クイーン「ボヘミアン・ラプソディ」に見る良きリーダーシップとフォロワーシップ 

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ボヘミアン
画像:YouTubeの公式予告編より

今年の終盤を飾るヒット映画となっているのが、イギリスのロックバンドであるクイーン、そしてその中でもボーカルのフレディ・マーキュリーの人生に焦点を当てた「ボヘミアン・ラプソディ」です。ボヘミアン・ラプソディはクイーンの最高の名曲であるとともに、「人を殺したんだ」という衝撃的な歌詞が、マーキュリーが偽りの自分(異性愛者として振る舞う自分)を殺したという暗喩になっているのではと指摘されています。リピーター続出と報道されている本映画ですが、筆者もすでに2回観に行きました。

ヒットの原因は、元々日本でも人気のあったクイーンと悲劇のヒーロー、マーキュリーを取り上げたことに加え、劇中音楽の良さ(音源のかなりの部分はオリジナルのクイーンのもの)、メインキャストのそっくりぶり(特にブライアン・メイは本人といっても騙されそうです)、最後のライブエイドへと向かっていくシナリオの良さなど複数挙げられます。それらが筆者のようなクイーン世代や、どこかでクイーンの曲――ドラマやCMで使われたI Was Born To Love You、スポーツの試合でよく流れるWe Are the ChampionsWe Will Rock Youなど――に触れたことがあるライトファンや若い音楽ファンに受けたからでしょう。

今回は、この映画に描かれた人間模様を題材に、リーダーシップとフォロワーシップについて考えてみます(多少、映画と史実は異なる部分もあるようですが、そこは捨象して考えます。また筆者の個人的な知識も少し加味しています)。皆がリーダーシップを発揮することもあれば、別の場面では良きフォロワーになるという、現代の効果的なチーム論につながるシーンが各所に見られたからです。

なお、念のために書いておくと、ボーカルとピアノを主に担当するのがフレディ・マーキュリー、ギタリストがブライアン・メイ、ベーシストがジョン・ディーコン、そしてドラマーがロジャー・テイラーです。

※以下、一部ネタばれを含みます

パワーの源泉からリーダーシップを考える

さて、現代のリーダーシップ論では、リーダーとは役職者だけが担う役割ではなく、誰もが学ぶことができ、状況に応じて実践すべき機能であるということが常識です。また、リーダーシップと対比されるフォロワーシップも、皆が必要に応じて発揮することが望ましいとされています。つまり、状況に応じて、誰かがリーダーシップを発揮し、その他のメンバーがフォロワーシップを発揮するという状態が臨機応変に展開していくと、チームは良いパフォーマンスを出しやすくなるのです。

まずリーダーシップから考えてみましょう。リーダーシップは学べるとはいえ、何のバックグラウンドもない人間がいきなりチームでリーダーシップを発揮することは難しいものです。やはり何かしらパワーの裏付けが必要となります。パワーにはいくつかの分け方がありますが、ここでは最も典型的な「公式の力」「個人の力」「関係性の力」の枠組みで分類してみましょう。

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まず公式の力ですが、音楽バンドゆえ、通常の組織のような上下関係はありません。公式にはリーダーが誰ということも明示されていません。もともと水平的な関係だったと言えます。メイとテイラーは、前身バンドからの生え抜きですが、それゆえに強い立場にあるというわけでもありませんでした。

関係性の力に関しては、もちろん個々人の人脈などもあったのでしょうが、それは本映画ではあまり見えてこなかったのでここではかなり簡略化しました。映画の中では、マーキュリーが「ボヘミアン・ラプソディ」を知人のラジオパーソナリティに掛け合って流してもらうシーンもありますが、彼は他のメンバーとも仲がよかったようです。

やはり注目されるのは個人の力です。通常はこの部分に差がありすぎることが(特にボーカル兼ソングライターと他のメンバーの差)、往々にしてバンドがうまくいかなくなる、最悪のケースでは崩壊に至るきっかけになります。日本ではオフコースの小田和正や、米米CLUBの石井竜也、LUNA SEAの河村隆一などがわかりやすい例でしょうか。また、スーパースターが2人いる場合も、「両雄並び立たず」になることが少なくありません。ビートルズのジョン・レノンとポール・マッカートニーはその典型です。

