『選択の科学』――思い込みをなくし選択肢を創造せよ 

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人生は「選択」「偶然」「運命」の3つから成り立っている。この中で、自分の意思でコントロールできるのは選択だけだ。従い、人生をより良く生きようと思えば、選択の質を高めることが大切になる。本書は、その選択という行為について、20年以上に渡る実証実験を重ねて書かれた本だ。

著者のシーナ・アイエンガーはコロンビア・ビジネススクールの教授で、NHKの「白熱教室」で講義模様が放送されたためご存知の方も多いだろう。彼女はインドから移民した厳格なシーク教徒の家庭で育ち、食べ物や服装、結婚相手などは自分で自由に決めるものではないと思っていた。さらに、目の疾患で高校時代には完全に視力を失った。だから人生は、自分の意思を超えた出来事の重なりと捉えていた。そんな彼女にとって、アメリカの学校生活で経験した「自分のことは自分で決めるのが当たり前」という思想は大きな衝撃であり、その力強さに魅了され、人生を「選択」という文脈の中で考えるようになったそうだ。

思い込みをなくす

さて、選択の質を高めるために大事なことは何だろうか。本書を通じて、私が大切だと思った2つのポイントをご紹介したい。1つ目は、やや逆説的になるが、選択という行為を、絶対的な価値があると無意識に捉えないこと。なぜなら、私たちには選択に対する「思い込み」を持つ傾向があるからだ。

まず、「選択があること」が必ずしも良いとは限らない。例えばインドでは、75%がお見合い結婚を選ぶ。日本人の感覚からすると恋愛結婚が当たり前だし、その方が幸せな生活を送れると思ってしまう。しかし、結婚後の幸福度調査によると、恋愛結婚をした人は時間の経過とともに幸福度は下がり、逆にお見合い結婚をした人の幸福度は上がっていく傾向がみられるという。つまり、恋愛結婚とお見合い結婚のどちらが良い/悪いということはなく、属する社会の価値観や宗教等によって、選択の仕方が異なるだけなのだ。

また「選択肢の数が多い」ことが必ずしも良いとも限らない。本書を一躍有名にした実験結果に「買い物客とジャムの研究」がある。24種類を揃えた売り場と、6種類に絞ったジャムの売り場で比較実験すると、前者は後者の10分の1の売り上げしか上がらなかった。つまり、選択肢が多すぎることは混乱を引き起こし、購買という選択に至らないのだ。

このほかにも、心理学における意思決定バイアスなど、私たちの選択を無自覚的に左右する興味深い要因が多数紹介されている。詳しくは本書をお読み頂きたい。

選択肢を創造する

2つ目は、選択肢を自ら「創造」していくことだ。目の前にある選択肢から、思い込みを避けて適切に、後悔しないように選択することは重要だ。しかし、目の前の選択肢は果たして自分にとって本当に意味ある選択肢なのだろうか。つまり、選択という行為以前に、自分の可能性を押し広げる、人生を豊かにしていくための選択肢を「自ら創造する力」も、選択の質を高めるために大切ではないだろうか。

では、どうすれば創造力が高まるのか。それは「将来どうなりたいか?」「何を目指すのか?」という未来をまず問い続け、イメージすることではないだろうか。私は社会人教育に携わっているが、自らの仕事の意義・本質を改めて問い直してみると、人生や仕事における「選択肢」を創造する力を高める手伝いをしていることにほかならないと気づいた。研修では、将来について考える場を作る。「社会をどうしていきたいのか?」「自分の所属する会社・事業の存在意義とは何か?」「自分自身はどうなりたいのか?」等々。これらの問いに真剣に向き合い続け、そして実現するためのビジネススキル(武器)も磨くことで、未来への選択肢がぐっと広がっていく。言い換えると、私の仕事は人の可能性を広げていくことなのだ。

ただし、人の可能性に絶対の解はない。どんな選択肢を創造し、何を選択するのかは人によって異なるだろうし、同じ人でも状況によって変わるかもしれない。本書の題名は『選択の科学』だが、原題は『The Art of Choosing』。科学ではなく芸術である。芸術の意味を辞書で引くと、「独自の価値を創造しようとする人間固有の活動」。つまり選択とは、人生という自分だけの芸術作品を創り上げていく行為そのものといえよう。

一度だけの人生。皆さんはどんな人生(作品)を創り上げていくのか。どんな選択肢を創造し、どんな選択をしていきたいのだろうか。本書を読んで考えてみてはいかがだろうか。

『選択の科学』
シーナ・アイエンガー(著)
文芸春秋
1749円

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