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機会費用で考える、コンビニの成人誌取扱中止の理由

投稿日:2019/01/24更新日:2019/04/09

コンビニ雑誌2019年1月21日、セブン-イレブンジャパンとローソンが成人向け雑誌(以下、成人誌)の取り扱いを8月までに止めると発表しました。翌日にはファミリーマートも追従、8月までに成人誌の取り扱いを止める方針を出しました。すでに2018年1月には業界4位のミニストップが成人誌の取り扱いを止めており、遅まきながら大手もそれに従った形です。横並びでの発表がいかにも日本的ではありますが、なぜここに来てコンビニが一斉に成人誌の取り扱いを止めたのか、その理由を考えてみましょう。

表向きの理由は、女性(顧客や店員)により優しいお店にする、子どもの教育に配慮する、そして2020年に予定されている東京五輪(さらには今年開かれるラグビーW杯)に向け、訪日外国人に良い印象を持ってもらうためなどの理由が挙げられています。ですが、より大きな理由は、端的に言えば、成人誌も含めいまや雑誌はコンビニにとって儲からない(厳密に言えば、他より儲けにくい)商材だからでしょう。

コンビニにもよりますが、通常、平均的な粗利率は30%程度とされています(厳密に言えば、多くのコンビニはフランチャイズ制をとっており、また廃棄ロスや万引きロスの扱いにやや特徴があるのですが、ここではいったんそれらは捨象します)。特に粗利率の高いのは自社企画のPB品(弁当や総菜、コーヒーなど)で、売上の半分以上をPB品で叩きだすセブン-イレブンにとっては、高収益の源泉にもなっています。

一方、雑誌は通常、小売の取り分は20%程度です。日本では雑誌は買取りではなく委託販売制度が取られているため、売れなかった雑誌は返本できるのでリスクが小さいように思われがちですが、返本には手間暇もかかりますし、配送コストもコンビニ持ちです。粗利率という観点からは必ずしも雑誌は割の良い商材ではないのです。

もちろん、単価や回転数が高ければ、多少粗利率が低くても問題はないのですが、21世紀初頭には7~8%程度あったコンビニの雑誌(一部書籍も含む)の売上高比率はすでに2%を切っているとされています。これは昨今の出版不況、特に雑誌不況や、Amazonに代表される購入場所の変化が影響したものです。

その一方で、雑誌は通常、コンビニの売り場(カウンター除く)の動線の4~5%程度のスペースを占めていることが少なくありません。つまり、仮に典型的なコンビニの棚の横幅の総距離が80m程度だとしたら、雑誌はそのうち3~4m程度を占めるということです。

コンビニは基本的には坪単価あるいは棚のスペース当たりの売上が重要なビジネスです。雑誌は、スペースをとる割には売上も低く、かつ利益率も悪い商材というわけです。普通に考えれば、もっと早期に別の商材で置き換えられても仕方がなかったとも言えます。

それでも雑誌が置かれていた理由は、スーパーでは扱っていない商材で客寄せできることと、深夜に盛況感、安心感を出せることなどでした。しかしそこにも限度はあります。スペースで儲けるコンビニという業態にとって、昨今の雑誌はプラスの効果以上に貴重なスペースを無駄にしている、つまり機会費用(何かを行うことで諦めざるを得なかった他の機会)が大きくなりすぎてしまったのです。

機会費用を試算する

簡単に試算してみましょう。仮に日商60万円のコンビニで、雑誌の売上げが1.8%だとすると、売上は10,800円、粗利は2,300円程度になります。雑誌コーナーがコンビニの棚の5%を占めるとして、そのスペースを他の商品で置き換えるとどうなるでしょうか。カウンターで扱う商品の売上比率を25%程度とすると、それ以外の棚にある商品の売上げは45万円です。45万円の5%は23,000円程度、粗利率を30%とすると7,000円の粗利になります。つまり雑誌を続けることは粗利ベースで1日5,000円弱、年間で180万円程度の機会費用を発生させるのです。

「コンビニでは雑誌コーナーを止めてイートインを広くした方が儲かるし、人がいるという感じも出せていい」という流通業関係の識者もいます。事実、レイアウトを変えて雑誌スペースを削り、イートインのスペースを外から見える位置に置くコンビニが最近増えています。

今回の成人誌の取り扱い中止はこの文脈の延長線上にあります。ひょっとすると雑誌全体を止めた方がさらに収益性向上という面では効果が高い可能性もありますが、そこまで踏み切るのは一部の顧客からは不興を買うでしょうし、コンビニが社会的インフラとして機能しているという側面を考えると、簡単な判断ではなかったと考えられます。

その点、成人誌については、積極的に置く社会的な必然性が小さいことに加え、冒頭に紹介したようなプラスの側面が多々あります。成人誌を止めて別のものを置いた方が利益が上がるうえに評判もよくなるなら、そちらを選ぶのはむしろ当然の帰結でもあったのです。

常に世の中の消費動向の変化に合わせて進化してきたからこそ今のコンビニの隆盛があります。今後もコンビニのあり方は社会の縮図を反映したものとして進化していくでしょう。

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