリカのスタートアップは「ここだ」と決めたらそこへ向けて突っ走るから、どこかで疲弊したり、M&Aで売ったり、社員が離反したりするということがあると思うんですね。その点、僕らはいろいろな事業を立ちあげつつ、ゼロイチと同時に、「1を100にする」「100を1000にする」ということの両方を追うことができる組織に今はしているというのがあります。

「不利益を被るような人たち」にもきちんと目配せをすることが大事

松山:京都というのは「老舗の街」という顔もあって、全企業のうち4%ぐらいが200年以上続いているんですよね。で、それについて先日ちょっと面白い話を伺いました。「長く続けるためには無駄が大事である」と。無駄遣いということではなくて、業務としては一見無駄かもしれないけれども、そういうことをきちんと持っておくことが大事というお話でした。メルカリさんは一気に大きくなって、今は社会からの目が完全に変わってきていると思うんですね。いちベンチャー企業の頃とは違って。で、そういう状態になると、どれだけ社会に貢献しているつもりでも、どれだけ良いことをしていても、仏教でいうところの「業(ごう)」というものが生まれる。知らず知らずのうちに人を傷つけていたり、殺めてしまったり。だから、そういうところに目を向けることがすごく重要になってくるんじゃないかなと思うんです。 たとえばトヨタさんは今から50年ほど前、お寺を建てているんですよね。交通事故で亡くなられた方々のために、あるいは負傷された方々が早く治るように、と。車は今、社会になくてはならないものじゃないですか。すごく重要です。でも、それによって負の側面も絶対に出てくる。そういうところまできちんとカバーをしていく。社会に対してはもちろん、自分たちの社員に対しても。大きな会社というのは、そういうところまで求められてくるんじゃないかなと思います。ですから、逆の立場、つまりメルカリが大きくなることによって不利益を被るような人たちにもきちんと目配せをするというのは、これから会社を長く維持していくためにすごく大事になるんじゃないかなと思っています。 小泉:本当にそう思います。先日、経営陣でテクノロジーの未来について議論したんですが、そのとき議論になったのは「テクノロジーが発展した先で人は本当に幸せになるのか」という話でした。たとえばAIやロボティクスが進化して僕らが今ほど働かなくてもいい世の中になったとき、「休みが多いことで本当に幸せになるのか」とか。しかも今後は寿命のほうがどんどん伸びていくわけですよね。そこで僕が思ったのは、たとえば自殺が増えていくということ。じゃあ、そういう世界になったとき、人々の生活における精神的な豊かさを僕らはどう提供していくのか。そう考えると、芸術、文化、スポーツ、エンターテイメントみたいなものを、僕らもある程度意識をしなければいけないのかな、と。「テクノロジーが進歩すればすべてハッピー」みたいなことはないんじゃないかと考えているので。それで僕らも去年から森美術館やJリーグチームのスポンサーになったりしつつ、社会のなかで中長期的にコミットする側面として、文化的な活動も今少しずつはじめているということがあります。 村尾佳子氏(以下、敬称略):禅にも時代に応じて変化してきたものはあると思うんですが、そうした変化について松山さんはどのようなことを意識していらっしゃいますか?

