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日本をデジタル主導の国へ!ヤフー社長、メルカリ社長、スマートニュース社長、DeNA社長、平議員が徹底議論!日本のIT企業が世界で勝ち抜くためには?

投稿日:2019/04/09更新日:2019/09/21

本記事は、G1サミット2019「データを握り、世界で戦うの内容を書き起こしたものです。

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守安功氏(以下、敬称略):本セッションは「データを握り、世界で戦う」というテーマになります。まずは川邊さんからお願いします。

川邊健太郎氏(以下、敬称略):ヤフー株式会社としては本セッションのタイトルに偽りありで、世界ではまったく戦っていません(会場笑)。Yahoo! JAPANというのは日本にだけライセンスされた会社なので。ただし、世界「とは」死ぬほど戦っています。アマゾン、グーグル、フェイスブック、テンセント等々、世界の名だたるプラットフォーマーたちと戦っていますから、その観点で何かお話しできたらと思います。それと、私自身は去年からソフトバンクの取締役にもなっていまして、こちらでは世界で戦っています。そちらもある種、世界を席巻している勢力ですから、今日はその観点でもお話ができるかなと思います。

守安:現在、ITおよびインターネット業界は世界でなかなか戦えていない状態だと思いますが、それはなぜなのか。インターネット産業にもすでに20~25年の歴史があるわけですけれども、その歴史も俯瞰しつつ、なぜ日本が勝てないのかということを、続いては証券会社に在籍していたこともある小泉さんに伺ってみたいと思います。

3年かけてグローバル人材獲得の土台づくりを実施

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小泉文明氏(以下、敬称略):僕は新卒で証券会社に入りIPOを担当していたんですが、まず資本市場の観点ではリスクマネーの提供という背景が1つあると思っています。ここはいまだに海外との大きなギャップがあって、しかもそれは年々広がっているという問題もあります。とにかくお金がないとはじまらないので。

それと2点目が人材ですね。人材は海外に頼ればいいというお話はあると思いますが、それならそれで社内の体制をどうするのか。僕らはそこで3年かけてグローバルなオペレーションを回すことができる土台をつくりました。それで去年はインドから新卒を32人、IIT(インド工科大学)から採用していますし、それ以外の海外からも採用してまして、去年の新卒採用は海外の方のほうが多かったという状態です。AIのようなテクノロジーは大変なスピードで進歩しているので、来年や再来年頃には「AIの民主化」というか、誰でもAIを使える社会になるのも事実です。ただ、今は人材の問題があると思っています。

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守安:DeNAも一時期、世界に打って出て、まったく勝てなかったことがありましたけれども、どちらかというと日本のプレイヤーは国内である程度成功してから海外へ出ようとしますよね。最初から世界にサービスを提供していこうと考えるプレイヤーとは少ないのかなと思っていたんですが、それについてはどうお考えですか?

小泉:僕は、そこはありだと思っているんですね。日本人メジャーリーガーの成功例と同じで、国内市場で勝ってきちんと体力をつけてから海外へ行くほうがいいと考えています。韓国のスタートアップの友人と話をすると、むしろ羨ましがられるんですね。韓国は市場が小さいので最初から外に出なきゃいけないということで。それに、日本発のスタートアップがグローバルで成功していないということはよく言われますが、それはどの国のスタートアップも同じで、アメリカで成功するのは超大変なんですよね。その意味でも、日本で資本や人材をきちんと蓄えることができるのは大きなメリットだと思っています。

あと、今、僕らの日本のオフィスには30か国以上から人材が集まっています。なぜならトランプ政権以降、ビザが取りづらいことも影響しています。たとえばIITの学生は海外に出たいと思っています。バンガロールにあるフェイスブックやグーグルのインド支社でも採用はありますけれども、彼らからすると、実は今、日本はすごく魅力的なんです。しかも、彼らのほとんどは子どもの頃からアニメや漫画を観ていて日本シンパなんですね。とにかく、昨今の政治状況まで踏まえると今はグローバルな採用を進めやすい。たとえばロシアでも同じです。先日はワルシャワで採用イベントを開催したんですが、世界中からいい人材を集めるという意味では今がチャンスなので、そこはやらざるを得ないと思っています。

