製造業におけるアクセラレータープログラム活用のコツ

本記事は、先日行われたセミナー「製造業におけるアクセラレータープログラム活用のコツ」の内容を書き起こしたものです。実際にアクセラレータープログラムを実施したNOKの本川優樹氏と古河電気工業の阿久津剛史氏に、その難所と乗り越え方などをお話しいただきました。モデレーターはCrewwの水野智之氏とグロービスの大牧信介です。(約8000文字)

アクセラレータープログラムをする前と後

大牧:今日は、アクセラレータープログラムを実施されたNOKさん、古河電工さんに、具体的な難所や乗り越え方、工夫など掘り下げてお話いただきたいと思います。まずプログラムの企画運営の支援をされたCreww水野さん、Crewwさんの簡単な紹介の後、アクセラレーターの考え方を教えていただけますか。

水野さん

水野:当社は国内最大級のスタートアップコミュニティを運営しており、2018年11月時点で約3,900社のスタートアップが登録しています。私たちは、スタートアップの成長に必要な「ヒト(人材)」「カネ(資金)」「チャンス(成長機会)」をオープンイノベーションプログラム「crewwコラボ」、コワーキングスペース「docks」、人材サービス「Starboard」という3つの事業を通じて提供しています。

実のところ、最初からオープンイノベーションプログラムを手掛けようと思っていたわけではありません。スタートアップは、最新のテクノロジーを活用して顧客志向性・課題解決志向性に優れた製品やサービスを生み出していますが、経営資源が乏しいという理由で日の目を見ることなく消えていくものも少なくありません。資金面の援助という意味ではベンチャーキャピタルからの出資が挙げられますが、それだけでは世間の反応を見ることができません。

どうすれば世間の反応が得られ、スタートアップの成長を加速することができるのかと考えた結果、豊富な経営資源をもつ大手企業を活用し、実際に製品・サービスを検証することができれば消費者や顧客のニーズに即したアイデアにたどり着く可能性を高めることができる、大手企業側にとっても短期間で新規事業創出の足掛かりを得られるメリットがあると考えました。この仕組みをプログラム化したのが「crewwコラボ」です。

「crewwコラボ」は1バッヂ約6か月のプログラムで、私たちはそれを「ハンズオフ」で提供しています。これは、私たちが一切役割を果たさないという意味ではありません。将来的に企業が新規事業創出の取り組みに対して“自走”できるようになり、スタートアップと大手企業による協業が増え、コミュニティ自体が大きく成長することがスタートアップエコシステムの構築につながると捉えているため、あえて「ハンズオフ」の手法でファシリテートさせていただいています。

プログラムの流れは、まずcrewwのサイトに大手企業が事業提案募集ページを掲載し、最初の3カ月で「エントリー」「ブラッシュアップ」「プレゼン・ディスカッション」などを経て協業相手を決定し、後半の3ヶ月で実証実験を行います。協業に選ばれるのは1社に限らず、複数の実証実験が実現することも多く、これまで100社超の大手企業とプログラムを実施し、400件超の実績が創出されています。

スマートフォンの普及など急速なテクノロジーの変化を背景に、企業における新規事業創出の必要性が高まり、多くの大手企業がプログラムに参加し始めています。ですが正直、新規事業創出は容易なことではありません。なぜなら、消費者や顧客のニーズの変化におけるスピードが格段に高まった現代においては、かつては大手企業の強みであった「業界の常識」や「経験」が、むしろ新たなニーズを捉える際の足かせとなってしまうこともあるからです。

一方、スタートアップの製品やサービスには、最新のテクノロジーを活用し、何らかの課題解決のためにマーケットインの発想から生まれたものが多くあります。スタートアップと連携することで、消費者や顧客のニーズに即したアイデアにたどり着く可能性が高められることを理解していただくのに、一番苦心しています(笑)。

大牧:阿久津さんと本川さんにお聞きします。アクセラレータープログラムを担当されるなかで、考え方を大きく変えたこと、あるいは意識したことは何ですか。

阿久津:元々、アクセラレーターを始める前から、足かけ3年ぐらい新事業開発をやっていました。その過程で自分たちが見つけたスモールベンチャー企業さんと協業しながら事業開発をやってきた経験もあります。そうしたなかで、特にスタートアップの人たちと仕事をするには、スタートアップに関する前提知識を学ぶ必要があると気づきました。 社会的に新しい価値を創ろうとするスタートアップを応援(加速)するのがアクセラレーターの本質ですが、どうしても日本の企業はベンチャーさんに対して上から目線で見てしまう傾向があります。スタートアップと対等なパートナーとなるように、個人としても、組織としても、マインドセットを変えていく必要があると思いました。

本川:アクセラレーターでいきなり100億、200億のビジネスが生まれる、そんな大きな期待をしてなかったので、最初から今に至るまで楽しくやらせていただいています。逆に大きな期待をしていた人は、その分落ち込みが大きい。ですから、過度にスタートアップさんやCrewwさんに期待をせず「自分達でやっていくんだ」っていう気持ちがどれだけ最初あるか、というところが大切だと思っています。

アクセラレーターで新事業をつくる難しさとは?