「信じること」と「疑うことは」はコインの表裏のようなもの

松山:「諸行無常」「諸法無我」ということで、仏教は宗旨自体が常に変わるというものになります。で、そうした仏教の教えのなかで私が最も素晴らしいと思うことの1つに、ブッダ自身が原理主義を否定している点があるんですね。筏(いかだ)の話というのがあります。ある人が川の中洲に取り残されていました。ゲリラ豪雨で川の水かさが急に増してしまっていて、このままでは死んでしまいます。でも、そのときたまたま中洲に丸太が流れ着いたので、丸太で筏を組んで、命からがら対岸に逃げることができた。で、その人は「この筏のおかげで自分の命は助かった。この筏は命の恩人だ」ということで、その後、どこへ行くにもその筏を運んでいくようになったという話を、お釈迦様が弟子になさったんですね。そのうえで、お釈迦様は弟子たちに「この人は正しいことをしていると思うか?」と聞きました。すると「いえ、思いません。筏を持って歩く必要はありません」と弟子たちは答えた。だから、お釈迦様も「そうだろ?筏は必要なときだけ使えばいいんだ」と。「私の教えもそうなんだ」とおっしゃるわけです。「自分の教えは、必要なときは使えばいいけど、必要なくなったら捨てちゃえばいい」と。そんな風に、「これしかないんだ」「これじゃなきゃいけないんだ」ということをお釈迦様自身が否定されたというのはすごいことだと思っています。 私はかつて、「修行で大事なことは3つある」と、師匠によく言われていました。1つは「大信根(だいしんこん)」。徹底的に信じるということですね。2つ目が「大疑団(だいぎだん)」。徹底的に疑うということ。そして3つ目が「大憤志(だいふんし)」。死ぬ気でやれということです。この3つ。ですから、信じることと疑うことは相反することのように思うかもしれませんが、おそらくコインの裏表なんですね。 村尾:ビジネスでも、「絶対にこうだ」と思いはじめると視野が狭くなるので、反対側から見ることもすごく大事になるといった話はよく聞きます。小泉さんは今、企業が新しいステージに入ってきたなか、変化を起こしていくために何か意識しているようなことはありますか? 小泉:テクノロジーの進化によって世の中が大変なスピードで変わっていくというとき、特に僕らはその良い面だけを信じがちですが、逆もまた然りということは考えなければいけないと思っています。僕はのちほどモバイルペイメントのセッションにも登壇しますが、「モバイルペイメントが発展すれば生活はすごく豊かになる」と言われる一方で、やはりセキュリティや個人情報の問題があるわけですよね。あるいは、「そもそもスマホを持っていない人は蚊帳の外」という話もあるし、とにかくいろいろと別の見方もあります。また、たとえばアメリカではどうかというと、日本ほど「一般的な生活」というものがあちらにはありません。人種や収入等が違うと生活もぜんぜん違ってくるので。だから、マスで大衆を捉えることがすごく難しい。そういうこともあるので、とにかくいろいろな角度から物事を見ていかないと社会に馴染んでいけないということを今は強く感じています。 なので、最近思うんですが、アメリカをはじめグローバルマーケットを意識すればするほど、自分の考えを「どう捨てるのか」ということを意識していかないと、いつか大きなミスをするんじゃないかな、と。今はそういうことをすごく恐れています。ただ、ここがすごく難しいところなんですが、トップとしてメッセージを出すときにそういうことを意識し過ぎてもいけないというか。なるべく全員に、なんとなく伝わるように話そうと思いつつ、「この人たちにはこの言葉や表現はダメかな」なんて意識したりすると、もう伝えたいことがまったく伝わらなくなってしまう。それで最近は自分がつまらない人間になってきている感じがして(笑)。その辺のバランスがすごく難しくて、個人的には大きな課題だと思っています。 村尾:哲学の話となると、自分の経験も踏まえて「絶対こうだ」という風に考えがちですが、それに囚われないようにする必要もあるということで、そのバランスがすごく難しいように感じます。その辺をうまくコントロールするヒントがあれば松山さんに伺いたいと思います。 松山:私が気を付けているのは先ほど申し上げた原体験の部分ですね。「これをやることで、皆さんに対して本当に安心を与えることができるか」と、常に考えています。先日、こういうことがありました。ある檀家さんで亡くなられた方がいて、「お葬式をしてください」と言ってこられたんですが、「和尚さんたちはお忙しいと思いますし、お弟子さんでもどなたでもいいから来てください」とおっしゃる。でも、それまでは「檀家さんには私か住職が行かなければいけない。それを期待してくださっているわけで、そうしないと失礼になる」という風に考えていたんですね。だから、「どなたでも」というのは、「これは気を使って下さっているのか、本気なのか」と考えたわけです(会場笑)。で、おそらくですよ、「これ、本気やな」と思いました。私たちにそこを求めていないということだと思うんです。 たとえば、私がこの数カ月間で何を頼まれてきたか思い返してみると、「がんになりました。セカンドオピニオンは誰に聞いたらいいですか?」というオピニオンを求められたり、「表千家のお茶をやりたい。いい先生を紹介してください」とか、すごいのは「某大企業の人事に納得がいかないから、なんかプレッシャーをかけてください」とか(会場笑)。「なんじゃそれ!?」って思うわけです。でも、これはつまり、それまでは死んでからのことを期待されていたのが、今は「生きている今の悩みをどうにかして欲しい」という風に、お坊さんに求めるものが変わってきたという話だと思うんですよね。だから私が今考えているのは「脱檀家依存」。「脱檀家」ではなくて「脱檀家依存」です。今生きているあいだにどうお役に立てていただくか。生きているあいだの悩みについて、私たちがお手伝いするということをやらなければいけないなと思っています。先ほど申し上げた「安心」というのは、今はそういうところにあるんだろうなと感じますね。 村尾:ありがとうございます。では会場とのQ&Aに移る前に小泉さんへもう1つ。ご自身の経営哲学というものが、どんな風に形づくられてきたのかも伺いたいと思っています。

