『センスのいらない経営』―――テクノロジー時代の新しい経営と生き方を考える 

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センステクノロジーの進化は、止まるところを知らない。テクノロジーは、経営をどう変えていくのだろうか?技術がもたらす急激な変化に対して、不安ばかりが高まり、具体的な未来像はなかなか見えてこない。

本書では、このような関心に、若くして成功した起業家が自分の体験に基づいて答えている。著者は、テクノロジースタートアップであるグノシーの創業者だ。同社は、著者が大学院在学中に開発したサービスを元に、2012年11月に創業した。それからわずか2年半でマザーズ上場を果たし、さらに東証一部へ市場変更を果たしている。同社のスマートフォンアプリ「グノシー」は、人工知能で個人の嗜好に最適化した情報配信を行い、2400万以上のダウンロード数を達成。著者は、まさにテクノロジー時代に脚光を浴びる若手経営者の代表だろう。本書の帯には、「経験」や「直感」はいらない、「プロ経営者」はいらない、「正しい判断」はいらない、と刺激的な主張が並ぶ。

本書の内容は、5章からなる。1章は、最近の技術動向を取り上げ、その本質である「再現性」を説明する。「再現性」とは、経験や勘(いわゆる「センス」)に頼らず、誰でも同じクオリティを実現し無限にコピーできることである。質の高い仕事が「再現性」高く自動化されることで、人はそれを手放し新しくより高い次元の価値を探索できる。これからは、人間の「センス」の問題だった仕事が、テクノロジーによってどんどん解放されていく。それこそが、テクノロジーが世の中を変える本質だと主張する。

2章では、グノシーのサービスで使われる人工知能の意味を分かりやすく解説する。そこで著者は、単なる人工知能礼賛ではなく、人工知能の強みと弱みをよく分かった上で、人間と機械の役割を掛け合わせるべき、と主張する。続く3-4章では、自身の起業ストーリーを軸に、グノシーの戦略と組織を織り交ぜて、テクノロジー時代の企業・個人に必要な考え方をあぶり出す。ここでのキーワードは、「やりたいこと」(個人の信念・企業理念・社会課題解決が調和することの必要性)、そして「不確実」さ(データと実験・スピード・手数の多さがもたらす圧倒的優位性)である。最後に5章は、「エンジニア的人材」をキーワードに、これからの時代を生きる個人のキャリア論を説く。

本書のタイトル「センスのいらない経営」は、普通の読者にとって、一見おかしなものに見えるかも知れない。これまでの常識では、カリスマ経営者に注目が集まることに象徴されるように、経営にはデータ化できない属人的な経験や勘が重要と考えられてきたからである。また機械が仮に有用だとしても、「センスがいらない」とまで言い切れるのかは、議論があるかも知れない。なぜなら、人工知能が進化したからと言って、十分なデータが使える範囲は現実にはまだまだ限定的なためである。完全に「センス」がゼロになったら、経営も組織オペレーションも成り立たないのではないか。また、使えるデータが十分蓄積したとしても、結局それをどう使って人間と機械の効果的なコラボを実現するかは、まさに人間の「センス」ではないのか。

読み手の頭にはこうした疑問が浮かぶかも知れない。だが本書の内容をよく考えると、それは言葉の定義や時間軸の問題であることに気づかされる。本書のポイントは、その担い手が人間であれ機械であれ、バイアスにとらわれず現実を検証し続け、走りながら修正して最適化を維持する仕組みの重要性である。そして技術は進化するため、どの程度それを機械が担えるか、範囲は刻々広がり変わっていく。人間か機械かの二択ではなく、それらが協働して価値を生む時代の考え方を本書は説いている。

その意味で、本書は読者に2つのアクションを促しているとも考えられる。

第1に、「センス」のいらない経営の範囲を広げていくこと。具体的には、単純作業や、データが既に十分ある判断をそれが得意な機械に任せる。それによって、人間はまだ自動化できない高度な価値創造や、データが十分に無い意思決定に集中できる。

第2に、人間と機械の協働で浮き彫りになる、新しい意味での「センス」を高めていくこと。具体的には、技術と組織を俯瞰して捉え、その時々で最適な人と機械の協働の領域とやり方をデザインする。さらに、これまで時間を取られていた業務が自動化されれば、残った高付加価値な業務と意思決定の質をどう高めていくのか、人間の真価が言い訳無しで従来以上に真剣に問われることになるだろう。

本書は、簡潔で分かりやすく、短時間でさっと読める。教科書的に体系立った説明はないが、今年30歳の起業家が体現する、時代のエネルギーとヒントが散りばめられている。同世代の若手ビジネスパーソンにとっては、新世代のキャリア論としても参考になるメッセージが多いだろう。一方でミドル層以上にとっては、本書は単なる経営論というよりも、こうした「新しい常識」を生き生きと感じる意味でも、刺激をもらえる体験になるだろう。

『センスのいらない経営』
福島 良典(著)、総合法令出版
1,512円

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