2017年のノーベル経済学賞は行動経済学の大家、リチャード・セイラー教授が受賞しました。
行動経済学とは、通常の経済学が前提としている「人間は合理的に行動する」という仮定そのものを否定し、人間の行動の非合理性に着目した経済学です。ビジネスにおける人間の行動解釈や制度の設計などにも応用が可能であり、ビジネスに近い分野でもあります。今回は、この行動経済学に関連する5冊をご紹介します。どれもやや分量はありますが、読書の秋にぜひ挑戦してみましょう!
セイラー教授の代表作、「ナッジ」をどう制度設計に活かすか?
『実践 行動経済学』リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン著
2017年のノーベル経済学賞を獲得したリチャード・セイラー教授による全米ベストセラー書です。「ナッジ(Nudge)」は本書の原タイトルで、注意や合図のために、人を肘で軽く押すことを指します。バイアス(思考の歪み)の虜でもある人間は、投資や貯金といった身近なシーンでも、非合理的な行動をとってお金を失ってしまいます。こうした人間の非合理的な意思決定を数多く示した上で、どうすればそうした意思決定による好ましくない結果を避けるような社会制度が作れるか、医療、環境、婚姻制度などを事例に解説しています。行動経済学を活用した制度設計が人々を良い方向に導きうるというのは、ビジネスパーソンにも参考になる部分大です。英語が得意な方は原著に挑戦されてもいいでしょう。
行動経済学の草分けが人間の意思決定を解き明かす
カーネマン氏は、元々心理学者であり、行動経済学そのものを作った人物でもあります。2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。本書は、そのカーネマン氏の比較的最近の作品で、人間には2つの思考、すなわち、直観的な早い思考と、論理的な遅い思考の2種類があることを示すものです。多くの人間は、遅い論理的な思考を苦手としており、どうしても直観に頼りがちです。このように自分の心すら自由に操れない人間が、どうすればこの2つの思考とうまく付き合えるのか、多くの知見が提示されています。アンカリングやハロー効果といったビジネスパーソンにもおなじみのキーワードも多数登場します。
非合理の裏側にある合理を面白おかしく解説する
本書はより一般の読者を対象とした啓蒙書であり、行動経済学という分野を多くの人に知らしめた1冊でもあります。章建てが秀逸で読み物、エンターテインメントとしても楽しめます。「なぜ楽しみでやっていたことが報酬をもらったとたんに楽しくなくなるのか」「なぜ1セントのアスピリンより50セントのアスピリンの方が効くのか」などは、それだけで先を読みたくなる人も多いでしょう。アリエリー氏はマーケティング分野の研究者、教育者でもあるので、マーケターにとっても使えるヒントが多々あります。
「選択肢が多すぎると人間はストレスが高くなって、そもそも選択をしなくなる」というアイエンガーの法則(通称「ジャムの法則」)でも知られる著者の1冊。Eテレの「コロンビア白熱教室」でも有名になりました。人間は自由度が高すぎるとかえって困ってしまうというテーマは哲学でも大いに議論されたことですが、それは日常の選択という行為にも明確に現われることが分かります。ビジネススクール教授ということもあって、ビジネスシーンにおける選択促進についても多くのヒントを提示しています。
経済学ブームの先駆け
『ヤバい経済学』スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー著
本書は実は行動経済学の書籍ではありませんが、行動経済学に関心を持たれた方なら、絶対に面白く読めるエンターテインメント的1冊です。世の中で起きている様々な事象を経済学的に見るとどのように解釈できるのか。これでもか、というくらい多くの事例が出てきます。キーワードはインセンティブ(誘因)です。人間はインセンティブの設計次第で大きく行動が変わるという事実は、当然のことではありますが、人事制度やマーケティングなどにも応用可能です。私も自分の著書で紹介したインドのコブラ対策の事例や大相撲の八百長疑惑の例など、話のネタも満載です。