守安:続いてスズケンさん。スマートニュースは国内でも強いんですが、海外でも今はいろいろ展開していると思いますので、その辺の方針も含めて。

新しいアルゴリズムの開発で全米トップ10に

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鈴木健氏(以下、敬称略):はい。我々はスマートニュースというニュースアプリの会社をやっていまして、今は日米で4000万ダウンロードぐらいまで来ました。日本でもおかげさまでまあまあうまくやっているんですが、今は特にアメリカですごく伸びています。アメリカの大手パブリッシャーさんやメディアさんが使っているParse.ly(パースリー)というアクセス解析サービスでは、リファラー(Referrer)として全米トップ10に入りました。同ランキングでは1位がグーグルで2位がフェイスブック。どれほどメディアさんにトラフィックを流入させたかというランキングで、それまで10位だった米国Yahoo!に替わって我々が10位になったんです。我々より上はPinterestやBingというところまで来ました。もともと日本のユーザーのために開発した機械学習のアルゴリズムが、そんな風にして今はアメリカでもすごく受け入れられているというのが1つの要因です。

それともう1つ、伸びている理由があります。2年前にアメリカ大統領選挙がありました。そのときは私も視察で渡米したんですが、その大統領選挙以降、ニュースというものがすごく大きな社会的問題になったわけですね。アメリカにおいて、ファイスブックやツイッターでニュースを見るのは個人の情報獲得手段として健康的でない、と。フェイクニュースが蔓延したり、自分の立場に近いニュースばかり流れ込んで意見が偏ってしまう、いわゆる「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」と言われる問題が出てきたりしました。

そうしたなかで、僕らはリベラルとコンサバティブの両者に対して両方のニュースをしっかり提供していくということを、アルゴリズム的に保証していたんです。フェイスブックやツイッターではアルゴリズムがどんどんバイアスをかけてしまうんですが、我々は「ノンバイアスアプローチ」ということで、意見が偏らないようなアルゴリズムを開発しました。これがフェイスブックのアプローチとは真逆であったことから、今はアメリカですごく受け入れられていて、ぐいぐいと伸びているという感じです。

守安:成長のために個人が最も興味を抱く情報を提供していくというアルゴリズムの最適化と、思想として偏らないようにしていくというアルゴリズムでは、どういったバランス、もしくは棲み分けを考えているんですか?

鈴木:そのアルゴリズムを開発したのはアメリカで採用したエンジニアなんですが、もともと彼らは、フィルターバブルという大きな問題があるなかで「両方の意見をきちんと出していこう」という思想的な観点で開発をしていたんです。それで、KPIに対してはポジティブなインパクトをまったく期待していなかった。ただ、その結果はKPIに対してネガティブでもポジティブでもなかったということで、「じゃあ、やろう」と判断しました。で、それが大統領選挙の前だったんですが、選挙の後は急にそのアルゴリズムが世の中で注目されるようになったという経緯ですね。

小泉:スマートニュースがアメリカで放送した親子のCMって、すごく面白いと思ったんですよね。極めてアメリカっぽいな、と。あのお話はどうですか?

鈴木:あ、そうですね。日本だとクーポンのCMばかり流しているからクーポンアプリだと最近思われているらしいんですが(会場笑)、アメリカではまったく違うCMを流しています。どんなCMかというと、明らかにトランプ支持者と分かるような赤い帽子をかぶった白人のシニア男性と、オバマTシャツを来た黒人女性が、1つのニュースアプリを読みながら会話をするといった内容です。このアプローチはアメリカ社会ではすごくコントラバーシャルだったんですが、それをFOXにもCNNにも流しました。僕らがやりたいのは、ニュースアプリを通じてアメリカ社会で生まれた大きな分断を解決すること。対話の基盤を築くことを目指しているんです。KPIのほうはちょっと置いておいて、そうした社会問題の解決を目指していたんですが、それが結果的には大統領選挙以降、KPIにもポジティブなインパクトを与えました。