会社の「ミッション」と「バリュー」に則してすべてを判断する

小泉:先ほどの続きになるかもしれませんが、僕自身が経営者として何を大事にしているかというと、やっぱり会社のミッションとバリューに則ってすべてを判断するということになります。僕としてはミクシィの経営で大きな反省がありました。コンシューマー向けサービスというのは、経営者がミッションやバリューを特に意識しなくても、サービスが伸びていれば会社のなかはどんどん高揚していくし、サービスの成長が求心力になっていくんですね。そして、経営者がいなくても回っていくので、当時は僕自身もミッションやバリューの必要性をあまり感じておらず、社内でそういう話をあまりしていませんでした。でも、そういう状態でサービスがひとたび落ちていくと、一気に組織崩壊が起きる。だから、メルカリをつくるときは改めて「この会社ではミッションとバリューを極めて大事にしていこう」と考えました。事業がどんな風に変わっても、です。むしろ事業のやり方はどちらかというとHowの話であって、「そこはどう変えてもいいかな」って。それよりもミッションやバリューは何かということを社内で徹底的に言い続けようと思いましたし、何かメッセージを出すにあたっては、迷ったりしたときを含めて今でも常にそこへ立ち返るようにしています。だから「あの人はミッションとバリューの話ばかりしている」と思われますが、むしろ、それしか言わないということでもいいんじゃないかなとさえ、最近は思っています。 村尾:それは現在のステージに入ってきたことで一層強く感じているということですか? 小泉:そうですね。メンバーの構成がグローバルになっていくなかでどんな風にメッセージを出していくべきかと考えても、やっぱり同じメッセージをひたすら言い続けることが極めて大事なんじゃないかなと、最近は思っています。 村尾:ありがとうございます。では会場の皆さまに質問をいただきたいと思います。

Q1、松山さんの原動力とは?また、異質な分野に踏み出すことで松山さんの考え方や哲学に影響を及ぼすことが何かあるか?

松山:まず、いろいろな活動の原動力というのは、完全に「頼まれ仕事」の連続ということですね。「自分のことは自分がよく知っている」とおっしゃるかたがいますが、あれ、たぶん嘘やなと思っています。周囲のほうが自分のことをよく分かってくれている。実際、私にも自分では想像していなかったような無茶なオーダーがたくさん来ますけれども、「あいつならできるんじゃないか」「あいつはこれやりよるな」ということを見抜いてオーダーして下さっているわけですね。だから、私は頼まれ仕事について「やったことがないからやらない」「「無理そうだからやらない」という答えかたは絶対しないようにしています。バラエティ番組に出るというような「やらなくてもいいこと」はしませんが、自分の能力を疑って断るということはしません。万一、それで私がミスをしても「頼んだやつが悪い」と思って請けています(会場笑)。 それと宗教家としてのあり方について。どんな宗教でも、宗教家にとって最も難しいのは今のような時間なんですね。仏教では「待機説法」と言います。どんな質問が飛んでくるか分からない状態で、あらゆる質問にスパッと答えるということ。そういうライブ感があるようなところに、皆さんが本当に悩んでいることや疑問に思っていることが潜んでいるんですね。お寺のなかで待っていても、いらっしゃるのは「お寺が好き」とか「仏教に興味がある」という人です。でも、今の世の中はほとんどの方が無宗教で、宗教に興味のない方がたくさんいらっしゃいます。そういう方々に宗教の良い教えを提供しなければいけないと思っているので。ですから私自身がいろいろな場所に出ていって話を聞くことが宗教家として最も大事だし、そこに私たちがやるべきことのヒントも隠されていると思っています。

