今年10月発売の『AIファーストカンパニー』から「第5章 AI企業を目指して」の一部を紹介します。
AI成熟度指数の高い企業ではビッグデータを、業務改善に活かすことはもちろん、現場のスピード感のあるチームが、顧客体験を向上させることに活用しています。さらに戦略策定から従業員の育成プランにいたるまで、データを徹底活用しているのです。
結果として、AI成熟度指数の高い会社の売上高総利益率や当期純利益率などは、そうでない企業に比べて高くなっています。あなたの会社のAI成熟度指数はどのくらいでしょうか?
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、英治出版のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
AI搭載オペレーティング・モデルのメリット
私たちの研究から判明したのは、AI成熟度の高い先行企業では、様々なビジネス機能で、データとアナリティクスヘの投資による大きな恩恵が実現されていることだ。そうした企業は、データを活用して意思決定を自動化するとともに、市場動向、顧客、企業運営、従業員の能力、製品やサービスの性能を包括的に理解したうえで複雑な意思決定するのに役立てていた。
その具体的な内容をいくつか掘り下げていこう。上位組織はデータを統合し、自社ビジネスの実態について見解が一致している。加えて、自社システム内でビジネス・インテリジェンス・ツールと分析モデルを活用して、カスタマイズの顧客体験を開発したり、顧客離反リスクを軽減したり、機器の故障を予測したり、あらゆるプロセスの意思決定をリアルタイムで可能にしたりしている。また、先進企業は市場理解を深め、新規顧客を獲得し、広告効果を最適化するためにもデータを活用していた。顧客ライフサイクルの至るところで収集してきたデータは、企業が十分な情報に基づいて意思決定し、顧客に合わせた提案や体験を提供し、サポート問題を軽減させるのに役立っていた。これはすべて、あらゆるチャネルと接点を通じて、顧客を360度の視野で捉えられるからだ。
最も優れた企業はエンジニアリング、製造、オペレーション全般でデータとアナリティクスを活用していた。その多くが、プロダクト開発のライフサイクルとサプライチェーンの全般で情報を統合し、その情報に基づいて自動化された方法で頻繁に実行されていた。データ分析により、業務効率と製品品質のドライバーを把握し、設備や業務の故障や中断を予測し、点在する施設間でプロセスの順守や改善を促進していた。
トップ企業は以前にも増してIoT(もののインターネット)テクノロジーを利用し、接続されたセンサーで製品やサービスを計測するようになっている。センサーで収集された機器や製品の使用状況は詳細にモニタリングされ、この取得データを使って製造やサービスオペレーションを最適化し、顧客への価値提供や価値獲得のやり方を変更することができる。
最後に、最も優れた企業はこうしたケイパビリティをすべて支援しながら、高度なデータ・プラットフォームを構築してきた。アジャイルチームはこのすぐに入手できるデータを使ってアプリケーションを素早く展開し、通常は事業の業績、応答性、顧客体験を向上させている。さらに、事業戦略の最適化から従業員の個別育成プランの自動作成まで、幅広い支援機能においても、予測や提案にデータを活用していた。図は、AIケイパビリティヘの投資の財務的効果について、AI成熟度指数で後れをとる企業と先行企業を比較したものだ。
『AIファースト・カンパニー ――アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略』
著:マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカーニ 訳:渡部典子 監修:吉田素文
発行日:2023/10/20 価格:2,640円 発行元:英治出版