今年10月発売の『AIファーストカンパニー』から「第6章 新時代の戦略」の一部を紹介します。
AIを最も活用している企業は、売り手と買い手が契約を結ぶインフラとなるプラットフォーム、いわゆるマルチサイド・プラットフォームを持つプラットフォーム企業であることが多いものです。
マルチサイド・プラットフォームの例であるYouTubeでは「動画が増える→視聴者が増える→動画が増える→視聴者が増える……」という好循環を実現しています。視聴者が増えるとそこに広告価値が生まれることから、YouTubeは基本的に広告モデルを採用しています。ただ、マネタイズの方法は広告モデルのみではなく、ネットフリックスのようなサブスクリプション型もあります。プラットフォーム企業のみならず、データを活用し、顧客提供価値、さらには巧みなマネタイズにつなげるよう工夫することも、現代企業には必須の要件と言えるでしょう。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、英治出版のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
価値獲得ダイナミクス
近年、デジタル・ネットワークによって様々なタイプのユーザーや事業が簡単につながるようになったので、価値獲得の選択肢は飛躍的に拡大している。企業による価値獲得の最適化は、経済分析、戦略的思考、技術力を駆使した重要な仕事になりうる。デジタルの価値獲得で用いられるテクノロジーであれば、慎重な利用量の測定、製品の在庫状況に対応した高度な価格設定アルゴリズム、さらには成果ベースの価格設定モデルも可能だ。
しかし、高度な価格設定手法を使っても、ユーザー・ネットワークの創出価値を残らず獲得できるわけではない。デジタル・ビジネス・ネットワーク上の価値の専有可能性(言い換えると、価値獲得力)は、競合するソリューションの存在や顧客の支払意思など、多くの重要な検討事項の関数である。マルチサイド・プラットフォーム・ビジネスやネットワーク・ハブでの取り組みなど複数の選択肢があれば、最も競争が少なく、強い支払意思を示すサイドやネットワークに課金するように価格設定を調節することができる。検索エンジンがエンドユーザーではなく広告主に課金し、特定の検索語をクリックしたユーザーに独占的にリーチする機会を提供している理由も同じだ。多くの場合、検索語は商業的ニーズを示しているので、クリックへのアクセスには価値がある。
ここで重要なのは、ネットワーク効果によって新しいタイプの価値獲得の選択肢が広がる点に気づくことだ。たとえば、直接的ネットワーク効果を伴うシステムがあったとしよう。企業によっては、ネットワークへのアクセスを提供し、その創出価値に対して顧客に課金することが有益だと考えるかもしれない。たとえば、Xboxやプレイステーション2は自社プラットフォームの利用に対して月額料金を設定し、プレイヤーが他のプレイヤーと直接つながり、マルチプレーヤー・ゲームを楽しめるようにしている。
ツーサイドの間接的ネットワーク効果を持つ企業は価値獲得の選択肢が増える。各サイドの支払意思に応じて別々に課金することで、複数のサービス収益化の方法を見つけることができるからだ。たとえば、アント・フィナンシヤルは消費者と販売業者から複数の方法で収益化することができ、エアビーは宿泊の都度、借り手とホストの両サイドに課金している。アリババやアマゾンでは、加盟店から徴収する取引手数料以上に、加盟店からの広告料が儲かる収入源になりつつある。
『AIファースト・カンパニー ――アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略』
著:マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカーニ 訳:渡部典子 監修:吉田素文
発行日:2023/10/20 価格:2,640円 発行元:英治出版