部長は自分が一部策定にも関与した事業戦略を遂行する立場にも立つ。当然、自分自身が戦略遂行に向けた行動をとるとともに、部下をその方向に動機づけなくてはいけない。
その際に鍵になるのが、戦略という計画を可視化することと、それをPDCAを意識しながら組織に落とし込むことである。戦略の可視化、可能であれば図示化は、部下に戦略の意図を伝えるとともに、誰と協業すべきかをわかりやすくすることにつながる。
PDCAを回すには、適切なKPIを設定し、その進捗状況をしっかり把握することがまずは必要だ。そのうえで大きくビハインドになっているものについては、その原因を探り、タイムリーに必要なアクションをとる必要がある。
今回は、部長が戦略を遂行する上で重要な5つの行動として、以下のうち①から③までについて紹介する。
① 戦略の意図を説明する
② 戦略を可視化する
③ 戦略の遂行度合いをモニタリングし、PDCAを回す
④ MBOを活用して課長を戦略遂行に向かわせる
⑤ 外部のステークホルダーとコラボレーションする、
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
◇ ◇ ◇
1戦略を遂行する
部長は事業部の戦略を理解したうえで、前段で策定した施策群を実行に移すことが求められる。ここでは、それを効果的に進めるために意識すべきポイントをいくつか取り上げていく。
●戦略の意図を説明する
「今年の戦略は大手既存顧客への提供価値の高度化と売上拡大だ」と言われても、課長であれば理解できても、一般社員にはなぜそのような戦略が打ち出されたのかがわからないことが多い。人は「何をするか」だけでは動機づけされにくく、「なぜそれをするのか」という理由、すなわちWhyを理解し、納得できなければモチベーションが上がらないものである。
そこで部長には、事業戦略の意図をきちんと部下に語ることが求められる。たとえば、「最近の調査では、大手顧客の動向が他の顧客のサプライヤー選定に大きく影響している。そのため、まずは大手企業のシェアを維持することが最優先だ。そのためには、実行支援まで踏み込んで顧客ニーズに応えるとともに、スイッチングコストを高める必要がある」といった形で説明するのである。こうした理由は、事業戦略策定の過程で議論されているはずであり、それを端的に言葉に置き換えて部下に伝えればよい。
説明はメールなどで行ってもかまわないが、できれば部全体が集まる場において口頭で伝えるほうが効果的である。そのうえで、日常的な場面でも繰り返し戦略の骨子とその意図を語ることが望ましい。経験の浅い部下の中には、同じことを10回聞いてもなかなか腹落ちしない人もいる。部長自身が「少し言いすぎではないか」と思うくらいに繰り返し説明することが、実際にはちょうどよいのである。
●戦略を可視化する
戦略は複数の施策群から成り立っており、事業部の戦略は各部が担当する施策や、部門横断的な施策の組み合わせによって実現される。その際に有効なのが、戦略を1枚の図で「見える化」することである。複数の施策がどのように関係しあい、最終的に目標達成へとつながるのかを、シンプルな因果構造として整理するのである。
たとえば、図表に示す事例では、ある機器メーカーがサプライヤーや販売代理店(販売のみならずアフターサービスも担う)との関係改善を図り、その結果として利益増につなげ、さらにその利益を再投資していくという戦略を簡単に可視化している。

参考になるのがバランススコアカード(BSC)の戦略マップである。BSCとは「財務」「顧客」「内部プロセス」「学習と成長」の4つの視点からKPIをバランスよく組み合わせ、戦略遂行や業績評価に活用するためのツールだ。BSCではKPIを設定するだけではなく、必ずその前段として戦略マップを作成する。このマップをつくることで、各視点における要素や戦略目標、KPIの関係性が明確になり、戦略全体像の理解が容易になる。それによって、自分の仕事の意味や位置づけを社員一人ひとりが把握できるようになる。いわば「戦略と目標、KPIの同時的な可視化」を行うわけである。
BSCほど精緻なものでなくとも、図表のようなレベルの可視化をしておくことには大きな効果がある。戦略が可視化されることで、自分の業務がどの施策や部署とつながっているのかが理解しやすくなり、モチベーションも高まりやすい。必須ではないにせよ、事業部長や他部長と相談しながら戦略を可視化しておくことは大いに推奨できる。
●戦略の遂行度合いをモニタリングし、PDCAを回す
ここまでで具体的な施策と実行計画がおおむね固まり、戦略の意図も部下に伝わっているはずである。いよいよ本格的に実行フェーズへ移行する段階だ。この段階で部長に求められるのは、諸施策が計画通りに進んでいるかを定期的に評価し、必要に応じて修正を加えることである。すなわち、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を効果的に回すことが重要になる。
自分が主催する課長会議や、事業部長が主催する部長会議などは企業によって開催頻度が異なるが、特に重要なKPIについては必ず進捗を把握し、必要に応じて追加の対策を講じなければならない。もしKPIの達成度が低い場合、あるいは行動計画に大幅な遅れが出ている場合には、部長はそのKPIを担当する課長と協議し、以下のようなステップを踏むのが望ましい。
l 現状分析の実施:まず、該当するKPIの現状を丁寧に分析する。進捗が低調な原因をデータや事実に基づいて確認することが出発点である。
l 目標の再確認:KPIの目標値が現実的かどうかを再検討する。市場環境の変化や社内資源の状況など、当初の前提との乖離がないかを点検する。
l 議論とフィードパック:課長とともに「何がうまくいっていないのか」「どのような改善が必要か」を議論する。緊急時にはトップダウンでの指示が必要になる場合もあるが、基本はコーチング的なアプローチを取るほうが望ましい。傾聴と質問を重視し、課長自身から改善のアイデアを引き出すように議論を進めるのである。また、課題によっては他の課長が参加する部内会議で知恵を募るのも有効だ。
l 行動計画の策定:具体的な改善策と行動計画を課長とともに策定する。必要であれば、 追加の予算や人員を事業部長に要請することも視野に入れる。
l フォローアップ:策定した行動計画の進捗を定期的にチェックする。課長に「やりっぱなし」にさせないことが極めて重要である。進捗が改善した場合には関係者を称賛するなど、モチベーションを高める働きかけも忘れてはならない。
こうしたプロセスを通じて、単に数値を追うのではなく、KPIを起点に組織全体の学習と改善を促すことが、部長の大きな役割となる。
『グロービスMBA エグゼクティブ・マネジメント入門』
著:グロービス経営大学院 発行日:2026/2/11 価格:3,410円 発行元:ダイヤモンド社



















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