大牧:新規事業開発の必要性からアクセラレータープログラムを導入されているわけですが、新規事業をつくっていくうえでどんな難しさがありますか。

阿久津:スタートアップの立場になると、そもそも新しい事業を生むこと自体が難しいですよね。アクセラが最近流行っていていろんな会社がやっているけれども、ノリでやったら上手くいかないと思います。新事業開発はそもそも、失敗することが多く、難しいことばかりです。「3~5年ぐらいそういう活動をしないと、なかなか結果は出てこないよ」っていう話を水野さんからもいただきました。私自身もがんばる必要があるけれど、社内外の周りの協力者が理解してくれて、一緒に走ってくれることが欠かせないと思うので、そこもがんばる必要があると思っています。

大牧:周りの人の理解・巻き込みで具体的にどんなことをされていますか。

阿久津:社内ブログで活動報告を書いているんですけど、それを見て「ああ、こんなことうちの会社でもやっているんだ」っていってファンになってくれる人は徐々に増えてきています。そのブログは「いいね」ボタンがあるんですけど、社長も「いいね」してくれたりします(笑)。

苦しいことは結構ありますが、それを伝えても「大変そうだな」ってなるから、「新事業開発って面白い」というのをできるだけ伝えようにしています。アクセラの活動だけじゃなくて、アジャイル開発のひとつのスクラムの研修に行って来た話とか、『リーンスタートアップ』などの本を読んだ気付きも交え発信しています。

本川さん

本川:アクセラレータープログラムをやりたくて「crewwコラボ」をやったわけではありません。「新規事業だけやりなさい」と言われるとすごくしんどいんです。何十年ずっとお客さんがいて事業をやっているなかで、ひとつ何か新しいことできれば、事業を作っていく小さな成功体験を社内の経験値にできれば、ということで「crewwコラボ」をやってみました。実は最初にCrewwさんに話をさせていただいてからスタートするまで1年半ぐらいかかったんです。それぐらい、社内でアクセラレーターを理解してもらうのはハードルが高かったですね。

あと、オープンイノベーションという意味では、アクセラレータープログラムに限って活動する必要はないと思ってます。弊社にとってこのアクセラレータープログラムが本当にミートしているのかどうかは、正直まだわかりません。もう少し小規模なミートアップのイベントの方が、弊社の思いとスタートアップさんの思いが合致することも正直あったりします。ですから、企業文化などを考えず、アクセラレーターにいろんなものを期待すると、すごくしんどいと思います。

スタートアップさんは自分たちで責任を持っていろんなことやられているからすごいと思います。ただ、社会に貢献する観点では利益を出し続けている会社こそがすごい。そういう意味では、製造業の果たしてきた役割、これからも果たしていかなきゃいけない役割があると思います。そういう視点に立って、スタートアップさんと一緒に何ができるかっていうのを一緒に考えるべきで、スタートアップさんと組めば何か生まれる、という期待だけするのは違うと思います。

大牧:まさにその通りで、スタートアップと議論し共創していくことが大事ですね。スタートアップを選考するプロセスで、「有名なスタートアップと組みたい」とか、「既存事業に近すぎて新規事業として面白味がなさそう」というようなことがあると思います。スタートアップとどのように新規事業の可能性を探索していくのか、その進め方や工夫があれば教えてください。

本川:まず、Crewwさんは勇気づけてくれますが、具体的な行動面でのサポートをしてくれるわけではないです。選定をしていく中で「この会社さんはこういう面が優れています」っていうコメントをいただけます。それが非常にニュートラルな評価で助かりました。あと、社内の進め方については、ただ、こういうのって前に進む力がある人を味方につければ一気に前に進むので、上から落とすっていうのは、正直あります。あまりボトムアップでやっても、製造業ゆえになかなか上手くいかないですね。

また、スタートアップさんには固有の技術があって、それは提案いただけるんですけれども、弊社みたいな地味な企業に、それがピタッと当てはまることはほぼないんですね。一緒に話をさせていただく中で、弊社が持っているもので何の役にも立たなそうなものが、スタートアップの方々から見ると何か価値があるように見えると。「それって、こういう使い方できませんか」といったディスカッションをできる方々が一定数いらっしゃいます。そういう人と知り合えて一緒にやっていきましょう、って話をできたのが一番大きかったです。純粋に自分のアイデアを提案していただいて、「いいね、採用しよう」っていうのはなかったです。

アクセラレータープログラムをどう選ぶか?