守安:では、続いて平先生。ITおよびインターネット産業は規制がなく自由にできるということで我々も今までやってきましたが、産業政策という観点で見ると、中国をはじめ各国は自国に有利となることもやっていると感じます。そのあたり、現状で日本のプレイヤーがそこまで強くなっていないことも踏まえつつ、ここ20~25年の産業政策のなかで何かやっておくべきことがあったのか否かといった振り返りも含めてお話をいただけたらと思います。

地域の中核となる「コネクターハブ企業」を選び、応援する

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平将明氏(以下、敬称略):今回のテーマにあるデータに関して言えば、今は政策的にも大変重要な時期にあります。産業政策に関して大きな流れを見てみると、かつては旧通産省が「これからは鉄鋼だ」「これからは自動車だ」という風にターゲティングポリシーを掲げていました。でも、「官僚は間違えるよね」ということで、「規制を緩和して自由にやらせましょう。マーケットに任せましょう」としたのが一連の規制改革・構造改革です。でも、今はグローバルな戦いになっていて、マーケットに任せているだけだと14億の中国市場に勝てなかったりする。また、人口減少で市場が縮小しているから日本国内をベースにしていても勝てません。

そこで、官僚主導のターケティングポリシーを掲げるのでなく、よくG1でも言われているような「もう全方位では勝てないね。じゃあ勝ち筋はどこなの?」ということを考えるわけです。それで、たとえば地方創生で私がやったのは、帝国データバンクのビッグデータを分析して「コネクターハブ企業」と言われる地域中核企業を抽出し、その企業と、さらにはそこにつながる企業を応援する政策パッケージをつくるという取り組みでした。今はそんな風にして、旧自民党的な補助金をばらまく政策でなく、文脈のしっかりした政策になってきています。

いずれにせよ、次は6月のG20ということですから、今はすごく大事な時期に差し掛かっている。今はセブンシスターズがあって、GAFAがあって、アメリカがあって、そして中国は中国ですごく閉鎖的な、共産党と一体となった政策のなかでプラットフォーマーを育てている。で、さらにヨーロッパはGDPRをつくって個人情報を保護しながらEU域内に統一デジタルマーケットをつくろうとしている、と。そうした、まったくフィロソフィーが異なる3つの極のなかで、日本はどんなポジションを取って、どんな提案をしていくのか。それが、まさにこの6月に向けて決まっていきます。

ここでは2つのアプローチがあります。1つは官邸における侃々諤々の議論。もう1つが党内のIT特別委員会というもので、私はそこの委員長代理です。こちらは今まで平井卓也さんが引っ張っていたんですけれども、今はその平井さんが政府に入りました。そうなると政府の運用は、こなれてくるんですが、そういうときに皆さんからしっかりしたインプットがないと、大衆議論になって「セブンシスターズ規制すべし」「GAFA規制すべし」みたいな話に、一気に進む可能性があります。ですから、そこで本来はどうあるべきか、今日は皆さんのような事業者の「世界で戦うためにはこういうことが必要だ」「グローバルなプレイヤーと国内プレイヤーだと条件が違うのでは?」等々、いろいろ意見をもらって帰ることができたらと思います。

守安:本セッションでは、我々が国内で海外プレイヤーとどう戦っていくのかということと、その表裏一体の話として、どうすれば我々が世界に打って出ていけるのかということの両方を考えたいと思っています。そこで、まず前者について川邊さんに質問させてください。Yahoo! JAPANさんは国内インターネットの雄ですが、今はGAFAがどんどん入ってきて、彼らも日本でいろいろと浸透してくると思います。そこでどう戦っていくのか。お金もたくさん持っている海外プレイヤーと国内で防衛戦を行うような構図を考えたとき、Yahoo! JAPANとしてやろうとしていることや、「こうなればもっと戦いやすいのにな」といった、政策について考えていること等々をぜひ伺いたいと思っています。

