小室淑恵が聞く!「断捨離養成ギプス」で残業削減!?先行企業に学ぶ「働き方改革」の成功事例~ジャパネット×さくらインターネット×マニュライフ生保 

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本記事は、G1経営者会議2018「働き方改革でゲームチェンジ~優秀なタレントを採用・維持する人事戦略~の内容を書き起こしたものです。(全2回 前編)

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小室淑恵氏(以下、敬称略):「働き方」というのは今、非常に分かりやすくゲームチェンジが起きているテーマではないかなと思います。「人口ボーナス期」と言われる1960年代から90年代は、男性ばかりで長時間労働、かつ均一な人材で勝負をすると確実に勝てるような時代でした。

それに対して今は「人口オーナス期」。人口がどんどん減少して分母が小さくなり、支えなければいけない分子側の高齢者が特に増えています。こうした人口オーナス期では、男女ともくまなく活用して、短時間で、かつ多様な人材で勝負することが勝つためのルールになってきました。今はそうした大きなゲームチェンジが起きているのだと思っています。

そこで、来春には法改正も迫る今回のテーマについて議論するため、今日は壇上の御三方にお集まりいただきました。それぞれ業界も異なりますし、私から見るとご苦労されているポイントも御三方では大きく違っていて、大変興味深いと感じています。なので、まずはそれぞれ自己紹介をしていただきつつ、働き方改革を行うようになった背景ですとか、働き方改革を進める前のご自身の考え方、以前から先進的であったのかどうかといったことも含めて、お話を伺いたいと思います。

働き方改革のきっかけは「社員提案のワークショップ」

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田中邦裕氏(以下、敬称略):改めまして、田中と申します。22年前にさくらインターネットというサーバーの会社を学生起業しまして、現在もその社長をしています。私自身はもともと「どれだけ徹夜できるか」みたいなことを自慢するほうでした。また、創業者ということもあって、社員にどれだけ要求していたかということまで考えると、もう普通にブラックとしてやらせていただいて…。「やらせていただいて」って言い方もおかしいですけれども(会場笑)、とにかく、いわゆるブラック社長でした。

それが、ここ5年ぐらいですかね、会社がどんどん成長しなくなってきて、離職率も非常に高くなって、10%以上になっていました。ただ、IT企業全体の離職率は15%ぐらいだったりするので、それでも当初は「ホワイトだな」なんて言って下位のほうで競争していたんですね。

けれども、いよいよ専門性の高い人材が採れなくなってきたという体感が、5年ぐらい前にありました。それで、働き方を見直そうという話に突然なったわけですけれども、私自身は先ほど申し上げた通り、長く働くことを是として徹夜もしていた人間です。それが変わっていく1つのきっかけになったのは、人事に「ワークショップをやりましょう」と言われたことでした。「経営陣もそこに入って、この会社を本当にどうしたいのかということを話しましょう」と。そうして皆で話し合いをした結果、「やっぱり今のままではだめだな」ということになったんですね。

1つのポイントとして、やっぱり現場の人たちは働き方改革をしたいのですが、ほとんどの場合、経営者のほうは「なぜそんなことをするのか。業績が下がるじゃないか」という風に考えるということがあります。でも、私の場合は現場がうまく進めてくれたワークショップによって、「よし、働き方改革をしていこう」という風に自分自身で変わっていきました。

それで今は平均残業時間も月7時間ぐらい。たまに「1日(平均)ですか?」と聞かれます(会場笑)。業界はそれぐらい疲弊しているのですが、とにかく当社は月平均で7時間。しかも、私は昨年、1か月の休みを取ることもできました。その辺については、またのちほどお話をさせていただければと思います。

小室:ありがとうございます。田中さんが1か月のお休みを取っている間、フェイスブックに毎日旅行の様子がアップされるので「仕事、辞めたの?」という噂でザワザワしたりしていたんですが(会場笑)、無事、1か月後に「休みだったんだよ」という感じで戻られましたよね。では、続いて髙田さんに伺いたいと思います。

