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「D」esign(Business component & design with a big 「D」)でビジネスデザインする

投稿日:2018/05/09更新日:2019/08/08

前回は環境の「潮目」の変化とビジネスデザインの必要性を示しました。今回は、そもそもビジネスデザインとは何なのか、「ビジネス」と「デザイン」に分けて考えたうえで、どのように統合していくべきなのかを示していきます。

「ビジネス」のとらえ方

第1回のタイトルに「なぜ従来型MBAだけではダメなのか?」と書きました。これは「必要ない」と言っているのではなく、MBA的なスキルセットは最低限必要ということです。ビジネスに必要な資源として代表的なのが、ヒト・モノ・カネの要素であり、良い戦略ほど「なるほど!これはやれそうだ!よし、皆でやってみよう! 」と思える点が揃っています。なるほど感を生むためには、土台となる論理思考力とマーケティングや経営戦略といった「モノの論理性」が必要となります。

しかし、この「なるほど!」と唸るような提案は定性的であり、それだけでは意思決定ができません。そこで、やれそうだ感を生むための「カネの実現性」が必要となります。投資の回収や中長期の収益計画など定量的に証明することが必要です。これだけでも骨の折れる作業ですが、さらに必要なことは、机上の空論で終わらせず、実行に移すことです。実行のためには、提案者が叫ぶだけでなく、関連する社員を巻き込むリーダーシップや組織構造・人材マネジメントという「ヒトの納得性」が必要となります。

なお、MBA的なビジネススキルのコンポーネントに関しては既に多くの書籍が出ているため、ここでは割愛します(グロービスのMBAシリーズなどはその典型です)。

「デザイン」のとらえ方

「デザイン」と聞いて我々が最初にイメージするのは、プロダクト・グラフィック・ロゴ・webサイト・アプリのUIデザインといった、いわゆる「装飾」としてのデザインではないでしょうか。もちろんこれら個別の「アウトプットとしてのデザイン」も大事な要素ですが、あくまでも個別のアウトプットなので、小文字の「d」で構成されるdesign(design with a small "d")と呼ぶべきでしょう。

ただし、小文字の「d」の専門家であるデザイナーに学ぶところは多いのです。認知科学者のドナルド・ノーマンは、著書『誰のためのデザイン?』(増補・改訂版)で以下のように言っています。

技術者とビジネスの人々は問題を解決するように訓練を受けている
デザイナーは本当の問題を発見するように訓練を受けている
間違った問題への見事な解決は、まったく解決がないよりもたちが悪いものになりかねない。
正しい問題を解こう

言い方を変えると、マネジメントは過去と現在に立脚して、将来を予測する訓練を受けています。予算計画で重視されるのはもっぱらこの点です。これとは対照的にデザイナーは、過去と決別する訓練を受けているのです。

デザイナーというと、奇抜なデザインを描く・つくる人と考えている人が多いですが、デザイナーの本分とは、正しい問題を定義することにあります。結果的に従来の枠を外し、新しいクリエイティブなアイデアを生み出し、感動を生む活動なのです。今ある問題を疑い、再定義することが、デザインの本質であり、人がどんなところに心地よさを感じるかを徹底的に考えてdesignしているのです。

デザインという創造的なスキルについては、苦手意識を持っている日本人が多いのが実情です。興味深いレポート結果があります。アドビシステムズ社のクリエイティビティに関する世界的な意識調査「STATE OF CREATE: 2016」によると、世界的にも日本は創造力(=クリエイティビティ)が高い人たちである、という結果が出ています。一方で、クリエイティビティの自己認識度としては最下位となっています。

ここからの示唆は、「本来クリエイティブな人々なのに、自分達は認識していない」ということです。(日本語でこの記事を読んでいる大半の日本人は)もっと自らのクリエイティビティに自信を持つべきなのです。

実際に、個別の技術やデザインというのはグローバルで競争力を持っているとも言われます。Cool Japanと言われるアニメ・漫画・映画などは十分に世界で戦えているでしょう。しかしながら、世界における日本のパフォーマンスが上がらない理由は、個々の創造性が強くても、ビジネスのデザインが拙くて失敗しているからなのです。例えば、パソコンのOS、携帯電話、電気自動車の充電方式、デジタルミュージックプレイヤー、電子書籍端末など、多くの業界でデファクト(世界標準)を他国に取られています。

これらのクリエイティビティに富んだデザイナー達の仕事は戦術的役割で活用されていたので、デザインによって生み出される価値は限定的でしたが、いまビジネスにおいて求められているのはデザイナーの思考を取り入れた戦略的役割なのです。それがビジネスパーソンにおける「今後のデザイン」のとらえ方なのです。

ビジネス+デザインとは何か?

