ブランド戦略がすべてのスタート

先日改定・発売になった『改訂4版グロービスMBAマーケティング』から「ブランド戦略の要素」を紹介します。

かつてブランド戦略は、製品戦略やプロモーション戦略の一部と理解されることもありました。しかし現代マーケティングでは、ブランド戦略はむしろマーケティング戦略の上位に位置するものであり、企業理念やビジョンにより近いものと理解されるようになってきています。必然的にその重要度は増しますので、ブランドのコア(エッセンス)が何かといったことも含めてブランドを組織全体で理解し、社外に発信・展開していく必要があります。逆に言えば、それが出来ていない企業は顧客の混乱を招き、効率的な成長やブランドエクイティの最大化ができない時代になっているのです。一度、自分の会社について、自社のブランドのエッセンスは突き詰めれば何なのか、それが正しく顧客に伝わっているか自問してみるとよいでしょう。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

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ブランド戦略の要素

ブランド戦略が満たすべき構成要素については多くの説があるが、本書では、経験価値マーケティングの大家であるバーンド・H・シュミット教授が用いている概念を使って解説する。

(1)ブランドコア
ますブランド戦略の最も上位には、ブランドコアがある。これは、ブランドのエッセンスを抽出したもので最も抽象度の高い階層であり、通常はいくつかの形容詞や名詞で表される。ブランドコアの必須要件は以下の5つである。

●シンプルにコミュニケーションができる
●シンプルに実務に展開できる
●そのブランドの活動すべてがコアに関連付けられる(絶対に関連付けられていなくてはならない)
●そのブランドの活動すべてがコアに統合されている(絶対に統合されていなくてはならない)
●そのブランド活動に携わる人の誰もがコアを理解していなくてはならない

例えば、コンサルティングファームのベイン&カンパニーのブランドコアに当たるものに「トゥルー・ノース(真実の北極)」がある。これは、地軸上の北極を意味する言葉で、方位磁針で示される北極ではなく、地軸上の真北のことである。つまり、ベインは誰もがすぐにわかる方位磁針の北ではなく、そこからほんの少し離れた、わかりにくいけれども本当の北を常に探していく集団になりたい、ということを表している。コンサルタント同士の会話でも、「それってトゥルー・ノースなの?」というように使われる。シンプルにコミュニケーションができて、シンプルなエクセキューションになり、すべての活動がそこに関連付けられて統合されていて、使う人がそれを理解しているのがブランドコアである。

(2)ブランドパーソナリティ
ブランドパーソナリティは、コアよりもブランドに具体性を持たせ、よりイメージを共有しやすくするために作られる。シュミットは「すべての強いブランドにはパーソナリティがある。人間のパーソナリティを表現するのと同じような表現で語れることが重要である」と言う。

例えば、アップルというブランドを人にたとえるとしたら、スーツを着た人を想像することはほとんどないのではないか。一方、アメリカン・エキスプレスと聞いて、ティーンエイジャーを思い浮かべる人もいないだろう。良いブランドは、ブランドを容易に擬人化できるものである。ブランドコアを拠り所とした上で、具体化のためにパーソナリティを規定し、ブランドの価値を細かく共有できるようにする。

(3)ブランドポジショニング
コアとパーソナリティを明確化したら、さらにブランド戦略を絞り込むためにブランドポジショニングを作成する。これは顧客の頭の中にブランドのイメージを形作るための要素をまとめることで、多くの場合ステートメント(文章)で表される。そのブランドが、誰に、どのような枠組みの中で、どんな手段を提供するか、そしてそれはなぜ信じることができるのかなどが、ブランドポジショニングの要素になる。

ステートメント以外にも、企業によっては図やイメージ、キーワードを並べたものなどでこれを表現する場合もある。例えばユニリーバではブランドキーというカギ型の図形に単語を並べたものが利用されている。

ブランドポジショニングからは、企業の将来にわたってのビジネスドメインが見えなくてはならない。

(4)ブランド戦略の実行
ブランドコア、ブランドパーソナリティ、ブランドポジショニングを整えると、何を伝えるべきなのかが統一され、固まる。これがブランド戦略であり、これに沿ってブランドマネジメントを行っていくことになる。

ブランドマネジメントで見るべき要素は、大きく2つに分けられる。1つは長期的な視点が必要な、名称、シンボル、サウンドロゴ、形状、スタイルといったもの。もう1つは、ある程度短期での改変が可能な、パッケージデザイン、プロモーション、PR、プレゼンテーションのデザイン、教育研修内容などである。いずれにせよ、対社内、対社外すべてのコミュニケーションにおけるそのエクセキューションは、ブランド戦略に基づいて実行される必要がある。

実行に携わる関係者が常に自社のブランド戦略を理解し、あらゆるタッチポイントにおける施策のすべてがブランド戦略に結び付いていることが、経営戦略とブランドを強く結び付け、ブランドエクイティを増大させる。これを絶え間なく実施することが、ブランドマネジメントの要諦である。

実行に当たっては、以下の5つの要素に気をつける必要がある。

●ブランド戦略との整合性が取れていること
●それぞれの手法の特徴に応じて最大限の効果を引き出すこと
●細部にまで気を使うこと
●目的がわかりやすく、目的に合っていること
●結果を測定できること

これらを実現するためにデザインなどの統一を図り、ブランドガイドラインなどの実行上のルールを策定することが多い。ただし、往々にしてルールを作ること、守らせることが目的化してしまうこともある。そのような取り決めはあくまでブランドを守ることを目的に作られる手段にすぎない。いたずらにルールを作ることは慎む必要がある。

(本項担当執筆者:武井涼子 グロービス経営大学院教員)

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