「デジタルファースト法案」により、日本をデジタル主導の国へ

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川邊:インターネットのサービスですから、とにかくユーザー向けにはひたすらユーザーファーストで、良いサービス、便利なサービス、おトクなサービスをつくる、と。それによってGAFAでなくYahoo! JAPANやメリカリ、あるいはLINEや楽天が使われるようにしていくということなので、対ユーザーはすごくシンプルです。それをひたすらやるだけですね。

一方で、裏側はいろいろあります。平先生のお話の文脈を若干引き継ぐと、たしかに今までは、ITというかネット産業が共同して何かの政策を提言するような場がありませんでした。でも今年は本当に重要なんです。なぜなら平井さんが大臣になって「デジタルファースト法案」というものを今年の国会で提出しています。これが可決されると、日本はやっとアナログ主導からデジタル主導の国に変わる。ですから、まずはその中身を良いものにして成立させなければいけない。そのためにはIT、ネット業界がきちんとまとまった形で意見を集約して、自民党や平井さんに意見を上げなければいけません。

2年ほど前に日本IT団体連盟(IT連)というものをつくりました。このIT連は、IT企業ではなくIT業界団体が加盟する「業界団体オブ業界団体」です。雇用数にすると400万人に達するんですね。400万人の代表であるIT連が2年前に登場して、現在は不肖この私が会長を務めさせていただいております。それで今は一生懸命意見集約をしていて、先週金曜、平井大臣に「デジタルファースト法案の中身はこうあるべきです。社会のデジタル化を第一に考える国家施策を強く支持します」という提言をお渡ししました。ですから今後は平先生をはじめ林先生にもきちんとご説明に伺いたいということで、今はやっと組織だった動きが取れているというのが、1つ、ご報告になります。

平:ちなみに1国2制度的な問題に関しては、今はグローバルでも結論がだいぶ見えてきました。今までは「PE(恒久的施設)なくして課税なし」ということで、その国に支社や工場がなければ、どれほどサービスを提供している企業でも課税されなかった。たとえばアマゾンも流通センターしかないから課税されなかったんです。でも、「そうではなくて、その国で生み出す付加価値に対して課税しよう」とか、「その会社がグローバルで活動することで得ている利益を適正に配分しよう」といったことで、WTOだと思いますが、2020年頃までに結論が出る方向になっています。また、それまで待てないということで、イギリスやヨーロッパでは前倒しで一時的に課税していいという話にもなっていますし、その辺は改善されていくと思います。

守安:今回、別セッションでも「GDPRがきつい」というお話がありました。そうした政策の話も含め、欧米で今後事業を展開する上で日本企業はどう戦っていくべきとお考えですか?

日本企業は今後、世界でどう戦っていくべきか?

小泉:GDPRの何がきついかというと、罰金がとんでもなく大きいんです。コンプライアンスまで考えていくと、とてもじゃないけれどもあの罰金には耐えられません。そうすると、どんどん保守的になるわけですね。また、実はUSもコンプライアンスを含めて規制は結構きついので、ディフェンスのほうをしっかりしなければいけない。欧米のほうが自由と言われがちですが、実は採用を含めて深くケアしている部分が多いんですね。むしろ日本のほうが話せるので、そこは日本の良さでもあり、欧米のキツさでもあり。とにかくそこは生かしていかなければいけないと思っています。

あと、GDPRは日本企業だけが対象になるわけでなく、当然、どの国の企業も規制対象になります。ですから、どの国のどの事業者もネガティブな反応をします。ただ、それでも欧州はGDPRを進めるわけですね。これは欧州の強い意思という話だと思います。ですから先ほどのイコールフッティングということについても、国の強い意思があれば同じようにきちんとコントロールできる筈なんだと思います。ネット業界をどうするかといった国策についても同じ。その意味で、今は政治が安定していますし、今後日本として成長戦略のなかにGDPRのような形ではない政策を盛り込んでいくことができるかどうか。一方では個人情報保護法も今年は改正されますし、それを使えるものにできるかという意味でも今年はすごく大きな勝負になると考えています。