社長になって最初にやったのは「組織編成」と「働き方改革」

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髙田旭人氏(以下、敬称略):ジャパネットの髙田と申します。私は4年前、ちょうど2018年末で4年になりますが、父からバトンを受けた2代目経営者です。この引継ぎは結構変わっていて、父は会長として残ることもせず、株も渡して「好きにやりなさい」という感じだったんですね。それで今もたまにご飯を一緒に食べたりするときに話に上がることはありますが、基本的には我慢してくれています。

働き方改革に関して言うと、私はもともと長時間労働が大嫌いでした。なので、受験ですとか、勉強のときも徹夜は絶対にやりたくないというタイプだったんです。仕事でも同じで、6時を過ぎて残業すれば自分のパフォーマンスが明らかに落ちるのも分かっていました。でも、皆は長く働いていると頑張った気になってしまう。で、そうなると上司がアドバイスをしても、「こんなに頑張っているのに」という風になって話を聞いてくれないわけですね。

「これはいいことないな」ということで、社長になって最初にやったのは、組織編成を変えたことと、休みを年間13~14日増やしたことでした。それまでは、「夜10時以降は会社に残っちゃだめ」と言ったときもザワっとなったぐらい、それこそ朝方まで仕事をしている人もいるような会社だったんです。

でも、そこから少しずつ働き方改革を進めて、4年経った今は「夜8時半以降は絶対に残っちゃだめ」と。残っていたらセキュリティのカードと労務データの照合で見つかります。ノー残業デーも週2日、休日出勤も一切禁止で、した人がいたら私のほうにそのデータが飛んで来ます。今はそれぐらいのことをやって働き方改革を進めています。もちろん制度だけではだめですし、背景ではいろいろと細かく地味な取り組みもしていますので、その辺もまた後ほどお話しできればと思います。

小室:ありがとうございます。今のお話で「本当にそうだな」と思うのは、長時間労働をしている人の、言葉を選ばずに言うと、被害者意識のような部分。そういうものが芽生えると会社のこともネガティブに捉えますし、アドバイスも聞けない状態になる。それがすごくもったいないというのは本当にそうだなと思います。では、続いて吉住さんお願い致します。

目指したのは「誰もが働きたいと思える会社」にすること

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吉住公一郎氏(以下、敬称略):マニュライフ生命の吉住と申します。マニュライフ生命は外資系の保険会社ですが、私自身のキャリアはというと大学卒業後は埼玉銀行に入行しました。当時の銀行は、先ほど小室さんがおっしゃっていた人口ボーナス期における働き方の権化みたいな仕事でした。最初はだいたい営業店に配属されますから、そこに朝7時には出て、金庫を開けてキャビネットを出します。それで9時にシャッターが開き、「おはようございます」「いらっしゃいませ」と言ってはじまるわけですね。

銀行というのは皆さんご存知の通り3時にシャッターが閉まるんですが、そこからが長いんですよ。それで「お金が合わない」「伝票が合わない」となると、ずーっと帰れません。ただ、それが合うまでやるのかというと、伝票のほうはやりますが、お金のほうは、合わないときは合わないときもある、と(会場笑)。

要するにお客さんが損をしたときは徹底的にやらなければいけないんですが、銀行側が足りない場合は、もう入れちゃうわけですね。税金なんかのテラーではそういうことがありました。それで私なんて新入行員のときは「またお前が失敗したのか?」なんてよくからかわれたりしていましたけれども。

いずれにしても、夜は11時から12時ぐらいまで働きます。夜の9時からが長いんですよね。特に貸付とか、そういうことをやっていると、稟議をいつまでも書いておかなければいけない。上司が帰らないから、帰りたくても帰れない。それで時計ばかり見るような生活を何年も続けていました。で、そういう働き方に慣れてきたところで銀行の合併が起きて、そこで私自身は外資系の生保に転職したという流れになります。