大牧:「crewwコラボ」以外で、導入前に検討した選択肢はありますか。

阿久津:実は、私はアクセラをやることが決まった後にチームにジョインしたので、アクセラレーターの選定過程でどのような比較をしたのか、知りません。かなりハンズオンをしっかりやるアクセラレーターもあれば、ほぼ放任のアクセラレーターもあるので、そこは比較してみながら自分たちに合うところを選べばいいです。Crewwさんでアクセラをやった後、他社でアクセラをやる企業もあるので、いくつか使い分けてみるのもいいのかと思います。

本川:こんな言い方してあれなんですけど、Crewwさん結構なお金かかるんですよ(笑)。その意味では、何回もやるのはハードルが高いのかなと思います。他社さんではもうちょっとコンパクトなサイズ感で、小規模な予算でできるものもあったりします。Crewwさんはプチハンズオンっていうことで、お尻を叩いてくれたりはするんですけれども、弊社の事業を深く理解して何か提案をしていただけるものではない。一方で、弊社の事業とか企業文化を理解して積極的にスタートアップさんを探すのを支援していただけるような方々もいるんですよね。

良し悪しというよりも、ハマる・ハマらないっていうのはあるんじゃないかなと思います。我々はずっと製造業のディープなサイドにいたんで、Crewwさんと一緒にやらせていて「目から鱗」みたいなところもありましたし、僕自身も軟らかくなったので、勉強できたことは多かったです。

大牧:水野さんは、提供側として見られていかがですか。

水野:私たちはそもそも当社の「crewwコラボ」をスタートアップの成長に必要な手段の1つとしてとらえているため、他社と比較していないません。なぜなら、繰り返しになりますが、将来的に企業が新規事業創出の取り組みに対して“自走”することが出来るようになり、スタートアップと大手企業による協業が増えることが、ひいてはスタートアップエコシステムの構築につながり日本経済の発展につながると考えているので、あえて「ハンズオフ」の手法でファシリテートさせていただいています。結果、大手企業にとってもハッピーになっていただくという理論に基づいているんです。

ただ、「crewwコラボ」を実施いただいた大手企業の方に自信をもってお伝えできることは、当社のプログラムを実施していなければ、100%出会うことがなかったスタートアップに出逢った結果、新規事業が生まれ始めているという事実があるということです。自社の経営資源や技術をスタートアップの持つマーケットインの発想から捉えなおすことによって、消費者や顧客のニーズに即したアイデアにたどり着く可能性を高めることができるという発想に至った結果、生まれているんですね。

ですから、色々なものを試していただくことも1つだと思っています。実際、当社とプログラムを実施したのち、他社のプログラムを実施している企業もいらっしゃいます。どのアクセラレーターを実施するかよりも、「新規事業創出に関するノウハウの共有」が自然にできる世の中になることが一番重要であると念頭に置いています。

大牧:Crewwさんはハンズオフでどんどん使ってください、必要に応じてハンズオンをやりますっていう思想ですよね。そういう意味で、Creww×グロービスで提供しているプログラムでは、ハンズオンの部分を伴走させていただく補完関係になっています。グロービスのアプローチは、デザイン思考やリーンスタートアップの方法論をベースに新事業を創っていっていただきます。そうやって何度か回して、自走できる、再現性の高い組織づくりを目指しています。

アクセラレータープログラムをどう評価するか?