フィンテックについても同じことが言えます。昭和の前半にできた法律がまだ残っていたりするので。たとえば1つのアプリで認証をしたら、基本的にはその先の各種金融サービスで諸々の本人確認等はしたくないじゃないですか。でも、業法が違っていたりするということで、今はすべての場面で確認をしなければいけなかったりする。そういう、結構まどろっこしいものが残っているので、今はその辺を変えないとまずい時期でもあると思っています。

守安:日本のインターネットプレイヤーが海外でなかなか勝てず、影響力も発揮できていない現状のなか、ソフトバンクさんだけは次元が違う状況にあるとも感じます。ソフトバンク・ビジョン・ファンドというもので、なにかこう、絨毯爆撃のように取り組んでいらっしゃるような。孫さんには何が見えていて、かつグローバルではどんなことをしようとしているのか、長年一緒に働いてきた川邊さんに伺ってみたいと思っています。

今は「AI」がヤバい!ちょっと先の未来に全力投球する

川邊:今見えているのはAIということです。今はとにかくAIがヤバい。21世紀最大の発明になっているから、これに突っ込んで、そしてひたすら未来しか見ない、と。ソフトバンクという会社は面白い。ちょっと先の未来に全力投球するという芸風です。だから今はもうAI。WeWorkもAIの会社ということで投資しています。

守安:WeWorkとAIって、どう関わるんですか?

川邊:AIでオフィスをオプティマイゼーション、つまり最適化するわけです。どこかのオフィスの利用度が高いというデータが出たら、それに則って他のオフィスも変えちゃう。あとは需要予測のうえで、ニーズが高まるところにばっとオフィスをつくったりする。最近は社名変更しましたよね。それで今後はオフィス以外の空間もすべてやる、と。需要予測しつつ、最も使いやすいものにオプティマイゼーションしていくわけです。Uberが登場して移動がすごくラクになったのと同じように、どこかに「いる」ことをクラウド化するという話で、そのドライブがAIでありITということです。

守安:今はインドも台頭していますよね。インドの方々の活躍やインド市場についてはどう見ていらっしゃいますか?

小泉:インドの新卒の方々を見て何を感じるかというと、トップレイヤーの子たちは、日本のトップレイヤーの子たちと、ぶっちゃけ、能力は変わらないという点です。じゃあ、何が違うのかというと、ボリュームが違う。もうぜんぜん違います。上の層のボリュームが。結局、そこはどうにもでできないわけですね。ですから僕は、そこはうまく味方になっていただければいいと思うんです。

僕は昨年、モディ首相の来日記念イベントでも登壇させていただいたんですが、たとえばインドにおける東大や東工大のようなIITの卒業生を、僕らは去年だけで32人採用しました。そのために僕らはインドに行ってハッカソンを開催したり、メディアを呼んで「日本のユニコーンがインドの方を採用します」といったブランディングをしまくっています。そうすると、きちんと採用できます。今はそれに加えて冒頭でお話ししたトランプ政権の政策的背景もあるんですが、いずれにしても、ボリュームはあるんです。でも、あちらへ行ってみると日本企業はほとんど来ていません。今はAIエンジニアが不足しているのに。企業経営者はグローバル人材を取るということを真剣にやらないと、もうどうにもならないと思うんですが。

一方、市場のほうを見てみると、インドにもフリップカートですとか、いくつかの有望なスタートアップはありますが、今はたとえばアマゾンが入ってきてインドでも強くなりかけているような状態なんですね。だから、まだまだこなれていない部分があるので、そこは入っていく価値があるかもしれません。ただ、一方では僕らもよく分かっていない部分もあります。たとえばフィンテックに関しても、急に「高額紙幣をなくします」といった話が出てきたりしますから、中国と同様、非常に難しい部分はあると思っています。