とにかく、私自身はそんな環境で育っていたので、早く帰るとか、そういう意識がまったくありませんでした。外資系というと、開かれた世界で、帰社時間も早くて、ときには仕事もいい加減に残したまま早く帰っちゃったり、休みもたくさん取ったりするという風に、皆さんは思っていらっしゃるかもしれません。でも、少なくとも北米系の会社は絶対にそんなことありません。とにかく仕事をしますよ。

そういうなかでずっと仕事をしてきた私が、今はまさに働き方改革を推進する立場になったわけですね。実は、弊社が働き方改革をはじめる前、僕はどちらかというと反対派だったんです。「そんなことできるわけがない」と。でも、前CEOのこの問題に対する取り組み方がすごかった。小室さんが講演をなさった国際女性ビジネス会議で感銘を受けたところからはじまって、もう私とはまったく話が合わないというところからはじまっていました。

ただ、目指していたのは、当時から一貫して「誰もが働きたいと思える会社にする」ということでした。それと、社員のエンゲージメントと生産性も高めていきたい、と。それで、2015年の本社移転をきっかけに大きく変わっていくことになりました。今日はその辺をお話できればと思います。

小室:ありがとうございます。当社は3年前からマニュライフさんにコンサルとして入っていたんですが、それは前CEOのギャビン・ロビンソンさんにご依頼をいただいたお仕事だったんですね。それで「順調に進んでいるな」と思っていたとき、吉住さんに社長交代となって、正直、最初はざわつきました。「これは大変だ」と(笑)。「吉住さん体制になったら働き方改革に反対するのでは?」というほど、それまでは、たとえば「この業種では無理だ」といったお話を多々いただいていたんですね。

でも、今はもう完璧に推進していらっしゃいます。ですから、そのあたりの変化についても後ほど。今はどんな風に推進していらして、そして以前はどんな風にご納得がいっていなかったのかといったことも、伺えたらと思います。

では、続いて御三方が具体的に何をして、どういう成果が出たのかという部分をダイレクトに聞いていきたいと思います。まずは髙田さん、いかがでしょうか。

大事なのは「どれだけ皆を本気にさせて、気づかせるか」

髙田:うちは上場もしていませんし、創業者である父のトップダウン企業だったので、体制が変わったときも、ある意味でトップダウンというのはうまく使おうと思っていました。ですから、「来年から社長になります」ということを伝えた望年会(ジャパネットでは来年へ『望』みを繋げるため『望年会』と呼んでいる)の席で、「来年は休みを増やします。ノー残業を増やします。でも、成果・目標は変わりません」ということも宣言して、人事もその場で知ったというような状態からはじまっています。

とにかく大事だと思って取り組んでいたのは、制度だけではなくて、「どれだけ皆を本気にさせて、気づかせるか」という部分でした。ざくっと計算すると、だいたい4~5%業務改善すれば、(現在のように)休みを増やしても総労働時間は変わらないんですね。

じゃあ、その4~5%をどこで削るか。1日だいたい20分削ればいいんです。「それなら、まず断捨離をしよう」と。それまでは何もかも印刷してファイルにするような会社でしたから、全拠点で机を入れ替えて、それまで使っていた机はすべて捨てました。父には「もったいない」と言われましたが、引き出しが付いた机はすべて、70トンぶん捨てました。

PCもデスクトップからノートに替えて、あとは細かいところですと集中できる部屋をつくったり。とにかく「いらない」と思ったものはすべて捨てました。それで、今はノートPC1台と小さなボックス1つしか持ってはいけないというルールにしています。それと、小さなキャビネットが皆に充てられているんですけれども、それも定期的にコンプライアンスのチームが開けて、あふれていたら、そこに空の段ボールを埋め込むという(会場笑)。

小室:「養成ギプス」っていうんですよね。

髙田:社内で「断捨離養成ギプス」って名づけたみたいで(会場笑)。とにかく「ノートPCとボックス1つと言っているのに、どうして余計なものを入れているの?」と。もう徹底的にやっています。