Q2、死に近い体験をして死生観が芽生えるようになった人だと「1日の密度」がすごく濃くなると思うが、そうした体験のない人はどうやって「1日の密度」を高めていけばよいのか?

松山:1日の濃度というお話ですが、皆さんはだいたい、普段から「ながら」なんですよ。「ながら食べ」とか、「ながら」なんちゃら。そこで1つおすすめがあります。たとえば、うちも修行体験等の形で企業研修をよくやるんですが、そこで一番多い感想は「ご飯がこんなに美味しかったのか」ということなんですね。精進料理ですから高級な食材は一切出していませんが、とにかく居住まい直って静かなところでご飯にだけ集中する。すると、ご飯の香りや味噌汁の風味がすごく美味しく感じられるんですね。なので、すべての食事でそうしろとは言いませんし、1カ月や1週間に1回でもいいんですが、食べることだけに集中する瞬間を持つこと。「ながら」なんちゃらを止めてみるというのを生活のどこかに取り入れていただくと、本当にその行為の良さというのも分かってくるんじゃないかなと思っています。

Q3、自分の中の「軸」や「哲学」をどう定めていけばよいのか?

松山:哲学についてですが、やっぱり現代の私たちは多様な価値観がある世の中に生きていますから、大事なのは自分なんですね。それで私は最近「自由」という言葉をよく使っています。これは明治時代の大いなる誤訳で、本来はFreedomでもLibertyでもないんですね。まさに字のごとく「自らに由る」。たとえば、うちの退蔵院は4.5、東京ディズニーランドが4.4、ユニバーサルスタジオジャパンが4.1。これ、何か分かりますか?トリップアドバイザーの評価です。「嘘をつけ」と思うわけです(会場笑)。自分が面白いから面白いんですね。トリップアドバイザーの点数が高いから面白いんじゃないんです。食べログの点数が高いから美味しいんじゃないんです。自分がうまいと思うから美味しい。ですから、自分自身で「本当にこれがいい」とか「本当にこれが最高だ」とか、そういう風に心の底から色眼鏡なしに思えるかどうか。そのセンスを磨くことが哲学につながると、私は思っています。 小泉:大耕さんのお話が良過ぎて「このあとで何を話せば」という感じですけれども(会場笑)、後半お二人にいただいたご質問はちょっと近いのでまとめてお答えします。先ほどお話しした死生観というのも大事だとは思うんですが、一方では「楽しいことだけをしたい」という気持ちもあるんですよね。ですから、自分の考えのベースも「自分の楽しさをどこに見出すか」ということになるのかな、と。そのうえで大事にしているのは、僕は「自分を信じること」だと思っています。なにかこう、歳をとればとるほど人は自分を信じられなくなったり、すぐ言い訳を考えてしまうような精神構造になりがちだと思うんですが、僕はもう徹底的に自分の可能性を信じて、楽しいと思っているほうに行こうと考えていて。そういうことでも別にいいんじゃないかなと思っていますね。 村尾:「自分の可能性を信じる」ということでグロービスのキーワードが出ました。では続いて質問を受けたいと思います。