守安:Yahoo! JAPANもPayPay等でいろいろインドの方とお仕事をしていますよね。

川邊:我々はPayPayにおいて、インド人と中国人と日本人がごちゃまぜで「ペイペイペイペイペイペイ」言って(会場笑)、融合しています。これはすごいことですよ。そのなかでもインド人がすごいのはモチベーション。「できない」とは一切言わない。できなくても「できる」と言います(会場笑)。で、興味があったからその理由を訊いてまわったら、「インドには3億人失業者がいるんですよ。彼らが全員『仕事をくれ』『できるできる』って言うんです」と(会場笑)。それで仕事を手にしてから学ぶという、それほどの競争環境なんですね。「だから日本人みたいに『僕はできません』なんてこと、言うわけないじゃないですか」と、あるとき現場の人間に言われました。それで「あ、そういう国なんだ」と。これは日本人も頑張らないとなかなか敵わないと思ったことがあります。そこがインド人のすごさというか、それでメルカリとうちでIIT卒業生の奪い合いをしていたりするわけです。

守安:では残り10分少々ということで会場からご質問やご意見をいただきたいと思います。

Q、日本でAI人材、データサイエンティスト人材を育成するためには?

鈴木:大学の役割が重要だと考えています。スタンフォードやハーバードで学んでいる友人たちに話を聞くと、たとえばスタンフォードは全学生の3~4割がコンピュータサイエンスを専攻しているんですね。全学生の3~4割ですよ?1700人中800人がコンピュータサイエンスを専攻していて、おそらく、その800人中600人ぐらいが機械学習やAIを勉強している。オンラインのコースだから寮でも受講できるそうです。定員制ではないんですね。今はAI人材が圧倒的に不足しているなかで、それがグーグルやフェイスブックへの就職につながる。昔であればハーバードの優秀な学生はウォールストリートで金融、またはマッキンゼーでコンサルをやったりしていました。でも、今アメリカで最も優秀な学生はスタンフォードでコンピュータサイエンスを学び、グーグルやフェイスブックに行こうと考える、と。もしくはスタートアップをやる。そして、アメリカの大学はそのための人材を一気に増やすことができるわけですね。

中国もそうです。中国やアメリカは人口が多いだけじゃなくて、大学の定員が可動的で一気に広がったりする。そもそも定員という概念がないから、学生が勉強したければ好きなだけ勉強できます。一方、日本の大学だと1年から2年、2年から3年に上がる際、学科ごとに定員があるから「コンピュータサイエンスは30人」みたいな話になってしまう。そうなると、もうどうしようもないですよね。先生の数に伴って教室にも限りがありますし。

ただ、じゃあスタンフォードで先生の数は増えているのかというと、増えていないんです。スタンフォードのコンピュータサイエンスの先生って、まだ30人ぐらいでやっているんです。信じられないでしょ?結局、それをサポートするMOOC(大規模公開オンライン講座)であるとか、そのための予算を取る仕組みだとか、そういうものがきちんと整備されているんです。だから、学生が一気に800人にまで増えても、そこから600人にまで減っても、すべて対応できる。ここをなんとかしないと、はっきり言って人材は増えないですよ。

守安:「日本はこれからAIだ」と言っても今いる教授の専攻がすぐに変わりませんから、そのあいだは変わらないんですよね。ですから大学の統治機構を含めて変えていかないと。

平:そこも変えられると思いますよ。たしかに教室の定員に縛られているという発想自体が、もうあり得ない。だから、そこはガバナンスを変えればいいと思います。教授がガバナンスを見ている状態だからおかしな話になっているわけで。経営者がやる。だから国立大学を含めた独立行政法人のガバナンス改革です。