そのほかにも、細かいところでは会議室の稼働をシステムで管理したり、メールのツールも変えたり、無駄だと思ったらその都度変えていきました。もちろん、それで採算が合うかという計算は必要ですが、「理屈として正しいと思ったらやろう」と。幸いにして余力はあったので、徹底的に、細かいこともやっていきました。

あとは私自身も。1日10数件、日中はほとんど会議が入っているんですけれども、だいたい8時半に来て18時半頃には帰ります。上司は部下がいると帰りにくいし、部下は上司がいると帰りにくい。互いに気を遣います。ですから、まず私が絶対に帰ろうということで18時半頃には、もう自分のパフォーマンスが落ちたと思ったら帰るということを徹底しています。

小室:今は長崎の拠点で16連休というのもあるんでしたっけ?

髙田:そうですね。有休の取得も、結局は法律で決まっているからにはあげないといけませんから、まずは月~金を休みにして、それに土日を加えて9連休というリフレッシュ休暇を設けました。で、今年から長崎と福岡のチームはそれを2週続けて16連休にしようということで、まとめて16連休を取れるようにしています。

で、携帯を配布されているメンバーは、16連休のあいだは上司にその携帯を預けっぱなしにしないといけないんです。だから、連休中は電話がかかってきても上司が出ちゃうので、逆に普段から個人が仕事を抱え込めないんですね。

そのうえで「休みの日も出てきちゃだめです」と。結構、皆はそれで寂しさを感じるみたいです。「自分がいなくてもいいのか?」って(会場笑)。でも、出てきたときは意外と誰々が育っていたとか、そういう話も聞くことができるんですね。それで今は有休取得率も85~90%ぐらいになってきているというのは、すごく大きいかなと思っています。

小室:まさに、どの企業も苦労している「仕事の属人化」の排除ですね。その人しか知らない情報があるといった状態を変えていくうえでも、うまく16連休を使っていらっしゃると感じます。また、結局はそれで人材育成にもなっているということを自然になさっていて、すごくポイントを突いていらっしゃると思いました。吉住さんはいかがですか?

「なぜ全員を朝礼に集めなきゃいけないんだ?」と自問自答

吉住:2015年まで遡りますが、小室さんにお世話になるという話になった当時、私は先ほど申し上げた通り反対派だったんです。そういうなかで2015年に何がはじまったかというと、本社移転があって、まずフリーアドレスということになりました。「どこに座っても、どこで質問してもいいよ」という仕組みです。これ、スペースの有効活用という意味ではいいんですが全員分の席はないんですね。ただ、カウンターでも応接室でも、どこででも仕事をしていい。そういう環境に整えていったというのがはじまりです。

そのうえで、上下昇降式デスクというものを導入しました。私ではなく前CEOが。それで私は「これ、なんの意味があるの? 6000~7000万かかったよね」と。「これを買うぐらいだったら営業で何かキャンペーンでも打ったほうが良かったんじゃないの?」というぐらい、僕は反対だったんですよ。とにかく、なんの意味があるのか分からない。

で、続く2016年は何をしたかというと、一部でフレックス制度は以前からあったんですが、それを営業にも拡大してフルフレックスにしていきました。そうして「コアの勤務時間も関係なく、朝7時から夜10時までであればどの時間で働いてもいい」という風になっていったあたりから、僕自身の考え方も変わってきました。

まず、こうした施策で何が変わったかというと、社員がいきいきとするんですね。昇降式のデスクも最初は変だと感じました。高くして立って仕事をしている人間もいれば、座って仕事をしている人間もいる。異様に思える風景がいたるところで広がっているから。それで、営業チャネルというかディストリビューションをすべて見ていた当時の僕は、「昇降式デスクに人間を乗せて営業成績で上に下に動かしたらいいじゃないか」ぐらいのことしか思っていなかったんです(会場笑)。

ところが、これが健康にもすごくいいし、集中もできると皆が言い出すんですね。ギャビン・ロビンソンもやっている。だから「試しにやってみるかな」と、僕もやってみたら…、これがすっごくいいんですよ(会場笑)。「いや、これはいいな」と。