一方、クイーンの場合、確かにマーキュリーが頭一つ抜けた感はありますが(事実、映画の中でもそれゆえにソロ活動をし、バンドが危機に瀕するシーンが描かれます)、他のメンバーも非常に高い能力を持っており(全員がチャートインするシングル曲を書いています)、またそれぞれに得意技があったことで、お互いが補完し合い、場面に応じて各自がリーダーシップ、そしてフォロワーシップを発揮する非常に良い関係が構築されていました。

誰かが作ったイマイチの曲には他のメンバーがイマイチとはっきりと言うシーンも印象的です。一瞬喧嘩になりかけるのですが、その手前で何とか落ち着きます。この良い意味での緊張感が、クイーンの音楽性の高さにつながっていきました。

映画の中の具体的なシーンで、各メンバーがリーダーシップ、そしてフォロワーシップを発揮した典型的シーンを2つ挙げましょう。

シーン1:メンバーが口論する中で、ディーコンが「これが曲だ」と言ってマーキュリーに譜面を渡します。そしてAnother One Bites the Dust(クイーンの最大のヒット曲の1つで、そのベースのリフは音楽史上でもトップ10に入るでしょう)のベースラインを弾き始めます。メイが「それいいね!」と言うとそれまで喧嘩をしていたメンバーが一気にまとまり、曲を作り上げていきます。ディーコンは一番後にオーディションで参加したメンバーで、年齢も最年少です。そのディーコンがこのシーンではリーダーシップをとり、メイや他のメンバーが良きフォロワーシップを発揮していったのです。

シーン2:マーキュリーが遅刻した場面で、メイがWe Will Rock Youのアイデアを出し、他の2人のメンバーも一緒に実験を始めます。遅れてきたマーキュリーは、「なんだこれ?」と最初反応しつつも、曲作りに加わり、クイーンを代表する名曲が出来上がっていきます。これもフォロワーシップが印象的なシーンでした。

クリティカル・シンキングと関与度からフォロワーシップを考える

フォロワーシップにもいくつかのフレームワークがありますが、ここではロバート・ケリーの提唱したモデルで4人のメンバーのフォロワーとしての質をプロットしてみました。

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この図からもわかるように、多少の濃淡はあるものの、全員が高いフォロワーシップを発揮できることがわかります。皆がリーダーシップをとれ、また皆がフォロワーシップもとれるところが、クイーンというバンドの大きな特徴でしょう。

映画の後半で、ソロ活動でフラストレーションを溜め、他のメンバーにクイーンに戻りたいと乞うマーキュリーが次のような趣旨のセリフを残します。

「ミュンヘンでミュージシャンを雇ってレコーディングしたが、彼らは全然なっていない。ダメなところにダメと言うこともないし、フィードバックもない。言われたことをやるだけだ。自分はホーム(クイーン)に戻りたい」

つまり、マーキュリーほどの天才でも、メンバーのフォロワーシップが貧弱で、さらには状況によってリーダーシップをとってくれないようでは、良い仕事は出来ないのです。

ちなみに、グーグルの研究による「生産性の高いチームの条件」では5つの要因が指摘されていますが、その最も重要な2つは心理的安全性(多少リスクの高い突飛な行動をしても、このチームなら大丈夫だと信じられる)と相互信頼(特に他のメンバーの力を認めあっていると生産性が高くなる)です。マーキュリーはもちろん、他のメンバーにとっても、クイーンはこの条件を満たし、自分の価値を最大限に高められるクリエイティブな場だったのです。

これまでのヒエラルキー組織からチーム重視へと組織のあり方が変わっていく中で、クイーンというバンドはビジネスパーソンにとっても非常に参考になるのではないでしょうか。

(なお、本稿では書けませんでしたが、ダイバーシティとインクルージョン、アートとサイエンスの融合といった側面でもクイーンは非常に興味深いバンドです)

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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