先日、アメリカのゼネラル・エレクトリック社(GE)がダウ工業株30種平均(ダウ平均)の構成銘柄から外されたとのニュースが話題となりました。注目を集めた理由は、1896年から続くダウ平均の歴史の中で、GEは最後の「算出当初からの構成銘柄」、いわばオリジナル・メンバーだったからです。
ダウ平均とは
ダウ平均とは、『ウォールストリート・ジャーナル』などで有名な経済系通信・出版社のダウ・ジョーンズ社が、自社メディアに掲載するコンテンツとして集計した指標です。創業メンバーの1人であるチャールズ・ダウは、株式市場の全体的な動向を示す指標があれば、株式投資家にとって非常に有益だというアイデアを持っていました。
当初の12銘柄は以下の通りで、タバコ、綿花や鉱業など、19世紀末当時、取引が活発だった産業がうかがえます(銀行や保険会社等は、当時上場していませんでした)。
構成銘柄数が現行の30社になったのは1928年、時代を反映して銘柄は随時入れ替えられてきました。この30銘柄は「ブルーチップ」とも呼ばれ、アメリカの株式市場を正に代表する優良銘柄です。GEは100年以上にわたってこの座を守ってきたわけですが、近時の株価低迷などによりとうとう除外されることになったのは、アメリカの産業構造の変化を象徴する出来事と言えるでしょう。
GEより前に、鉄鋼業や自動車製造業も姿を消しています。日本語ではダウ「工業株」平均と呼ばれますが原語ではIndustrial Averageで、エクソン・モービル(石油)、スリーエム(化学)、メルク(医薬品)、キャタピラー(重機)といった工業だけでなく、マイクロソフト(ソフトウェア)、マクドナルド(外食)、アメリカン・エクスプレス(金融)、ウォルト・ディズニー(娯楽サービス)などの第三次産業も含め、輸送業と公益事業を除く全ての業種をカバーしています。現行の30社は以下の通りです。
ダウ平均の算出方法
このダウ平均の算出方法は実は単純で、30社の株価を足して、ある数で割っているだけです(この「ある数」は除数と呼ばれ、代々調整されてきています)。これは、各社の株価の値動きはある程度は相互に独立であり、株式市場全体における業種の構成比を30社が概ね反映したものであれば、それを単純平均することで景気全体、相場全体の状態、傾向が掴めるという考え方に基づいています。
もっとも、この方法の1つの欠点は、30社のうち株価が高い会社と安い会社の差があまり大きくなると、高い会社の値動きの影響を過剰に受ける(安い会社の値動きの影響が過小になる)点です。現に、アマゾンやグーグルなどは「代表的な銘柄」という意味では資格十分ですが、現状では株価が他社に比べて高すぎるためにダウ平均への採用は見送られています。
ダウ平均とS&P500の違い
株価指数には、別の方法で算出されたものもあります。代表的なものはS&P 500で、こちらは株式時価総額の大きいものから選ばれた500社で構成されています。そして、500社の株価を単に足して割るのではなく、時価総額(株価に発行済株式総数を掛けた値)で加重平均されている点が、ダウ平均との大きな違いです。時価総額で加重平均するということは、その背景に、株式市場全体の傾向を捉えるには時価総額の大きい株式の動向の寄与度が大きい(小さい株式は寄与度が小さい)という考え方があります。
株式市場の動きを指数としていかに上手く反映させるかという観点でみると、ダウ平均に対してS&P 500の優勢は明らかです。そもそも構成銘柄数が、ダウ平均の30社に対して500社ですから、株式市場全体を網羅する度合もS&P 500の方が相当大きいと言えます。そして、投資家の投資の仕方も、一社一社今後の業績の予想をして買ったり売ったりするよりも、時価総額の大きさに比例してある意味機械的に売買する度合が大きくなってきています。
しかし、世の中で株価について語られるとき、参照されることが多いのはダウ平均なのが実情です。コンピュータ普及前の時代では、ダウ平均のほうが計算が圧倒的に楽だから、という理由がありました。S&P 500もリアルタイムで瞬時に計算できるようになり、その理由は消滅して久しいものがありますが、長年染み付いたブランド力はなかなか落ちないようです。