あと、それまでの私は営業チャネルについても「朝からミーティングだ。直行直帰なんかするもんじゃない」という考えが根底にありました。でも、ギャビンは「なぜ直行直帰がダメなの? なぜ朝礼が必要で、皆が出なきゃならないの?」なんて言うので、最初は「また分からんことを言って」と思っていたんですね(会場笑)。

でも、そこでまた自問自答するわけです。「なぜ全員を朝礼に集めなきゃいけないんだ?」と。すると、今は電話もスカイプもなんでもあるわけですよね。「それなら皆で集まるときと集まらないときを決めて何が悪いんだ」と自分でも考えるようになった。そんな風にしてフルフレックスを導入していったわけですが、実際のところ、それで業績は別に落ちないんです。なんと、変わらない。むしろ皆がいきいきとやっていくことができると気付いて、以来、私自身もそうした働き方の信奉者になっていきました。

それと服装ですが、今日は私もカジュアルな格好をしていますけれども、営業はスーツとネクタイです。夏はネクタイを外したりしていますけどね。 ただ、営業を見ている人間以外は、皆、毎日完全にカジュアルです。ジーンズもOKにしています。ですから本社にスーツ姿の人はいません。

これで何が変わるか。従業員の意識が変わりました。生命保険会社は金融機関ですから「形」に囚われていたのですが、皆がすごくいきいきと仕事をするようになりました。それで、それこそダイバーシティというか、男性も女性も年齢も関係なく、同じミーティングのなかで発言するようになりました。

なぜそうなったのかは分からないんですが、とにかく、少しドレスコードを変えただけでもそういうことが実現したのです。それで、今年からはキャリア相談室のような部門も設けて、HRのほうでキャリアについていろんな話をフランクに受けるようにもしていきました。

実際にこれで何が変わったのかというと、まず業績はまったく落ちないどころか、年平均成長率で10%前後をずっと保っています。日本の生保業界というのは非常にマチュアです。90%以上の方が加入なさっている世界ですから、業界全体の成長率は0~1%ぐらいなんですね。でも、そのなかで我々はどんどん成長しています。

今は従業員が皆、「この会社のエンゲージメントを高めるためにはどうすればいいか」といったことを自ら考えるようになりました。今は顧客本位ということが叫ばれていますが、「お客さまのためにどうすればいいのか。どんなアイディアを出せばいいのか」といった点で、まさに従業員のほうからいろいろなものが出てくるようになっています。

とにかく保険商品というのは、皆さまも生命保険に加入して感じていらっしゃると思いますけれども、まず分かりにくい。それに複雑です。書いてあることが多すぎる。今はそれをシンプルにしていくんだということで、皆が一生懸命に取り組んでいます。皆の意識がそんな風に変わって、業績もすごく良くなったというところですかね。ですから「ギャビン・ロビンソンありがとう」という。

小室:安心しました(笑)。御社は保有契約高は3年間で1.5倍に拡大した一方、残業時間はおよそ20%削減されたんですよね!では、続いて田中さん、お願い致します。

働き方改革のポイントは「制度」「風土」「ツール」

田中:働き方の見直しでは3つのポイントを抑える必要があると思っています。1つは「制度」、1つは「風土」、もう1つは「ツール」です。で、まず我々は風土とツールを重視しました。

風土からお話しすると、先ほど申し上げたワークショップを通して引き出された答えの1つが、「社員を信頼したほうがいいんじゃないか」ということだったんですね。それですごくラクになる。「社員は絶対に悪いことをしよる」ということを前提に、ほとんどの会社の人事制度はできていますし、かつては我々もそうでした。

で、上場するときの審査でもそこが引っかかって、結局はすごくがんじがらめにしていたのですが、それだと人事も経営も社員も大変になる。「じゃあ、もう社員を信頼することにしよう」と。そのことを全社員の前で宣言もしました。