繰り返しますが、「ビジネスのとらえ方」で述べたMBAビジネススキルは最低限必要です。しかし、過去の研究成果は公知であり、誰もが同じ条件で手にすることができます。つまり、自分だけが特別な武器を持ち、戦えるわけではないのです。

ビジネスデザインとは、ビジネスのためのリサーチ、アイデア、コンセプト、ビジネスモデル、ブランド、ユーザーエクスペリエンス、オペレーション、マネタイズ、リソース(ヒト・モノ・カネや知財、ノウハウなど)、組織、といったビジネスに必要とされるコンポーネントをDesign(調達やコントロール)することを言います。

戦略的役割とともに実行可能性の高いサービスやプロダクトをDesignしていくためには、デザイナーの感性やクリエイティビティ("d"esign)が必要とされます。つまり、大文字の"D"で構成される"D"esign(Business component & design with a big "D")で、感性、論理性、実現性、納得性のバランスを取っていくことが必要になってくるのです。

ビジネスデザインに優れた企業タイプ

ビジネスデザインの観点で優れた企業には3つのタイプがあります。

1) 経営TOPがクリエイティビティを具備したデザイナーである企業
Appleのスティーブ・ジョブス氏が代表的な事例です。他にもダイソンを創業したジェームズ・ダイソン氏、ヴァージン・グループのリチャード・ブランソン氏が当てはまります。ウォークマンを開発した頃、"Japan as Number One"と言わしめたソニー創業者の一人である盛田昭夫氏も外せません。

2) 外部のクリエイティブディレクターを企業の要職に据えている企業
ユニクロのフリースがヒットするきっかけとなった1999年のCMを手がけた元・米ワイデン+ケネディのクリエイター、ジョン・C・ジェイ氏は、2014年に正式にファーストリテイリングのグローバルクリエイティブ統括に就任しています。それ以外でも、楽天グループやホンダを手がけている佐藤可士和氏や、自然派食品宅配のオイシックスドット大地のクリエイティブディレクターの水野学氏なども、外部クリエイターを招聘しているケースです。

3) TOP直轄で治外法権的な組織を有する企業
サムスンは約20年前までは安価な電子機器をつくるメーカーでした。経営陣の関心事は価格、スピード、性能であり、マーケターの調査がエンジニアに降り、最後にデザイナーが装飾を施すという流れが一般的でした。ところが、1996年を境にイ・ゴンヒ会長がデザイン重視の文化改革に乗り出し、同社のイノベーションの欠如を改善するにはデザインの専門知識が必要と説き、デザイン組織を作り上げました。一流の専門家を外部に求める選択肢もありましたが、「自社の長期的な利益に焦点をあてられるような社内デザイナーを育成する」という考えに至りました。単純に権限を与えるのではなく、デザイナーの役割にエンジニア的な思考を取り入れ、組織全体をリードすることができたことが、その後の飛躍の要因でもあります。

上記のパターンに当てはまらなくても、諦める必要はありません。クリエイティブな将来像を描き、それに賭けてみるように意思決定者を説得したいと思うなら、経営者の思考回路に合わせれば良いのです。名を捨てて実を取るという柔軟性も持ち合わせる必要があります。論理性・実現性・納得性という、受け入れやすい思考回路に潜入し、両者の認識のギャップを埋め、支持者に変えていくのです。その際に役立つのが、デザイナーが得意とする「可視化」の手法です。紙面や言葉だけで伝えるのではなく、プロトタイプでリアルに見せることで納得感を得ることができるのです。

上記のサムスンがデザインドリブンの組織になる過程での話ですが、デザイナーの一部が、知識労働者がメモやスケジュール管理のために財布サイズの手帳を常用していることにインサイトを見出しました。当時4インチのスマホと9インチのタブレットでは、彼らの潜在的なニーズを満たせないため、新たなプラットフォームが必要だと考えました。そこで5.5インチ&ペン入力機能付きというコンセプトを提案しましたが、ディスプレイが5インチを超えるスマホは当時の市場の常識からはありえないという結論でした。市場にイノベーションを起こすという目的は同じですが、個別のプロダクトに関しては常識を超えることができないでいました。ありがちな「総論賛成、各論反対」という状態です。

そこでデザイナー達がやったことは、後に広く模倣されることになる「スマートカバー」のプロトタイプ製作であり、カバーをつけることによって「手帳」らしい外見となり、それを使用するビジネスパーソンのイメージ(手帳にメモを取る)を実物で表現しました。「そういう目で見れば、それほど大きく感じないな」と体感させることができたのです。これがギャラクシーノートのヒットを生み、ファブレットというカテゴリーまでつくってしまったのです。

以上のように、ビジネスをデザインするには、従来のビジネススキルで頭に訴えるだけでなく、五感(視・聴・嗅・味・触)の感覚をフルに活用していく必要があるのです。

新規事業はThe Long And Winding Road

新たな事業をビジネスデザインする旅は、The Long And Winding Road(長く曲がりくねった道)そのものです。様々なビジネススキル、またデザインシンキングのコンポーネントで構成される双六(すごろく)とも言えるでしょう。どの要素を踏み、飛ばし、組み合わせていくかは事業内容によりますが、次回はこの双六の全体像を示し、その組み合わせや順序を考えていきます。

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  • 長尾 景紀

    グロービス経営大学院 教員

    早稲田大学大学院商学研究科修了(Technology Management) 大手広告会社にて、流通・食品業界のマーケティングを経験後、新規事業のビジネスモデル構築を行う。その後、研究開発型ベンチャーに参画(COO)し、食品保存技術の研究開発、特許戦略、チャネル構築、資本政策、など企業経営に携わる。同時にグループ企業において飲食店、ワインスクールの経営も行う。その後はグロービスに参画し、企業の人材育成支援、大学院の教材開発、講師の育成に従事し、経営大学院においては、経営戦略・マーケティング・デザインシンキング・ベンチャー戦略領域の講座を担当。 現在は、株式会社Naked Bulbの代表取締役として、新規事業・スタートアップのコンサルティング、エンジェル投資家としてスタートアップのインキュベーション事業を展開する。

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