『自問力のリーダーシップ』から「率先垂範と実行の後押し」を紹介します。
リーダーとして計画を実行していく際に、率先垂範することで見本を見せようという人は少なくありません。ただ、自分が得意なことに偏っていたり、良き行動規範につながらないなら問題です。「何をどのように率先垂範するのか」にはしっかり注意を払いましょう。
もう1つ大事なのはフォロワーに望ましい当事者意識をもってもらうことです。これは単なる指示、命令では実現しません。その仕事を自分事と感じてもらい、意義をしっかり腹落ちしてもらうことが大事です。多くのリーダーは忙しいせいか、この部分をサボってしまいがちです。また、時として厳しいフィードバックが必要になりますが、それを好んでできる人間は少ないものです。だからこそ、愛情を込めた厳しいフィードバックをできる人間が「できるリーダー」として一目置かれるようになるのです。
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(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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計画を実行、成果を出す際には、(1)資源調達と役割・責任の付与、(2)率先垂範と実行の後押し、(3)決断力と柔軟性の3つが求められます。ここでは、(2)率先垂範と実行の後押しについてそのポイントを解説します。
率先垂範と実行の後押し
山本五十六大将の有名な言葉に、「やってみせ、言ってきかせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」があります。率先垂範とコーチングの重要性を端的に示した名言と言えるでしょう。本パートでは、率先垂範、コーチング、そしてフォローのあり方について、望ましいやり方を考えてみましょう。
●率先垂範
率先垂範については、皆が易きに流れて避けがちな仕事や困難な仕事ほど、自ら先陣を切って行うことが必要です。火中の栗を拾い、自らチャレンジしていくと言い換えてもいいかもしれません。やればできるということをスタッフに示すことは、皆の自信にもつながります。結果として、リーダーに対する信頼を深めてもらえるという効果もあるでしょう。
率先垂範にあたっては、自分の行動が組織文化を醸成するという視点も忘れてはなりません。スタッフはリーダーの背中を見て行動するからです。逆に言えば、組織に根づかせたい行動規範を念頭に置きつつ、自ら行動することが肝要です。
次にコーチングですが、これは部下に任せること、つまり責任を持たせることを前提にしています。任せる側のリーダーには、自らの結果責任への覚悟を持ちつつ、任せた相手に対しては執行責任をしっかり自覚させる説明能力も必要となります。任せた相手の当事者意識を刺激しつつ、フォローし、コーチし、成果を出させ、育成を図る具体的行動が求められます。一般的なコーチングの技術論は他の書籍に譲り、ここでは、いかに当事者意識を持たせるかに絞ってご説明しましょう。
●当事者意識を高める
当事者意識とは、「組織の問題を自らの問題としてとらえ、自律的かつ本気で知恵を出し、問題発見や問題解決に向けて本気で行動しようとする意識」のことです。「自らの」と「本気で」がキーワードです。
当事者意識があれば、指図がなくても各人が自分で考え、動けるため、経営のスピードが上がります。また本気になって考え、行動していますから、アウトプットの質と成功の確率も高まります。メンバーの当事者意識を高めることは、おのずとエンパワーメント経営につながります。経営の質を高める特効薬と言えるでしょう。
では、どうすれば当事者意識を高められるのでしょうか。私は、責任を自覚させる早道は、「責任を全うするということは、その仕事の目的・意義をどうとらえたうえで、何をどうすることなのか」をとことん考えさせ、本人自らの言葉で語れるように導くことだと考えています。あるべき行動を動画イメージで認識できるようになると、人間はそれを実践するにふさわしくありたいと望み、行動する意識が高まるからです。
「お前は何がしたいんだ」と常に問い続けることが、リーダーの重要な仕事だと言われますが、これには一理あります。本人に一人称で考えさせ続けることによって、人間が根源的に持っている主体性や、やりたいという動機に火をつけ、当事者意識を引き出すことが可能となるのです。
もう一つ、当事者意識を高めるコツは、逃げずに相手と対峙し、率直なフィードバックを行うことです。それを機に、人は自分自身を見直し、新たな挑戦を行えるようになるからです。
率直なフィードバックというのは往々にして相手にとって厳しい内容を含むものです。ですから、時に伝えることを躊躇しがちです。でもリーダーは率直であるべきなのです。私は、「結果として嫌われても構わない」というリーダー自身に関わる覚悟以上に、「いま、伝えないと彼/彼女は駄目になる」という相手に対する思いや愛情が重要だと思います。それがなければリーダーの本心は相手には伝わらないでしょう。
●部分最適の「狭い当事者意識」を排除する
さて、当事者意識を引き出して仕事を任せることができたとしても、それが、任せた(一定の)範囲で閉じてしまう「狭い当事者意識」であっては組織にとっては逆効果です。狭い当事者意識とは、日常接点を持つ同僚たちとの間でのみ通用する「部分最適」でよしとしてしまう意識です。
こうした状態を放っておくと、全体を見ない「個人事業主」が組織の至る所に出没しかねません。部分最適で満足した個人事業主の寄り合い所帯では、組織の真の競争力は高まらないのです。また、狭い範囲に閉じた役割に上限を定めてしまうことは、個人の持つポテンシャルを顕在化させないことにもつながります。本人にとっても組織にとっても、実に大きな損失と言えるでしょう。
そうした事態を回避するには、部下に経営全体の情報に触れさせることが有効です。自分の仕事の意義を全体の中で見て、それが組織にとって、どんな意味合いを持つのかを考えさせることです。視座を高め、視野を広げさせると言い換えてもいいでしょう。そのために、私はしばしば以下のような質問を用いています。
・あなたが私の立場だったら、どう考えただろう。社長だったら、どう考えたと思うか
・あなたのそうした行動は、他の部門の人間にどのように映っているか
・お客さんから見たとき、それは重要なことなのか
もう一つ効果的なやり方として、組織全体の視点から、仕事への期待をうまく翻訳して伝えてあげるという方法もあります。たとえば「全社にとって新たな顧客開拓の試金石として意義のあるこの仕事で、君が大いに貢献してくれることをあてにしている。頼むぞ」といった具合です。こうした期待感をリーダーの口からしっかり伝えることは、一段高い当事者意識を引き出すトリガー(引き金)となるでしょう。
(本項担当執筆者:鎌田英治 グロービス経営大学院教員)
<グロービス経営大学院では、戦略実行に向けたリーダーのありかたを学ぶ講座「組織行動とリーダーシップ」を用意しています>
『自問力のリーダーシップ』
鎌田英治(著)、ダイヤモンド社
1,728円