Q4、学生時代に起業で失敗して「人生なんともならない」と思いました。今は大企業に就職をしているのですが、当時の楽しさを忘れられず迷っています。

松山:「なんともならない」というご経験を通して今迷っていらっしゃるというお話ですが、もちろん人生すべて上手くいくわけはありませんし、失敗もあるとは思います。それでも「何を差し置いてもこれをやらんと気が済まん」ですとか、そういう思いがあるのであれば新しく事業を興せばいいと思うんですね。でも、特にそういう熱い思いも使命感もないのであれば別にそのままでもいいんじゃないかなと思います。あと、「正しいこと」に関しては、そこに利己はないのかというのが大事になると思っています。「自分が良ければいい」とか「自分の評価を高めたい」といった気持ちが実はあるのか、それとも本当に人のことを思っているのか。先ほど「仏教は常に変化している」と言いましたが、正しさの評価も時代によって変わるわけです。ですから、今この瞬間にしか通用しないことかもしれない。ただ、時間は今この瞬間の積み重ねですから、その瞬間ごとに「これは自分のためのものなのか、それとも人のことを思っていることなのか」という、そういう動機で判断するしかないんじゃないかと思います。 小泉:まあ、起業はしたいときにすればいいと思うんですよね。たぶん本当に沸々と何かが湧き出てきてくれば、いつか「やろう」と思って爆発するときが来ると思うので、それまで待ってみるというか。それぐらいまで自分を問い詰めてみることが大事じゃないかなと思っています。逆に言うと、「起業しなきゃいけないんですか?チャレンジはしたいんですけど」といった相談を私もよく受けますけれども、私は必ずしも全員が起業しなくてもいいと思っているし、No.2やNo.3のポジションでもチャレンジできることはたくさんあると考えています。むしろ、私が知っている成長中の上場企業ではNo.2やNo.3の方が、ある意味では社長以上に事業に対してコミットしていたり、事業の思いに共感していたりする部分もあるので。

Q5、生きていくうえで「正しいこと」と「楽しいこと」をどのように切り分けているか?

小泉:「正しいこと」と「楽しいこと」については、タイミングでも変わると思います。私は会社のなかでは、先ほどお話しした通りバリューに沿ってすべて意思決定をしていれば、皆も正しいという風に納得してくれるんじゃないかなと考えています。逆に、どれほど良いことでもバリューに沿っていない意思決定を私がしたら、「小泉さん、それは正しくないよ」という風に言われると思いますね。ですから、そうした軸を会社として持ったうえで、それに合わせていろいろと判断していくことが大事になると思っています。

Q6、社員の方々に対する気持ちも含めて、小泉さんの「企業観」とは?

小泉:僕らより上の世代の方々というのは、どちらかというと会社のほうが偉いというか、会社が上にあって社員が下にいるような縦の関係だったと思います。でも、テクノロジーが進化して個人がエンパワーメントされた結果、今は完全に横の関係になったと思うんですね。社員も会社を選ぶ時代になっているし、上から統率することはすごく難しくなっている。そこで僕がいつも考えているのは、働く場所としての誇りをどのように持ってもらうかということ。なので、僕は社員に対して「今の仕事に誇りを持てますか?」ということを最近はかなり聞いています。これからはお給料等ではなびかなくなると思いますし、自分の仕事に誇りを持てるかどうか、もしくは会社を通じて社会に貢献できるかどうかといったことがすごく大事になるんじゃないかなと思っています。 村尾:ありがとうございます。では最後に会場の皆さまへ一言ずつメッセージをいただければと思います。 小泉:こうした学びの場ではいろいろと刺激を受けることができると思いますが、やっぱり行動しないと何も変わらないという風にも感じています。ですから、次のリーダーとしてそれぞれ哲学も持ちながらも、皆さまにはぜひ大胆に行動していただきたいと思っています。どうもありがとうございました。 松山:2年前の2017年でしたか、某商社の社内誌で「2018年の挑戦」といったテーマのインタビューを受けたことがあります。で、そのとき「禅に挑戦という言葉はあるんですか?」と聞かれて「ない」と答えたんですね。挑戦と言っている時点ですでにぬるい、と。「とにかく思ったらすぐにやること。しかも『来年の挑戦』とは何事か」なんて言ってインタビューは終わったんですが(会場笑)、とにかく思ったらすぐやるというのがリーダーだと思いますので、常にそういう意識を持っていただければと思います。ありがとうございました。 村尾:松山さん、小泉さん、本日は本当にありがとうございました。 前編はこちら 執筆:山本 兼司

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