それで、今は出社時間も自由に動かせるようにしています。それと残業代に関しても、最近は20時間で払いきりにすることにしました。20時間を超えたら超過分を払いますが、残業時間20時間を下回っても残業代が減ることはない形にしたんです。するとそれ以降、長く残業をした人は当然ながらそのぶん残業代が出るわけですけれども、ほとんどの社員は20時間未満の残業になっていきました。「あれ? 忙しいって言ってなかったっけ?」みたいな人が定時で帰るようになったりするんですね。

そんな風にして“負のインセンティブ”である残業代の削減をやめたわけですけれども、「社員は仕事をしている」というポイントに抑えておけば、そういう大胆な制度もできるんだと考えています。それで、最近は、その日の業務が終わっていれば30分だけですが早く帰ってもいいという制度にしたり、「家やカフェでのリモートワークも勝手にどうぞ」という制度にしたり。とにかく、風土を変えていくと制度もかなり大胆にできるということがあると思います。

ツールに関しても、会社に来ない人が増えたので紙がほとんどなくなりました。スキャンしてPDFか何かでクラウドに保存する形にして、今はお客さまにいただいた資料も同じようにしていますし、「できればPDFでください」とお願いするようにしています。シュレッダーにかけるのも面倒ですから。こちら側からお客さまに資料を出すときも同じです。そんな風にしてツールも変わっていきました。

それともう1つ。制度に関してお話しすると、我々は子育て世代だけを優遇しないことが重要だと考えています。子育て世代が使える制度を他の社員も使えるようにすると、子育て世代が後ろめたくなく、それを使えるようになるんですね。そういった考えで、今は、子育て世代だけが使える制度は時短だけになっていますし、これも今後は、対象を全社員に広げたいと考えています。

「子育てをしやすくしよう」ということであれば、全社員がそういう働き方でさっさと帰れば、彼らも後ろめたくなりません。それで結果的には育休からの復帰率も100%になりましたし、男性も6割ほどが育休を取るようになりました。

それと有給に関して言うと、1週間前までに申請すれば、2日以上連続して休む従業員には1日5000円支給するという制度もはじめました。例えば5日連続して休むと、2万5000円、給料がぽんと増えるわけですね。

そんな風にして制度と風土を強制力なく変えていくことで、今は80.5%が有給を勝手に取っているという状況になりました。また、離職率のほうは先ほど10%だったとお話ししましたが、今は3~4%で推移しています。辞めないということは採用数を減らしても社員数は増えているということなんですね。

それと最後にもう1つ。今は従業員に「利益が減ってもいい」ということを言っています。その代わり、トップラインを増やし、社員満足度を高めることにKPIを置き換えたんですね。それによって、今までは1~2%前後と、かなり緩やかになっていた売上の年間成長率も、昨年は22%にまで高まりました。

社員は200名前後だったのがこの3年間で500名ぐらいにまで増えましたから、当然ながら利益は減っています。ただ、売上のトップラインは増えていますから、このままいけばいつかは、「アマゾン方式」ではないですけれども、利益は極大化するだろう、と。ということで、今はかなり大胆に風土とツールと、そして制度を変えたということがあります。

小室:そして気づいたら株価は上がっていたんですよね。

田中:そうですね。真実として「会社が利益を出しても株価は上がらない」ということにですね(会場笑)、皆さん気付いているんですよ。IR担当の方は異口同音に「こんなに利益が伸びたのに、なぜ株主は分かってくれないんだ」とおっしゃいますが。でも、要は利益じゃないということに気付きまして、それで当時70~80億だった時価総額が一時期は400億ぐらいにまでなりました。最近はちょっと下がって200億ぐらいになりましたから「やっぱり利益出さんとあかんのちゃうかな」と心配していますけれども(会場笑)、それでも当時の3倍ぐらいにはなっています。とにかく利益よりも売上。売上ってお客さまの満足度なので、お客さまと社員の満足度が重要なんだなということを、今はひしひしと感じています。(後編につづく)

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