ユニクロやGUを有するファーストリテイリングの柳井正氏は、2019年8月期決算説明会で「サステイナブルであることはすべてに優先する」と発言した。H&MやZARAも環境に配慮した素材を使用することを発表している。それらの背景には何があるのだろうか。
ファッション業界が置かれた現状
アメリカ大手ファストファッションのフォーエバー21が10月末に日本市場から撤退した。H&M やZARAもかつての勢いを感じないが、これはファストファッションに限ったことではない。実は、ファッション業界全体が厳しい状態にあるのだ。
不振の要因の1つとして、バブル以降、景気低迷が続く状態でも成長戦略を続け、供給過多になったことがある。CtoC市場の活性化やリユースやリセール(この服は後に高く売れるかという目線で購入する)を意識するといった消費傾向の変化が追い打ちをかけている。特に、“使い捨てファッション”とも揶揄されるファストファッション企業は、リユースやリセールの対象になりづらいため、完全なる逆風だ。
別の要因に目を向けると、世界的なサステイナブルへの関心の高まりがある。サステイナブルという言葉で思い出すのは、筆者が15年前に勤めていたアパレルなどを扱う米国のスポーツ用品メーカーでの出来事だ。日本の取引先にシーズンのセールスポイントとしてサステイナブルな商品開発を紹介すると、冷ややかな反応をされた。当時、サステイナブルという言葉はメディアで聞く機会は少なく、市場にも浸透しておらず、取引先には、「サステイナブル=売れそうな商品」とは思えなかったのだろう。
それが今では、環境問題に取り組む国際的な会議やSDGsの活動、世界各地での若い世代による環境活動があらゆるメディアで頻繁に取り上げられ、多くの人々(消費者)が環境問題について、触れる機会が増えた。
サステイナブル経営が必要な時代に
2015年のニールセンのデータによると、世界の消費者のうち、66%が「サステナビリティを訴求しているブランドの商品は割高でも問題ない」と回答、さらにミレニアル世代だけに絞ると73%にもなる。昨年1年間(2015年まで)の売上で、持続可能性を訴求するブランドは世界全体で4%以上成長しているのに対し、そうではないブランドは1%未満の成長にとどまっていた。
もはや、環境問題に関心のある一部の人達のムーブメントではなく、多くの消費者が、サステイナブルな活動を行う企業やブランドを支持し、サステイナブルな商品を購入する時代になったと言えるのではないだろうか。
一方で、ファッション業界は、世界のファッション産業で排出される温室効果ガスの問題や染色過程で出る排水による川や海の汚染など環境への影響、製造現場での過酷な労働環境など改善すべき問題をいまだ抱えている。そして多くの企業は、長い間「目先の成長を優先」している。
そんななか、2013年に多くの犠牲者を出したラナ・プラザ事件(バングラデシュで裁縫工場が多数入居するビルが崩落した事件)をきっかけに、国際的にファッション業界の在り方を問う様々な動きが立ち上がった。ファッションレボリューションという団体は、業界を体系的に見直すため、政府や企業に呼びかけ、イベント開催や教育、SNSでの発信活動を行っている。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、ファッション業界での温室効果ガス削減について協議するため国際会議を開催し、グローバルファッションブランドが参加している。
ファストファッションのみならず、高級ブランドのアルマーニ、グッチ、ヴェルサーチ、ショパールなどが次々と、サステイナブルな商品開発を宣言している。つまり、ファッション業界全体が真正面からサステイナブルに取り組むことは、必然と言わざるを得ない。
これまで、「目先の成長を優先」するために、環境問題を先送りしていた企業は、「成長するために、サステイナブルな経営」に真摯に向き合うときが来たのだ。たとえ大手グローバルブランドであってもサステイナブルな活動に取り組んでいなければ、消費者の信頼を得られなくなり、淘汰されてしまうかもしれない。ファッション業界は、不振と言われているが、「サステイナブルな経営」を行うことが生き残る道なのだろう。