阿久津さん

大牧:アクセラの成果の定義はどのように考えられていますか。新規事業の評価指標、KPIなどがあれば教えてください。

阿久津:これは、「そもそも、なぜアクセラや新規事業開発をやるのか」というところに行き着くと思います。新規事業の方向性によって評価指標を考えるものなので、会社によって千差万別だと思います。スタートアップの選定においては、弊社の場合、スタートアップの事業、コラボのアイデアの面白さと、エントリーしてくださった経営者の本気度を基準として、「この人なら一緒にやれそうだ」という感覚を大事にして決めました。

本川:実証実験に進むかどうかは、社内で一番新規事業に知見のある役員に判断してもらいました。最終的にアクセラレーターが成功だったかどうかは、実際に事業化できて、利益がちゃんと出て、継続的な仕事ができて、社員の雇用が維持できたときにはじめてわかると思います。それ以外のところで短期で無理矢理「効果が出た」って言うためには、「社員のモチベーションが上がった」とか、「新しい発想力がついた」っていうようなところを、評価の指標にしている部分があります。

水野: 一応、プログラムを実施いただく最初の段階で当社から指標をいくつかお渡しします。使うか使わないかはお任せしていますが、「何をもってこのアクセラレーターを成功とするか」「何をもって新規事業というのか」を全て言語化する必要があり、それは実施企業によって全然違います。

1つ言えることとしては、減点方式よりも加点方式を採用しないと絶対に新事業は生まれないということです。スタートアップと大手企業の思考において決定的に違う点は、「リスク」についての考え方だと考えています。これは、双方が持つ「基盤」の差によるもので、スタートアップにとっては、「何もしないこと」が会社の死期を刻一刻と迎えるのに等しいことに対して、大手企業は、「何かをすること」による失敗が基盤を毀損する可能性があるという思考の差からきているものだと思います。

ですから、多くの大手企業の場合は「これがダメ」「あれがダメ」という風に減点方式で作業し、結果、減点が多いほどチャンスを落とすということになりがちです。全く手掛けたことのない新規事業に関しては、正解がわからないのでそうせざるを得ないというところもありますが、指標がないので加点をしていくしか方法はありません。「面白さ」「経営者のパッション」「新規性」など、どんどん加点していき、最終的に「面白そうだな」と強く思えるスタートアップをぜひ選んでください。

大牧:新規事業の評価に関しては、既存事業とは切り離して基準や意思決定のプロセスを作る必要がありますね。その基準の作り方は各企業の状態やトップの意向によるかなと思います。各企業の経営環境やトップの方針次第のところがありますが、リスクを許容しながら加点方式という話もありますし、先ほどお話いただいた「社内のモチベーションが上がった」とか、「今までにないヒント・示唆が得られる」など、組織への刺激剤として位置づけるなどがありそうです。

最後にお聞きしたいのが、新規事業の範囲について。既存事業との距離感、どれぐらい飛び地なのか、飛び地の定義をどのようにされているのか教えていただけますか。自社としては新規だけども、世の中的にはある程度できあがっている産業に入っていくような新規事業なのか、これから時間をかけて新産業を創っていこうというぐらい飛び地なのか。

本川:「どこまで飛ぶのは許されて、どこからはダメなんだ?」は、やっぱり社内でも議論になりました。その中で出たのが、「日本から南半球の南極まで飛ぶのはダメだ」と(会場笑)。「ただし、ASEAN地域とか、オーストラリア、インドネシアぐらいまでだったらいいよ」と。だけど、本当にそのとおり。何が言いたいかというと、飛んでいくのは人が住める所、つまり、少なくとも弊社が活躍できる所である必要があると。

例えば、「音声認識AIを自動車向けにカスタマイズして新しいビジネスを…」って一生懸命考えたんですが、弊社のお客様である自動車メーカーさんをお客さんとしてスタートアップに紹介することはできるけれども、弊社がそのアイデアに対して技術的、事業的に付加価値を付けることはできない。そういう意味で、これは南極なんだと思います。このスタートアップさんがいなくなった瞬間に死んじゃうので、それは飛び地として許されない。ゆえに、現時点では、「自社のリソースを使ってちゃんと活動できる範囲を飛び地としましょう」となりました。

阿久津:弊社の事業は、「物理層」と「インフラ」の2軸でマトリクス図を描いたときに両方に当てはまる領域に該当します。物理層ではなくサービス層(非物理層)で、かつ非インフラの領域はちょっと難しいかと思います。ただ、できるだけ今よりもちょっと遠い所で、面白そう、やれそうな所を選ぶことを意識しました。意図的に離れている所を選ぶと、周りの人たちから「本当に上手くいくのか」「本当に古河電工の価値を出せるのか」と、疑問視される面はありますが、「むしろわからないところをやろう」としてテーマ選定をしたことは、事務局としての意思です。見える所だけやっていたら、見えない所が見えないままになってしまうと思います。

大牧:今日はどうもありがとうございました。

4

RELATED CONTENTS