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“真の女性の社会参画”を日本で進めるには?――ゴールディン氏のノーベル賞に考える

投稿日:2023/12/12

日本の男女賃金格差の本質と課題

前回までで、日本の女性の労働参加を妨げるものとしての男女賃金格差、そしてそれを是正するためには「時間のコントロール」がカギとなることを見てきた。

しかしこうしてゴールディン教授の理論を読み進めていると、筆者の気持ちは重くなった。「時間」に関するある統計データを知っていたからだ。内閣府による、男女共同参画白書の令和5年版に、生活時間の国際比較データがある。

日本の男女労働者が抱える「時間」の問題

OECDの生活時間の国際比較データを元に、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、日本、韓国の11か国の男女の生活時間の特徴を見たものだ。この調査では、1日当たりの有償労働(仕事、通勤、調査研究等)と、無償労働(家事、家族ケア、ボランティア等)に各国の男女がどれくらい時間を割いたかがわかる。2016年時点で、日本男性の有償労働時間は、11か国最長の452分で、11位のイタリアの約2倍だ。
しかし女性も11か国中2位の272分で、男女合わせて11か国中、最も有償労働時間が長い。一方の無償労働だが、残念ながら、日本の男性は最下位で41分しか使っておらず、1~3位のスウェーデン、ノルウェー、米国のわずか4分の1程度だ。
そして男女合わせた有償労働における日本女性の割合は27.5%と、11か国中最少。一方、男女合わせた無償労働のうち日本女性が担う割合は84.6%と、11か国中最大なのだ。こうしたデータからも、「男性は会社で長時間労働に従事、家事育児は共働きでも女性が殆ど担当」という、強いジェンダー規範や性別役割分業意識、そして長時間労働の賃金プレミアムによる男女の働き方の選択の構造が透けて見える。

教育にはほぼないのに、能力発揮にはある日本のジェンダーギャップ

実は日本でも、ノーベル賞受賞前からゴールディン教授のこの主張に着目し、日本における男女の賃金格差をリサーチしていた組織がある。それは、財務省系の財務総合政策研究所だ。様々な研究者が加わり、2022年6月にまとめられた「仕事・働き方・賃金に関する研究会― 一人ひとりが能力を発揮できる社会の実現に向けて」という報告書には、ゴールディン教授がアメリカで行った研究を日本でも行った結果等も含まれており、大変興味深い。

概要としてまず、前回記事で述べた「チャイルドペナルティ」は日本において他の先進国と比較しても大きく、各国と同様、専ら女性に帰属しているという。また、パネルデータを用いた個人毎の働き方と賃金の関係を分析したところ、働き方の自由度が高く仕事内容が単純な人ほど賃金が低く、かつ女性の従事する仕事がこれに偏っていることが分かった。

この事実は、ここまでに見てきた、女性労働者の半数以上が非正規雇用であること、男女の有償労働時間の差が大きいこと(つまり女性に短時間勤務者が多いこと)、非正規かつ短時間労働者の賃金が正規フルタイム労働者の55.8%でしかないこととも符合する。

世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダーギャップ・レポート」2023年版で、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位という残念な結果ながら、教育においては殆ど男女差のない国と示されている。

それなのに「女性の従事する仕事が、自由度は高いが、仕事内容が単純なものに偏っている」という事実は、女性の能力の発揮を妨げる何らかのメカニズムが存在することを示す。

日本女性は自身のリーダーシップ能力を低く評価している?

財務総合政策研究所の報告書の中では、いわゆる103万円、130万円など年収の壁による就業調整の影響、更に日本におけるジェンダーバイアスの影響にも触れている。以下に、その中の早稲田大学の大湾秀雄教授の研究を紹介する。

「リーダーといえば男性を想起し、女性には世話役的な役割を期待する」というジェンダー・ステレオタイプが強い社会では、男性は自身のリーダーシップ能力を誇張する一方、女性は強いリーダーシップ行動をとると周囲から好意的に見られないことを恐れ、能力を控えめに述べるという傾向があるという。更に、過去見てきたリーダーの多くが男性だったことからくる刷り込みなどの「代表制ヒューリスティックバイアス」、自分の考えに合った情報だけ選別しステレオタイプが是正されない「自己奉仕バイアス」が重なると、女性の自己評価、そして他者から女性への評価も歪んでくるという。