守安:では、残り4分ぐらいになりましたので、最後に今日の振り返りと、今後どうしていくべきかというお話を、それぞれ1分ぐらいでお願いします。

鈴木:冒頭でお話しした通り、大統領選挙後の2年間でアメリカにおけるスマートニュースのユーザーはすごく増えましたが、2年後もまた大統領選挙が行われます。我々はそこでまた大きな挑戦があると考えているんですね。今はアメリカの社会的分断を解決するということに、なぜか我々日本企業が取り組んでいる(笑)。アメリカの民主主義を復活させるというのが、我々が現在掲げているミッションです。そのために、2年後に向けてユーザー数を増やすだけでなく、アメリカ社会にポジティブな貢献ができるようにしていきたい。

これは単なるアメリカの国内問題ではないんです。アメリカ社会の分断が、もしくは世界中で分断が起きるということが、日本を含む世界全体の秩序に大きな影響を与えることを、我々は今までの2年間で学んできた。その意味で、僕は、アメリカ大統領選挙は世界における民主主義システムの巨大なセキュリティホールだと思っています。そのセキュリティホールにパッチを当てなきゃいけない、と。それによって、今は曲がり角を迎えている「1つのインターネット」や「1つの市場」が可能な世界に戻していけるよう頑張りたいと思っています。

小泉:IT企業という表現がありますけれども、今はITと言っても範囲が広過ぎて分からなくなってきましたよね。で、今後はAI企業という文脈が出てきたりすると思うんですが、それはもしかすると、いつでもどこでも望んだときにネットワークへつながることができるというユビキタス社会から、生活のなかで向こうから勝手につながってくる「アンビエント社会」への進化かもしれない。スマートスピーカーもそうですし、たとえば会話をしていたらUberが来るというような、そんな社会になっていくわけです。

では、そういう社会で何が大事になるか。今日はデータの話をしていませんが、今はデータを含めてセキュリティの問題を本当に国家レベルで考えなければといけないと思っています。日本はそこがすごく弱い。その点、セキュリティの話ともつながるんですが、今日お話しした人材に関して繰り返すと、国内にそれほど人材がいないのであれば、海外人材に頼る形でもいいんじゃないかなと思っています。その代わり、たとえば画像認識であればレンズをはじめハードも結構関わってきたりするので、日本はそっち側で頑張るという話もあるわけですね。結局、何かを取ることは何かを捨てることと一緒なので、今後はそういう議論もしていかなければいけないかなと思っています。

川邊:最後の最後で本題であるデータの話をしますと(会場笑)、世界は競争が激しいので、グーグルであれば検索、アマゾンであればコマースのように、それぞれの分野で強いサービスを持っていますが、データに関してはGAFAと言えども垂直でやっていかなければいけないんです。その点、Yahoo! JAPANは日本にフォーカスして、国内で100以上のサービスを提供し、どのサービスも強いので、データが横に揃っています。ですから、そうした横のデータをつなげ合わせてGAFA以上の付加価値を出していこう、と。つまり、Yahoo! JAPANは世界で一番、日本に住んでいる方々のことを理解して、GAFAよりも便利なインターネットサービスを提供していこう、と。そういうことを事業戦略の中心にして引き続き頑張っていきたいと思います。また、世界と戦うという観点では、ソフトバンクの資本力と孫さんの閃き、そしてWeWorkを広げるような営業力の3つを武器に、今後も世界で大暴れしていく筈なので、私もそこで頑張ってやっていきたいなと思っています。

平:この国会でデジタルガバメント法案が通ります。また、マイナンバーも世耕さんからお話があった通りで、しっかり広げなければいけない。そのなかで、たとえば皆さんのマイルやマイナンバーのポイントを貯めて使えるような「マイキープラットフォーム」という枠組みをナショナルポイントに格上げして、そのポイントをコンビニや商店街でも使えるようにしていったり。あるいは景気対策としてマイナンバーカードに1万円のポイントつけて1億枚配ったり。そんな風に、デジタルガバメントの基礎をつくっていくうえでもいろいろなやり方があるので、今後はそんなことも考えていきたいと思っています。

守安:世の中はこれから大きく変わっていきますので、我々IT業界が頑張って日本も世界も良くしていきたいと思います。皆さん、本日はありがとうございました。パネリストの皆様に拍手をお願い致します(会場拍手)。

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