日本では業績評価を行う際、従業員が定めた目標に基づく管理制度を採用している企業が多いが、大湾教授の研究によれば、女性は男性に比べ、難度の高い目標が設定される確率が8.5%程度低い。総合職で5.4%、管理職では13%ほども低くなる。これは男女の能力差に関係しない数値とのことだ。

更に、同じ業績評価であった男女の、行動評価に対する自己評価を比較すると、上位層で男性の方が高く、上司の評価もそれに引っ張られる形で高くなるという。対して女性は、特に管理職において自己評価が非常に低く上司の評価もその控えめな評価をあまり是正していないという。

こうした評価が年々積みあがっていくことが、女性の昇進に遅れを生じさせていると解釈される。大変残念な、しかし、どこか合点のいく調査結果だと思わざるを得ない。

いま改めて “真の女性の社会参画”を日本で進めるには

ここまで長い文字数を割いて、現在においてなお、なぜ日本で女性が社会で活躍しにくく男女賃金格差が埋まらないのか、その理由を見てきた。いま改めて、“真の女性の社会参画”を日本で進める方策を提言したい。

それは何も驚くべきことではなく、財務総合政策研究所の報告書にも書かれ、現在の政府の政策に盛り込まれていることだ。しかし、いま、改めて以下に示しておきたい。

  • 仕事の属人化をやめる。業務内容や情報の見える化、共有化、標準化を進め、社員が相互に代替できる形にする。そのためにはIT等を活用し、効率的にこれができるようにする。(メンバーシップ型のような業務内容のブラックボックス化から、ジョブ型にしてジョブディスクリプションの明確化に移行することも奏功)
  • 仕事を依頼する方(顧客や上司)も、過度に、誰か特定の担当者に頼り、24時間365日、自分の要求に応えてくれると期待することを控える(緊急事態は別)。
  • 恒常的な長時間労働を是正し長時間労働の賃金プレミアムを削減することで、男性が自宅で家事育児に使える時間を増やし、女性だけが、賃金が低くても短時間で柔軟に働ける仕事を選ばなくて良い状況にする。
  • 柔軟な働き方を全社員対象に導入し、育児や介護の負担が女性だけに集まることを防ぐ。
  • (既に政府からガイドラインが示されているが)同一労働同一賃金を徹底し、非正規などの雇用形態や労働時間の短さで不利益が生じないようにする。
  • 性別役割分業意識や、ジェンダーバイアスを低減するため、男性にも女性にもトレーニングを行う。自身のアンコンシャス・バイアスへの気付きを促し、女性も自身の能力に自信を持ち、貢献に見合った処遇や仕事を要求・主張できる技術を身に着ける。
  • 人材の育成や昇格においては、過去に蓄積された男女格差を是正するため、ある程度の女性へのポジティブ・アクションやスポンサーシップ制度を導入する。
  • (既に一部義務化されているが)各社における男女賃金格差の実態や、男性の育児休暇取得率や取得期間、女性の管理職比率などを公表し、株式市場や人材市場からもプレッシャーをかける
  • 労働力不足の現代日本に則さない、扶養控除や年収の壁による就業調整など、女性の労働時間が伸びにくくなる制度を見直す。

どうだろう。既視感のあるものばかりではないだろうか。

その通りなのだ。問題は、これらの施策の実行推進があまりに遅く、徹底されていないことにある。そこには、日本国民全体の危機感の欠如、当事者意識の欠如があるのではないだろうか。

日本の名目GDPは今年、ドイツに抜かれ世界4位へと後退した。IMDによる世界競争力ランキング2023の総合順位でも、日本は64カ国中35位と、過去最低記録を更新している。様々な理由はあるが、人口の約半分を占める女性という有用な人的資本を活かしきれていないこともその要因の一つではないだろうか。女性の真の社会参画が進まないことを「自分には関係ない、誰かが考えれば、やれば良いこと」だと思っている限り、日本が再び輝きを取り戻す日は遠いだろう。

未来のため、若い世代のためにも、今こそこれを是正する責務が、我々にはあるのではないだろうか。

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